カラダとココロに染みわたる 素菓子みむらの味
にんまり。おいしいお菓子を食べたとき、誰もが自然と笑顔になってしまいます。なぜかしら心の底からほっとするおいしさ、それが「素菓子みむら」のお菓子です。5月は森ノハナレで開かれる「めぐる布市」に出店も決まっています。そのお菓子を作る職人、青葉区鴨志田町で4人の子育てをしながら、いつもふんわりと自然体で微笑んでいる三村桂さんにお話を聞いてきました。

青葉区鴨志田町にある「おうちカフェ&ショップetana」で月に2日間出店している「素菓子みむら」。その味に一目惚れした店長、高橋典代さんから「うちでぜひお菓子を出しませんか」と声をかけられてから4年、今ではその日を心待ちにするファンが多くいます。 

 

そんな素菓子みむらを一人で切り盛りしているのが、三村桂さんです。私は6年前、お互いの長男が幼稚園の同級生という縁で出会いました。当時は、育児に専念するママ同士、公園で遊ぶ子どもたちをよく日暮れまで一緒に見守ったものでした。ここでは桂ちゃんと呼ばせてもらいます。 

 

それから2年、「お店の名前、いくつか考えてみただ。漢字がいいかな、ひらがながいいかな。私の作りたいお菓子のイメージだと、ひらがながしっくりくるかなあ」。メモされたいくつか並んだ名前の候補を見せてもらったときの胸の高鳴り。いよいよ船出!と友人の挑戦が眩しく感じられました。  

「おうちカフェ&ショップetana」での出店風景。レジ横のカウンター横に並ぶ素菓子みむらのお菓子と、手前に並ぶのは、これまた毎月心待ちにしているファンの多い「goma」のパンたち。奥にちょこんと座っているのは三村家三男の潤太くん(写真提供:小宮山ゆみこ)

それにしても、一度食べると心を掴まれてしまう桂ちゃんのお菓子のルーツはどこにあるのか、どこで修業をしてきたのか、家庭を築く前の桂ちゃんについて聞いてみました。 

 

桂ちゃんは元々「手で作ったものが信じられる」という思いが強くありました。それは物心ついた頃から自然と持ち合わせて、心の中で育ってきたものでした。あらためて、なぜなのかと考えると、幼い頃からお母さんとお姉さんと一緒にお菓子を作った楽しい時間があるからなのかもしれないと思い至ります。お母さんが「同じ名前だから」と買ってきてくれた森村桂さんのレシピ本の手触りと、一つひとつレシピに挑戦してみたときのワクワクする気持ちをよく覚えているそうです。 

それでも、自分の腕一本でやっていく料理の道を仕事にする決意には少し時間がかかりました。高校3年生のとき、心の中にはすでに「食べるもので人を笑顔にしたい」という気持ちが芽生えてはいましたが、本当にその道でやっていけるのか、と迷いや不安もあり、将来に明確に役に立ちそうに思えた大学の商学部へ進学しました。 

【全粒粉レーズンサンド】と【小豆ショコラ】。 
素菓子みむらのメニューの中でも、ちょっとしたお土産などに人気の【全粒粉のレーズンサンド】はイヴォワールのチョコレートと有機レーズン、高千穂発酵バターを混ぜたバタークリームをサンドしたクッキーです。レーズンサンドに求めたい濃さがあるのに、クッキーの軽さで、気づいたら何個も食べてしまう絶妙なバランス。【小豆ショコラ】は丹波産の大粒の大納言から作る自家製のあんこと卵をふんだんに使っています。チョコレートの濃厚さがしっかりと味わえつつ、お腹がずっしりとはしない、身体に優しくて甘い味が染みわたるようなショコラです。この小豆ショコラに最初に出会ったときのトキメキは忘れられません(写真提供:素菓子みむら)

 

けれども進路を決める頃には「やはり自分は料理に携わる仕事をしていきたい」とはっきりと心は決まっていました。大学4年生のとき、専門学校へ通い、調理師免許を手にしたのです。この時、製菓ではなく料理の専門学校へ進んだのは、まだ自分にとって未知の領域と思えたその道を一から学びたい、やってみたいという思いが強かったからです。 

 

大学を卒業後、出身の兵庫県を離れ、最初に勤めたお店は東京、自由が丘にあるオーガニックカフェでした。そのお店で出会った先輩の縁で、2軒目に料理の腕を振るい、磨いたのは世田谷区祖師ヶ谷大蔵の商店街にあった地元の人に愛されるオーガニック食堂です。 

