緻密な時間&温度管理がカギ! 平野フキさんに学んだ麹づくり
味噌や甘酒の材料になる麹(こうじ)。最近では手前味噌をつくる人が増えていますが、麹から手づくりする体験はなかなかできないもの。横浜市都筑区の農家・平野フキさんが麹をつけていると聞き、さっそく取材をしてきました。

森ノオトで平野フキさんに麹づくりをお願いすることになったのは、「よこはま100人のひとしずく〜手前味噌プロジェクト〜」で使う麹を求めていたからでした。私自身は手前味噌づくり歴13年、森ノオトの料理部の活動としては2年開催してきて、その流れから2017年、青葉区・緑区で活動する若手農家グループ「遊休農地を活用する会」の皆さんに津久井在来大豆の作付けをお願いすることになりました。地元産、しかも神奈川県の在来大豆を使って味噌づくりができる! そんなワクワクするプロジェクトに、暗雲が立ち込めていました。

 

14時にフキさんの家に到着すると、軒先でお米が蒸されていた。左手前は麹の発酵器。地域の農家仲間9人で所有している発酵器を順番で使っているという

味噌の材料は、大豆、麹、そして塩の3つ。麹については、以前森ノオトでも取材した、横浜市瀬谷区で文政年間から続く「川口糀店」さんのものを使うという前提でした。ところが昨年末、川口糀店さんが暖簾を下ろすとの情報が入り、「川口さんの糀があるから横浜の味噌をつくれると思っていたのに……」と頭を抱えました。

 

(文中では、こうじを「麹」と表記します。川口糀店さんについて語る時には「糀」を使います)

 

お米の蒸しあがりをチェック。「米粒がひねり餅状態になったらできあがり」とフキさん。蒸気があがって眼鏡が曇ってしまった

そんな時に助け舟を出してくださったのが、NPO法人新治里山“わ”を広げる会事務局長でにいはる里山交流センターを運営している吉武美保子さん。吉武さんは横浜の女性農業者とのネットワークがあり、森ノオトの「農家のお母さん発!横浜の地産地消を未来につなぐ体験講座」の応援をしてくださっていました。「100人のひとしずく〜手前味噌プロジェクト〜」が動き出してすぐに、「横浜の地産地消を推進する活動だったら、にいはる里山交流センターで開催しては?」と声をかけてくださったのです。そして、「麹がないなら、三澤百合子さんのお米を使って、フキさんに麹をつけてもらえるか頼んでみるから!」と、私には想像もつかないアイデアでさっそく動いてくださったのでした。

 

(ちなみに、その後3月に川口糀店さんは営業を再開しています)

 

蒸しあがったお米をバットに移して冷ます

吉武さんからのご連絡を受け、フキさんに電話をしたら「わかりました。やりましょう」と快諾してくださって、ご自身が販売する塩麹や甘酒用に麹をつけるスケジュールと調整して、森ノオトの麹づくりの時間を確保してくださいました。

 

麹つけをする3日前までにフキさん宅にお米と塩を運ぶことが必要であるとのことで、さっそく三澤さんにお米をお願いして(三澤さんのお米は2016年の皇室献上米に選ばれたほどのおいしいお米です)、みつはしさんに塩を手配してもらい、2月16日にフキさん宅に材料を届けました。

 

フキさんが麹をつける際は、天気のいい日に、ご自宅の縁側を使うそうです。前日までに浸水しておいて、ボイラーで40分間米を蒸し、そこから麹をつけて、合計42時間発酵させます。発酵器に入れたらそのまま放置しておけば完成……というわけではなく、途中で時間を決めて温度設定をしていかなければならないそうで、「できあがりの日を逆算して麹をつけないと、夜中や明け方に起きなきゃいけないし、出かけることもできなくなっちゃうから」と、フキさんはご自身でスケジュール管理をします。

 

フキさんが使っている種麹(もやし)は「丸福種麹」のもの

麹をつけるのは2月23日です。森ノオトのイベントは3月3日。麹のできあがりは2月25日で、使用するまでは少し時間が空くので、完成後の発酵を止めるためにも、あらかじめ少し塩を混ぜておくとのことでした。

 

14時にフキさんの家に行くと、玄関先でボイラーにかけられた蒸籠が勢いよく蒸気をあげていました。「私がお嫁に来る前からあるの」と、年季の入ったボイラーについて説明するフキさん。目の前にあるのが三澤さんのお米だと思うと、余計にありがたく感じます。

 

