ecolocoパーソンインタビューVol.8  野性の菌に生き方を学ぶ。COBO生活を提案するウエダ家さんです!
酵母パンの本のデザインに関わったことがきっかけで、野生酵母の魅力にのめりこんだ植田さんファミリー。家族で「ウエダ家」というユニットを結成し、植物性乳酸菌、酵母、酢酸菌といった野性の菌からいのちの循環を学び、食の多様性を提案する活動を始めて7年が経ちました。今年の6月には最新刊『季節の酵母でうまくつくれる はじめての自家製酵母パン』を上梓。ウエダ家代表の父・夏雄さん、長男・遊さん、次女・好さんに、酵母の魅力についてお話をうかがいました。

ウエダ家7年ぶりとなる酵母パンの本

 

左からウエダ家の好さん、遊さん、代表の夏雄さん。母の道子さん、長女のアミさん、おばあちゃん、孫娘まで、一家総出、それぞれの世代のCOBO生活を実践している

 

──新刊の発売、おめでとうございます。ウエダ家の名前で初めての著作『旬の酵母でつくるパンBook』を発売してから7年が経ちましたが、これまでどんな活動をされてきたのですか?

 

植田夏雄さん(以下敬称略): ウエダ家では最初の著作でパンづくりのために野生酵母を研究してきたのですが、ある日妻がそれを料理に使ってみたらとてもおいしかった。それを機に、植物性乳酸菌、酵母、酢酸菌といった野生の菌に「COBO」という愛称をつけて料理に生かす提案を行ってきました。

 

りんご、トマト、みかん、ぶどう、ハーブなど、旬の果物や野菜についた野性の菌を自分たちで育て、そのままジュースのように飲む。またスープにしたり、肉や魚の漬け汁にする、ソースとして使う、スイーツにするなど、菌によって料理や食に対する発想そのものが変わりました。今、目の前で育っている菌の状態から、日々の食事を組み立てる、というように。

 

COBOは単なる発酵食の分野にとどまらず、生命の不思議や食物連鎖、文明史、農業、消費社会のあり方、環境問題まで、無限に世界が広がっていきました。菌の世界を見つめていくことで、人間も自然界の一つの生き物であるという実感を得るまでになりました。私たちはデザイナー一家でもあるのですが、「COBO」というシステムをデザインし、本やイベント、講座という形で、生活者一人ひとりに、生き物の世界とつながる食や生活を提案してきました。

 

──最新刊「はじめての自家製酵母パン」は、これまでの本とどう違うのですか?

 

夏雄: 野生酵母との初めての出会いが酵母パンであるという方も多いと思いますが、実は、パンはあらゆる発酵のなかで最もハードルが高いと感じています。ウエダ家では、野性の菌を育てながら日々の食生活のなかで実験と検証を繰り返してきましたが、本書ではこれまで蓄えてきた膨大なデータとノウハウをまとめ、誰もが自家製酵母パンを焼けるという内容になっています。

 

自家製酵母パンづくりは、菌を育てることで90%が出来上がるといっても過言ではありません。本書では、あえて素材をいちご、りんご、みかん、洋梨、トマト、ぶどう、柿の7種類にしぼり、発酵レベルも1から4にわけて、それぞれのつくり方や味の見極め方について徹底解説しています。

 

ウエダ家がこれまでに手がけた本。本をつくる度に内容が進化し、酵母のつくり方も、料理の展開法も変わってきた

 

 

生命の理にかなった酵母の育て方

 

黒い皿の上にあるのは角食パン。すりおろしりんご酵母(左)、米酵母(上)、トマト酵母(下)。白い皿にあるのはトマト酵母のグリッシーネと、コロニー型の親子丸パン(みかん酵母)

 

──パンづくりは、菌づくりがすべての基本、ということですね。しかもパンの形にも意味があるとか。

 

植田遊さん(以下敬称略): ウエダ家のノウハウでは、砂糖、卵、バターや生クリームなどの乳製品をいっさい使いませんが、驚くほどコクがありクリーミーで、あまくてうまみのあるパンが焼けます。

