Vol.12 “芸術的なお産”を通じた生き方伝道師……助産師の齊藤純子さんです!
羊膜に包まれたまま産まれた「ラッキー・ベビー」、出血しないお産、赤ちゃんが自立して呼吸を始めるまで臍帯を切らずに待つ……1999年の開業以来約500件の自宅出産を介助し、妊産婦や家族の人生に変革をもたらしてきた助産院「バースハーモニー」(たまプラーザ)。“芸術的なお産”の裏に隠された秘密とは?  バースハーモニー院長で助産師の齊藤純子さんが語ります!(写真:前田正秀)

大多数の、自然に産める女性のために何ができるか。

助産院バースハーモニーは横浜市青葉区と川崎市宮前区の境、閑静な住宅街の公園沿いにある。妊婦健診や、食事、整体、呼吸の教室で体と心を整えお産に臨む妊婦たち。産後も赤ちゃん体操やお茶会などでOGが集まり、親交を深めていく

 

ーー 娘の出産の際はたいへんお世話になりました(キタハラは齊藤先生の介助で2009年1月に自宅出産)。今、日本で病院以外、つまり助産院や自宅での出産を望む女性は非常に少ないと聞いています。

 

齊藤純子さん(以下、敬称略): 病院以外で産む女性は全出産のうち1%程度、その中でも自宅出産は0.1〜0.2%程度と言われています。ここ10年ほどで倍に増えましたが、全体から見るとごく少数です。

 

ーー 最近、自宅出産がメディアで盛んに取り上げられ、映画が話題になるなど、自然なお産がブームになりつつある気がします。一方でそれに警鐘を鳴らすような主張もあり、助産師を取り巻く環境は目まぐるしいですね。

 

齊藤: 自然なお産を求める人の動機に二つの傾向があります。一つは、「自分の体を感じながら赤ちゃんを産んで、最も安心できる家庭で新しい家族を迎えたい」と考える積極派。

もう一つは、「助産院に行けば医療的なルーティンで産まされることはない」というやや消極的な動機の方。病院では、特にリスクのない正常分娩を扱う場合でも、消毒しやすくするために剃毛し、お産の時に排便で汚れないように陣痛時に浣腸し、産後の出血に備えて点滴をする「血管確保」、そして赤ちゃんの頭が見えてきたら会陰を切る「会陰切開」を行います。いずれも赤ちゃんがスムーズに出てきやすくする、出産時の感染症を防ぐなどの目的があるのですが、これらの処置に苦痛を感じてそれが心の傷になる女性も少なくありません。

 

ーー 産科医療の発達によって「これまで救えなかった命が助かった」という面も大きいですよね。

 

齊藤:  ここで一つの数字をご紹介します。2005年の日本の周産期死亡率(妊娠満22週以降の死産+生後7日未満の早期新生児死亡)は出生1000人に対し3.3人で、先進国の中で最も少ないのです(米国7.7人、英国8.5人、ドイツ5.9人)。妊産婦死亡率は世界平均で10万人あたり400人。日本の場合2005年が5.7人、2006年が4.9人、2007年が3.1人です。戦後の50年間で、お産によって命を亡くす母親は約80分の1に、赤ちゃんは約40分の1に減っています。これは間違いなく産科医療の発達の恩恵によるものです。

 

日本の法律では、助産院は連携医療機関(総合病院や大学病院など)、嘱託医(地域の産婦人科クリニックなど)との提携関係を結ばなければなりません。自宅出産の背後には、必ず医療のバックアップがあるということを前提に考えていただく必要があります。

 

ーー 逆を返すと、世界を見ても10万人のうち9万9600人は安全に赤ちゃんを産めると言うこともできますよね。

 

齊藤: 今の産科医療をとりまく状況を考えると、大多数の安全なお産ができる人、経過によって医療の介入が必要な人、必ず医療の力が必要な人、すべてが一緒くたになり病院に殺到しています。産科医は24時間の勤務態勢、しかも常に訴訟と隣り合わせの厳しい環境で仕事をしています。これでは産科医が疲弊し、お産を扱うクリニックがどんどん減ってしまうのも無理からぬことです。妊婦さんは妊娠したらまず「どこで産めるの?」を心配しなければいけない状況です。

 

私はこれまで、自然素材の建物で、農的環境が身近にあり、妊産婦さんが産前産後に生命力のある食事でゆったりと心身を整えられるような滞在型の助産院をつくりたいという夢を抱いていたのですが、近未来的には地域の誰もが安心して産める「地域内での助産師連携」のシステムをつくっていくことのほうが重要なのではないかと思うようになりました。

 

ーー具体的にはどういうことでしょう?

