Vol.24 社会派レシピスト・サカイ優佳子さんインタビュー
乾物や米粉など時代のニーズをとらえたレシピ提案と、大人も子どもも五感をフルに活かすことを重視した食育ワークショップ「食の探偵団」主宰、地域と連係した食文化の育成など、幅広く活躍する料理家のサカイ優佳子さん。サカイさんが「社会派レシピスト」としていま取り組んでいることとは……。

●世界を旅した経験が多様なレシピに生きている

キタハラマドカ(以下、キタハラ): わたしが初めてサカイさんのことを知ったのは、いまから12年前に地域情報雑誌の表紙でした。たまプラーザに、すごい美人の料理家がいる、と強い印象に残っていました。その雑誌ではエスニック料理のレシピを提案していて、当時はまだ珍しいスパイスを使った数々の美味しそうな料理に目を奪われました。

サカイ優佳子さん(以下、敬称略): 私は若いころから子連れで世界中を旅して回っていたので、世界各国で様々な料理を食べては、各地の風土の味とも言えるスパイスを多用して料理をつくることが多かったんです。私、胃袋はとても強いの(笑)。どんなに辛くても酸っぱくても、各国の味を美味しく食べて、飲んで、笑って……。子どもが小さい時は、一人をおぶって、一人の手を引いて、そんな風に旅していたものです。

今でも年に数回は海外を旅しています。2人の子どもたちも海外の学校に進学しているので、子どもに会いに行ったり、時に仕事で行くことも。夫も海外に赴任しているので、家族全員がタイで待ち合わせするなんてこともあります。私は、旅がなければ生きていけませんね(笑)。

キタハラ: 2012年には米粉レシピの開発や活用促進の活動に対して「フード・アクション・ニッポン・アワード」で入賞するなど、その活躍の目覚ましさには驚くばかりです。

サカイ: 米粉があれば、米粉に水を加えて白玉団子の要領でこねてゆでるだけで、カンタン手打ちパスタができます。米粉と豆乳で卵フリーのマヨネーズもつくれます。天ぷらの衣に使えばカラッと揚がるし、とても便利な食材です。

日本人はいまごはんを食べなくなっていて、昭和30年代をピークに一人あたりの米の消費量は半減しています。お米を粒で食べなくなっているのなら、粉にした米粉の美味しい食べ方を提案することで、お米の新たな可能性を引き出していけたら、きっと各地の美しい棚田や田園風景も残っていくんじゃないか、と思っています。

たまプラーザのサカイさんのご自宅でいただいた米粉の自家製パスタ。柚子の香りと胡椒がアクセントに。つくる行程も実演していただき、15分もあればできることに驚き!

●乾物で家庭も、農家も、地球もPEACE!

 

キタハラ: サカイさんがいま力を入れているのが、乾物を使ったレシピですよね。

 

サカイ: 「乾物」といった時に何をイメージするのかは、人によって相当なばらつきがあるようです。伝統的な乾物の戻し方がよくわからないという人も少なくありませんし、自宅で野菜の乾物がカンタンにつくれると言うと驚く方もとても多いです。例えば大根や人参を細く切ってざるに広げて干しておけば、1週間もすれば自家製乾物のできあがり。保存もきくので、旬の野菜が出回っている時にたくさん買って乾かして保存するのもいいですね。

 

乾物は、調理時に皮をむいたり、切ったりする作業がいらない「半調理品」とも言えます。切り干し大根は15分もかからずに戻るし、火を通す必要もなく、サラダや和え物にもできます。乾物料理は、コツさえつかめばものすごくラク。小分けにして少しずつ使え、長く保存できるので、無駄になりません。

 

そう考えていくと、農家で出荷できない傷ついた野菜や、旬の時期に大量に収穫できて売り切れない野菜など、無駄になるかもしれない野菜を乾物にすれば、もう一度生かせる可能性も広がるでしょう? 冷蔵庫に入れてなくても常温で保存できるから、エネルギーも無駄にならないし。さらに水分が飛んでいて軽いので輸送にかかるエネルギーだって少なくて済む。発想を広げれば、世界の飢餓を救う可能性だって秘められていると言えます。