 

本でも紹介しているみかん酵母のブリオッシュは、みかんの能力を最大限に引き出したパンです。みかんは発酵する際に白くなるタイミングがあるのですが、植物性乳酸菌が豊富なその時に小麦粉と混ぜてじっくり発酵させ、いったん冷凍庫で冷やし寝かせることで、とろけるような口溶け感、しかも吸収がよくて卵のようにコクのあるパンができます。

 

ベーグルは、乳酸菌を閉じ込めることで美味しくなるという性質があります。果物の中で乳酸菌が豊富なのは柿を使うことで、モチモチで弾力のある理想的なベーグルになります。

 

スコーンは油を使うので、吸収を高めるために酵母をしっかり働かせます。また、乳酸菌が少ないと焼いた時にチーズっぽい風味になるのですが、トマト酵母のプレッツェルなんかはまさにそれですね。

 

丸パンならば成型時に表面に薄い膜が張るので、低温でじっくり焼いている間に菌が生地の中で存分に働き、ふわふわの食感になります。カンパーニュは焼いている時にものすごい勢いで膨らむので、予めクープを入れておくなど、それぞれ、形にも意味があるのです。

 

──ウエダ家の発酵方法には、食物連鎖のミニチュア版といった意味合いもあります。

 

遊: 今やパンは、日本人にとってごはんと並ぶ主食になりつつあります。しかし、市販のパンのほとんどは純粋培養したイーストフードでできており、天然酵母パンですら市販の酵母を購入し、砂糖を加えることで発酵力を高めることが多いのです。それでは、それぞれの酵母の味や個性が生かしきれず、もったいない。

 

食材によって菌の個性も異なります。トマトであれば、トマトの生き物としての特徴を見極める必要があります。

 

トマトの皮はには種を守る役割があります。成長するまで鳥や虫に食べられないよう、皮は固く、実も若く、苦く、色もおいしそうでない。それが熟れる、つまりおいしくなることで他者に食べてもらい、そのことによって種を運び、次代にいのちをつなぐのです。それを助けるのが乳酸菌や酵母などの菌で、「食べる/食べられる」の関係の中で生き物同士をつないでいるのです。ウエダ家の方法で、種も、皮も一緒に発酵させるのは、そういうわけなのです。

 

ビンに入れて密閉するのは、トマトにとっての皮のようなもので、雑菌を防ぐためでもあります。種も実も外気にふれた状態では雑菌に弱いのですが、これを冷蔵庫の低温の環境におくことで、嫌気性(空気を嫌う)で殺菌力のある植物性乳酸菌が増えて、カビや雑菌からトマトを守ります。日本酒が寒い冬に「寒仕込み」をするのは、時間をかけて生命力が強い菌を育てるという、実に理にかなった手法なのですが、それと同じことです。

 

都市生活者でも自然と関わることはできる

 

6月27日に行われた出版記念パーティー。イベントでのデモンストレーションでも随所にウエダ家のデザインが生かされている

 

 

──今、食の安全や自然志向から田舎に移住して自給自足的な暮らしをする人が増えていますが、ウエダ家はあえて都会の真ん中でCOBOとともに自然共生する暮らしを発信していますよね。

 

夏雄: ウエダ家は30年以上、あざみ野、港北ニュータウンで暮らしています。そのなかで感じるのは、COBO生活をしていると、都市生活者でありながらも罪悪感を覚えることがまったくない、ということです。菌を育て、見つめ、見極めることでいのちのつながりを感じ、大いなる自然の偉大さに対して畏敬の念を抱きながらも共存していくことができる。

 

野性の菌が育ちやすい素材は、無農薬であったり、トマトならアイコのような在来種に近いものだったりします。となると、野生酵母を育てるには、人に食べ物を委ねる生き方では難しく、自分の食べ物を選び、あるいはつくるような姿勢が求められるでしょうね。

 

