東急田園都市線藤が丘駅といえば、昭和大学藤が丘病院がまちのシンボルとして知られていますが、そのランドマークが誕生する前からの藤が丘を知る人は、今ではどれくらいでしょうか。
トヤマ時計眼鏡店の2代目の外山高嗣さんは、生粋の「藤が丘っ子」。時計職人のお父さん・紀一さんが37年前に独立して店舗を構えた場所が、藤が丘駅の真ん前でした。昭和大学藤が丘病院も林立するマンション群もまだなく、里山の情景が色濃く残っていたといいます。
今年、トヤマ時計眼鏡店はレンガ色の小洒落たビルの3階でリニューアルオープンしました。「自宅兼店舗だった前の建物を壊す時には、とても複雑な気持ちでした。愛犬のポチと一緒に住んでいた家がなくなると思うと……」。その時、少し淋しい思いを抱えたのは、高嗣さんだけでなく、長年藤が丘を歩いてきた人たちもきっと同じ。時計や眼鏡、貴金属がずらりと並ぶ路面店に、いつ行っても同じ馴染みの笑顔が出迎えてくれる。トヤマ時計眼鏡店は、もしかしたら大きな病院以上に地域の「心のランドマーク」だったのかもしれません。
「今は、眼鏡の価格破壊が進んでいて、ファッションとして気軽に取り入れられるようになっています。だけど、眼鏡は本来、目の健康のためのもの。遠くが見えづらいのか、普段パソコンを使う仕事をしているのかなど、目の状態や使い方に合わせて調整すべきものなのです」(高嗣さん)
だから、店に来たお客さんとは、じっくり対面で話をし、「よく見える眼鏡」を提案するようにしています。
時計の修理は、まさに「上を見るとキリがない世界」らしく、一箇所だけ部品を直せばいいというものではなく、精巧な機械全体のバランスを整えていく、とても緻密な作業なのだといいます。
「手間のかかる子ほど可愛いといいますが、時計はまさにそんな存在。どこか調子が狂っている時に、小さな機械の奥深くまで原因を探っていき、あ、ここが原因だったのか! と見つけて、ビシッと調整が決まった時の手応えといったら!」と、職人魂を炸裂させる高嗣さんです。
「商店会の若手たちと、いつもダジャレばっかり言っているでしょ。でも、みんなでワイワイ話しながら、“あ、できるかも”と、条件がそろう時がある。汁祭りもやるのは大変なんですが、でもやっぱり、やれば楽しいんですよ」
森ノオトが藤が丘駅前公園で「あおばを食べる収穫祭」を開催できるのも、柔軟な発想力で新しい企画を受け入れていこうという、藤が丘商店会の機運があるからです。「新しく藤が丘でお店を始めた方、地域の方々、いろんな人を巻き込みながら、藤が丘を元気にしていきたい」と、高嗣さん。壁にぶつかったり、崖から落ちるような気分になること(!)があっても、みんなで意見を交わしながら手を携えて乗り越えていける楽しみは、職人としての孤高の作業に没頭するのとはまた異なる、新たな発見だったようです。
30年後、今のお父様と同じ年齢になった高嗣さんは、藤が丘のまちをどう見るのか。また藤が丘の景色はどう変わっているのでしょうか。37年前、まちがまだなかったころに始まった小さな時計眼鏡店は、今、見ればクスッと笑いたくなるような看板を掲げ、新たな一歩を踏み出しました。職人としての頂を見つめ、地域という水平を見通し、身につければ「地域愛」が心に芽生える眼鏡をまちの人に与えてくれる、そんな高嗣さんは、間違いなく藤が丘の「心のランドマーク」のような存在になっています。
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