外国人在住者と子育て〜子育てから感じる日本の男女格差 世田谷区在住・ソフィア・カルティカさん
2019年に世界経済フォーラムで発表されたジェンダー・ギャップ(男女格差)指数によると、日本は153カ国中121位。母国でジェンダー問題に取り組んできたインドネシア出身のソフィア・カルティカさんに日本での子育てを通して感じた男女格差についてお話を伺いました。
(文・写真/NPO法人Sharing Caring Culture 代表理事 三坂慶子)
*このシリーズでは、「子どもを育てる」現場の専門家の声を、毎月リレー方式でお送りしていきます。

■母国で培ったキャリアを日本で生かしたい

ソフィアと私が出会ったのは、2016年。日系企業に勤務するインドネシア人の夫の赴任に伴い、2012年に来日した彼女には、当時4歳になる息子ケイくんがいました。ケイくんの幼稚園入園を目前にした2016年2月、私たちの団体NPO法人Sharing Caring Cultureが主催する幼稚園入園準備のためのミシンの会に参加したのがきっかけでした。
 
当時私たちは、アートフォーラムあざみ野の子どもの部屋で毎月、多文化親子交流会を開催し、外国籍のお母さんたちと持ち寄ったお弁当を食べながら、雑談をしていました(コロナ禍で現在では、状況に合わせながらオンラインとオフラインで開催)。ちょうど幼稚園の入園を控えた外国籍のお母さんから、「幼稚園入園に必要なものは、手作りでないといけないの?」、「子どものために入園グッズを手作りで用意したくても自宅にミシンがないし、作り方がわからない」、「英語で作り方を説明してもらえたらうれしい」という声があり、私の知人で洋裁が得意なママが講師となって、英語で幼稚園グッズを作るミシンの会を企画しました。
 
ソフィアは、多文化親子交流会には参加していませんでしたが、同じインドネシア人で、ミシンの会の起案者のリエラに誘われ、参加。寒い日にもかかわらず、親子で世田谷区から電車を乗り継ぎ、あざみ野までやって来ました。アートフォーラムあざみ野の生活工房のテーブルの一つを利用し、保育士経験のあるママが折り紙を折ったり、読み聞かせをしたり、子どもの見守り保育をしながら、ママたちが集中して制作できるように環境をつくりました。ソフィアは、最初、緊張した面持ちでしたが、手作りのコップ袋を作り終えた頃には、明るい表情で満足気に帰って行ったのが印象に残っています。
 
それ以来、ソフィアの家族は私たちのイベントに定期的に参加するようになりました。そして、2017年に地域の子育て情報を英語で編集し、出版するプロジェクトを立ち上げた時に「編集経験があるから、プロジェクトメンバーになりたい!」と手を挙げたのがソフィアでした。私は、多文化親子交流会に集う外国人のお母さんたちとの雑談から、子育て中の外国籍の当事者が中心となって彼らが必要としている地元の子育て情報を英語で届けることはできないかと考えていました。しかし、中央ろうきん助成プログラムのステップアップ助成に応募し、軍資金を得たものの、編集経験がない素人の集まりで、プロジェクトの進行に右往左往していました。
 
そんな折、インドネシアでジャーナリストをしていたソフィアが編集長に就任し、外国人在住者へのグーグルフォームでのアンケート作成から調査の分析、冊子構成などの骨組みを作ってくれました。外国人在住者の目線で必要な情報を届けるにはどうしたらよいかという問いに対して、ソフィアは、当事者の外国人に日本での子育て体験談を綴ってもらってはどうかと提案し、寄稿者を募ることにしました。そして、5名の外国人在住者の体験談と外国籍家族が子育て中に知っておきたい地域の情報を英語で編集していきました。母国でジャーナリストとして経験を積んできたソフィアの“日本でも自分のキャリアを生かしたい”という思いに支えられ、1年あまりの期間を経て、2018年8月に『OYACO(おやこ)』を出版。配布にあたっては、青葉区戸籍課の外国籍登録窓口にて、生活ガイドの一つとして配布していただくことになり、受け取った子育て中の外国籍家族から「こういう冊子を探していた、ありがとう」「OYACO is a life saver! ( 子育て冊子OYACOに救われています!)」と感謝のメッセージまでいただきました。
 
