エネルギーの世界に「楽しい」「美味しい」「可愛い」を! コミュニティパワー国際会議in福島レポート(4)
おそらく、一生のうち、最初で最後の「国際会議」登壇となるであろうキタハラ。セッション3-Aで語った「エネルギーの世界に“楽しい”“美味しい”“可愛い”という要素を入れましょう!」というメッセージは、意外と大ウケ! 懇親会では海外ゲストからも握手を求められるなど、ちょっとした賑やかしの役割を果たしてきました。

この日、壇上でご一緒する方々は、世界風力エネルギー協会のステファン・ゼンガー氏を始め、海外で事業を成功に導くリーダー、そして日本では全県レベルのネットワークをまとめる女傑たち! いやあ、まだ「たまプラーザ電力」は始まったばかりだし、わたしたちがやっていた「あざみ野ぶんぶんプロジェクト」はコミュニティパワーと呼ぶにはあまりに小さな活動すぎるし……。

お話をいただいた際には頭を抱えていましたが、おそらくわたしは今回のスピーカーの中で最も末端、小さな活動で、でも多分この国際会議にいらっしゃる方々の中では異色の活動をしていて、皆さんとは異なる動き方をしている……はず! しかも、現役バリバリの子育てママ! と、開き直りました。この日は「徹底的に可愛くいこう!」と、普段は行かないような乙女系のブランドでワンピースを選び、普段は絶対にはかないピンクのタイツ、ストールからネックレスまで全身コーディネート(本番前まではアルパカのレッグウォーマーをはいていましたけどね……)。

「ネットワーキング」をテーマに、グローバルな話から、広めのローカル事例の紹介と続き、わたしが話すべきは、最もローカルな単位の「家庭」のネットワーキングについてだろうな、と。そんなわけで、今回は「客観的レポート」ではなく、わたしが世界に発信した(?)メッセージをここでまとめます。

 

食とエネルギーの安全・安心と地産地消は相通ずる部分が大きい。食を大切にしている主婦はエネルギーに対する関心も高いと言える

 

わたしは東日本大震災を機に、自らが暮らす地域を変えていこうとエネルギーシフトの活動を始めました。現在5歳の娘の子育て中で、これまで最もエネルギー問題に遠いところにいたクラスターと言える、同世代の若い主婦層を巻き込もうと、メディアを活用した手法で環境やエネルギー問題を生活者に近づける活動や、自治体や地元の政治家に暮らし目線での提言を行ってきました(それをまとめたのが拙著『暮らし目線のエネルギーシフト』です)。

それまでは環境専門の取材者としてこうした国際会議に足を運ぶことはしばしば、あくまでも「編集者は黒子!」の精神で、自らの意志というよりも仕事として取材をしてきました。でも、震災以降、そうもいかなくなりました。「おかみにおまかせ」ではなく、自らが「変化の担い手」となる覚悟を持って動いていかなければ……それこそ、突き動かされるように、様々な活動をしていきました。

森ノオトのエネルギーシフトの活動の一つは、私が立ち上げたローカルに密着した環境メディア「森ノオト」で、取材やレポートを地元に住む主婦が担当していることです。取材活動を通じて主婦が子どもを連れながら地域の様々な企業や商店、市民活動と接点を持ち、例えば地域の飲食店に地元の農家を紹介して地産地消のメニューが生まれるなど、人と人をつなげ新しいものをつくる役割を果たしています。主婦ライターたちは編集プロセスを経て環境やソーシャルの感性を磨き、今ではエネルギーの専門知識を積み重ねて今日の会議を取材するまでになったメンバー(エレキ女史のこと!)もいます。

これまでの情報発信は4年間で1200にのぼります。地域で蓄積した情報を元に、地元をエコで活性化するアイデアを住民同士で創るフューチャーセッション的な「エコを切り口にローカルを編集する井戸端会議(あおばエコアカデミー)」を定期開催し、今では赤ちゃんから70代のリタイア世代、主婦から企業人、行政担当者が集う、多世代・異業種交流の場になっています。

 

あおばECOアカデミーがなければ、たまプラーザ電力の中心メンバー・大野承さんとの出会いもなかった

 

