15種類もの野菜やきのこ類がバーニャカウダソースをぐるりと取り囲む。ナチュラーレ・ボーノのバーニャカウダによって、初めての野菜を知るという人も多い。季節ごとに全く異なる野菜に出会えるのだから、通い詰めて同じ料理を注文しても、決して飽きることがないのだ
ハヤトウリ、コールラビ、そうめんかぼちゃ、四角豆、モロッコインゲン、赤かぶ、ターサイ、ラディッシュ、黄色い人参、バターナッツ(かぼちゃの一種)、タイ長茄子、キクラゲ、ヒラタケ、万願寺唐辛子、マコモダケ、黄金千貫……。
11月にナチュラーレ・ボーノで食べられる野菜の一例です。しかもこれらの野菜はすべて青葉区近郊の農家でつくられた「横浜野菜」。ナチュラーレ・ボーノ店長の植木真さんが毎日農家や産直を回って、その日の朝採れたばかりの野菜を仕入れてきます。
いろんな種類の野菜を食べたいのならば、バーニャカウダ(1500円)がおすすめ。お店を訪れる人の半分以上が頼む、定番にして大人気メニューです。バーニャカウダソースをぐるりと囲んだ色とりどりの野菜たちは、一つひとつが宝石のように輝いていて、しっかり個性を主張します。生で食べても美味しいのはもちろんですが、時に蒸したり茹でたりして食べやすくしてあるのはお店の思いやり。一癖も二癖もある野菜たちがニンニクとアンチョビの風味とマッチして、手が止まりません。そして驚きと発見に満ちた会話も止まりません。
「朝採りの野菜がランチに並ぶ。これが可能なのは地産地消ならではですよね」。
こう話す植木さんが横浜野菜に目覚めたのは今から10年前のこと。夏の日のランチメニューで、その日の朝に木からもいだばかりの完熟トマトを使った冷製パスタをつくったら、それがあまりにも美味しいと評判に。以来、少しずつ農家との付き合いを広げ、今では12件の農家から年間300種類もの仕入れるようになりました。
イタリア料理の出来は素材でほとんど決まると言われるほど鮮度が重視されると言います。とすれば、どんな食材を手に入れられるかが料理人の腕を推し量る指標と言っても過言ではありません。生産者にとっては、自分がつくりたい野菜にチャレンジできる。お店にとっては鮮度のいい野菜を手に入れ、珍しい野菜が看板になる。両者の幸福な関係は、10年という時間をかけてコツコツと積み重ねてきたからこそです。
この料理をつくりたいからと目的をもって食材を集めるのではなく、その時ある野菜からメニューを開発する。ある意味、それは逆転の発想かもしれません。「切り方や火の入れ方を変えるだけで、野菜の味わいがどんどん無限に広がっていく」と、植木さんは今なお野菜の新たな一面を発見して、楽しくてたまらないといった風です。人間任せではなく野菜任せの料理は、自然の恵みそのもの。それこそがまさに多様性なのではないでしょうか。
植木さんの料理への関心はイタリアンに留まらず、マクロビオティックや薬膳など、東洋的な思想に基づいた食養生の知恵にも向けられています。日本の伝統的な食事では、一里四方の旬の野菜をおいしくいただくことが健康の秘訣であると言われてきました。ナチュラーレ・ボーノの料理はまさに一里四方から集められてきています。イタリア料理と日本の伝統食。分野こそ違えども、その精神は「身土不二」(人と土は分かつことができない)という思想で通底しているのかもしれません。
美味しくて、楽しくて、心が満たされる。料理はただお腹を満たすだけのものではありません。知的好奇心を満足させ、家族の語らいの時間をより豊かにし、明日への活力へとつながります。横浜野菜のエネルギーと、お店からの愛情をいっぱいに受け、今日もまた幸せそうな表情をした人たちがナチュラーレ・ボーノを後にするのです。
*キタハラ’s eye*
キタハラが新入社員時代に働いていたタウン新聞で、「ナチュラーレ・ボーノが地産地消への取り組みを始めた」という記事(先輩が書いた記事です)を読んだのが10年前。当時から植木さんは憧れの人で、いつかじっくりお話をうかがいたいと思っていました。今回、10年越しの願いが叶いお話をうかがうや、ともかく話が弾む弾む! 穏やかに、謙虚に、しかしながら力強くご自身の大地を耕してこられた植木さんの活動が花開いているのは、常に賑わっているお店の状況からも伺い知れます。
もちろんキタハラ家はお店の大ファンで、季節ごとにでバーニャカウダを食べるのが定番。こんなお野菜が食べられるようになったね、と子どもの成長を確かめ喜び合う大切なひとときになっています。これからも末永く、よろしくお願いします!
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