発達障害は、その子の個性なんです。
—— 「みどりの学校ひまわり」を訪れて、とても驚きました。何ともおもしろい、秘密基地みたいな場所ですね。外には畑や庭木、鉄棒やたき火もできる広場があって、ウコッケイが餌をついばんでいます。コンテナハウスの中に入ると、マンガや絵本、テレビもあるし、Wiiまでそろっている。入り口では駄菓子を売っていますね。ここが「学校」だなんて、驚きです。
渡辺正彦さん(以下敬称略): おもしろいでしょう? 普通の学校では、Wiiのようなゲーム機を推奨しませんからね。ここ「みどりの学校ひまわり」は、発達障害の子どもたちが通うフリースクールです。学校の勉強では集中できなくても、Wiiなら得意で集中して楽しめるという子どももいて、それならば「Wiiが得意」という個性をのばす、といった考えから、Wiiも、マンガも、Nゲージも、おもちゃのパチンコ台なんかも置いています。
—— 発達障害とは、いったいどのような症状なのでしょうか?
渡辺: 発達障害の子どもといっても、知的にはほかの子どもと大きく変わるかと言えばそうでもなくて、得意なことにはものすごく没頭するし、好きなことは集中します。ただ、人間関係を構築するのが不得手であったり、先を読んだ行動ができなかったり、具体的な指示を事細かに受けないと動けない、といった傾向があります。全般に、コミュニケーションが苦手な子どもたちが多いです。
自閉症スペクトラムや、アスペルガー症候群、広範性発達障害(PDD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)など、具体的な症例の名がついた子でも、「この子は算数が好きなんだな」「時刻表を覚えるのが得意なんだな」と思ったら、それを個性としてとらえて、できることを伸ばしていく。そして、優越感を覚え、生き甲斐を育てることを、ここ「みどりの学校ひまわり」では大切にしています。
—— それで、テレビゲームも置いている、と。
渡辺: テレビゲームを指導に導入した時に、当然ながら多くの保護者やボランティアの反対に遭いました。長時間ゲームをすることによる子どもへの弊害は様々に指摘されていますから。でも、私が反対の声に耳を傾けながらもテレビゲームの導入に踏み切ったのは、治療法が確立されていない発達障害に対する一つの模索とも言えます。子どもにとって生涯のハンディキャップになるかもしれない困難を、少しでも克服してゆくために、あらゆるものを教材とし、実践しながら、指導に生かしていきたいと考えています。
—— コンテナハウスの入り口にある「駄菓子屋ひまわり」も、その一つなんですね。
渡辺: 子どもたちはお菓子が大好きです。お菓子を食べたいという気持ちから、お金を使ってお菓子を買おうとします。駄菓子は1個10円から50円くらい。自分で計画を立ててお金を使うようになると、計算能力が向上します。お菓子によって楽しい居場所づくりと、計算や、お金を使う社会とのコミュニケーションも学ぶのです。もちろん、使えるお金の上限も設定します。ここでは、学校ではできないような、あらゆるものが教材になります。
地域の学校と連携しながら、学校ではできないことを試みる。
—— 渡辺さんは、昨年までさつきが丘小学校の校長先生だったそうですね。
渡辺: 私は38年間教職を務め、最後の9年間はさつきが丘小学校で校長をしていました。さつきが丘小学校では、地域に開かれた学校を目指し、学校情報の積極的な公開や、保護者だけでなく地域に住む方々にボランティアとして学校の運営に携わっていただきました。
校長室のホットラインや、コミュニケーション朝会、一日教育委員会、おやじの会など、様々な活動が生まれました。2007年11月に学校内につくった「子どもの教育を考える会」は、発達障害児の保護者が中心となって、発達障害に対する理解やつながりづくりをおこないました。この時の活動が、いまの「横浜みどりの学校ひまわり」につながっています。
校長在職中の9年間で、300人もの地域ボランティアの方々との関わりができました。学校が開かれていくと、地域も開かれる。それを感じました。
—— 「横浜みどりの学校ひまわり」の開所は、昨年6月。この場所に出会った経緯は?
