ecolocoパーソンインタビューVol.9 あざみ野ガイアシンフォニー上映実行委員長の宮沢あけみさん

いのちの輝きより大切なものはない、と知った娘の誕生

 

宮沢あけみさん。明るくハキハキ、聞きやすい声で話してくれる。ご自身のDVDではナレーションを務めている

 

ーー宮沢さんは41歳で娘・そらちゃんを出産しました。妊娠26週の早産で、620gで産まれたそらちゃんは、今では元気で幼稚園に通っているそうですね。

 

宮沢あけみさん(以下、敬称略): そらの誕生によって、私の人生は変わりました。それまではシナリオライターとして、作品を書いては賞に応募したり、映画を撮りたいという夢に向かって走る、まさに仕事一直線の日々でした。

 

ところが、ある日、そらはわずか620gの超低出生体重児として産まれてきた。最初のうちはなかなか出ない母乳をどうにか搾り出してNICU(新生児特定集中治療室)に届ける毎日でした。「私はちゃんと子どもも産めない女なのか?」と自責の念にかられる私を救ってくれたのは、NICUの保育器の中からにこっと笑ってくれたそらでした。

 

NICUでは毎日カンガルーケア(赤ちゃんと母親が直接肌を合わせる産後ケア。低出生体重児の生存率の改善に寄与するといわれている)をやり、そらはだんだん母乳を上手に飲めるようになって、確実に成長していきました。一方で、NICUでともに過ごしてきた赤ちゃんの中には、亡くなったり、重い障害を得るなど、笑顔で「卒業」できないお母さんたちもいました。

 

そらが産まれるまでは、「自分が努力さえすれば人生何でもできる」と思っていました。しかし、そうではなかった。自分は無力であるとともに、人間の小ささ、同時に大きさを痛感しました。そらが教えてくれたのは、「いのちの輝きこそがこの世の中でいちばん大切」ということ。自分一人で生きていけるわけではないのだから、人の手を借りて、感謝して生きていこう。そして、人に対して自分ができることは、何だってしてあげよう、そんな風に人生観が変わったのです。

 

ーーそらちゃんとのNICUでの日々を綴った宮沢さんの著書『ミラクルBaby 620gのそらが教えてくれること』では、私も自分の出産や育児を振り返り、つい涙ぐむこともありました。

 

宮沢: 子育て中の方でそう言ってくださる方が本当に多いんです。620gで産まれるということはとてもインパクトが強く、亡くなったり、障害を持ったり、学年が遅れたりすると思われる方が多いようです。私がこの本を書いたのは、「620gで産まれても、こんなに元気に育つ子もいるんだ」ということを伝えたかったから。そのことを必要としている人が必ずいるはずだ、と思ったからです。

 

「大切な人に伝えたいドキュメンタリー映画」

 

左が宮沢さんの著書『ミラクルBaby 620gのそらが教えてくれること』、右が佐久市立望月小学校開校記念音楽会の全校音楽劇『望月の駒』のDVD。DVD編集、ナレーションまで、すべて宮沢さんが行った

 

 

ーー育児中心の生活を送っていた宮沢さんが、あざみ野でドキュメンタリー映画「地球交響曲(ガイアシンフォニー)」を上映しようとしたのはなぜですか?

 

宮沢: 実はそらが産まれた翌年、2006年から、故郷の長野県佐久市で新しく開校する小学校の開校記念全校音楽劇「望月の駒」の脚本と演出を担当することになりました。佐久市に伝わる望月の駒(馬)と生駒姫の悲恋物語を紐解き、長い時間をかけて取材をし、小学生たちと一緒に現代劇としてつくり上げていきました。

 

音楽劇は2008年の11月に上演され、その後、数カ月かけて編集をしたDVDを、そらの幼稚園のお母さんたちが「これ、あざみ野で上映しようよ」と言ってくれて、2009年の七夕の日に123名もの方が集まってくれました。

 

その流れから、「地球交響曲を観てみたい」、「じゃあ上映会をやってみようよ」と話が展開し、昨年11月に、監督である龍村仁さんのお子さんの出産シーンが収められている「地球交響曲第五番」を上映することになったのです。

 

「どうせなら五番以外にも全編を観たいよね」ということになり、今年の3月に第一番を上映、6月には第二番、そして今回、9月に第三番上映の運びとなりました。この先も3カ月ごとに、最新作の第七番まで連続上映を行います。

 

ーー「地球交響曲」は、どんな方が観に来ているのですか?