乾物は自宅でもカンタンにつくれる。野菜を薄く切ってざるに広げて干すだけ。大根や人参など、食材を余すところなく使い、生ごみも出ない

 

キタハラ: そう考えると、乾物って「社会派」の食材ですね(笑)。

 

サカイ: そう、乾物を使えば、料理もラクでカンタンにできて、しかも美味しくて、家庭もPEACE。そして農家は野菜を廃棄せず生かしきれるのでPEACE。エネルギーを無駄にせず食に苦しむ人たちにも届く可能性があって地球にもPEACE。乾物って、究極のPEACE FOODなんじゃないかな、って思って。

 

それで始めたのが「DRY AND PEACE」プロジェクトなんです。東日本大震災が起こる少し前から「乾物は未来食!」と思ってレシピ開発を始めて、最近では保存食や非常食としても使えると、乾物に少しずつ注目が集まるようになってきました。

 

最近ではパン屋さんとコラボして、乾物ドライカレーパンのプロジェクトもスタートしています。第1号に名乗りを挙げてくださったのが東京・新井薬師前のパン屋さん(その後自由が丘のパン屋でも第2号プロジェクトがスタート)。それぞれのパン屋さんごとに乾物を使ったドライカレーを自由に考えていただいていいのですが、ご希望があれば無償でレシピの提供もしています。そのレシピで使っている具は切干し大根、切干しにんじん、ひじき、レーズン。ドライカレーパン1個のお買い上げにつき10円が、砂漠化が進む内モンゴルに杏の苗を植樹する活動に対して寄付されます。

 

少しでも多くの人に乾物という食材に意識を向けていただきたいと思っています。私たちは食べることで社会に働きかけることができるという事実を「見える化」したい。誰もが日常の中で社会に参加できるのが理想で、だから“カレーパン”なんです。

 

キタハラ: みんなが好きな“カレーパン”だから、社会との接点も生み出しやすいですよね。「社会派レシピスト」の意味がだんだんわかってきました。

 

サカイ: 食は毎日のこと。そして、何を食べるか日々選択することが、食の未来につながっていきます。でも、環境や食の問題って複雑で大きく見えて、「思いはあっても何から始めたらいいのかわからない」という方がとても多い。「食の未来のために●●すべき」と理詰めで語るよりも、楽しく、美味しいところから始める方が、最初の一歩を踏み出しやすいし、きっと長続きすると思うんです。

乾物のドライカレーでホットサンドを手早くつくるサカイさん。乾物は調理前にすでに刻んだ状態であるので、忙しい時にこそ重宝する

●五感をフル活用して食を楽しむ「食の探偵団」

 

キタハラ: サカイさんのライフワークの一つでもある「食の探偵団」とは、どんな活動なんですか?

 

サカイ: カンタンに言えば「食育ワークショップ」なんですが、五感を使って食を発見する、食を探検していく……とでも言いましょうか。11年前にパートナーの田平恵美と活動を始めて以来、子ども向けだけでなく大人対象のワークショップも各地で開催しています。

 

センター南の「みんなのキッチン」でも「身近な食を知る」をテーマにランチつきのコラボセミナーを開催しています。これまでに、蒲鉾、米粉、キッチンでも育てられるスプラウトなどをテーマにしてきました。

 

2月8日には、養鶏のプロを招いて「卵の秘密の扉を開く」と題してワークショップを開催しました。岡山県で養鶏場を経営していらっしゃる藤井浩太郎さんをゲストに、白い卵と赤い卵の違いや、鶏のエサと黄身の色の関係、卵の旬のお話などをしていただき、私たちは料理を実演しながら提供しました。

 

キタハラ: 「鶏は冬に断食する」というエピソードや、鶏が1年間に産む卵の数など、藤井さんのお話は科学的でもありユーモアもたっぷりで、とても面白かったです。

 

そして、サカイさんに教えていただいた世界各国の卵料理は、材料もプロセスもシンプルで、すぐにでも家でつくれそうなものばかり!

