丁寧に思いを込めて、めざすは地域一番店! 美しが丘「茶菓 あずきや」
【森ノオトリポーター養成講座修了レポート(1) 今里元子】「あずきや」は、2年前、我が家がたまプラーザに越してきてまだ慣れない頃に訪れた和菓子屋さん。店名入りの大きな暖簾に惹かれ店内へ。家族3人が各々選んだ和菓子やプリンの優しい味わいに、思わず笑みがこぼれたのを思い出します。どんな方がどんな思いでお店を営まれているのか興味が湧き、訪ねてきました。

茶菓箱(写真左)は、茶菓が6個セットになったもの。黄色の小箱に並んで入っている様が何とも可愛らしい。慌ただしい日常の中で、つい見落としてしまいそうな四季折々の風物詩たちが、水上さんの繊細な手法によって表現されている

時折、春の暖かさを届けてくれるかのように、雲間からお日さまが顔を覗かせてくれた、3月18日の取材当日。美しが丘では卒業式を迎える小学校がありました。

 

今回の取材先である「茶菓 あずきや」の店主、水上陽一さんと奥様の清美さんは、卒業式には欠かせない紅白の上用饅頭を、なんと1,000組も作り上げ、私が取材に訪れる前に納品してきたところでした。

 

富山県にあるご実家が和菓子店という水上陽一さん(以下、水上さん)は、大学在学中に京菓子と出会います。

 

昔ながらのお餅やお団子といった和菓子に触れる機会の多かった水上さんは、芸術作品としての側面も持ち合わせた京菓子の、繊細で美しい細工に魅了されました。

 

もともと細かい作業が得意だという水上さん、大学卒業後は手に職をつけて生計を立てたいという思いも後押しして、和菓子職人への道へと歩んでいきます。在学中から開始した修業は、実家のお店とあわせて3店舗。およそ十数年もかけて、ただひたむきに和菓子職人としての技術を磨きぬいてきました。

店主の水上陽一さんは、その柔和な笑顔で心をほっと落ち着かせてくれる。長年にわたる厳しい修業の最中も、愚痴ひとつこぼさず、ひたむきに技術を習得していった

修業が明け、晴れて和菓子職人として、都内の和菓子店で働いていた頃に、社宅のあったこの美しが丘で自分たちのお店を持ちたいね、と抱き始めた夢。縁あって、お二人が希望していた公園の近く、静と動が合わさったこの美しが丘の街並みの一角に、2007年6月、念願の和菓子店「茶菓 あずきや」がオープンしたのでした。

「あずきや」のロゴ。包装紙や紙袋など、至る所に少しずつ雰囲気を変えてプリントされている。ふっくらまあるく温かみのあるこのロゴは、清美さんのデザインだそう

以前から気になっていた「あずきや」の店名の由来を質問してみると、その答えはとてもシンプルなものでした。

 

「小豆(あずき)は和菓子の“基本”だから」

 

でも、その“基本”に込められた思いは深いものでした。

 

日々の菓子作りや接客販売に対しても、常に基本の行いを疎かにすることなく目の前のものと向き合っていく、そのような真摯な姿勢を崩さない強い思いが込められているのだそうです。

 

「あずきや」とあえてひらがな表記にしたこともまた、お店にとっていいこと尽くしだったとか。「店の前を通っていく小さな子どもさんが、『あずきや』って書いているね、あずきや! あずきや! って笑顔で読んでくれるんです」そう嬉しそうに話してくれました。確かに、お客さんは大人だけじゃないですもんね。小さなお子さんでも気軽に入ってもらいやすい、そんな温かくて気取らない雰囲気を、この店名からも感じ取ることができました。

店内の様子。ショーケースには、旬の和菓子や上生菓子、季節のプリンが用意されている。取材に訪れた時は、春の名物いちご大福や桜餅、お彼岸のお供えものであるおはぎが並んでいた

 

最中や焼き菓子など、どれにしようか迷ってしまうほどの豊富なラインナップ! 御進物から手頃なお持たせまで、色々な場面で喜ばれそう

水上さんご夫妻の丁寧な思いは、もちろん、店内の商品にもしっかりと注がれています。

 

どの商品も、開店当初より、お二人が日々意見やアイデアを出し合って生み出してきたものばかり。時にはお互い一歩も譲らずバトルが生じることもあるのだとか。

 

実は水上さん、和菓子職人でありながら、今でもケーキをホールで丸ごと食べてしまうほどの洋菓子好き! 店内を見渡してみると、和菓子の他に季節のプリンやロールケーキ、多種多様な焼き菓子が豊富に並んでいます。

 

数ある商品の中で、思い入れの深い、お勧めしたいお菓子は何かと尋ねてみました。ひとつは、開店当初から人気で今では「あずきや」の顔でもある、生どら焼き。

 

最初からあんこと生クリームを混ぜることなくサンドすることで、食べたときに生クリームの味とあんこの味をそれぞれに味わうことができ、その後次第にふたつの味が融合して奏でる風味を感じていただきたいとのこと。

 

生どら焼き(フレッシュクリーム)の断面はこんな感じ。実際に試食させてもらった。さっぱりと後を引かない生クリームが北海道産の小豆と口の中で出会って、何とも上品な甘さの味わい。卵生地も軽く、あっという間にペロリ!