種麹をつける。「お米12kgに対して種麹は大さじ1くらいかしらね」とフキさん

フキさんは横浜の農産加工品分野をリードしてきた女性農業者です。いち早く塩麹に着目してオリジナルレシピで商品を開発し、甘酒や塩麹を販売、JAの直売所で大人気です。

 

「麹をやり始めたのは昭和の終わりだったから、もう30年以上かしらね。その後、みんなでやりたい!となって。当時は発酵器を持っていなかったから、麹蓋を電気毛布でくるんだり、コタツで温めたりした」なんて苦労話も、さらりとします。都筑区大熊町の女性農家グループが昭和59年に始めた「大熊にこにこ市」は、農家の嫁として家業に尽くしてきた女性農家たちが、加工品をつくって自分のお金を自分で稼ぐという、まさに「女性の自立」を体現した取り組みでした。大熊にこにこ市は2013年に幕を閉じましたが、現在に続く横浜の地産地消の取り組みや、男女共同参画の実現の先駆けとも言えます。

 

「種麹をつけたら手早くね」とフキさんに言われて、私も急ぎ麹を混ぜこむ。これらの工程はすべて手作業でおこなう

 

14時を目処に米の蒸しあがり時間を設定し、そこからは手早く蒸米をバットに移し、冷ましていきます。私たちが依頼したのは15kg分のお米の麹つけで、お米を洗って浸水して蒸して、そこから切り返したり麹をつけるまでの作業は、結構な力仕事です。昭和10年生まれのフキさんですが、そんな力仕事もいとわずこなしていきます。

 

それから、温度管理も麹つけのキモ。「麹をつけて発酵器に入れたら36℃に設定して20時間。そこから2℃ずつ温度を上げていきます。38℃で7時間、40℃で14時間発酵させて完成です」と、きっちりと温度管理をしていくそうです。

 

仕事が終わって駆けつけたみつはしあやこさんも麹つけに参加

人肌程度の適温に冷ましたお米に、粉状の種麹(もやし)をつけて、種麹がまんべんなく混ざるように手でお米をほぐしていきます。「熱々でもダメ、冷め過ぎても発酵しないから、手早くやらないとね」と、フキさん。

 

麹つけに合流したみつはしあやこさんは「お味噌はずっとつくってきたけれど、麹つけは初めての体験です。フキさんとご一緒できるなんて!」と、農家の軒先での麹づくりに感激した様子。「100人のひとしずく〜手前味噌プロジェクト〜」企画メンバーの山本久美子さんも「こうした農家に息づく伝統文化を知るたびに、横浜に暮らしてよかったと思う」と、大豆から麹、そして味噌に続くプロジェクトの意義を噛み締めていました。

 

麹をつけ終わったら発酵器に入れてタイマーをセット

麹をつけたらあとは発酵器に入れて、温度設定の時間に確実に2℃ずつ温度を上げていきます。「その時間には必ず家にいなければいけないから」と、フキさんは一仕事を終え、これからマッサージに向かうとのことでした。次に温度を上げるのは20時間後の翌日11時、また7時間おいてその日の18時に温度を調整し、そこからさらに14時間おいて、2日後の朝8時に麹が完成します。

 

2017年11月29日におこなった「農家のお母さん発!横浜の地産地消を未来につなぐ体験講座」のテーマは「フキさんの塩麹と甘酒料理」。ご自身でつけた麹から、塩麹と甘酒のつくり方を紹介した

2月25日にできあがった麹は使うまでに6日あるので、あらかじめ渡しておいた塩を少しだけ混ぜて発酵を止めて冷蔵保管しておいてくださいました。3月1日に麹を取りに行った時、フキさんと一緒につくった麹と思うとなんだか感慨深く、愛おしさがこみ上げてきました。「遊休農地を活用する会」の皆さんにつくってもらった大豆と、三澤百合子さんのお米で平野フキさんがつくった麹とで、にいはる里山交流センターを会場に、横浜の味噌をつくる。横浜の里山と農業が、地域交流としてつながっていく……物語の要に、フキさんの麹がありました。

 

11月の講座では、にら玉や、じゃがいもと豚肉の煮物、サラダなど、手早くできる4品を実演。フキさんがご自宅で用意してくださった栗ごはんもあわせて、旬を感じる幸せな食卓となった

※3月3日に開催した「100人のひとしずく〜手前味噌プロジェクト〜」のレポートは後日公開します。

 

北原 まどか
この記事を書いた人
北原まどか理事長/編集長/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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