この家は、珈琲屋さん? ギャラリー? 図書館?
重い無垢材の玄関ドアをスライドすると、そこにあるのは洗いだしの玉砂利が敷かれた清潔な土間。ピカピカに磨きこまれた珈琲の焙煎機と、ていねいに手入れされた自転車、そして造りつけの本棚には珈琲やカフェに関する書籍が整然と並んでいます。
この家の主・長谷芳教さんは、普段はエンジニアとして働き、土日は自宅に人を招いたりイベントに出向いたりして珈琲を淹れる珈琲家(あえてそう言わせていただきます)で、「みなづき珈琲」の屋号で活躍しています。2002年にKONO式珈琲のインストラクターの資格をとり、珈琲豆の焙煎から豆の挽き方、お湯の淹れ方までを熟知した達人です。
奥様の睦子さんと2008年1月に生まれたお嬢さんとの3人家族で、この家で2回目の冬を過ごしています。
家にあがってまず驚くのは、本の量。玄関土間の本棚から始まり、ダイニングにはスローなライフスタイルを提案する雑誌、キッチンには料理本、リビングには小説など、階段には漫画本、2階のフリースペースには分厚い辞書や、寝室にも……家全体がまるで図書館みたいです。
「家のどこにいても、本がとれる家」というのが二人の理想で、本を読むのはもちろん、背表紙を眺めているのも幸せなのだそう。本好きなら誰もが共感できる感覚ですよね。
もう一つ、家のあちこちに飾られている、素朴で味のある、そしてとっても明るい絵。2階の天窓付近には、壁に直接絵が描かれています。
睦子さんはイラストレーターで、デザインの仕事もする根っからのクリエイター。明るくおおらかでのびのびした感性の持ち主で、雑誌や広告の挿絵の世界で活躍しています。いまは仕事よりもお母さん業にどっぷりで、幼稚園の広報誌のデザインから執筆、イラストまで、何でもこなします。
「自然光が入るアトリエがほしい!」という睦子さんの夢は、2階のいちばん明るい部屋に。窓がたっぷりとられ、開け放つと町田の美しい里山の風景が一面に広がります。
本、珈琲、絵。それぞれ大切にするものを、思う存分満喫できる空間を手に入れた2人です。
個性も性格も違う二人が役割分担を
長谷邸が位置するのは、最寄り駅は鶴川ながら、駅から歩くにはやや遠く、それだけ自然が豊かでのんびりとした里山に面した場所にあります。ハウスメーカーも含めて何社か検討した結果ウィズの森を選んだのは、睦子さんが青葉台の助産院に通っていたことや、元々自然の素材や木が好きだったこと、そしてアトリエを設けることや、珈琲焙煎機を土間に置きたいという芳教さんの独特のこだわりを大切にする会社だったから。東西が開放のL字型の土地で、採光や通風を確保していくには、ハウスメーカーでは難しい……。オリジナリティあふれる家づくりが可能なのは、一流の建築家とともにデザインと機能、自然素材を生かす技を熟知しているウィズの森だからこそ、とも言えます。
ウィズの森の藤江社長はかねてから長谷邸を「若い人の感性が生きた忍者屋敷」と言っています。
玄関、土間、広々としたダイニングキッチン。そこからステップフロアでリビングルームと和室が続きます。あえて段差を設けて空間を区切り、それぞれの役割を与えます。
圧巻なのは和室の建具で、天井に吊ってダイニング側に引き込むとリビングとつながった大空間になること。建具は隠れて視界を妨げることなく、空間を広々と使えます。和室は一段高く、濡れ縁のように腰かけることもできます。床も設け、書や軸、季節の草花が飾られています。
2階はお風呂、トイレ、子ども室、寝室、アトリエ。廊下スペースにもちょっとした書斎と本棚のスペースがあり、その広さは驚くばかりです。どの部屋からも外の緑が視界に入ってきて、外と一体になってますます広がりを感じます。アトリエは室内側の窓を開放すればリビングともつながり、睦子さんは仕事中も家族の気配を感じることができます。
「家の全体的な間取り、構成は私が担当しましたが、配線には何の興味もわかなくて(笑)」
とは、睦子さん。睦子さんはデザイナーなので感性が豊かでアイデアが泉のようにわいてきます。性格もおおらかでのびやか。一方、芳教さんはエンジニアで、珈琲や道具へのこだわりからもわかるように、とても細やかなところにも目が届きます。お互いの性格と、個性、そして仕事も生かしながら、ウィズの担当者と細かいやりとりを重ねて、理想の家が完成したのは2010年の11月のことでした。
コミュニティカフェのような家にしたい。
長谷夫妻が都心にも近い川崎市のマンションから、駅から遠い町田に家を建てたのは、4歳になる愛娘の健やかな成長を祈ってのこと。森や、自然の近くで子どものびのびを育てたい。家の目の前が里山で、また自然と共生する幼稚園への入園、そして週末は里山自主保育で、めいっぱい自然とふれあいながら過ごすお嬢さんは、元気いっぱいのたくましい自然児です。
いまはスローワーク中の睦子さんですが、幼稚園の広報部や、バザーでの制作などで大忙しの睦子さん。
「子どもと一緒に過ごす時間が中心になってきています。子どもが幼稚園になって、少しずつ仕事を広げられるかという目論みは見事に外れました(笑)。でも、いまでは幼稚園のお母さんつながりで、仕事では得られない知識や経験を得ることができて、また違う新しい世界が広がりました」と、イキイキしています。
時にホームパーティーを楽しんでいる長谷家、「一品持ち寄りではなく、我が家のキッチンで一品つくるというスタイルが受けています」と、おちゃめな笑顔を見せる睦子さん。キッチンはシステムキッチンにウィズの無垢材を張った、セミオーダーです。
芳教さんは平日はどうしても仕事ですが、「仕事と地域活動の比重を、家を地域に開いていくことで、少しずつライフスタイルのほうに広げていきたい」と今後のビジョンを話します。
いまは週末に珈琲を焙煎し、豆を売ったり、イベントに参加するなどして、自家焙煎珈琲の香りと淹れ方を普及している芳教さん。
「いま、インターネットで世界中とつながり、ワールドワイドで物事を発信できる時代。でも1年この家で暮らしてみて、地域の人とふれあい、直接珈琲の感想を言ってもらったり、伝えることができることが、本当にうれしい。この家を地域に開きたい」
芳教さんが自家焙煎した珈琲を淹れ、睦子さんの描いた絵葉書や絵画を展示販売したり、地域の人を招いて小さなイベントをしたり……。
笑顔の輪がこの家から広がっていく未来は、すぐ目の前に。いまの日常の延長線上にあります。
■取材を終えて……
農に学ぶ。の収穫祭で芳教さんの珈琲をいただきました。澄み渡るように爽やかでよい香りが漂い、カラダが温まる珈琲でした。またこの珈琲が飲みたいと思ってすぐに実現したお宅訪問取材。人の心を幸せにする、地域を元気にする珈琲です。
睦子さんは初めて会った気がしないくらいに意気投合。お宅に並んだ本がキタハラのストライクゾーンで、キタハラがつくっていた本もいくつかあり、「本とはその人のアイデンティティそのもの」という持論を実感しました。
長谷夫妻との縁は今後も長く続いていきそう。そのうち一緒に楽しい活動をしていそうな自分の姿が目に浮かびます。これからもよろしくお願いしますね!
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