畑や緑がまだ残る住宅街の中に、小さな看板がひとつ。“横浜マイスターの店”の文字が目にとまり、店のある敷地内へ進むと、ふんわりと漂ってきた燻製の香り。目を向けると、そこには大きな燻製機とレンガを積んでつくられたドーム型のピザ窯がありました。なぜこんな所に? という思いと、ワクワクするような気持ちを抑えながらも店内に入りました。
現在、青葉台にある「シュタットシンケン」は息子さんである中山弘治さんが後を継いでおり、中山さんご自身は、昨年、自宅の一角に長年の夢であった工房をオープンしました。店の奥でソーセージやハムなどの商品をつくり、店先で販売及びイートインができるスペースを設けています。
中山さんは、ご実家が青葉台で肉の卸し会社を営んでいたこともあり、小さい頃から“肉”が身近にありました。しかし、6人兄弟の末っ子、「いつかお腹いっぱいにソーセージを食べてみたい!」という理由から、小学生の頃には既にソーセージ屋への夢が芽生えていたそうです。
その後、結婚を機に、趣味が高じて自宅にソーセージの小さな製造工場をつくります。その間、頭の中には常に“美味しいソーセージづくり”への想いがあったといいます。やがて、中山さんがソーセージづくりの師匠と慕う方と出会い、仕事の傍ら5年間ほどの修行がつづきます。
そして、1987年、念願であったハム・ソーセージ屋「シュタットシンケン」をオープンしました。
中山さんのライフワークのひとつに、たまプラーザで毎月1回開催されている「軽トラ元気市」への参加があります。今年で4年目となるこの朝市に、シュタットシンケンは第1回目から休むことなく参加しているとのこと。「お客さんとたくさん話ができ、出店者同士の交流も生まれ、更に新たな仕事が生まれることもある朝市は楽しくて仕方がない。大変だけれど、ずっと続けていきたい」と語ります。人と交流することが大好きな中山さん、現在は工房近くにある保育園児のおやつに、ピザ窯で“サツマイモ”を焼くことも!
青葉台に「シュタットシンケン」がオープンして約30年。その道のりは決して平坦ではなかったはずですが、中山さんのお話を伺うと、いかなる時でも常にご自身のやりたいことのイメージをしっかりと頭に描き、チャンスが巡ってきたら即行動する姿勢が伝わってきます。
「シュタットシンケンをオープンさせる時も、たまプラーザに店を構える時も、自宅に工房をつくろうと思った時も、なぜかそれを後押しするような出来事が自然とやってくるんだよね。不思議だね〜」と中山さん。
「新しいことにチャレンジすることは怖くないのですか?」との私の問いかけに対して、
「怖くないよ。楽しい! その代わり、何か新しいモノをつくる時は何回も失敗する。昔はその度に落ち込んでいたけれど、今は回数を重ねたせいか、ニコニコしていられるよ!」と、ケラケラと笑いながら話します。
趣味と仕事が一緒になった人生を謳歌している中山さん。父の背中を見て育ち、青葉台の本店を守る息子・弘治さんにもお話を伺いました。
「フランス料理の世界にいたことで、素材との向き合い方や食の知識に対する幅がとても広がりました。これからも素材選びには妥協せずに、良いものを使い、つちかってきた知識をプラスして食肉加工店ならではのものをつくっていきたい。経営者としては、ダメなのかもしれませんけど……(笑)」と、弘治さん。現在は、テイクアウト専門の店ではありますが、ゆくゆくはイートインコーナーなども設け、美味しいものをできる限り美味しい状態で召し上がっていただけたら、と話します。
「父親が苦労している姿は幼い頃から見ていました。でも、楽しそうに、我が道を行っていますね。私はその後を掃除していくような気持ちで、少しでも父親の力にもなれたらいいなと思っています」
今回の取材で強く感じたことは、どんな分野のことでも何かを成し遂げるためには、周りを巻き込みながら“我が道を行く”ことがいかに重要で、それが店(人)の魅力にもつながることになるのだと思いました。中山さんとお話をしていると、お店の紹介というよりはまるで“人生の楽しみ方”について学んでいるような気分になります。ソーセージ作りの達人から、時折、パン・お菓子の職人へと変貌し、気がつくと“暮らしを楽しむ達人”となっている。
「次はね、シフォンケーキをつくってみたいんだよね」
中山さんの頭の中には、今、どんなイメージが描かれているのでしょうか。挑戦はまだまだ続きます。「(親しみを込めて)おじさん! また来ました!」と、通いたくなる理由がはっきりと分かりました。
「シュタットシンケン かくれが工房」
横浜市青葉区奈良町1836 Tel:045-511-7876
営業時間:10:00-18:00 定休日:毎週月・火・水曜日
「シュタットシンケン青葉台店」
横浜市青葉区青葉台1-15-7 Tel/Fax:045-981-5584
営業時間:10:00-19:30 定休日:第3火曜・毎週水曜日
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