このOYACOの制作をきっかけに、ソフィアは意欲的に活動に参加するようになり、NPO法人化する過程でも、理事の一人として、また外国人当事者として、意見や想いを共有してくれる大切な仲間となりました。理事会の時に、私からあなたにとってSCCとはどんな場所かと確認すると、ソフィアは「SCC is my playground」と私たち団体のことを遊び場と表現していました。私は、彼女のような日本在住の外国籍の人たちがマイノリティとして支えられるのではなく、対等な立場で主体的に関わりながら地域の人とつながる場をつくりたいという団体立ち上げの動機を思い返して、嬉しくなると同時に、人は役割を与えられて初めて、その場所がその人の居場所になるのではないかと感じました。

子育てレファレンスブックOYACOをタウンニュース都筑区版に掲載していただいた時の写真。OYACO(おやこ)という冊子名は、外国人の子育て支援をコミュニティで応援するという編集メンバーの想いを反映し、「OYAKO」ではなく、Community(コミュニティ)のCOを意図して命名しました(写真提供:タウンニュース社)

 

■ジェンダーギャップ(男女格差)を考える

さて、日頃から私は、外国につながる人たちとともにNPOを運営したり、また活動に参加する外国人在住者と話をしたりする中で、度々話題に上がり、目を背けずにはいられないと感じている課題があります。それは、日本のジェンダー問題です。
 
ソフィアの息子、ケイくんが日本の小学校へ入学した時のこと。音楽の授業で使う鍵盤ハーモニカを注文する時に、男の子は水色で、女の子はピンクと決められていて、疑問に思ったというのです。ソフィアは、子どもたちが色を選択することができないばかりか、男の子だから、女の子だからと性別で色を分けるのはおかしいのではないかと担任の先生には言えなかった胸の内を私に語ってくれました。
 
実は、ソフィアは、インドネシアのジャカルタにあるガジャ・マダ大学で社会学を専攻し、卒業後は、Jurnal Perempuan(ジャーナール プルンプアン)というインドネシア初のフェミニストの雑誌(1996年創刊)社でジャーナリストとして勤務していました。彼女にフェミニズム(性差別からの解放と両性の平等を目指す思想・運動)を意識するようになったきっかけを聞くと、学生時代にジャーナール プルンプアンでインターンをした時の体験が大きかったといいます。初めて記事を書くにあたって、取材に訪れたインドネシアの田舎町で、多くの女性が窓もない、薄暗い台所で一日の大半、家事をこなすために過ごしているという実態を目にし、またそのような換気が整っていない環境が女性の呼吸器、肺、気管、胸部疾患をもたらしていることを知り、インドネシアの女性の地位向上のために力を尽くしたいと思ったそうです。
 
大学卒業後、ソフィアは2003年にJurnal Perempuanのジャーナリストとして正規の職に就きました。初めての仕事は、インドネシアのほぼ中央に位置するスラウェシ島南部、パロポでの取材でした。1998年〜2010年当時、フェミニストという視点で女性の声がまだメディアで取り上げられるのが少なく、ジャーナール プルンプアンのプロジェクトの一つ、Radio Jurnal Perempuan(RJP)ウィメンズジャーナルラジオのプログラム制作に関わりました。RJPは、地元のラジオで女性の不平等に関するさまざまな問題についてのインタビューを放送。ソフィアは、夫による家庭内暴力から身を守るために、女性の経済的な自立を促すというテーマで取材を続けました。
また、記事を書くだけではなく、女性のエンパワメントという視点から啓発的なセミナーをNGOをはじめとする他の団体と協働で開催し、家庭内での女性の立場を見直すためのプロジェクトにも関わりました。女性啓発のセミナーに参加することを恐れる女性もいる中で、個別で受講できるセミナーを開催し、セミナー受講後に自分たちで団体を立ち上げる動きもありました。また、経済的に自立できる仕組みをつくりたいと前向きに変化を起こす受講生もいて、手応えを感じたそうです。
 
スラウェシ島では、2003〜2005年当時、イスラム教徒(ムスリム)とキリスト教徒の宗教紛争が絶えない地域*もあり、直接的に紛争地域のコミュニティ支援に取り組むことはなかったものの、ソフィアはJurnal Perempuanのジャーナリストとして、支援に励むNGOへの取材を通して、女性たちが声をあげること、女性は紛争を平和的に解決するために果たす役割があると感じたと言います。その経験を生かし、2005年にUNDP(国連開発計画)インドネシア事務所へ転職しました。
 
*2000年前後のインドネシアの複雑な情勢について、詳細はこちらを参照ください。「インドネシアの宗教・民族・社会問題と国家再統合への展望」国際金融研究所調査書
https://www.jica.go.jp/jica-ri/IFIC_and_JBICI-Studies/jica-ri/publication/archives/jbic/report/paper/pdf/rp25_j.pdf
 
