セッション1-Bのテーマは「人材育成と場づくり」
ISEPの古屋将太さん司会のもと、長野、静岡、東京の多摩、山口のご当地電力の代表者と、環境保全に取り組む企業パタゴニア、そして再エネ普及に取り組むカナダの持続可能性サービスと、ドイツからは世界風力協会の代表を迎えて意見が交わされました。
地域主導の再生可能エネルギー事業はまだまだ始まったばかり。日本でのパイオニア的な長野のおひさま進歩エネルギーでも10年です。事業を成功させるためには「何のためにやるの?」という目的をはっきりさせることが最も大切で、地域に見合った事業目的を、立場もスタイルも経験も全く違う人々と繰り返し話し合って決めていく必要があります。
それぞれの「想い」を「問い」に変えて、「見える化」していく作業をするわけですが、相手の立場になってやり取りする中でみえてくる着地点は、妥協ではなく新しい道です。ぶれない共通の足場となる目的が定まれば、仲間が増える、敵対していた施行業者さんが一番のパートナーになる、ひょんなところから良い場所の提供話が舞い込む、仲間の崩壊の危機を乗り越えるなど、何らかのかたちで次につながっていく、というのがどの団体にも共通するところで、国が違ってもそこは全く同じだそうです。カナダのオンタリオ持続可能サービスの調査では、技術的な問題で事業が失敗することは一割程度で、コミュニティでの情報とビジョン共有による人間関係を築くことがいかに大事かというデータが出ています。
地域電力の代表者はエネルギーの専門家ではなく、むしろ専門家を発掘したり、各種専門家と交渉し、間をつないでいくのが仕事なんですね。年齢も性別もあまり関係なく、今回のような場で世界の人ともつながれる。大変だけれども、自由で、誰でも入ってこれる余地があるとも言えます。
実際の取り組みの中でわたしが面白いなと思ったのは「多摩電力」のもの。大学がたくさんあるのに学生が通過するだけで根付かないという、地域特有のなやみをエネルギー問題と組み合わせたのがユニーク。学生発のエネルギーにかかわる企画を地域の大人がサポートするというかたちで、世代を超えた交流が始まり、現実的に未来の人材を育てるプロジェクトがはじまっているのです。電気に限らず「炭焼き体験」といった企画もあり楽しそう。多摩電力で働きたいから、この大学に行くなんて選択がいずれできるようになるかもしれず、可能性を感じました。
2-Bの「自然エネルギーと社会的合意」では
自然エネルギー財団の分山達也さんを司会に、風力発電や地熱発電の研究や建設に関わってきた方々と、WWF、日本野鳥の会、日本自然保護協会という環境団体の代表者が揃い、さまざまな専門家の視点を伺います。
再生可能エネルギーといっても設備を導入するとなると、環境への影響はゼロではありません。例えば、風車と鳥の関係、地熱発電と国立公園や温泉地の景観や観光業との関係など、利害関係が関わってくるとなかなか議論も進みません。少しでも自然に影響するならば反対という人もいます。
風車を建てるには通常1年以上環境調査をするのですが、調査の仕方や、設置に関するルールがまだないので、希少種の鳥のすみかや移動ルートが全く無視されてしまうこともあるのだそうです。ならば、普段から自然をよく観察して多くの情報を持っている野鳥の会と業者さんとが最初から一緒に調査をするとか、すでにある環境団体との情報交換をおこなって、設置可能な場所をゾーニング(区分け)していく必要があるとのことでした。あざみ野ぶんぶん及びたまプラ電力は、住宅地なので大規模な風車設置に関してはちょっと遠い話だと思ってしまうのですが、農林業に関わる人や、野鳥の会、アマチュア自然写真家さんなんかは住民の中にひそんでいるかもしれず、そうした方々の蓄積してきた情報や、調査のノウハウは生かせるのかもしれないなどと思いました。
しかし「環境に影響が少ない」で本当にいいのか? これからは「積極的共存」を考えるべきとの意見もあり、わたしは、そこにこそ未来があるように思いました。荒れた里山や山林の手入れの復活と、バイオマスや薪ボイラーの普及が結びつくといった例がありますが、人が手を入れることで、今よりも良い環境を作っていこうという発想です。
自然あっての人間、人間あっての自然という感覚を持っていたら、おたがいに影響しあうことを肯定できるはずで、現在のくらしが自然からあまりに切り離されている現実をまず受け止めて、その上でエネルギーを自給する方法をさぐっていく態度が求められるのだと思いますし、そうありたいと感じました。