 

齊藤: 助産師が独立して開業し、月に1〜3人程度の「安全に産める人」の自宅分娩を扱うこと。そういったフリーの助産師が担当する妊産婦を、医療が必要な時に大きな病院がダイレクトに診てくれる仕組みづくりです。一方で、助産師が妊婦さんにお産に向けて体と心を整えるための指導をしていけるよう、スキルアップのためのネットワークや学び合いの場所づくりも必要です。

安全なお産は地域の助産師が担い、医療が必要なお産は病院が担当する。スキルの高い助産師が増えれば地域内でのお産の連携ができ、誰もが安心して産める環境が生まれます。そうすれば子育てだってしやすくなると思うし、社会的に有益だと思うのです。

 

「助産院にやってくる方は医者嫌いな方が多い。だけど、医療が進んだことで助かる命もある。まずは薬が必要のない体をつくるのが前提だけど、薬が必要な状況にある人は医療の手を借りて謙虚に薬を飲むことも必要です」と諭す

 

お産は芸術なり

「草むらの中の道なき道を進む時に、まず石ころをひろってよける、草も取る。すると視界が開け、自分にとって必要なものがパッと目に入るようになる」……妊娠中の心身のケアの大変さ、それを経て出産後人生が変わった経験を話したら、このように表現してくれた。詩的な感性の持ち主だ

 

 

ーー 私、お産の時の出血量が50mlと記録されていて、「こんなに少ないんだ」とびっくりしました。森ノオトのリポーターでもある友人(バースハーモニーで2009年2月に出産)は赤ちゃんが羊膜に包まれたまま産まれてきました。

 

齊藤: 一般に、お産の時の出血は200ml以下だと「少量」、200ml〜500mlで「中量」、500ml以上だと「多量」と分類されます。つまり、300〜500mlくらいの出血は問題ない範囲です。私が介助するお産は、出血量がきわめて少ない方が多いですね。ガーゼで拭って終わり、みたいな。

 

なぜか考えてみたのですが、バースハーモニーでは食事指導を徹底して、特に産前2カ月は徹底的に砂糖と果物を抜く生活を心がけてもらいます。砂糖や果物が体に入るとカリウムが多くて体がゆるんでしまう。それが出血の原因になるのではないかと分析しています。

 

羊膜をかぶったままで産まれてくる赤ちゃんのことを「ラッキー・ベビー」、あるいは「幸帽児(こうぼうじ)」と言いますが、破水しないので産道での感染症も防げるし、何よりとても神秘的で芸術的です。出血の少ないお母さんは産んだ後も体のむくみがなくとてもすっきりしていて、とても美しい。そんなお産に立ち会うと、「命の誕生とは、芸術なんだ」と感じますね。

 

ーー私は産後、骨盤がそろうまで寝たきりで授乳以外の世話はすべて家族にまかせ、3日後に起き上がってからも沐浴、炊事、洗い物、洗濯などの家事や育児を周りにゆだねました。2カ月ゆっくり休んだらその後とても元気で!

 

齊藤: バースハーモニーでは、産後は産婦さんにともかく休んでもらうことを重視しています。お産で骨盤が開ききっている時にいきなり起き上がって赤ちゃんをだっこして移動したり、階段の上り下りなどをすると、開いた骨盤が歪んだまま固定され産後の回復を妨げてしまいます。赤ちゃんを産んだばかりでくたくたのお母さんは、おっぱい以外の世話をすべてゆだねて、じっくり体を休めることが大切。でも、病院では分娩台から降りる時点で、立ったり座ったりを余儀なくされ、またせっかくの母子同室でも、かかりきりで赤ちゃんの世話をしなければならず、沐浴指導や様々な処置などでじっくり休めないでしょう?

 

赤ちゃんが産まれて最初の数日って、ものすごい蜜月なんです。母子、父子、兄弟、祖父母との信頼関係を結ぶ時期。自宅で産むことの最大のメリットは、一番いとおしい家族の愛を確認できる、それに尽きるのではないでしょうか。

 

産後の女性は2カ月くらい寝たきりで過ごすのが望ましいとか。すると骨盤がキュッと締まってスタイルがよくなり、「産めば産むほどきれいになれる」とか

 

 

命が命をつむいでいく。

 

2009年は約80人、2010年は約50人のお産に立ち会った齊藤先生。「お産って波があってね。1日に何人も産まれる日もあれば、1カ月お産がない時もある。自宅出産の場合は不思議と土日に重なることが多いのね。赤ちゃんがお父さんのお休みの日に合わせて出てくるみたい」

 

 

ーー バースハーモニーでは特に、食事指導に力をいれています。

 

齊藤: いきなり意識や生き方を変えるのは難しいけれど、まずは食べるものから変えていくのが一番。命ある食べ物をいただけば体が変わり、それが心にも変化をもたらします。

 

バースハーモニーではマクロビオティックを基本にした食事で体を整えることを勧めています。マクロビオティックとは、玄米を始めとする穀物と野菜を中心に、未精製の食材のエネルギーを丸ごといただき、食材の持つ陰陽の性質を生かした調理法や組み合わせで心身を中庸に整えていく食事法のことです。

 

それを徹底しようとするあまり、つい「この食材を食べてはいけない」とストイックに食材を選びがちなのですが、本当は、じっくりと噛んで味わって美味しいと思った食材が、その時体が求めているものなのです。陰陽を対照して頭でガチガチに考えるのではなくて、まずは知識やこだわりを捨てて、自分が「美味しい」と感じる感性を信じることが大切です。

 

 

ーー これまでの11年間で感じてきた、お産の醍醐味とは?

