ソーセージづくりの匠は“暮らしを楽しむ達人”。 まちのハム屋「シュタットシンケン」
青葉区の“ハム・ソーセージ屋さん”といえば、誰もがその名前を挙げるほど、地元に根付いた店「シュタットシンケン(まちのハム屋、の意味)」。昨年、こどもの国エリアに「かくれが工房」という新たな店(隠れ家?)をオープンしたというので訪れました。シュタットシンケンの魅力に迫ります!

畑や緑がまだ残る住宅街の中に、小さな看板がひとつ。“横浜マイスターの店”の文字が目にとまり、店のある敷地内へ進むと、ふんわりと漂ってきた燻製の香り。目を向けると、そこには大きな燻製機とレンガを積んでつくられたドーム型のピザ窯がありました。なぜこんな所に? という思いと、ワクワクするような気持ちを抑えながらも店内に入りました。

 

満面の笑顔で迎えてくれるこの方が、「シュタットシンケン」創業者でもある中山一郎さん(以下、中山さん)。「かくれが工房」の店主でもある

 

現在、青葉台にある「シュタットシンケン」は息子さんである中山弘治さんが後を継いでおり、中山さんご自身は、昨年、自宅の一角に長年の夢であった工房をオープンしました。店の奥でソーセージやハムなどの商品をつくり、店先で販売及びイートインができるスペースを設けています。

 

この日、もくもくと煙を出していた正体は……、燻製機の中で燻されていた「生ベーコン」。幼い頃から鍛えられてきた材料選びの眼、スパイスの調合、そして、10日間に渡る燻製を続けて出来上がる中山さんお勧めの商品。隣に見えるのは、アメリカから取り寄せたという「ピザ窯」。週末限定で、ピザや食パンも焼くという

 

中山さんは、ご実家が青葉台で肉の卸し会社を営んでいたこともあり、小さい頃から“肉”が身近にありました。しかし、6人兄弟の末っ子、「いつかお腹いっぱいにソーセージを食べてみたい!」という理由から、小学生の頃には既にソーセージ屋への夢が芽生えていたそうです。

その後、結婚を機に、趣味が高じて自宅にソーセージの小さな製造工場をつくります。その間、頭の中には常に“美味しいソーセージづくり”への想いがあったといいます。やがて、中山さんがソーセージづくりの師匠と慕う方と出会い、仕事の傍ら5年間ほどの修行がつづきます。

そして、1987年、念願であったハム・ソーセージ屋「シュタットシンケン」をオープンしました。

 

ソーセージづくりの本場ドイツでその技術を学ぶために、時折、ドイツの食肉学校へ参加していた中山さん。1999年には、ドイツでおこなわれた食肉加工品コンテスト「ZUFFA(ズーファ)」で、ビアブルスト・ビアシンケンなどが金賞を受賞した。その後も様々なコンクールで受賞している

 

昨年、長年に渡りつちかってきた食肉加工技術が「横浜マイスター*」として認定された。人に教えることも大好きだと語る中山さんは、今後は自分の持つ技術を教え、伝えていく活動にも意欲的だ
*「横浜マイスター」とは、横浜市が市民の生活・文化に寄与する優れた技能職者を「横浜マイスター」に選定し、その活動を通して、後継者の育成・確保、貴重な技能の継承及び技能職の振興を図ることを目的としている

 

横浜の野菜(青葉グリーンファーム)、はまぽーく(横山養豚場)、そして横浜マイスターである中山さんの三者でつくりあげた「横浜野菜フランク」。森ノオトマルシェ「あおばを食べる収穫祭」でも大人気だった(写真:リポーター宅で調理したもの)

 

中山さんのライフワークのひとつに、たまプラーザで毎月1回開催されている「軽トラ元気市」への参加があります。今年で4年目となるこの朝市に、シュタットシンケンは第1回目から休むことなく参加しているとのこと。「お客さんとたくさん話ができ、出店者同士の交流も生まれ、更に新たな仕事が生まれることもある朝市は楽しくて仕方がない。大変だけれど、ずっと続けていきたい」と語ります。人と交流することが大好きな中山さん、現在は工房近くにある保育園児のおやつに、ピザ窯で“サツマイモ”を焼くことも!

