『現在知Vol.1 郊外 その危機と再生』にみるたまプラーザの次世代郊外まちづくり
森ノオトのメインエリア・横浜市青葉区は、東京都心部や横浜港湾部に通勤する人たちが多く住む典型的な「郊外住宅地」です。かつて憧れの象徴だった「郊外に一戸建て」の夢が少子高齢化もあり崩れ始めているいま、郊外を再定義し、新しく「住みたい街」として価値を高めていくには……。たまプラーザで始まっている「次世代郊外まちづくり」を主導する東急電鉄の東浦亮典さんの共著書『現在知Vol.1 郊外 その危機と再生』をご紹介します。

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森ノオトの取材エリアで、私たちが暮らす東急田園都市線沿線。その中でもたまプラーザは、東京都心から1時間圏内で通勤できる利便性と、再開発した駅前商業施設の感度の高さ、緑が多く閑静な郊外住宅地のよさを両立し、「住みたい街ランキング」でも常に上位をキープしています。

そのたまプラーザにも、いま、少子高齢化の波が押し寄せています。街の人気は依然として高く子育て世代も多いのですが、開発当時に住み始めた方々がご高齢になり、坂道を歩いての駅までの往復や、大きな戸建て住宅の管理が難しくなるといった生活の事情が見え隠れするようになりました。

また、東日本大震災の計画停電を経験したことで、少しでもエネルギーの自給自足の方向を目指そうという気持ちが、地域住民のなかに生まれつつあります。

21世紀の「環境問題」と「少子高齢化社会」。大都市が抱える2大課題の解決のための先進的プロジェクトとして、横浜市は国から「環境未来都市」に選定されました。そして、持続可能な住宅地のモデルプロジェクトとして、2012年4月に横浜市と東急電鉄の間で、「次世代郊外まちづくり」の取り組みを官民共同で推進する協定を結びました。

「横浜国立大学deYES」で講演をする東浦亮典さん

「郊外住宅地が抱える基本的な問題として、インフラや住まいの老朽化・高齢化・少子化があります。住民は個人財産の管理はしても街の維持管理は自治体の仕事と考え、自治体は街の管理はしても個人財産には口を出せず財政も厳しいので現状維持で精一杯。デベロッパーは開発後一定期間のアフターサービスはしても完売後は次の開発へ移ってしまう。郊外住宅地問題はいわば“3すくみ”の状態なのです」(東浦さん)

こうしたことから、若い世代が郊外に魅力を感じなくなっているのではないか……。『現在知Vol.1 郊外 その危機と再生』の執筆者でもある東急電鉄開発事業本部企画開発部統括部長の東浦亮典さんは、このように話します。

しかし、「変化の兆しも起こりつつある」と、東浦さん。「官」「民」「産」「学」のそれぞれの主体がセクターを超えて縦横無尽に連携し、ソーシャルメディアなどを通じて柔軟な関係性を築き、郊外が抱える社会課題の解決のために動ける素地が整いつつあると言います。

たまプラーザテラスで開催されたワークショップのもよう。100名を超える住民や関係者が集まり、毎回活発に議論をおこなう

たまプラーザ次世代郊外まちづくりプロジェクトのモデル地区は、美しが丘1丁目・2丁目・3丁目エリア。2012年秋から約半年をかけ、横浜市・東急電鉄の主導で、たまプラーザ近辺の住民がおおぜい参加して、ワークショップを行いました。住民自らが「こんな街に住みたい!」と思い描いた未来を12の物語にまとめたリーフレットも配布され、その中から具体的なプロジェクトとして街づくりに反映されるものも出てくるようです。

本書に描かれている12の物語を読むと、「移動式マルシェ」「世代間で共有・支え合い」「連携が心豊かなまちを創る」「家族の幸せは地域活動から」など、豊かな地域コミュニティへの希求が感じられます。緑と自然と都市の利便性が有機的につながり合い、日々の暮らしに豊かさや幸せの価値観を求め、多世代で支え合う地域づくりの実現を自らが参加することで担っていこうという、住民意識の高さがうかがえます。

「郊外を持続させる人とコミュニティの仕組みをつくっていく」と、講演で話す東浦さん

環境未来都市のもう一つの課題でもある環境・エネルギーの問題に関しては、電力の需給応答や社会インフラをICTや環境技術を用いて効率化し、低炭素化する「スマート・シティ」という言葉が先行しています。東浦さんはその言葉に違和感を覚えており、「何よりも尊重されるべきは、地域住民の健康的で明るく快活な生活を送るための<Wellness>の実現」と指摘します。

そのため、次世代郊外まちづくりでは、ワイズ・シティ(WISE City)、つまり「賢者のまちづくり」を提唱しています。

Wellness = 健康、元気

Intelligence & ICT = 人々の暮らしを支える情報技術

Smart & Sustainability = 街中サービスの統合的な連携と持続可能性

Ecology & Energy = 環境とエネルギー

青葉区、特にたまプラーザは、横浜市の中でも地域住民の市民意識が高いと言われており、次世代郊外まちづくりでも多くの住民が「自分ごと」として街の未来に関わり、自ら主役になり街を愛し魅力を高めていこうという姿が突出しています。

森ノオトが主催する「あおばECOアカデミー」の第1回目でも、横浜市環境未来都市理事の信時正人さんにお越しいただきましたが、多世代がともに手をつなぎ持続可能な未来をつくっていこうという青葉区近辺の住民が多く訪れ、活発な意見が交わされました。

本書『現在知Vol.1 郊外 その危機と再生』は、評論家の三浦展さん、建築家の藤村龍至さんによる編著で、社会学者の上野千鶴子さんや東京R不動産の馬場正尊さん、詩人で社会学者の水無田気流さんを始めとする多彩な論者がそれぞれの「郊外」について語りまとめた読み応えのある1冊です。気鋭の若手論者による日本の現代史と実体験、原風景のデジャヴは、ヒリヒリする皮膚感覚とともに読み進めることができ、ともかく未来に向かって閉塞した扉を開こうという意思のなかで、たまプラーザの事例はひときわ具体的かつ先進的な、日本をリードするプロジェクトとして希望をもって語られています。

次世代郊外まちづくりに関して、具体的なプロジェクトは今月中にも記者発表されるとのこと。森ノオトでは今後も、この取り組みを追いかけていきたいと思います。

★たまプラーザ次世代郊外まちづくりプロジェクトのオフィシャルサイトはコチラ

http://jisedaikogai.jp

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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