いのちを屠る。そして食す。屠畜という言葉にはインパクトがあります。目も鼻も口もあり、四つ足の動物のいのちをいただく、その過程を知ること。少なくとも目の前にある食べ物が、ただの栄養素や物質ではなくなり、「他者のいのちを自分のいのちに移す」ということが実感できるかもしれません。少なくともわたしは、屠畜の取材をした時にそれを感じたし、畜産に関わる方々への感謝の気持ちを抱きました。普段からそれほど多くのお肉を食べる方ではありませんが、それでもお肉をいただく時は、ありがたい、美味しい、そのうまみを味わおうという気持ちに。
『Necoron』では今回、岩手県の短角牛の牧場と屠畜工場の取材を敢行しています。大地を守る会の契約生産者の農場では、まるで家族のように愛情こめて育てられ、美味しい肉になってこいよと送り出される、“奇跡の牛”たちの様子が描かれています。
そう言えば、先日書評で紹介した『未来の食卓を変える7人 美味しくて安全な食べ物づくりに挑戦しつづける農家たち』に登場した、無殺菌牛乳で有名な北海道の想いやりファームの乳牛たちとも共通点のある、ここ柿木牧場の牛さんたちです。
生物としての尊厳ある生き方をした牛さんたちをいただくのか、そうでない牛さんたちをいただくのか―—。食べ物が単なる物質、栄養素であれば、同じかもしれません。でも決してそうではないということを、森ノオト読者の皆さんは身を以て体験しているのではないでしょうか。
日々の食は、「いのちを自分のいのちに移す」こと。いのちが自分のいのちをつくっているわけですから、どんなものを食べて暮らすか、どんなものを子どもに与えるかは、その子の尊厳に親がどう向き合うのか、その姿勢を問われていることにほかなりません。
食べ物だけじゃない、生老病死、生きることすべて、あらゆることを外部化し、利便性を追求してきた結果、その矛盾があちこちで起こってきています。
草薙さんは本文でこう警鐘をならしています。
「私は怖いのです。
自分の足で歩く事を嫌い、汗をかくことを嫌い、労を嫌い、まるでロボットのようにきれいな冷たい素肌で日々を過ごす。
子どもの遊びは機械化し、リセットボタンを押せば命は生き返る。機械じかけで命を奪い、機械のようななりゆきで食事をする。
そんな大人たちの心は末広がりに子どもたちに伝わっていく。」
……でも、それって、誰かのせい? じゃないよね。
お母さんたちよ、あなたには台所があるではないか! 機械任せ、他人任せのレールの上から、飛び降りよう。勇気を持ってそこから降りたら、何か新しい世界が見えて、広がるかもしれない。
『Necoron』の休刊号、草薙さんの強いメッセージと心意気が伝わり、うん、ずっしり、腑に落ちました。そしてこの先は、子どもたちとともにごはんをつくることに専念する、と草薙さん。またどこかで、ご一緒できることがあるだろうな、と思っています。
ありがとうございました。そして、一人でも多くの方にこの冊子を手に取ってほしい、ぼろぼろになるまで回し読みしたい、いまでも、これからも大切な1冊です。
■子育てと食のフリーペーパー「Necoron」発行者の草薙由紀子さんインタビュー
https://morinooto.jp/ecoloco/parson/vol3necoron-1.html
■「Necoron」2号発行!
https://morinooto.jp/morijoho/dengonban/necoron2.html
■「Necoron」3号発行!
https://morinooto.jp/morijoho/dengonban/necoron3.html
■いまこそ伝えたい大切な食・フリーペーパー「Necoron(ねころん)」4号
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