生きづらさを抱える若者の自立支援の場「にこまるソーシャルファーム」
生きづらさを抱える若者たちが、太陽の下で土にふれ、野菜を育て、その野菜が横浜を循環していく……。森ノオトが青葉区を飛び出し、横浜は磯子区の「にこまるソーシャルファーム」を訪ねました。「農」が社会課題解決の一助になる、その先進的な取り組みをご紹介します。

JR根岸駅を降りてすぐの場所にあるK2インターナショナルグループのビル。食堂、学童保育、オフィス、塾など、若者・子育て支援の拠点として幅広く事業を展開している

 

「引きこもり」や「ニート」と呼ばれ、社会と接点を持ちづらい、生きにくさを抱えた若者の存在が知られるようになったのは、この15年くらいのことです。就学、就労ができず、自宅や自室に引きこもる傾向のある若年(15〜34歳)無職者は2010年現在で60万人以上と言われています(厚生労働省調べ)。

 

K2インターナショナルは20年以上にわたり、不登校や引きこもり、家庭内暴力、ニートなどと呼ばれる若者たちの自立を支援している団体です。相談や合宿型のプログラム、通所支援のほか、100名近い若者と職員との共同生活の場(寮)をもうけ、学習や就労の相談や雇用の機会の創出など、幅広い実績があります。

 

JR京浜東北線(根岸線)根岸駅近くにあるビルは、1階に250円で定食が食べられる「にこまる食堂」、2階は24時間対応の学童保育「ぽにょぽにょ」と乳幼児親子の子育て支援施設「くすくす」、3階はオフィスで、4階では若者向けの学習支援スペースと、キリスト教の教会を運営しています。ビルの屋上には、学童の子どもたちが遊ぶプールや、ミツバチのプチ養蜂場があり、各階をつなぐ階段には利用者の顔が見える温かい掲示であふれています。

 

「にこまる食堂」は250円でお腹いっぱい食べられるコミュニティカフェ。スタッフはK2の卒業生が多い。夜は寮生の食堂にもなる。K2インターナショナルではみなと総合高等学校の学食を運営していて、にこまる食堂のセントラルキッチンとしての機能も果たす

 

K2インターナショナルの多様な事業を「つなぐ」役割を果たしているのが「食」です。K2グループのNPO法人ヒューマンフェローシップが2012年6月に「よこはま型若者自立塾 JOB CAMP」として立ち上げた「にこまるソーシャルファーム」によって、「食」と「職」をつなぐ物語が、一気に豊かになってきました。

 

にこまるソーシャルファームは、磯子区岡村にある約1反の畑です。畑の隣のアパートで、8名の若者と2名の職員が共同生活を送っています。朝の2、3時間を畑で過ごし、若者たちのつくった野菜は、にこまる食堂や高校の学食、K2インターナショナル直営のお好み焼き屋「ころんぶす」の食材として使われます。時には横浜市役所等で販売することも。お店で出た生ゴミはコンポストで堆肥にして、また畑に戻ってきます。まさに循環農法!

 

にこまるソーシャルファームは磯子区岡村の住宅街の中にある。地域との接点を大切にし、収穫祭や農業体験など地域に開いたイベントを積極的に行っている。畑の真ん中にあるのはゴーヤードーム

 

「若者が農に関わることで、働きがいや生きがいにつながっていると思います。自分が働くことで、どんな風に野菜ができて、調理されて、お客さんの口に入り、喜んでいただけるのか……。ただ時間給で働くのではなく、そんなストーリーに携われることで、働く感動が生まれているのを感じます」

 

そう話すのは、K2インターナショナルグループの岩本真実さん(NPO法人ヒューマンフェローシップの代表理事)。OL時代にK2でボランティアを始めて以来、オーストラリア・ニュージーランドで約10年不登校児との共同生活をしながら、就労支援のためのレストランやブックショップなどの立ち上げと運営を担ってきました。にこまる食堂やにこまるソーシャルファームなどの仕掛人でもあります。

 

にこまるソーシャルファームのシンボルツリーの前で微笑む岩本真実さん。畑に隣接したアパートでは、若者たちが共同生活を送っている

 

にこまるソーシャルファームで暮らす若者たちは、毎朝5時から8時くらいまで、農作業をして過ごします。日中は根岸にあるK2インターナショナルで学習支援や就労支援のプログラムを受け、にこまる食堂で夕ご飯を食べてから帰宅。朝早く起きて夜早く寝る生活です。

 

「農作業は、草むしりの前後で働いた成果が見えるし、野菜という収穫物があります。視覚的なアプローチができるので、生きづらさを抱える若者たちにとっての“農”はとても有効なプログラムだと思います」(岩本さん)

 

取り壊し寸前のアパートを畑と一緒に借り受け、みんなでペンキを塗ったり、大工仕事を積み重ねて、ソーシャルな空間に生まれ変わった。2DKのアパート4室のうち、1階2室はみんなが集う場になり、2階2室で8人が寝泊まりしている

 

アパートは、1階は地域の人とも関われるような開放的な空間にリノベーション。壁には、みんなで描いたにこまるソーシャルファームのキーワードが貼られていました。

 

「食」:K2の食を支える

 

「近」:K2、そして地域のすぐ近くにある

 

「魅」:ただ野菜を育てるだけの畑ではなく、楽しい場所に

 

若者やスタッフたちは、自治会のお祭りの手伝いをしたり、収穫祭を開いて地域の方々を招待したり、積極的に地域との関わりをもっています。畑も、アパートも、にこまるソーシャルファームが生み出す「循環のストーリー」が目に見えてわかる仕掛けが、あちこちに用意されていました。

 

にこまるソーシャルファームは男子寮だが、畑のかわいい壁画やアパートの看板は女性メンバーが手がけた

 

ニートや引きこもりという言葉が社会的に認知されるようになって、約15年。K2インターナショナルの活動は約25年に及びます。

 

「以前は思春期の4、5年間を支えていき、そこから若者たちを社会に送り出していきましたが、いまでは“若者”と呼ばれる人が高年齢化し、付き合いが2、30年に及ぶことも。より柔軟に働ける場をつくり、また地域とのつながりもより必要になってきます。農業単体で若者の自立の道を探るのはまだ難しいのですが、教育の場として農の機能が成り立つのが、とても横浜らしいと思いますし、これからも可能性が広がって行くと思います」

 

と、岩本さん。

 

これまで森ノオトでは、緑の保全や地下水涵養などの公益的機能に着目してきましたが、教育や若者の自立など、社会的にも多面的な役割を果たしている現場を見て、もっと多様な切り口で農をとらえ、伝えていきたいと感じました。

 

Information

K2インターナショナル

http://k2-inter.com/

 

NPO法人ヒューマンフェローシップ

http://hufello.jp

横浜市磯子区東町9-9

にこまるソーシャルファーム

http://jobcamp.jp/nikomaru/

 

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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