 

宮沢:10年前はクラシックのコンサートだと思っていたという人が、一度観て次は娘を連れて来たり、スタッフが義父母にチケットをプレゼントして家族の距離が縮まったり、友達を誘って映画の感想を共有するなど、「必要な時に、必要としている人に届く映画」だと思います。

 

ーー「地球交響曲第三番」の見どころは?

 

宮沢:ロシアのカムチャッカ半島で撮影中に熊に襲われて亡くなった、写真家の星野道夫さんの軌跡をたどります。彼が交流した人々の口から星野さんの人生を浮かび上がらせ、まさに彼の魂を偲ぶ旅となります。

 

「横浜の小学校でも『望月の駒』のような、子どもたちと一緒につくる音楽劇をやりたい、と行政に提案しているのですが……」と宮沢さん

 

あざみ野ガイアのテーマは「つながり」

 

「星野道夫さんの軌跡を追う魂の旅、それが第三番の見所ですね」と宮沢さん。いつか自分でもドキュメンタリー映像作品を撮りたい、と夢を語る

 

ーーあざみ野ガイアのスタッフは、幼稚園のお母さん仲間など、子育て世代の女性たちが中心ですね。

 

宮沢: スタッフから、「あけみさん、なんでガイアの上映会をやっているの?」と聞かれることがあります。私に言わせれば「こんなに面白いこと、何でやらないの?」という気持ち(笑)。人と人がつながり、お店や、地域とどんどん結びついていくのが、目に見えてわかる。これはとても楽しい。

 

また、育児で忙しいなか、「パソコンは苦手だけど、お店回りなら任せて」、「電話応対をするよ」と言ってくれたりと、自分のできるる範囲で一生懸命協力してくれるスタッフたちに恵まれ、私は何て幸せなんだろう、と感じています。

 

ーーチケットの扱いは、コンビニ決済や銀行振込などではなく、直接販売や地域の協力店での販売にこだわっているそうですね。

 

宮沢: 決して合理的な手法ではありません。一人ひとりのお客さまのリストをつくり、それぞれに対応していくわけですから。コンビニや銀行振込なら私たちは楽だけれども、でも、それなら誰が上映会を開催しても同じなんじゃないか、と思うんです。

 

ポスターやチラシを置いてくれる協力店は、今では170店舗以上になりました。1店舗ずつスタッフが回り、手書きの手紙を書いて協力をお願いすることで、地域の中でのコミュニティーが育ってきているのを実感しています。当初2000枚しかはけなかったチラシは、今では1万2500枚があっという間になくなるほどです。

 

ーー上映会では、協力店のチラシを一同に集めています。あれを見て、「上映会場に小さな商店街ができた」と感じました。また、「地球交響曲」の協力店だけあって、オーガニックや地産地消、地域密着にこだわったお店が多いのも特徴的だなあと。

 

宮沢: きっと、ガイアだから知り合えた、という出会いも多いと思います。「言葉が通じる」というか。お店の方から「ガイアで知ってお店に来てくださったお客さんがいる」と、わざわざお礼をいただくこともあります。お客さんがちゃんとチラシを見ているんですね。上映会を継続することで浸透し、つながりが深まっていく、コミュニケーションの力を感じます。

 

ーー宮沢さんが「地球交響曲」上映会から学んだことは?

 

宮沢: どんなに忙しくても、常に「自分がやりたいあざみ野ガイアを見つめること」を大切にしています。私たちは今、カヌーで航海しているようなもの。自分の信念をもってやりたいことを見つめていれば、必ず信じる方向に進んでいくのです。それが自分のエゴではなく、宇宙の真理であれば、必ず力は集まり、目指すことが実現できると感じています。

 

##取材を終えて……(一言)

 

宮沢さんと初めてお会いしたのは今年の6月ですが、それまでに何人もの方から「あざみ野ガイアシンフォニーの実行委員長はとても素敵な方なんだよ」「宮沢さんと一緒に活動したいから、あざみ野ガイアを手伝っている」という声を聞いていました。どんな方なんだろう……と思っていたら、とても笑顔が温かくチャーミング、しかし抜群の行動力とフットワークで、人望が集まる理由がわかるような気がしました。

 

宮沢さんが手がけた音楽劇「望月の駒」のDVDを観て、演じる小学生へのアンケートと地域の人々への丹念な取材をもとに劇をつくり出す手法、故郷の伝説を継承し新たな世代への誇りとして伝えていく仕事ぶりに、感服しました。宮沢さんの仕事は、作品づくりであると同時に、地域づくり、人づくりであると……。

 

宮沢さんと同じ地域で同時代を生きることができて幸せだなあと思いました。

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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