UNDPインドネシアでは、男女平等の視点で政府の政策決定を意図するGender Mainstreaming(ジェンダー主流化)政策に取り組みました。特に、ジャワ島西部バンテン州レバック県でのジェンダー主流化政策に関わり、女性の経済的な自立を支援するプロジェクトを通して、アドボカシー(政策提言)を行ったり、首都ジャカルタと大きな隔たりがあった教育環境を整えるために学校を建てたり、教育格差を是正するプロジェクトに参画しました。

アドボカシー(政策提言)についてUNDPインドネシアグループの仲間と話し合うソフィア

■性別に基づいた固定観念に縛られない子どもを育てる

このような男女平等推進の分野で国の政策提言にまで関わる大きな仕事に取り組んできた
ソフィアが日本での子育てを通して不思議に思ったことの一つが、PTAでの男性の参加率が低いことだそうです。日本に住み始めてから専業主婦となったソフィアですが、ケイくんを出産した時に、夫のトニさんと家事、育児の分業について話し合い、女性だけが家事や育児を担うのではなく、夫もパートナーとして分業することを確認し合ったとか。そこで、息子の幼稚園や小学校での学校行事のほか、PTA活動にもトニさんが参加しているそうですが、PTA総会に出席すると、PTA会長は男性なのに、出席者のほとんどが女性でトニさんもソフィアも驚いたといいます。子どもの育児に関することは、女性の仕事という風潮なのか、日本の社会では、性別役割分業意識が強く残っているのではないかと懸念しているそうです。
 
また、ママ友との会話からも、日本の女性は母親として完璧に家事、育児をこなさないといけないと思っているのではないかと心配になるとソフィアは言います。専業主婦でなくても、働く女性は、仕事を終えて、帰宅しても家事や育児をこなすのに、夫は仕事を終えたら飲み会に参加するということにも疑問を持っているとか。ソフィアは、息子のケイくんに男女平等の観点を持った男性に育ってほしいという思いから、料理、洗濯、掃除などのあらゆる家事は無償であったとしても、とても大切な仕事で、尊重されることなのだと伝えるとともに、女の仕事、男の仕事はないと話すそうです。

2018年に開催したマレーシア料理の親子クッキングでは、ソフィアは、調理の補助スタッフを担当。夫のトニさんと一緒に子どもたちのサポートをしてくれました

 

■無意識のジェンダーバイアス(偏り)

ソフィアと話をしていると、私たちは、無意識のうちに男女格差について偏った意識を持ってはいないかと思うことがあります。新型コロナウイルス感染症による学校の休校処置が突如2月28日に決まって、3月から子どもの預け先など、どうやって対応しようかと共働き家庭で頭を悩ませた方は多かったはずです。子どもが自宅にいる状態で夫婦ともに在宅勤務をし、仕事も育児も家事もしなければならない状況に置かれて、悲鳴を上げたのは女性の方ではなかったかと我が家の状況を思い返しながら、女性の負担感が気になりました。もちろん、家事、育児の分業ができていて、不測の事態であっても上手に乗り越えられた家庭もあったと思います。少なくとも私たち夫婦に関しては、同じ在宅勤務ながら、夫は勤務時間内に自室を出ることはなく、私が小学3年生の娘の家庭学習をみながら、家事をし、オンラインでミーティングをするという状況で、在宅勤務で楽になるかと思いきや、それ以上に大変な状況で、ふと疑問がもたげました。私たちは、子どもと関わるのは、母親の仕事、だから同じ在宅勤務中でも女性が子どもの世話をするべきという意識があるのではないかと。まずは、私たちがこうした無意識のバイアス(偏り)に気づき、意識すること、そこから日本のジェンダー・ギャップ(男女格差)問題に風穴を開けることができるかもしれません。

NPO法人Sharing Caring Cultureでは、外国人とともに考えるジェンダーギャップをテーマに、ワークショップを男女協働参画センター横浜北の公募型事業として開催します(全2回)。ソフィアをはじめ、当団体の外国人メンバー3名がゲストスピーカーとなって、ジェンダー問題について対話する機会をつくります

Information

「外国人と考える ジェンダーギャップ」

日時:Part1  2020年11月14日(土)14:00-16:00

Part2  2021年2月6日(土)14:00-16:00

*全2回/通訳つき

参加費:¥1,000 (資料代込み、2回分)

会場:アートフォーラムあざみ野 2F セミナールーム

定員:15名 

主催・お問い合わせ NPO法人Sharing Caring Culture

https://sharingcaringculture.org

イベント詳細:https://www.women.city.yokohama.jp/a/event/15398/

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