データで暮らしが変わる? 慶應大学SFC厳研究室と考える「明日の田園都市」vol.1
生きていくのに必要な食べ物や、水、エネルギーを、快適に、かつ、環境に無理をかけず持続可能な形で得るためにはどうすればいいのでしょう? 食べ物が溢れ、お金を出せばなんでも買える豊かさを経験したその先の、都市生活をデザインするプロジェクトが始まります。(この記事は慶應義塾大学環境情報学部/大学院政策・メディア研究科 厳網林研究室のプロジェクト、M-NEXをレポートするシリーズです)

「食料品をよく買いに行くお店はどこですか?」「日用品をよく買いに行くお店はどこですか?」「買い物への交通手段は何ですか?」「月々の家族の食費・水道代・光熱費は?」「飲み水は購入している? 浄水器をつかう? 水道水をつかう?」「家庭に流れている水道水の水源や、購入する食品の産地を知っていますか?」

 

3月31日から4月1日の2日間、横浜市青葉区の美しが丘公園の桜祭りに合わせて行われたパークサイドマルシェの会場で、汗ばむほどの陽気の中、慶應義塾大学環境情報学部(同大学院政策・メディア研究科)・厳網林(げん・もうりん)研究室の学生たちが、ブースを訪れる人々にアンケートをとっていました。

 

会場は美しが丘公園の隣のさんかくベース前の広場。パークサイドマルシェはPEOPLEWISE CAFEを運営する(株)WATの主催で、厳研究室の他に、花屋さんや野菜の直売、手作りアクセサリーや、塾の案内ブースが並んでいた

 

厳研究室では、”Eco GIS”といって、地理情報システム、GIS(ジーアイエス=geographic  information system) を活用して、人間と、特に「自然環境」との関係について研究・分析をしています。

 

地理情報システムを使うと、例えば、徒歩5分圏内にコンビニがある地域は? とか、買い物弱者を支援するためのコミュニティバスの最適なルートは? 太陽光パネルを設置できる住宅の屋根の総面積は? 等々、空間や時間の情報を地理情報と組み合わせて表現し、新しいインフラ、サービスの可能性や、潜在するニーズを発見し、課題解決に結びつけることができます。今回のブースで展示されていたのは、生産緑地(農地)を黄緑、住宅やマンションなどの建物をグレーに色づけして、たまプラーザ駅周辺の食料の生産地と暮らしの関係を表した地図でした。

 

「僕のうちはこの辺りかな?」子どもたちも地図に反応。美味しいパン屋やレストラン、八百屋や酒屋の情報などが書き加えられていく

 

「集まった回答は2日間で100を超えました。同じ地域に暮らしていても、行動範囲は本当にバラバラで、人それぞれですね。食物を得るために、駅近くのスーパーマーケットに行く人、商店街を利用する人、安さを重視する人と、車でこだわりの店にしか行かない人、近隣の直売所を利用する人、また、宅配サービスを利用する人という風に、研究室で考えていたよりも、その違いが顕著に現れました。市民農園の利用者のような、いわゆる生産する人に会えなかったのは残念ですが、これを元に、6月2日には「プラモウリン」と称して、食と暮らしをテーマにしたまち歩きと、ワークショップを実施する予定です」と、なんだか学生も先生も楽しそう。

 

NHKの人気番組で、タモリさんが地域を歩きながら街の歴史や謎に迫る『ブラタモリ』をもじって、モウリンセンセイとたまプラーザをぷらり、まち歩きすると、普段とは違う景色が見えてくることでしょう。横浜は都市農業が盛んで、青葉区にも林英史さん三澤元芳さん他、若手の農業者が活躍しています。しかし30万人を超える人口のうち、大半の人々の目は、まだまだ東京を向いており、地域の資源を知って十分活用しているとは言えません。また、それだけの人数の暮らしを支えていくには、もっと積極的に「生産」に関わる必要もありそうです。

 

大学を飛び出してフィールドワークする精鋭たち。真ん中が厳先生。エッジのたった研究成果に期待したい

 

6月の「プラモウリン」の次には、この地域の食の流通のデータを落とし込んだ地図などのビジュアル的な展示と、学びを深めるための公開講座が予定されています。年明けには、ワークショップ形式で、これからのまちにふさわしい食とその流通のあり方を考えます。次年度には、それを広めるための教育プログラムを開発したり、政策提言をまとめるところまで持っていき、2021年の3月までの3年間で、SDGs(Sustainable Development Goals=2030年をターゲットに国連が定めた持続可能な開発目標で、環境問題や公衆衛生、ジェンダー平等など、17の目標が掲げられている)を達成するような、ライフスタイルや、ビジネス、サービスを生み出すことを目的にしています。

