『みんなのキッチン』は、青葉区・都筑区の10万世帯に新聞折込やポスティングで配布されているフリーペーパーで、食と健康をテーマにしたコミュニティスペース「みんなのキッチン」でのイベントや、地域で活躍する人を紹介する、紙面とキッチンでの活動が連動したメディアです。
「みんなのキッチン」の母体は、元々雑誌編集者だった有澤つあ子さんが、編集者仲間の長沼さんと立ち上げた会社「有限会社有アンド長」で、1999年7月に創刊したフリーペーパー『地域ダス』を始め、『あら、ステキ』など、さまざまな地域情報紙をつくってきました。『地域ダス』が『みんなのキッチン』としてリニューアルしたのは2011年2月号からです。
有澤さんが起業した1999年当時、都筑区は区政がスタートして5年目、港北ニュータウンの開発のまっただ中で、センター南や北の大型商業施設の建設ラッシュのころ。「まさに、街が出来上がりつつあるなかで、まちづくりに積極的に関わっていこうという市民活動の機運も高まり、そういった人たちを巻き込んでいける紙面があればおもしろいものができるんじゃないか、と思って」と、有澤さんは創刊当時を振り返ります。
特に、都筑区はいまなお横浜市18区中で平均年齢が最も若く、さらに農家数も市内最大。新しい大型ショッピングセンター街と、緑あふれる公園、住宅地、農地が絶妙にミックスされている特徴的な地域です。また、都心で働いていた女性たちが子育てをきっかけに地域で活動をスタートしたり、あるいは子育てが一段落したので地域で仕事に復帰したい……「地域で働ける場を求めている女性が多いし、そんな女性を必要としているお店や企業もある」というニーズをつかんで、有澤さんたちは「女性の再就職見本市」などのイベントも手がけてきました。
「子育て中に、食や農への関心が高まる女性が多い。自宅で料理教室などを開催して起業する女性も増えています。そうした人たちが、自分のつくった料理を、地域で働く人たちに実際に食べてもらえる機会があれば」
そんな夢を抱いていたころ、取材で出会った人たちとの縁から、センター南駅徒歩4分、昭和医大横浜北部病院の隣のビルに、コミュニティスペース「みんなのキッチン」を設立することになったのは2010年のこと。食を通じたさまざまな主催事業、そしてレンタルキッチン、ワンデイカフェなどの企画・運営を始めました。
例えば、定期的に開催される「ランチ」も、多彩なグループが手がけています。みんなのキッチンで出会った60代の女性による「マドンナ調理チーム」は、食の資格を持つ料理上手の主婦たちによるグループで、ヘルシーだけどボリュームのあるランチは毎回完売という人気です。
みんなのキッチン交流会で出会った女性2人による「グランマ調理チーム」は、ほっとする家庭の味付けに現代風のスパイスも利かせた「今どきおふくろの味」に定評があります。区役所や病院に働く人たちにも大好評とのこと。
ほかにも、プロの料理家による料理講座や、台湾料理・薬膳料理など古今東西の料理でも+ランチ会、生協の生産者交流会、そしてみんなのキッチンが主催する「スープコンテスト」や「みんなのキッチン交流会」など、毎月、さまざまなイベントを開催しています。
そう、「みんなのキッチン」は、紙面+ウェブのメディアでもあり、地域のコミュニティキッチン=拠点でもある、地域発のコミュニティビジネスなのです。
有澤さんは、「地域に暮らすすべての人が、食を通じてつながっていく」という未来を夢みています。毎週さまざまなイベントが開催されるみんなのキッチンですが、いずれは「主催者さん、ボランティアさんなどの力をお借りして、みんなが参加できるイベントをほぼ毎日運営できるようにしていきたい」とのこと。そしてその先に、地域の女性たちによる新たな食の仕事を生み出していきたいという道筋を描いています。すでに夢を実現して、みんなのキッチンから羽ばたいていった人もいるそうです。
食を仕事にしようとしても、お店を借りるには多額の資金が必要ですし、自宅でつくったお菓子を販売するにしても食品衛生の許可が必要になるなど、意外と多くの手間がかかるもの。多額の投資をする前に、みんなのキッチンのような場所を使ってマーケティングをしたり、独立の前にファンをつくったり。そんな機会があるだけで、「独立」「起業」への道も拓きやすくなってくるかもしれません。
「いつか、森ノオトさんとも一緒にコラボできたらいいですね」と、有澤さん。
先輩メディアとして常にわたしたちの先を行く有澤さんの、華奢だけど凛とした背中を見て、10年後の森ノオトが青葉区でどんな存在になっているのか、そしてさまざまな地域メディアと得意分野を生かしながらどんな風にコラボレーションしていけるのか、とても楽しみです!
□みんなのキッチン
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