青葉台に「シュタットシンケン」がオープンして約30年。その道のりは決して平坦ではなかったはずですが、中山さんのお話を伺うと、いかなる時でも常にご自身のやりたいことのイメージをしっかりと頭に描き、チャンスが巡ってきたら即行動する姿勢が伝わってきます。

「シュタットシンケンをオープンさせる時も、たまプラーザに店を構える時も、自宅に工房をつくろうと思った時も、なぜかそれを後押しするような出来事が自然とやってくるんだよね。不思議だね〜」と中山さん。

「新しいことにチャレンジすることは怖くないのですか?」との私の問いかけに対して、

「怖くないよ。楽しい! その代わり、何か新しいモノをつくる時は何回も失敗する。昔はその度に落ち込んでいたけれど、今は回数を重ねたせいか、ニコニコしていられるよ!」と、ケラケラと笑いながら話します。

趣味と仕事が一緒になった人生を謳歌している中山さん。父の背中を見て育ち、青葉台の本店を守る息子・弘治さんにもお話を伺いました。

 

青葉台のお店を受け継ぐ息子の中山弘治さん(右)。フランス料理の分野で鍛えた味覚と素材選びの眼を武器に、妥協のないものづくりの姿勢をつらぬく

 

「フランス料理の世界にいたことで、素材との向き合い方や食の知識に対する幅がとても広がりました。これからも素材選びには妥協せずに、良いものを使い、つちかってきた知識をプラスして食肉加工店ならではのものをつくっていきたい。経営者としては、ダメなのかもしれませんけど……(笑)」と、弘治さん。現在は、テイクアウト専門の店ではありますが、ゆくゆくはイートインコーナーなども設け、美味しいものをできる限り美味しい状態で召し上がっていただけたら、と話します。

「父親が苦労している姿は幼い頃から見ていました。でも、楽しそうに、我が道を行っていますね。私はその後を掃除していくような気持ちで、少しでも父親の力にもなれたらいいなと思っています」

今回の取材で強く感じたことは、どんな分野のことでも何かを成し遂げるためには、周りを巻き込みながら“我が道を行く”ことがいかに重要で、それが店(人)の魅力にもつながることになるのだと思いました。中山さんとお話をしていると、お店の紹介というよりはまるで“人生の楽しみ方”について学んでいるような気分になります。ソーセージ作りの達人から、時折、パン・お菓子の職人へと変貌し、気がつくと“暮らしを楽しむ達人”となっている。

「次はね、シフォンケーキをつくってみたいんだよね」

中山さんの頭の中には、今、どんなイメージが描かれているのでしょうか。挑戦はまだまだ続きます。「(親しみを込めて)おじさん! また来ました!」と、通いたくなる理由がはっきりと分かりました。

誘惑に負け、たくさんの商品を購入し、自宅で調理した。「生ベーコン」は、ピザの表面にのせ軽く火を入れた状態で。ベーコンの旨味である脂がうっすらと溶けだし、最高! ビアブルストは新玉ねぎをたっぷりと入れマリネにした。他にも、カマンベールと同じ白カビを生やし熟成させた「白カビサラミ」など、目移りする商品がたくさん。ワインやビールがすすむものばかり

Information

「シュタットシンケン かくれが工房」

横浜市青葉区奈良町1836 Tel:045-511-7876

営業時間:10:00-18:00 定休日:毎週月・火・水曜日

「シュタットシンケン青葉台店」

横浜市青葉区青葉台1-15-7 Tel/Fax:045-981-5584

営業時間:10:00-19:30 定休日:第3火曜・毎週水曜日

http://www.stadt-schinken.com/

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この記事を書いた人
清水朋子ライター卒業生
食べること、つくること、ワインとチーズ、焼酎を愛する食いしん坊。雑木林のような豊かな庭、愛するアンティークに囲まれた自宅の一角で、集会所+ときどき、喫茶として「Glänta(グレンタ)」を主宰している。小さな家の隅々まで愛おしみ使い尽くす、センスのよい暮らしぶりが注目を集める。
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