スローミュージックを楽しむ文化を青葉台で
ーー船守さんがキャンドルナイトを青葉台で始めたのはいつからですか?
船守秀一さん(以下、敬称略): キャンドルナイトが公式にスタートしたのが2003年の夏至。以来、年に2回、夏至と冬至に行われるキャンドルナイトの公式イベントとして、キャンドルナイトin青葉台が始まったのは2004年の夏至からです。場所は、青葉台2丁目のジャズバー「AU LAPIN AGILE(オー・ラパン・アジル)」にて。今年は12月18日(土)に開催しましたが、私がスローミュージックを担当、アジルのマスターがスローフードを、地元のキャンドル作家Arbre(アルブル)がキャンドルを担当する形でイベントを運営しています。
昨年からは藤が丘の「Tea Drop」でもキャンドルナイトを始めました。Tea Dropでは、夏至と冬至に加え、春分、秋分の年4回開催しています。ここは小さな店なので、朗読や脚本劇をやっても、よりお客さん同士の一体感ができ、アットホームな雰囲気です。
ーーキャンドルの灯りの中で音楽を聴くというのが、何とも幻想的でステキですね。
船守: 食事をしながらの音楽や、ややもすると単なるBGMになってしまいます。しかし、照明を落としてキャンドルを灯すと、そこにいる誰もが感性を研ぎ澄まし、耳をそばだてて、音楽に集中していくのがわかります。そんな中で大きな音で音楽を奏でるのではなく、アンプラグドでアコースティックなサウンドを楽しんでもらえるようにしています。
ーー参加ミュージシャンはどんな方なのですか?
船守: プロもいればアマチュアもいて、ジャンルもジャズ、ハワイアン、ボサノバなど様々です。ただ、アジルはJAZZバーとしての一定のクオリティが求められ、参加するミュージシャンは「あそこで演奏するならば」とその日に向けて一生懸命練習してきます。アマチュア演奏家でも、よい芽を持っている方がたくさんいらっしゃるのがこの街の特徴。人との出会いの中で、そういった方々に声をかけ、引っ張ってくるのが私の役目です。
音楽を通じて人の笑顔に出会える喜び
ーー船守さんが「キャンドルナイトをやろう!」と思ったきっかけは?
船守: 直接のきっかけは、文化人類学者で明治学院大学教授の辻信一さんの有名な本『スロー・イズ・ビューティフル』を読んだことです。
私は1958年生まれなのですが、団塊の世代よりも10年ほど若く、バブルの絶頂期の音楽業界も経験しています。今から10年以上前は、誰も彼もが社会のなかで一生懸命走っていて、それが美徳とされていました。しかし、どこかでそのひずみが出てきて、無理をしたり、息苦しさを感じている人も増えてきました。
そんな時に読んだ辻さんの本にあった「立ち止まろうよ」という呼びかけに、はっとしました。疲れ、怠け、遊び、休むことの復権や、私たちはなぜがんばらなくてはいけないかと疑問を呈し、それがその時の私の感性に訴えかけてきたのでしょうね。当時、私は運動会のように技術をひけらかすような演奏はやるのも聴くのもしんどく感じるようになり、まったりした、「スローな」音楽に心惹かれるようになっていたのです。
ーー青葉台のキャンドルナイトでは「eco」は謳っていませんね。
船守: 私自身がエコロジーやスローライフに、さほど心惹かれているわけではない、というところに理由があると思います。あくまでもスローミュージックなんです。
ーーそもそも、船守さんのいうスローミュージックとはどういうものなのでしょうか。
船守: 音楽業界の中で、スローミュージックという特別なカテゴリーがあるわけではありません。ロックが生まれたときも、パンクが台頭したときも、演奏する方も聴く方もお互いによくわかっていなくて、特に決まった形態もルールもなく、楽曲が生まれるなかでつくり上げられてきた概念です。
私は、スローミュージックを「持続性のある、耳ざわりが悪くない音楽」と広義でとらえています。ちょっと耳にした感じでは癒し系かもしれないけれど、さまざまなエッセンスが詰まっているような……。「オーガニックなサウンド」という表現がありますが、これは機械を使わずアンプラグドでアコースティックな演奏のことを意味します。
全国各地でスローミュージックが広がっていけばいい
ーースローミュージックを広げていくうえで、青葉台という街は船守さんの目にどのように映っていますか?
