「ラジオはなかなか聞けないけど、どんな話をしたのか気になる!」という声が集まりましたので、第1回目からのレビューを連続してご紹介します。
第1回は2010年10月20日に放送されました。テーマは「生物多様性」です。
10月のキーワード:生物多様性
2010年10月に名古屋で開催されたCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)。2010年は国連の定めた「国際生物多様性年」であり、2002年にオランダ・ハーグで採択された「締約国は現在の生物多様性の損失速度を2010年までに顕著に減少させる」という、2010年目標の目標年にもあたる、大事な年でした。生物多様性の未来を決する重大な会議が、ここ日本の名古屋で開催されたとあり、世界の約190カ国から約7000人が集いました。
生物多様性条約の目的は、以下の3つ
・生物多様性の保全
・生物多様性の構成要素の持続可能な利用
・遺伝資源の利用から生ずる履歴の公平で衡平な配分
2010年以降の生物多様性の保全目標「愛知ターゲット」、そして遺伝資源の利益分配ルールを定めた「名古屋議定書」は、先進国と途上国が激しく意見を対立させギリギリの交渉が続きました。予定時間を大幅に過ぎても意見がまとまらず議論の行方が心配されましたが、各国の粘り強い交渉と協議の末、10月30日未明、ようやく議定書と行動目標が採択されました。
愛知ターゲットでは、2020年までに少なくとも陸域の17%、海域の10%の生物多様性を保全することが明記されました。
また、名古屋議定書では、遺伝資源の利用で生じた利益を公平に配分するルールを定め、今後途上国が生態系を守るための資金を先進国が支援することを決めました。一方、途上国が求めていた過去の遺伝資源の利益配分については認めませんでした。
それだけに注目度が高く、ニュースや新聞などで連日「COP10」「生物多様性」という言葉を耳にした方も多いと思います。しかし、「生物多様性」とはとてもわかりにくい概念。それを伝えるメディアの人間ですら、「生物多様性をどう語ったらいいのかわからない」というのが本音なのです。
わたしたち人間だけに限らず、あらゆる生命体は、様々な細胞から構成される複雑系です。
動物、植物まで、さまざまな種があり、さらにはそれらが関係し、食べ/食べられる食物連鎖や、相互依存しながら、生態系を生み出しています。
遺伝子の多様性(同じ種でも異なる遺伝子を持つ)、種の多様(動植物から微生物に至るまでありとあらゆる生き物がいる)、生態系の多様性(山、川、原生林、海、里山……多様な自然)、生物多様性にはこの3つのレベルがあります。
生物多様性とは何か? 難しい問いです。現時点でのわたしの理解は、「いのちのつながり」、こう考えるのが最もシンプルな答えの一つになるのではないかと思っています。
寺家ふるさと村・たんぽぽ農園は生物多様性のホットスポット
寺家ふるさと村で農を通じて環境を感じ、未来の子どもたちに里山本来の美しさや食の大切さを伝えていこうと活動を行っているNPO法人農に学ぶ環境教育ネットワーク。その理事長である木村広夫さんは今から約15年前、寺家ふるさと村の自然環境に魅せられ寺家町に入植しました。広大な里山がありながら、地主さんの高齢化や後継者不足などの問題から、元々田んぼだった農地がそのまま放置される「耕作放棄地」が多く、中には不法投棄されている場所まであり、驚いた木村さん。「元々田んぼだった場所は、荒れ地ではなく田んぼとして再生したい」と、機械も入らないような谷戸の荒れ地を少しずつ開墾し、そこで、農薬や化学肥料に頼らず、天水、つまり太陽の力、雨、そして土の栄養を生かした自然農法による農業を行っています。
自然農の田んぼを広げることで、豊かな自然環境と農の営みを共存させ、荒れた里山全体を再生させたい、という大きなビジョンを抱いています。