植田好さん: 現在は都立大学にあるCOBO Lab.(コーボラボ)で定期的に講座を開催していますが、来ている方はほとんどが女性です。そして、おもしろいことに、パンや料理がつくれるようになったということよりも、人との関わり方のヒントを得ることができた、という声をいただくことが多いのです。

 

今の女性は、子どもや家族のために料理をつくり、あるいは仕事と両立しながら、忙しい日々を送っています。そんななかで、野性の菌と関わりながら創作する喜びを得ることで、自分を見つめ直すことにもつながっているようです。

 

──確かに。わたし自身も、COBOと出会ったことで価値観が変わった一人です。

 

遊: 今までパンをつくっていた人ほど、COBOに出会うと既成の概念が崩れ、すべてがゼロベースになります。ウエダ家のつくりかただとすぐにパンはできません。2週間かけて菌を育てるところから始めなければならないのですから。しかも、野性の菌は自分の思い通りにコントロールできるものではありませんし。しかし、その「待つ」「育てる」楽しみを覚えると、価値観がシフトして、自然の摂理に寄り添う生き方を求めるように変化していくのです。

 

今の世の中は、環境問題や耳を塞ぎたくなるような哀しい事件など、様々な問題が山積みで、ともすれば生きることへの恐怖を抱くような社会でもあります。田舎に行けばそれらの問題が解決されるわけではなく、また、人間は食だけで幸福になれるわけでもありません。

 

都会に住んでいても、野性の菌とならば、誰でも簡単に関わることができます。そこから「食べるってなんだろう」「生きるってなんだろう」ということを考えていけばいい。そこから、一歩始まるはずです。野生の菌に生き方を学ぶことで、今ある価値観のシステムが変わり、新しい時代を創りだせるのではないか、と考えています。

 

パンにつけて食べるディップやソース、スープも、すべて酵母でできている。酵母料理は、しみじみとうまみが口に広がり、体も心も安らぐ。ウエダ家の講座やイベントには、全国からファンが集まる

 

 

取材を終えて…

 

わたしがウエダ家のみなさんと一緒にCOBO活動をするようになったのは、今からちょうど5年前、出版社を退職してフリーになったころです。たまたま家が近所であったこと、ウエダ家の子どもたちと同世代で同じような食環境で育ったことなど、共通項が多く、毎日熱く議論を交わしながら3冊の本づくりに参加させていただきました。その後もウエダ家は家族全員で毎日COBOに向き合い、実験と検証を重ね、常に進化を続けています。その姿勢には尊敬するばかり!! わたし自身、COBOと出会って人生が変わった一人です。これからも「永遠にウエダ家のいちばんのファンであり理解者でありたい」と自認し、活動を応援していきたいと思っています!

Information

ウエダ家(うえだけ)

港北ニュータウン在住。代表の父・夏雄さん、母・道子さん、長男・遊さん、次女・好さんと、長女アミさんによるユニット。おばあちゃんと孫娘に至るまで、4世代それぞれが独自に野生の菌と関わる生活を送っている。

現在は都立大学に拠点を置き定期的に講座を開催。また、全国各地でイベントなどを行いながらCOBO生活を提案している。

著書に『旬の酵母でつくるパンBook』(自然食通信社)、『酵母ごはん』『新しいごはん』『酵母スイーツ』(すべて学陽書房)など。

 

ウエダ家のCOBO講座や各種イベントについての情報は、ホームページをチェック!

 

<秋の講座が始まります>

・COBO Basic Program COBOを体験してみよう

・COBO Basic Program 2 COBO料理をまなぼう

・COBO Middle-Class Program COBO生活はじめよう

・COBOパン Design Program 1(初級) COBOでつくる丸パン&ベーグル

・COBOパン Design Program 2(中級) COBOでつくる食パン&おやつパン

・はじめてのトマトCOBO(単発)

・はじめてのぶどうCOBO(単発)

・はじめてのりんごCOBO(単発)

 

全国から人が集まる人気講座!

募集は8月13日(金)9:00〜8月20日(金)21:00

問い合わせは、http://cobo-net.com/ まで。

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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