その食堂では玄米と無農薬のお野菜で日替わりランチを出していました。産地から届く採れたてのオーガニック野菜が詰まった箱を開け、そこに入っている野菜を手にとり眺めて、その日のメニューを考えます。新鮮さと安心、安全にとことんこだわったお店でした。お店の料理で使った油は石鹸にして使い、出汁をとった昆布や煮干しはふりかけにしたり、お惣菜に活用するなど廃棄するものはほとんど出さないエコに対しても徹底したお店でした。 

その日、産地から届いた箱を開けるときのドキドキとワクワク、限られた時間、限られた食材でいかにおいしいお料理を作るか。「若かったし、そのライブ感もひっくるめて愛おしく、お客さんに喜んでもられる料理を出したい一心で、寝ても覚めてもお店、お料理のことを考えていて、夢中で働いていた」と桂ちゃん。3年目に、野菜を取り寄せていた産地に店長が引っ越すのを機に、桂ちゃんは店長を任されました。 

 

「お菓子を食べてくれた人が、肩の力がふっと抜けたり、緊張がゆるっと解けたり、笑顔になったりしてくれたらいいな、そんな願いを込めながらお菓子のデザインや味を考えたり、捏ねたり焼いたりしているよ」と桂ちゃん (写真提供:素菓子みむら)

 そのお店のポリシーを大切に思う中で、日替わりランチの難しさに悩むこともありました。限られた食材と時間の中で、時には自分の中で70パーセントだったと思うメニューもあり、そんな時、いつも「おいしかったよ!」と声をかけてくれる常連さんに「今日はイマイチだったなあ」と声をかけられることも。安心、安全、新鮮、そしてエコー。お店の願いとともに、その日来たお客さんにとっては一期一会の食事なので、いつもおいしいと思ってもらえる味を安定して作りたいという思いが強くなっていきました。 

 

森ノオトのライターでもあった清水朋子さんのお店グレンタで開かれたマジカルバザールに出店したときの写真。目利きの朋子さんが一押しのお店に声をかけ、年に一度開かれます。「初めて食べた時、心からおいしい!と思ったの。季節を感じることができる食材にプラスして、桂ちゃん独特の素材の組み合わせがマジカルな感じがした」と朋子さん。今年のバザールにも素菓子みむらは出店予定です!桂ちゃん手書きのレシピも女子たちの目を楽しませてくれます(写真提供:グレンタ)

素菓子みむらを何度か食べたことのある人は口を揃えて言います。「ああ、この味!この味をまた食べたかっただよね」と。同じメニューなら何度でも、また食べたかったあの味が味わえる、その安定感も魅力の一つです。 

また、定番のお菓子と並んでいつも楽しみなのは、旬の素材を使ったお菓子が並ぶことです。みむらのお菓子に出会って、体は旬のものをとりたがっていることにあらためて気づきました。なぜなら、旬の果物や野菜の入ったお菓子を食べると、お腹からふわっと温かい力が広がるからです。 

いつもの味を作り出すスタミナ、そして旬のものをキャッチするアンテナと臨機応変なしなやかさを併せ持つ桂ちゃん。素菓子みむらの味のルーツはこのハードで熱い青春時代にあったのだなあと、話を聞きながら納得してしまいました。 

今年、etana6周年のお祝いの記念に販売されたクッキー。カタツムリの形のクッキーはお店の名前「etana」(フィンランド語で“カタツムリ”)にちなんでいます。左のクッキーはetanaの店長高橋さんが「家族みんな大好き!」 という定番の【ゴマのクッキー】。フライパンで乾煎りしてから、すり鉢ですられたゴマがたっぷりと混ぜ込まれている香り豊かなクッキーです。右側は【ほうじ茶のチョコクッキー】。ヴァローナ社のイヴォワールというホワイトチョコレートと京都一保堂のほうじ茶を使っています。色合いもおしゃれな、和と洋が絶妙に出会った一品(写真提供:素菓子みむら)