 

齊藤: お産は間違いなく「女性の人生のターニングポイント」です。「また産みたい!」と思えるようなお産ができれば、どんどん子どもを産みたくなる。子どもが増えれば、これからの未来も明るくなります。子どもを産み育てる20〜40代の女性って、とてもパワーがある。社会を変えていく力があるんです。

 

赤ちゃんが産まれる、つまり命の誕生とはとても素晴らしい体験です。一方でお産が苦しい体験になってしまう人もいます。でも、「命を生み出す」というかけがえのない体験を100%受け入れて、みんな、前を進んでほしいと思います。何事にも遅すぎると言うことはないし、いいお産、悪いお産もありません。それぞれのライフステージで命をつなぐことを考えた時に、始まりも終わりもなく、「完璧な人生」が切り拓かれます。

 

ーー「完璧な人生」とは、どのような意味ですか?

 

齊藤: 自分を解き放つことができれば、他者にものごとをゆだねることができるようになり、自由になります。人それぞれ自分の得意不得意、個性を認め、他者とつながり助け合い補い合うことで、完全でない自分の存在に無限の可能性が広がっていきます。そこには自然とあふれ出る「愛」が根底にあります。

 

お産も「自力」でがんばるのではなくて、「自立」して他者にゆだねこだわりを手放すことで、「自由」になれます。すると視界がパッと広がり、「幸せなお産」になります。結果的に自宅出産ができた、できないでなく、それすら受け入れてその後の人生につなげていけるような……。助産師は、「自立」のお手伝いをちょっとだけする、そんな存在だと思っています。

 

時に何十時間も不眠不休で命の誕生と向き合わなければならない助産師の仕事はとてもハード。純子先生に健康の秘訣を聞くと、「食べ過ぎないこと」と即答。今は1日1〜2食で、1回の食事をじっくり味わいながらいただいているそう。「食べたい時は必要な時。同じくらい排泄も大切なんです。体の声、心の声に従って食べている感じかな」

 

##取材を終えて……(一言)

キタハラの第二の人生が始まったのは、まぎれもなく出産を経てから、です。プロフィールなどに「自宅出産」を入れるのはそのため。感性が豊かになり直感でものを判断できるようになり、求めている縁が向こうからやってくるかのような、奇跡の体験が今なお続いています。自宅出産で産まれたのは、今2歳になるムスメだけでなく、もりたろうもそうである、と言えます。その経験を導いてくれたのが純子先生で、「お産を通じた人生の師」と仰いでいます(笑)。

妊娠中は厳しい食事指導を「乗り越える」ことに力んでしまっていた時期もありましたが、ブリージングセラピーで「こだわりを手放す」ことを覚えた時に、自分自身がものすごく自由になれた。

どんなお産が幸せなのかは人それぞれ。でも、お産によって人生が変わり、我が子がいとおしくてたまらないと思う親が増えると、もっと子どもを産みたくなると思うんです。愛をいっぱい受けた子どもがたくさん産まれれば、社会はよくなる! 地球の未来も明るくなる!! だから私はこれからも、自分の「幸せなお産」の経験をどんどん発信していきたいと思っています。

 

 

Information

齊藤純子(さいとう・じゅんこ)

たまプラーザで自宅出産を専門に介助する助産院「バースハーモニー」院長。日本医科大学付属第一・第二病院勤務を経て、横浜市青葉区役所、その他クリニック、助産院勤務、専業主婦を経て1999年「バースハーモニー」開業。自宅出産の介助実績は約500件。妊婦健診では頭蓋仙骨療法や光線治療、リフレクソロジーを取り入れ妊婦とじっくり関わりを持つほか、食事、生活、運動等一人ひとりに合わせた保健指導を行う。月1回リマクッキングスクール校長の松本光司先生によるマクロビオティック食養料理教室を開催するほか、BLBヒーリング前田正秀氏による呼吸教室、きづきかん井上聖然先生による個人整体、ヨコハマヒーリングデンタルの小泉克巳歯科医師による歯の噛み合わせ治療等、総合的に自然治癒力を高める各種教室を開催。

バースハーモニーのホームページでは、夫の齊藤雅一氏による「自然出産」の美しさを感じる写真が多数掲載されている。

http://www.birth-harmony.com/

 

★このインタビューの様子は、YouTubeの「バースハーモニー」チャンネルでも配信しています! リンクはこちら

http://www.youtube.com/user/birtharmony#p/a

北原 まどか
この記事を書いた人
北原まどか理事長/編集長/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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