 

サカイ: その場でつくったゆで卵と、チーズと卵をたっぷり使ったペルーの「ワンカイナ風ソース」をかけて食べたり、スペイン風オムレツ「トルティージャ」、ヨーロッパのドイツ語圏で食べられる卵入りパスタ「シュペッツェル」にハンガリーの「グヤーシュ風シチュー」をかけて……というように、卵は世界中で食べられているので、世界各地にカンタンでおいしい卵料理があります。

 

ゆで卵にまず何をつけて食べるか? それも参加者の皆さんに体験してもらいました。日本では塩が定番ですが、味噌や黒酢、マヨネーズ、砂糖、ケチャップなどいろいろなものをつけて食べてみようというもので、この日はチュニジアでは普通の食べ方というクミンと塩を混ぜたものも用意してみました。「ゆで卵には塩」という先入観ではなく、自分にとっての好みの味を見つけるのも「食の探偵団」的で、楽しさを生み出しますよね。

 

また、その場で料理を実演してつくるプロセスを見せることで「料理ってこんなにカンタンなんだ」と体感してもらえれば、日々の暮らしのなかで取り入れやすくなると思います。

 

キタハラ: 確かに、目で見て感じて学んで体感して、実践までの道筋をつけやすいですよね。

 

さて、サカイさんが今後取り組みたいことは?

 

サカイ: 食の専門家や住まいのスペシャリスト、スタイリストなど、各分野のエキスパートとコラボレーションして、日々の食がより豊かになるようなプロダクトをつくったり、また自分でレシピを開発してそれをワークショップなどで教えられる人を育てられたら、と思います。

 

子どものアトピーがきっかけで仕事を辞め、「私は料理が好きなんだ!」と気づいて自宅で料理教室を始めて18年経ちます。その間、日本各地でワークショップや講演、地元の産物を活かすお手伝いの機会もいただきました。本も何冊か上梓いたしました。そんななか、最近また、自宅での料理教室を再開しました。

 

そんななかで、「食とはこうあるべき」「未来のためにこうするべき」と大上段に構えて訴えるのではなく、実は料理って楽しくてカンタンだと感じてもらうことの方が大切だと思うのです。料理をすることを楽しむうちに自ずと人や社会との接点が生まれて、食がきっかけで未来に向けてちょっとだけでも考えて行動する……そんな人を増えたらいいなと思っています。

 

キタハラ: 家族や仲間との楽しい時間の媒介になる食。その選択が未来につながるということ、私たちも大切にしていきたいです。今後も色々教えてください。よろしくお願いします!

シュペッツェルはカンタンにつくれる生パスタ。小麦粉と卵、水を混ぜた生地を穴空きお玉に通して沸騰したお湯に流し入れる。ツブツブモチモチ感がたまらない!

 

【キタハラ’s eye】

 

東大法学部卒業の才媛、しかもすごい美人! ……と、ドキドキしながら訪れたサカイさんのご自宅。サカイさんはとてもサバサバとした、しかしイメージ通りの明晰で美しい方で、熱い心の持ち主でした。サカイさんはお子さんの重度のアトピーで泣く泣く仕事を諦め、地元の子育て仲間に声をかけて始めた自宅での料理教室が評判を呼び、料理家の道へ進みました。地域の女性たちと助け合いながら子育てをし、自分らしい仕事をつくってきたサカイさん。企画力と実行力、そして夢を実現していくための努力の姿勢に、さすが! と圧倒されました。

 

森ノオトでは、食の安全や地球環境問題を、日々の暮らしから変えていきたいという思いをもって発信活動をしていますが、「べき論」を発するほど伝えたいことが伝わっていかないのは痛いほどよくわかります。「楽しい」「美味しい」「うれしい」、そして「知る」「発見する」喜びが、女性を輝かせ、日々の食卓を豊かにしていくという話に全く同感でした。サカイさんに今後も学びたいことがたくさん。Facebookやブログなど、精力的な発信にこれからも目が離せません!

Information

■「食の探偵団」公式ホームページ

http://www.shokunotanteidan.net

■DRY AND PEACE プロジェクト公式ホームページ

http://www.dryandpeace.com/

北原 まどか
この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
未来をはぐくむ人の
生活マガジン
「森ノオト」

月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる

森のなかま募集中!

寄付についてもっと知る

カテゴリー

森のなかま募集中!

メディアを寄付で支える
読者コミュニティ
「森のなかま」になりませんか?

もっと詳しく