 

これってつまり、森ノオトが進めてきたような、地産地消3R水源と繋がったり雨水利用をするなど、「足元を見つめて、エネルギーや資源を無駄にしない、循環する暮らし」を産官学民でどんどん進めようという計画ですよね! ということで、その趣旨に賛同し、まずはこうしてレポートをすることから、森ノオトも研究に参加しています。

 

M-NEXは、たまプラーザだけでなく、二子玉川や藤沢でも、地域の住民や行政、企業と連携して、食料・エネルギー・水のつながりを通して、持続可能な都市生活の可能性を探るプロジェクト。実は日米欧の研究機関が連携した国際的な取り組みです。

 

中でも、たまプラーザの特徴は、横浜市と東急電鉄が包括協定を結んでいる「次世代郊外まちづくり」の取り組みを通じて、分野を超えて顔の見える関係が既に出来ていることです。シェアカルの生みの親、藤本孝さんや、東急電鉄のWISE Living Lab.、PEOPLEWISE CAFE 、石塚計画デザイン事務所、横浜市の住宅再生課や温暖化対策統括本部などなど、たくさんの団体や個人、企業と、それぞれの領域を大事にしながら協働するプロセスを、実際に体験しながら伝えていきたいと思います。レポートをするにあたり、そもそも厳先生ってどんな人? 研究室ってどんなところ? が知りたくて、後日、大学を訪ねました。

 

緑に囲まれた慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスには、環境情報学部と総合政策学部、看護医療学部があり、中等部、高校部も併設されている。湘南(S)藤沢(F)キャンパス(C)で通称SFC。先進的で自由な学びの環境が整っていて、社会起業家を多く輩出していることで注目されているところです

 

SFCでは学年や学部の境目がなく、希望すれば一年生から研究会 に入ることができます。通常の授業とは別に時間をとって集まり、学部生から大学院生まで混じって学びあう中で、自分にあった専門領域を極めていけるアカデミックサークルのようなもの。厳研究室には、一学年5人ずつ学生がいて、今年また6人参加を希望しているとかで、さらに大学院生も合わせれば、なかなかに大所帯になります。

 

中国で測量を学んだのち、日本に留学して、1987年から東京大学の工学部で中村英夫先生に土木を学んだという厳先生、出身地の江蘇や上海、チベット、さらにモンゴルでの環境調査も手がけていますが「昔は私も、伊能忠敬のように、実際に歩いて測量して地図を作っていましたよ」と聞き、衛星による空からの地図情報だけでなく、フィールドワークを重視していることの背景がわかった気がしました。ご実家は農家だったということも、今回の研究に通じている気がします。

 

現在青葉区にお住まいの厳先生。1987年の留学以来、ほぼ研究畑にいて大学に籍をおき、2007年から現職のSFC環境情報学部の教授となった。日本では、里山の環境を保全するのに、地理情報を役立てられないか? など、GISで環境問題の理解や解決のための道を探ってきた

 

厳先生や研究室の学生と話をしていると、『攻殻機動隊』というアニメーション映画に出てくる映像が思い浮かんできました。攻殻機動隊では、機械と人間が融合した世界が描かれていて、目に見える風景と、距離や温度、パワーなどをそのまま数値化して把握することができるのですが、厳先生の頭の中、見ている風景もそれに近いように思うのです。映画ではいつまでも争いが絶えない世の中が続くので、そうではない方向、食べ物や水の奪い合いを避け、自然のエネルギーを活用した豊かな暮らしにシフトする世界を、共に描いていきたいものです。

Information

「プラモウリン」

2018年6月2日(土)10:00-12:00

集合場所:東急田園都市線たまプラーザ駅中央改札口

解散場所:PEOPLEWISE CAFE

テーマ:「田園都市の田園はどこに?」

注意事項:歩きやすい服装でお越しください

 

慶應義塾大学SFC厳網林研究室

神奈川県藤沢市遠藤5322, 厳網林研究室 ε502

tel&fax : 0466-49-3453

http://ecogis.sfc.keio.ac.jp/ecolog2/

梅原 昭子
この記事を書いた人
梅原昭子理事/事務局長/ライター
難しいものをおもしろく、かたいものをやわらかく翻訳し、絵で表現できる編集者。市民電力会社「たまプラーザぶんぶん電力」の社長になってしまうが、エネルギーの世界にも飄々とたゆたう視点で、こんがらがった世界を解きほぐす。アートユニット「WAKUSEI/ワクセイ」として縦横無尽に活動中。
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