4年間夢中で働いた祖師ヶ谷大蔵のカフェの次に桂ちゃんが門を叩いたのは、上京したときから、いつの日か働いてみたいと憧れていた南青山にあるビーガンカフェでした。そのお店はデザイン会社が経営し、「食」も「店」も全てはデザインからというポリシーのもとに、洗練された味と空間を作り出していました。そこで働いた2年間は、「お客さんファースト」を中心にしたメニューでの徹底的な味とデザインの追求、そして周りのスタッフのプロフェッショナルな高い意識を全身で受け止める日々でした。そのお店でたくさんの量のメニューを作りながらも、一つひとつは繊細に、一つひとつに心を込めてという姿勢を学びました。 

 

取材の最中、桂ちゃんは祖師ヶ谷大蔵のお店の手書きの可愛らしい日替わりメニューと、南青山のお店のオーナーが出しているレシピ本を数冊、同じ大きなコットンの袋の中から大切そうにとり出して、机に並べてくれました。 

それぞれを手にとりながら話をしてくれる桂ちゃんの表情から、その全ての日々が、今こうして独立し、自分のお店を持つ桂ちゃんへ繋がっているということが伝わってくるのでした。 

【塩小豆ケーキ】。丹波産大納言小豆入りのケーキです。たまらないのは上にかかったアイシングの中に粗塩が入っているところ。塩はフランス産、ヴェルトンヌの粗塩。甘いものに少し塩味が加わっていることで軽さが出て、つい二つ目に手が伸びてしまう。粗塩の食感も楽しい(写真提供:素菓子みむら)

結婚して、仕事を離れますが、自分の作った料理でだれかを笑顔にしたい気持ち、お腹を満たすためだけではなくて、心も満たしたい気持ちは家庭の中でも一緒でした。 

 

3人目が生まれる頃、幼稚園のママ友3人と「きのしたや」というユニットを作ってワークショップを森ノオウチで開催します。そこで久しぶりに家族やお友だち以外のお客さんに自分の作ったお菓子を振る舞いました。 

 

幼稚園のママ友3人のユニット「きのしたや」。ニット作家の小宮山ゆみこさんがレクチャーする糸つむぎ体験と、抜群のセンスを持ち合わせ、雑貨の買い付けなどを仕事にしていた木村典子ちゃんのテーブルウウェア、そして桂ちゃんのお菓子をコラボしたワークショップを2016年、森ノオウチで開催しました。桂ちゃんがおんぶしているのは次男の薫くん。後ろに笑顔で写っているのは今年の5月のめぐる布市に素菓子みむらをスカウトした森ノオトの齋藤由美子ちゃん。この日から5年の歳月を経てこの春、森ノオウチでまた新しい出会いがあるのでしょう(写真提供:小宮山ゆみこ)

桂ちゃん、自分自身を口下手でシャイだと思っているそうです。当時は、子どもを連れて公園や、地域のケアプラザなどに行ってみても、他のお母さんと何を話そうかな、どんな風に振る舞おうかなと考えて、帰って来た頃にはなんとも言えない疲れを感じてしまうこともありました。 

けれども、きのしたやのワークショップで自分のお菓子を出しながら、そこに集まった人たちといるのは不思議なほどリラックスできて、自然とおしゃべりも弾み、心が解かれていくような感覚がありました。 

お母さんという自分から、私という自分を思い出せた時間でもありました。 

2016年きのしたやのワークショップ。無心になって糸つむぎを体験した後のお茶タイム。おいしいお菓子と素敵なテーブルウェアを前にしたら、この表情になりますね(写真提供:小宮山ゆみこ)

新しい出会いもありました。そのワークショップには「おうちカフェ&ショップetana」の店長、高橋さんも参加していました。 

 

そのときのことを高橋さんに聞いてみました。 

高橋さんはそのワークショップで初めて桂ちゃんの【ストロベリータルト】を食べたそうです。「今でも一番好きかもしれない、もうね、最初の衝撃が頭に焼き付いちゃってて」という高橋さん、その場で桂ちゃんに「etanaでお菓子を出しませんか?」と迷いもなく声をかけたそうです。「こんな素朴でそれでいて奥深いお菓子があるの?!って感動しちゃった」と、そこからは「ローズマリーの入ってるバナナクッキーもいいんだよね。あとあれ、スパイスケーキ、グレンタのバザールで初めて食べて、2日連続で買いに行っちゃって、最終的に1本個人注文しちゃったくらい」。2人で一通り素菓子みむらのお菓子の話で盛り上がってしまい、最後には「あー、今すぐ食べたいねえ」と遠い目をしながら話を終えました。 