メディアでの発信とリアルな対話の場を重ねた結果、コミュニティづくりのツールとしてエネルギーを活用しようという機運が生まれ、たまプラーザ電力が今年1月に立ち上がりました。これは、少子高齢化と地球温暖化の二大課題の解決を目指し横浜市と東急電鉄が共同で行う次世代郊外まちづくりプロジェクトの一環で、そのモデル地域である横浜市北部のたまプラーザエリアで、住民が主体となって企画を提出し実行する「住民創発プロジェクト」に認定されたのです。わたしたちが震災以降30回以上重ねた勉強会やワークショップの土壌に、地域在住の研究者の協力、行政、民間企業の支援が加わり、産官学民連携でコミュニティパワーが進む環境が用意されました。産みの苦しみならぬ、受胎直後のワクワクドキドキな状況……というのが今の心境です。

「あざみ野ぶんぶんプロジェクト」そして「森ノオト」の場合は、ご当地電力を立ち上げるためにメンバーが集まったのではなく、地域の自然環境と調和したエコロジーな生活を楽しむ主婦たちが、料理のレシピ開発やマルシェイベントの出店などを通じて、例えばどうやったら美味しいごはんをつくりつつ調理時の生ゴミを減らせるか、イベントでゴミを出さずに済むか、それをどう子どもに伝えていくか、一つひとつ検討した成果をメディアでレポートしながら、生活の延長でエネルギーについて考える機会を増やしきました。ご当地電力を立ち上げることからスタートした活動だと、エネルギーは難しいといっておそらくは関心すら持たない主婦がほとんどではないかと思います。

ただ、エネルギーと生活は切っても切れない関係であることも事実で、生活情報を入口にエネルギーに興味を持ち、NPOで開催する「パワー・トゥ・ザ・ピープル」や「シェーナウの想い」の上映会などで少しずつ学びを深めながら、エネルギーを身近に感じながら生活の中で実践できる節電や子どもと楽しめるソーラークッキングなどを行い、「これならできそう」という小さな一歩から女性主体のローカルなエネルギーコミュニティが出来上がっていきました。

たまプラーザ電力は、すでに耕されてきた主婦のネットワークに、地域の60代や70代のプラチナ世代と言われるリタイア層の男性や、ローカルに注目する企業人が加わり、主婦だけでは実現しにくい制度設計やプロセスデザインの手法が取り入れられるようになったというパターンなのかな、と思います。

たまプラーザ電力の中には起業家精神あふれるメンバーもいますので、おそらく市民共同発電の中心は彼らが担い、わたし自身はおそらく今後も、需要側・ユーザー自身が理解できる形で、ユーザーが主体となって情報を発信していく、メディアという形でコミュニティパワーに関わっていく道を模索します。NPOの今年度の目標として、地域の主婦クリエイターによるデザインワーク、ユーザーへの編集ワークショップを通じた、地域に暮らす主婦が理解できるレベルの表現、女性が好きなキーワード「美味しい」「楽しい」「可愛い」を意識した発信を収益モデルにしていくつもりです。

 

実は国際会議の会場でたくさんの「山伏」に会った。ソーレンさんのいうcommonityの精神は、実は山伏に受け継がれているのではないかと思う

 

世界を変えていくのは「よそ者、若者、バカ者」と言われていますが、これからは女性もその一翼を担うのではないでしょうか。女性がネットワークしてつくり上げていくコミュニティは、男性がリードするそれとは違うと思うし、またこれまでの市民運動とは異なるやわらかさとしなやかさが必要になってくると思います。

エネルギーの世界にも多様性があっていい。みんなで旗を振り拳を突き上げるだけではなく、女性は女性らしい軽やかさ(としたたかさ)で、女性が共感するような「可愛さ」を強みに動いていけばいい。

また、主婦にとってエネルギー問題を考えることは難しくても、食を切り口に共通点をひもといていけば、意外とすんなり腑に落ちるものです。食の安全・安心、地産地消。エネルギーも同じことです。「美味しい」をキーワードにエネルギーを語っていく手法はいかがでしょうか。

そして、持続可能性とは「楽しさ」だとわたしは常々考えています。楽しくなければ続かない。楽しさの源は、娯楽や快楽ではなく、自分をイキイキと表現できる場が与えられ、人から求められ、そこで力を発揮することです。得意でないことをイヤイヤ、疲れながらやるのはそれこそ「エネルギーの無駄づかい」だと思います。仲間と語り合い、ビジョンを共有し、楽しく活動や事業ができるからこそ、時にはイヤなことも疲れることも、高いハードルも乗り越えられる。

コミュニティパワーをつくる、それはものすごいエネルギーを要すると思います。だからこそ、続けられる「楽しさ」を常に見失わずに、持続可能な活動を続けていきたいと思います。

 

一緒にセッションに登壇し、意気投合したカナダのハリー・フレンチさん。懇親会ではお互いの子ども・孫の話で盛り上がった

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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