2日目、喜多方に場所を移して3−Bのセッションのテーマは「ファイナンス」。
千葉商科大学の伊藤宏一先生を司会に、経済研究、金融業、市民ファンドの先駆者、そして環境省から投資に関わる専門家が揃います。
お金の話ということで、会場がいっぱいで立ち見が出るほどだったこの会では、まず「聖なる金融」=自然や地域から祝福される金融のあり方が求められているというちょっと詩的なお話から始まり、ぐっと引き込まれました。
日本の地域社会で行われてきた相互扶助のいとなみ(映画「オオカミの護符」に出てくる講のしくみもその一つ)に習って、地域の人と自然が繋がっていく本来のお金の流れをつくろうという流れ。自然エネルギーの普及を通じて太くしていけたらいいですよね。世界の金融業界では既に自然資本、環境資本を守るという考え方が出てきているのに、日本はちょっと遅れているのです。
環境省では国や民間からの出資で基金をつくり、自然エネルギー事業への出資を大幅に増やしていくために、「地域低炭素投資促進ファンド」の創設をおこなっています。その事業の窓口になるのがグリーンファイナンス推進機構で、代表の末吉さんは、そこからどんどん出資金を得てください! とおっしゃっていました。2−Bで話された環境調査など導入までの費用と最初の設備費がまかなえれば、あとは地域ごとに自立して運営していけるしくみをつくれば良いわけで、これはかなり大きいと思います。
つまり、国のお金をごく普通の市民が生かせる時代がきた! ということ。
とはいえ、市民がみな善良な事業をするとは限らないので、出資を得る為のルールづくりや、事業の妥当性を審査するための手引きを今つくっている最中だそうです。環境省のホームページはなんだか見てるだけで疲れてしまって、わたしにちょうどいい見方をまだ発見できていないんですが、時々覗いてみて、政府全体の流れを知ることも、一つの仕事かもしれないなと思ったのでした。
最後のセッション、4−B「コミュニティーパワー・ラボ」では
ISEPの山下紀明さんを司会に、ドイツと、小田原、宝塚の市民電力と、生活クラブ、パルシステム、それから大地を守る会の代表が集まって、今後の地域分散型電力の発展の方向性についての課題を聞くことができました。
もともとの運営が協同組合の強みは、すでに信頼関係が出来ている会員とのネットワークができていることで、昔の相互扶助に似た形で、多くの人からちょっとずつお金を集めて基金をつくることが可能です。そのため、生協では実際に風車を既に建てているし、大地の会では再エネ普及の支援活動のコンペを開くなど、発電して供給するシステムは整ってきました。でも最終目標である組合員への電力の小売りにはまだ至っていません。他の地域電力でも、今出来るのは地域で発電した電気を既存の電力会社に売るところまで。地消ができていないんですね。
需要と供給の間をどうつないでいくか?という課題には、法律を知ることが第一歩です。
ヨーロッパでは1996年に電力が自由化されて、送電網が国を超えてつながっているので、さまざまな運営形態の電力会社から気に入ったところを選んで契約することが出来ます。日本ではようやっと2016年に電力自由化が決まったという段階なので、あと2年。発送電の分離や、料金の自由化が行われるのは2020年なので、それまでに自分たちが目指す規模にみあった需要と供給のサービスを整えていく必要があります。逆にいうとそれまでに準備していないと、完全に乗り遅れ!なわけですね。
NGOグリーンピースがつくったドイツの「グリーンピースエナジー」は、協同組合方式で事業が始まり、2万人以上の自然エネルギー発電所のオーナーと11万人の顧客がいるそうです。
11万人ってすごい数だな〜と感じてしまうけれど、青葉区の人口の約3分の1、東京電力の顧客数からすればほんのひと握りなんですよね。それで十分運営していけるんだと知ると、気分的なハードルがだいぶ低くなる気がしませんか?というより、青葉区内にすくなくとも3つ電力会社があっても良いわけです。(実際は世帯数で計算するべきでですが)。これはまた一つの発見でした。
電力独占状態、おまかせ方式に慣れてしまった身体や意識を変えるには、いろんなものさしが必要なようです。法律や数字も、なるべく身近なものごとに置き換えて考える癖をつけて、エネルギーの問題を“自分ごと”にしていきたいものです。
では、次回は、セッションや懇親会で、印象に残ったことをまんが風にまとめてみたいと思います。
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