渡辺: 昨年の3月に、さつきが丘小学校の校長を退職しました。私の長年の夢でもあった、発達障害と不登校の児童・生徒の居場所をつくりたいという考えを、地元の「下山ランドスケープ軽井沢園」さんが理解し応援してくださって、農地を提供してくださいました。さらに、コンテナハウスをこうして自由に使わせていただいています。子どもたちと一緒に農地で畑作業をしたり、青葉台の助産院に通う妊婦さんが薪割りに来たり、子どもとたき火をして遊んだり、ウコッケイの世話をしたり……。自然とふれあうことと、屋内で遊ぶこと、子どもたちはそれぞれの興味とペースに応じて、自分らしく過ごしています。
さつきが丘小学校の保護者や卒業生の方々、地域の自治会長さんはじめ様々なボランティアの方々が、横浜みどりの学校ひまわりを陰に日向に応援してくださっています。
ひまわりの授業料は、月々3000コースと600円コースがあります。活動を維持するのが大変な金額ではありますが、発達障害の子も、不登校の子も、その保護者も、地域のなかで一緒に育ち合いたいという願いから、ボランティアやご寄付で助けていただき、実現できています。
年間行事では、プールやデイキャンプ、お月見の会、バザー、もちつき、どんど焼きなど、季節の風物詩や地域と連係した行事を多数おこなっています。
—— いま、学校の中で、発達障害の子どもたちが増えていると聞きますが。
渡辺: 私が校長として務めていたころも、クラスに1〜2名は何らかの発達障害を抱える子どもたちがいました。発達障害の子どもが増えているとは言いますが、おそらく小に精神医学が発達して、症例がつく子どもが増えている、ということなのでしょう。昔から、どの学校にも、どのクラスにも「変わり者」はいたでしょう? その「変わり者」が、得意分野や個性を生かし、スポーツや芸術の分野で活躍したり、その分野では博士級の知識を持ってスターになることもある。
普通の学校では、その子ができないことを、普通の水準に近づけるような教育・指導がおこなわれますが、ここではともかく、好きなことを伸ばしていくことに主眼を置いています。公立の小学校と連携しながら、公立の学校ではできない手法や教材で、個性的な子どもたちを導いていくというのが、「横浜みどりの学校ひまわり」の設立理念です。
子どもたちは、「みどりの学校ひまわり」には、来たい時に来ればいい。ここは強制的に来なければならない学校ではありません。そして、子どもたちが来たいような場所にしていきたい。発達障害の子どもばかりでなく、不登校の子どもも、そして子育てに悩む保護者の方たちにとっての居場所でもあってほしいと思っています。
□取材を終えて……
渡辺先生は、おそらく教育界では、かなり型破りな方だったんじゃないかなあ、と思います。とことん自由で奔放で、おおらか。38年間の教師生活のなかで、おそらくご自身の目指す教育と地域との関わりを模索し、実践し、そして退職後「長年の夢」だったボランティアスクールを開校するに至るまで、様々なご苦労も、壁も、あったことと思います。だからこそ、すべてを受け入れ、対立せずに協調し合いながら、多くの人々の支えと賛同を得て、いわゆる学校社会になじめない子どもの居場所をつくることができたんだろうなあ、と。コンテナハウスは寒いのに、とてもあったかい。「学校では生きにくい」と感じる子どもたち、親御さん。青葉台には、ちゃんと居場所があるんですよ。
渡辺正彦(わたなべ・まさひこ)
38年間の教師生活、うち最後の9年間を横浜市立さつきが丘小学校の校長として過ごす。「地域に開かれた学校」をめざし、学校情報の公開や、保護者との連携、地域ボランティアを積極的に受け入れる。
2011年6月に、青葉区しらとり台にボランティアスクール「横浜みどりの学校ひまわり」を開校。地域住民やボランティアに支えられながら、発達障害や不登校の児童・生徒を受け入れ、自然とふれあう体験などを通して社会とのコミュニケーションや学習指導等をおこなう。
横浜みどりの学校ひまわり
〒227-0054 横浜市青葉区しらとり台81
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TEL 090-9201-3992(渡辺)
URL http://himawari-school.org/
開校日時 月、水、金、土 10時〜17時
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