土から生えた家は地域に開かれる
神奈川県にお住いの本橋夫妻。木に囲まれて暮らすライフスタイルは、お二人の人生をどう変えたのでしょうか。

■周囲に対してオープンな家

 

 

2階から1階を見下ろす。杉の無垢材の床はとてもやわらかく、やさしい質感。お孫さんが寝そべったりしても安心。常にきれいに磨き上げられている。

 

田園都市線つきみ野駅から徒歩20分ほど、神奈川県と東京都の境を流れる境川の遊歩道沿いに慎ましやかに建つ小さな木の家の主が、本橋秀夫さん、八重子さん夫妻です。家を建てる前は団地住まいだったお二人ですが、秀夫さんが定年退職するのを機にかねてから保有していたこの地に木の家を建て、5年前に第二の人生をスタートさせました。

「それまでの団地生活では、隣近所とのおつきあいがほとんどなかったんです。ところがこの家に越してから、朝、犬の散歩をする人と会釈をしたり、庭の小さな菜園で作物が採れればご近所の方に配ったりと、地域の方々とのお付き合いがおもしろいくらいに広がっていったんですね。やっぱり、“土から生えている家”のおかげかしらね」

そう言ってほがらかに笑う八重子さんは、庭の草花と小さな畑の作物の世話を担当。本橋邸の敷地に咲く花は、遊歩道を散歩する人たちの憩いにもなっているようです。

 

本橋さんの家は、南面の開口部が境川沿いに開け、遊歩道の東屋が敷地に隣接していて、まるで公園と一体化しているかのように周囲に溶け込んでいます。ふつう、一戸建ての家は塀や庭などで囲って外との境界がはっきりしているものですが、本橋邸は塀すらなく、道路からすぐ玄関に入れるくらい、とてもオープンなつくりです。

「塀を立てていないことが、むしろ防犯上いいんじゃないかな。いつでも周囲の人が見てくれている安心感がある」

秀夫さんの言葉に実感がこもっています。定年退職後はほとんどの時間を家で過ごすようになり、この地域での暮らしを満喫している様子です。趣味の木工を楽しんだり、採れたての野菜料理に舌鼓を打ったり。八重子さんとともに旅行にでかけることも多く、家に帰ってくるといつも変わらぬ木の香りにほっとする、と言います。

 

家の目の前を境川が流れる。川の対岸からは保育園児の歌や、少年たちが野球を楽しむ声が聞こえる。「生きていてよかったと毎日思える」と、秀夫さん。

 

■木に囲まれて暮らす心地よさ

 

本橋さん夫妻が木の家を建てる決め手となったのが、ウィズハウスプランニングで採用している通気断熱工法。壁の中に通気層をとることで夏は床下の涼しい空気が「循環し」、冬は屋根面から温かい空気が「保温してくれる」ので、「夏涼しく、冬暖かい」快適な暮らしが実現できます。また、無垢材や自然素材の塗り壁材は、素材自体に通気性があるため、適度に湿度を調整します。「夏場の旅行で長期間家を空けると、ふつうは“蒸し風呂”状態を想像するけれども、思ったほど暑くないので驚いた」と、秀夫さんは振り返ります。

「時々孫が遊びに来るのですが、家にあがるとすぐに靴下を脱いで、コロコロと寝転がるんですよ」と、八重子さん。無垢の杉材はとてもやわらかく、夏はさらりと汗を吸って、冬でもほんのり温かい。本物の心地よさを、幼いお孫さんたちは本能で察知しているのでしょう。

無垢材のよさは、時とともに美しさが増していくこと。本橋さんの家も住んで5年が経過しましたが、床や壁材の色が飴色に変化し、艶と輝きを増しています。本橋さんご夫妻は、二人でワックスがけなどのメンテナンスを楽しみ、いつも家をきれいに保っているからでしょうか、隅々までにいい「気」が張り巡らされているのがわかります。

7寸の大黒柱が鎮座し、390ミリの地松の梁がどっしりと大空間を支える1階リビングは、いつも家の中心です。階段とひとつづきのワンルームで、二人は一日のほとんどをこの空間で過ごすといいます。2階も寝室とクローゼットだけのワンルーム。「二人で暮らすのだから、余計な部屋はいらない」と割り切った設計ですが、だからこそ夫婦の会話と笑顔が絶えず、お互いによい影響を与え合いながら楽しく過ごすことができているのではないでしょうか。

 

 

階段が1階リビングと一体になって、上までつながる広い空間構成となった。土壁と杉の柱、床がやわらかく調和する。

 

■家具も、食べものも、手づくりを楽しむ

 

 

秀夫さんが磨き上げてつくったテレビボード。横のCDラックもお手製。カウンターの小箱はLANケーブルなどを隠す目隠し。

 

本橋邸にはとてもセンスの良い、木の家の雰囲気にぴったりの素敵な家具がたくさんあります。聞けばこれらはほとんどすべて、秀夫さんの手づくりなのだとか。

秀夫さんはふとしたきっかけで始めた木工に夢中になり、ハンガーポールから本格的なキャビネットまで、家にある家具の多くをご自分でつくってきました。その腕前は玄人はだしで、家を手がけたウィズハウスプランニングの担当者も脱帽するほど。最初はお孫さんが遊ぶおもちゃを入れる小物入れから始まり、木馬、木の椅子、テレビボード、木の棚まで、すべてご自分で設計し、納まりまで計算して緻密に組み立てているそうです。

「この家具の木は、切りっぱなしのザラザラの杉材を1カ月かけて磨いたんですよ」と話す秀夫さんの視線の先には、杉の原木を渡したシンプルなつくりのテレビボードが。ピカピカに磨かれていて、とても高級感ある仕様です。秀夫さんの細やかで緻密な仕事ぶりがよくわかります。

 

 

八重子さんお手製の干し芋やずいき、かぼちゃの種、オレンジピール。とても上品で味わい深い

 

八重子さんはこの家に来てから、自然の素材を使った料理や乾物づくりを楽しむようになったといいます。かぼちゃの種を干しておつまみにしたり、無農薬の夏みかんでマーマレードやピールをつくったり、干し芋を乾かしたり。どれも、太陽の恵みを浴びた滋味あふれる味。季節ごとに近くの神社で銀杏拾いをしたり、時には釣りに行ったり……。「贅沢はしていないんだけど、毎日が本当に楽しいのよね」と、八重子さん。「別に田舎暮らしでなくても、自然を満喫できているわ」と、笑顔で語ります。
「木の家での暮らしは、自然と“偽物”を拒絶するんです」とは、秀夫さんの弁。自分でつくった木の家具、手づくりの食材、陶器や塗りの器、鉄瓶……。本橋さんの家には、自然の温もりが残る手工芸品がとても似合います。

草花と親しみ、土をいじり、木と対話をする毎日。「毎日がとても忙しいけれども、今が最高に楽しい!」と、ご夫婦顔を見合わせて、最高の笑顔を見せてくれました。

 

本橋秀夫さん、八重子さんご夫妻。生活に必要な家具や道具を少しずつ「買いそろえ」ではなく、「つくりあげて」いった。

 

北原 まどか
この記事を書いた人
北原まどか理事長/編集長/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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