 

 

初めての出店から4年、今は月に2日間のetanaでの出店以外にも、個人的に依頼されるお誕生日ケーキや、イベントへの出店など、「とってもありがたいことに、気づいたら自然と広がっていた」という縁を大切に活動しています。 

自宅の一室をリフォームして作られた素菓子みむらの工房。お気に入りのカーテンはetanaで買った布をリメイクしたもの。飾っている絵は家からお散歩がてら行ける距離にある寺家スタジオで買った好きな作家さんのもの。ここでお菓子作りをするときには小宮山ゆみこさん作のニットのヘアバンドを巻き、同じ鴨志田町に工房を持つ革職人のundöse(ウントエーゼ)さんに作ってもらったエプロンを身につける。「工房のどこを見ても、いろんな人の顔が浮かんで、一人で作っていても一人じゃない感じがして頑張れる」(写真提供:素菓子みむら)

 

三村家の4人の子どもたち、4番目の潤太君がこの春、幼稚園へ入園しました。子育ての真っ只中で始まった素菓子みむら、育児に奮闘しながらのお菓子作り、その両立について誰もが目を瞬かせますが、桂ちゃんは「私は体力があるし、一つのことにのめり込んでしまうところがあるから、4人子どもを育てながらお菓子作りをすることで、全く違うことに集中する時間があることが、お菓子作りにとっても子育てにとってもちょうどいいように思えるよ。特にお菓子作りについては、時間が限られることで、余計なものを削ぎ落としてきて、よりシンプルにお客さんの喜ぶものを作りたいという思いを真ん中に作れるようになってきたよ」と朗らかに笑っています。どちらかに思い詰め過ぎず、どちらにとっても力が抜ける場所があり、お菓子を作る仕事があることで、自分らしさを感じながら子育てができていると感じているそうです。そのしなやかさがお菓子作りも、子育ても豊かなものにしているのでしょう。  

「大変だなと思う時、くじけそうなときもあるけれど、みむらのお菓子の前でお客さんが頬をほころ綻ばせて『どれにしようかな』と迷っている顔を見みると、よっしゃ! また新作を作っちゃおと思うし、大の大人が顔をわしゃっとさせて無邪気な表情でお菓子を食べてくれている姿を見るとこのお仕事は到底辞められないんだよね。『「おいしかったよ』」の一言で、疲れも迷いも全部チャラになっちゃって、気づいたらまた次のお菓子のことを考えちゃっている」と桂ちゃん

素菓子みむらは、お客さんも桂ちゃん自身をも「素」にしてくれる、そんな存在なのかもしれません。 

 

私はシンプルに、自分の暮らしの中に、素菓子みむらのお菓子があることが幸せと思っています。 

三村邸の庭と四きょうだい。最近完成したウッドデッキは旦那さんの手作り。「この庭の工房側の窓から、個人オーダーをお渡しできるようにしたいなあというのが当面の目標なのだ」。取材の後日、この写真と一緒にそんなメッセージが届きました

Information

「素菓子みむら」 

Instagram @sugasiya 

電話 090-9363-3826 

メール mimumimura500@gmail.com 

「おうちカフェ&ショップetana」に毎週第4水曜日、木曜日出店 

横浜市青葉区鴨志田町557-24 

Instagram  @cafe_etana

メール etana1520@gmail.com 

http://ameblo.jp/etana1520 

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「5月のめぐる布市」に出店 
5月18日(火)~25(火)*5/22(土)はお休み 

10:00-11:30/11:30-13:00/13:00-14:30 

詳細はこちらをご覧ください。
https://morinooto.jp/2021/05/01/nunoichi2105/

「グレンタ」のマジカルバサール出店 

 次回マジカルバザールは11月10日(水)11日(木)開催予定。バザールが近づいたら 

詳細がこちらのブログにアップされます。 

http://glanta.blog.fc2.com/
Instagram @glanta_tomo

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この記事を書いた人
南部聡子ライター
富士山麓、朝霧高原で生まれ、横浜市青葉区で育つ。劇場と古典文学に憧れ、役者と高校教師の二足の草鞋を経て、高校生の感性に痺れ教師に。地域に根ざして暮らす楽しさ、四季折々の寺家のふるさと村の風景を子どもと歩く時間に魅了されている。森ノオト屈指の書き手で、精力的に取材を展開。
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