人が環境を意識する最初のスタートは、「食」であることが多いと思います。季節や体調の変化を食で調整したり、家族の健康を祈って毎日の食事をつくったり……どんな食べ物を選ぶかは、どんな生き方をしたいのか、価値観を表しているとも言えます。
わたしも、日々の食には自覚的な方だと思っています。食べ物や環境が自分や家族のカラダをつくっているとすれば、身につけるもの、呼吸する空気環境、そしてカラダに入れる食べ物は、どんなものを選べばいいのか。その芯は「オーガニック」だと思っています。
農薬や化学肥料を使わない、安心・安全な農法でつくられた(それが法的な根拠がある)ものをオーガニックと言いますが、必ずしも有機認証を取得しているものでなくても、「この人がつくったものなら、安心して食べられる」「この田んぼの豊かな生物環境がお米を育んでくれるんだ」、それが目に見えてわかり、つくり手との間に信頼関係が生まれることを、「オーガニック」とわたしは呼んでいます。
『未来の食卓を変える7人』に登場する7人(7組)は、安心・安全のその先に進んでいます。「常識」の枠にとらわれず、本物を追い求めていく行き着いたものが、チーズであり、牛乳であり、自然栽培の野菜であり、在来作物であり……。
伝統野菜を中心としたコミュニティーづくりに邁進する、奈良県の「清澄の里・粟」の三浦雅之さん・陽子さんご夫妻。富士山麓の富士宮市で「ビオファームまつき」を営み、高付加価値の第六次産業を引っ張る松木一浩さん。昔ながらの農家の長男が有機農業で地域をリードする、熊本は阿蘇の「あっぷるみんとハーブ農園」の梅木正一さん。退職後に始めた音楽のような農園、軽井沢の高級レストランなどから注目を浴びる「オルトアサマ」の金田良雄さん。牛乳を運ばないチーズ工場、心の飢えをチーズづくりで満たしていく北海道上川郡の「共働学舎新得農場」の宮嶋望さん。自然栽培の風雲児・我らが港北ニュータウンの大将「ナチュラルハーモニー」の河名秀郎さん。牛の幸せを追求した、奇跡の無殺菌牛乳「想いやりファーム」の長谷川竹彦さん。
一人ひとりの物語を読むうちに、全員の共通点は「愛」なのだ、と。乳牛たちへの想いやりを徹底して、牛がお乳を出したいときのお乳をいただく、最高に幸せな牛乳。冷たい空気が美味しい野菜を育む、そして毎日野菜に「よく頑張ったな」と声をかけ、褒める。つくる人をとことん信頼する、求められ満たされる気持ちがチーズに伝わる。……愛や心を追求していった結果の食べものが、どれだけ人の心に染み込み、癒し、命として移り変わっていくのか。食べものから続く愛と幸せが見えてくるかのようです。
彼らが紡いでいく物語に、効率や収量重視の農薬や化学肥料が入り込む余地はありません。読み込むうちに、現代の農業が抱える問題点が浮かび上がってきます。筆者である桜鱒太郎さんが、どれほどの取材を積み重ね、歩き、食べ、人と出会い、そのなかからこの7人を選んで伝えたいこととは……
「食とは命を授かる行為である」
愛をもったまなざしで日々の食に向き合いたい、自覚したい。愛でもって、有機循環の一部に入りたい。愛であふれる命を日々つないできたい。素晴らしい本に出会えました。
(この本は、森の扉さんでも取り扱いがありますよ)
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