2010年の6月、木村さんが最初に開墾した町田市三輪緑地(寺家ふるさと村と地続きの里山)のたんぽぽ農園で、「田んぼの生き物調査」が行われました。
周囲の里山を通して入ってくる田んぼの水にはミネラル分が豊富に含まれており、イトミミズやユスリカなどの生き物が田んぼの水をトロトロに、豊かにしていました。
たんぽぽ農園には、生き物調査の間、アマガエル、シュレーゲルアマガエル、トウキョウダルマガエルなどのカエルの声が聞かれ、ウグイス、コジュケイ、イカルなどの鳥もさえずっていたそうです。田んぼの中には、小さなドジョウ、ゲンゴロウ類が数多くいました。生き物の種類は65種類いたそうです。
畦を中心とした草花調査では、コハコベ、ツボスミレ、ノビルなどの里山で見られる在来種の草花が多く見られ、47種類あったそうです。また、外来種が非常に少なく、帰化率はわずかに12.8%と、都市部の半分程度であることがわかりました。
さらに特筆すべきは、絶滅危惧種・準絶滅危惧種・希少種とされるトウキョウダルマガエル、ニホン・ヤマアカガエル、ニホンアマガエル、シュレーゲルアマガエル、オオタニシ、タイコウチ、ホトケドジョウ、ハラビロトンボなどの動物、イチョウウキゴケ、シャジクモなどの植物がいたこと。自然農の田んぼが、居場所を奪われつつある生物たちの最後のオアシスになっていたのです。
この調査を行った団体の方は、「生き物たちは生態系のなかで自分の居場所を決め、食べ物や行動の時間帯、季節、繁殖の場所、交信の周波数等を、どこか少しずつでもほかの生き物と変えて住み分けをしている。田んぼで見られる生き物が多いほど、それぞれの生き物が自分の居場所を見つけることができるだけの多様な環境があるということ。また、生物は田んぼだけで生きているわけではないので、田んぼの中の環境が豊かなだけでなく、その周辺の環境も多様であると言える」と言っていました。
この調査結果を受け、木村さんは「天水に頼る自然農で、灌漑用のU字溝すらないこの田んぼでは、森の栄養分がそのまま田んぼに入り潤し、目に見える生物だけでも65種、おそらく目に見えない生物も含めればとても多くの存在だろう。おそらく、彼らは名もない「ただの虫」で、駆除の対象になる害虫でも、益虫でもない。そんな存在が多いことが大切」と話しています。
生物多様性を守るためにわたしたちができること
このような、目に見えない生態系のバランスが保たれるために、人は何をすべきなのでしょうか。
木村さんは「ほどをわきまえることだと思う」と言います。
もちろん、食料の安定的な確保、農業経営の合理化などで、機械化、農薬や化学肥料の使用が進んできた歴史があり、それを否定できるものではないのですが、こと生物多様性を考えると、別の視点も必要になってくるはずです。
わたしたち人間は、生物を食料、医療、科学など他分野にわたって利用しています。それに伴い、生態系の破壊が進み、ほかの生物を絶滅に追いやっているという現実も一方で急速に進んでいるのです。わたしたち人間も地球生態系の一員であり、ほかの生物と相互依存し合う関係ですが、ほかの生物がいなくなるということは、わたしたちの存在を脅かすことでもあるということを忘れてはなりません。
そのために必要なマインドの一つに、人間の都合ではなく、自然界の摂理、バランスの一部をお借りして、ほかの生物と同等の立場で“恵みをわけていただく”という謙虚な姿勢を持つことがあります。わたしたちの生活をすべて変えることは難しいけれども、まずは一つでも気づきを得ることで、わたしたちの子ども、孫の世代まで、豊かな地球を残していくことができるのではないでしょうか。
世界レベルの大きなことを、身近で実感、体験するフィールドとしての、地元。今回は、寺家ふるさと村のたんぽぽ農園を紹介しましたが、また次回以降も、地元で活躍する人たちの活動をお伝えしながら、世界と、足下をつなげていきたいと思います。
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