 

そして、もう一つのお勧めが、「茶菓(さか)」。普段はあまり馴染みの少ない上生菓子を、もっと身近に感じてもらいたい、そしてお茶と共に気軽に召し上がってもらいたいとの思いで、通常の大きさの半分の可愛らしい生菓子が誕生しました。

 

「茶菓」は、小さいが故に手間暇かかり、作り上げる苦労は想像以上のものだそう。それがゆえに、水上さんを和菓子の道に導いた、あの京菓子の繊細な世界観は、直径3センチほどの舞台で見事に表現されています。

 

お二人が時間と思いを込めて、日々真正面から向き合っている手作りの味。保存料や防腐剤などを一切使うことのない製法のため、その出来栄えは、気温や湿度によって大きく左右されるのだそう。

「春先は朝の4〜5時から仕込み始めるのですが、開店までの数時間で餅の触感や風味が変わってしまうこともあるんです。出来上がりを試食してみて思っている味や触感が少しでも違っていたら、全部いちからやり直しなんてこともあるんですよ」と、真剣なまなざしで話してくれる水上さん。

作業風景。ちょうどプリンが蒸しあがったところ。どんな時も基本に忠実に、丁寧さを忘れないでお菓子に向き合う水上さん

開店当時からの試行錯誤は、今でも尽きないそうです。それでも、自分たちが美味しいと思えるものを、自信を持って提供したい、お二人は口を揃えて語ってくれます。その思いの先にあるもの、それは「あずきや」のお菓子を慕って足を運んできてくれる地域のお客さんの存在です。常連さんから初めて立ち寄られるお客さんまで実にさまざま。

 

そんなお客さん一人ひとりの好みに少しでも近づき、その期待に応えていくことで、より多くのお客さんの舌と心を幸せを届けたい……。水上さんご夫妻の、柔らかな物腰の中にも、決して消えることのないお菓子作りへの情熱の炎が感じられました。

 

今年6月で丸8年目となる「あずきや」。「品数も増えて、ちょっとは成長したかなー」と、控えめに振り返った水上さんでしたが、これからの夢を教えてくださいとの問いに、迷うことなく、「めざすは地域一番店です」と力強い答えが返ってきました。

 

その言葉の中に秘められた思いを私なりに考えてみました。

 

和菓子の味で地域一番! はもちろんのことながら、地域密着度も一番をめざしているのではないかな、と。地域の方々が気軽に訪れ、お気に入りのお菓子を手に取って笑顔になって帰っていってもらえるように。取材中にも地域の常連さんたちが、「あずきや」のホッと笑みがこぼれる味わい深いお菓子を買い求めに、何度となく訪ねて来ていました。

 

お気に入りのお菓子を探しながら、水上さんご夫妻との触れ合いのひと時を楽しんでいる、そんな柔らかな空気感がそこには存在していました。

 

私もこれからは、美味しいお菓子とお二人に会いに、「あずきや」に足を運ぶことでしょう。読者の皆さんも、美しが丘に遊びに来られた際は、ぜひ「あずきや」を訪ねてみてくださいね!

水上さんは昨年夏に全国和菓子協会が主催する選・和菓子職で、「優秀和菓子職」に見事一発で認定された。これは、誰もが認める優れた和菓子職であり、創作的な手づくり和菓子ができる技術があることを証明するものだそう。現在横浜市内の認定者は水上さんを含めた2名のみ!

Information

「茶菓 あずきや」

住所:横浜市青葉区美しが丘2-18-9

電話:045-901-8692

営業時間:9:00-19:00

定休日:火曜日

※写真掲載の商品価格は予告なく変動することがあります。

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この記事を書いた人
今里元子ライター卒業生
大阪府出身、青葉区在住。2009年生まれ、2014年生まれの2人の男の子の育児に奮闘中。身体を整えるべく始めたヨガの魅力にはまり、ヨガの動きや考え方を追求。「ヨガ=つながり、結びつき」の精神をモットーに、縁あって出会えた場所やもの、こと、そして人とのつながりを大切に、日々新しい発見にワクワクしながら生活している。
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