船守: 私が青葉台に越してきて8年ほどになります。その前は緑区の霧が丘に住んでいましたので、この近辺となると、かれこれ20年近くなりますね。
青葉台にはプロのミュージシャンが多く住んでいます。クラシックの世界的指揮者や演奏家、有名な交響楽団の団員、ほかにもポップスからジャズ……それこそノンジャンルに、音楽に携わる方、音楽を職業にしている方がたくさんいます。
アマチュアでも、プロ顔負けの演奏をする方がたくさんいて、音楽を趣味に生き生きとした生活を送っています。子どもたちも、ピアノだけでなくバイオリンやフルートなど様々な楽器に小さいうちからふれている。文化レベルがとても高い街だと思います。
ーー船守さん自身は、ミュージシャンとして、どのように活動を展開されていく予定でしょうか。
船守: 自らの音楽を発信するために5年前にスローミュージックを標榜する「obbligato music entertainment(オブリガート・ミュージック・エンターテイメント)」を立ち上げ、これまでに何作か作品を発表しています。いずれも、聴いていて心地よいオーガニックなサウンドで、様々なアーティストが参加してくれています。
近々の予定としては、「obbligato project」として、美しい日本の言葉と、例えば風鈴のような日本の美しい音色を合わせ、時として無音の「間」を楽しめるようなサウンドを提供したいと考えています。
ーー今後、キャンドルナイトin青葉台のイベントはどのように展開していくおつもりですか?
船守: スローミュージックとスローフードを楽しむキャンドルナイトを全国に発信していくのではなく、例えば地域のコミュニティセンターや自治会館、学校、そしてお店などで、ぽつりぽつりとそんなイベントが増えていけばいいな、と思います。
今の人たちは、忙しさもあってか、生のいい音楽を聴く機会があまりありません。一方で、心も腕もあるミュージシャンは発表の場を待ち望んでいます。そんな人たちをつなげてマッチングし、イベントの初回運営はお手伝いしていく。あとは試行錯誤しながらそれぞれが継続していき、スローミュージックが一つのうねりとなって広がっていく……そんな感じが理想ですね。
<リンク>
100万人のキャンドルナイト 公式サイト
http://www.candle-night.org/jp/
ジャズバー「AU LAPIN AGILE」(オー・ラパン・アジル)
http://www.geocities.jp/aulapinagile1/
藤が丘 紅茶の店「Tea Drop」
キャンドル工房Arbre
obbligato music entertainment(オブリガート・ミュージック・エンターテイメント)
http://www2.odn.ne.jp/obbligato/
##取材を終えて……(一言)
キャンドルナイトが始まった時から、「いつか青葉台でキャンドルナイトを開催したいなあ」なんて思っていたのですが、翌年には船守さんが「AU LAPIN AGILE」で開催、その時からずっと注目していました。私はまだ一度も足を運べていないのですが、ずーっとずーっとお会いしたいと思っていて、ようやくご本人の思いを聴くことができました。
船守さんの印象は、「スローミュージックな人」そのものでした。穏やかで物腰やわらかで、お話をしていてとても心地よい。船守さんの奏でる音楽や、連れてくるミュージシャンの音楽を堪能する時間を味わいたい……暗闇と仄かな灯りの中での音楽。……ムスメがもうちょっと大きくなってから、かな(涙)。
船守秀一(ふなもり・しゅういち)
ミュージシャン、アレンジャー。1958年生まれ。早稲田大学モダンジャズ研究会出身。在学中からギタリストとして活躍し、ミュージシャンのサポートや自身の演奏活動を経て、現在はアレンジャー(編曲)に主軸を移している。1995年にobbligato music entertainmentを設立、スローでオーガニックなサウンドを標榜する「obbligato label」、音楽に限らずさらにミニマムかつスローな「animato label」から様々な作品をリリース。2004年よりキャンドルナイトin青葉台をプロデュースしている。
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