今から18年前、アメリカ・シアトル発のコーヒーチェーンが日本に上陸し、全国各地でフィーバーが起きました。スタイリッシュなカウンター、本格的なコーヒーの味わい、ボリューミーでポップなクッキーやマフィンに心奪われ、新しいカフェスタイルが確立されたといっても過言ではありません。
kinacoこと秋山由香里さんもその一人。高校生の頃は「ごはん代わりにマフィンってくらいハマってた」と当時を振り返ります。
フツーの女子高生らしく、ジャンキーなお菓子が大好きだった由香里さんが、今こうして乳製品、卵、砂糖を使わないオーガニックな焼き菓子をつくるようになったのには、理由があります。10代後半のある日、突然ひどいじんましんに悩まされるようになったのです。
「いちばんひどい時は“全身すじこ”ってくらいの状態で……。きっと食べ物のせいだと思って、ごはんを食べることを素直に楽しめない、そんな時期が長く続いたんです」
キュートな笑顔で人々を魅了する今の由香里さんからは想像もつきませんが、20代前半のいちばん遊びたい盛りに、じんましんのせいで外に出られない時期が長く続いたそうです。
食事療法などじんましんを治すために様々なことにチャレンジしていた由香里さんが、マクロビオティックに惹き付けられていったのは、自然な流れでした。「マクロビオティックを学んで、きちんと実践していったら、みるみるうちにじんましんがよくなっていったんです。教室に通うなかで新しい友達も増え、24歳の時からベジのカフェで働くようになりました」
マクロビオティックのレシピをベースに、個人でも、お店でも、お菓子を焼くようになっていった由香里さん。店長としてお店を切り盛りしながら、休日は友人とユニットを組んでイベントに出店し、ファンを増やしていきました。
白砂糖、卵、乳製品を使わないお菓子は、健康志向の高まりや、ベジなライフスタイルの流行もあって、ここ5、6年、ずいぶん認知が広まっています。そんななかでもkinacoのスタイルは異彩を放っています。
ピンクや黄色などの華やかな色合い。どどーんとボリューミーでダイナミックなマフィン。かさ高でゴロゴロッとしたビスケ。一つだけでお腹がいっぱいになるほどの重量感。人の顔を模したクッキーや、ぶ厚いビスケであんこをサンドしたどら焼きなど、ほかでは見られないような独創的な世界がkinacoの持ち味です。
一度食べたら忘れられない味。だからファンがついて、イベントのたびに遠くから足を運んで、大量に買い占めていく人が後を絶たない。付き合いが広いわたし・キタハラは、友人のお店でちょこちょこ買いのスタイルなのに、kinacoのお菓子だけはいつも「大人買い」なんですね。そのくらい、はまっています。
カフェの店長と焼き菓子ユニットの二足のわらじを履いて忙しくする生活に転機が訪れたのは、Vege&Fork Marketなどのイベントでよく顔を合わせていた「青果ミコト屋」との出会いでした。同じ食の分野で、同世代でがんばっている仲間が一気に広がっていきました。
「kinaco、青葉区に引っ越してきなよ」との声に導かれて、青葉台の小さな平屋に工房を構えたのは2012年9月のことでした。
それからの活躍は推して知るべし。まるで水を得た魚のように、たくさんのお菓子を焼いてイベントに持ち込み、売って、また焼いて、卸売先も増えました。地元・青葉区では桜台(青葉台)のペグルカフェで。オーガニックファンには聖地・GAIAの御茶ノ水店、代々木上原店で、kinacoのお菓子を入手できます。
イベントにはほぼ毎週のように出店し、kinacoとしてはもちろん、ミコト屋の「3人目」としてフードのお手伝いをすることも。
みんなを虜にするkinacoのお菓子は、実はとてもシンプルでベーシックなレシピでできています。地粉、なたね油、てんさい糖、塩糀、そして塩。それに季節の野菜や果物を組み合わせて、ざっくり混ぜて焼き上げます。野菜や果物はもちろん、ミコト屋の自然栽培のもの。
「レシピ通りにつくることはほとんどないですね。その時々の、素材を見た時の感動やひらめきを大切に、ワーッと盛り上がった気持ちで、一気につくります」
粉をふるったり、きちっと計量することは苦手。焼きたいと思った時に、すぐに焼きたい。
「粉をふるうなど、苦手だなーと思ったことを工程の中に入れると、お菓子にストレスが入っちゃうから(笑)、省いているんです。kinacoのお菓子の中には、“楽しい”エッセンスしか入っていない」
なるほど、だから食べる人も、kinacoのお菓子を見ると、笑顔になる。「どんな味なんだろう」とワクワクして、素材のかけ算、新しい発見をして、楽しい気持ちになっていく。そして、次はなんだろうと期待をしてしまうのです。
「誰かにkinacoのお菓子を食べてもらうのが、何よりもうれしい」
飛び切りの笑顔で語ってくれた由香里ちゃん。
イベントや卸売り、そして活躍の場は工房でのワークショップに広がり、kinacoのファンとの深く語り合えるようになったといいます。
マクロビオティックの料理やお菓子は、真面目で几帳面(かつ誠実)なお菓子が多いけれど、kinacoのお菓子はある意味新分野。まるでシアトル発のコーヒーチェーンの店頭に初めて並んでショーケースをのぞきこんだ時の、あのワクワク感を思い出させてくれます。
……あれ、よく見てみると、kinacoのマフィンの形、クッキーの巨大さ。そうか! 「お菓子がおいしくて可愛くて、毎日通っては食べていた」というほどファンだった愛すべきジャンクフードたち。なるほど、そこが原点だったのか、と。
最高の素材で、とことん楽しみながらつくっているお菓子たち。kinacoのジャンクなマクロビオティック・スイーツは、間違いなくニューウェーブ。わたしたちは理念や健康を食べているわけじゃない。お菓子って、可愛くて、楽しくて、美味しいものなんだ!
11/23の「あおばを食べる収穫祭」では、また新しいファンが増えますように!
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