江戸時代から続く農家の12代目という平本貴広さんに連れられて、家の裏手から丘をのぼり畑に向かうと、スコーンと広い空が広がり、台地の上に整然と並ぶ畝には、たくさんの種類の野菜や花芽で賑わっていました。
「種類で言えば50くらい、品種ならば100以上の野菜を育てているから、試して、つくって、採って、出して、片付けて……と、とにかく忙しくて」と、トウのたった白菜の花芽を見ながら笑います。
「今は、芽キャベツ、プチヴェール、カーボロネロ、ビーツ、かぶ、パクチー、チコリー、フェンネル、高菜にセロリ……」と、ひと畝ひと畝歩くごとに、違う名前の野菜が次々に出てきて、平本さんはまるで野菜の博士のよう。そして、平本さんの畑は、生きた野菜の図鑑みたい! と感心してしまいました。
「平本さんは新しいことにどんどんチャレンジするので、次はどんな野菜をつくるのかな、と、料理人としてワクワクします。そして、一つひとつの野菜を、きちんと愛情込めてしっかりとつくりこむのが、平本さんのすごいところ」と、横浜駅西口「大ど根性ホルモン」オーナーシェフの椿直樹さんは平本さんに絶大の信頼を寄せます。
神奈川区羽沢町は、横浜イチのキャベツ産地で、平本さんも6、7年前までは、キャベツを中心に、ブロッコリー、大根、レタスなど、小品目を大量出荷していました。転機が訪れたのは、あるスーパーとの出会いから。「保土ヶ谷区の松原商店街にあるスーパーの方から、“地場野菜のコーナーをつくるんですが、売り場を畑にしたい。畑にあるままの姿で野菜を売りたい”と相談されたんです。そこから、つくる野菜がどんどん変わっていって、多品種を直接販売するような形に変わっていきました」(平本さん)
椿さんと平本さんのお付き合いも、平本さんが少量多品目栽培に切り替えたころのことで、「レストランのシェフから教えてもらって野菜をつくることもあります。自分でも珍しい野菜を探すようになって、農業がどんどん楽しくなっていった」
平本さんは「はざわ育ち」というブランドを仲間と立ち上げ、今では料理教室や食育イベントなどに引っ張りだこ。キャベツのようにまん丸でひと懐っこい笑顔と、やわらかな語り口にファンがつき、「少量多品目、生産者と消費者が直接つながる」横浜の農業スタイルを牽引する立役者になっています。
「平本さんは、よくお店にきて、お客さんと交流してくれる。野菜のことを聞けば、なんでも答えてくれるし、一緒にいて、本当に頼もしい農家さんです」と、椿さん。
平本さんに今後の夢を聞いてみると、「食育を大切にしたいですね。学校やイベントなどに出向いて、野菜ぎらいの子どもたちに、野菜の美味しさを伝えていきたい」と言います。
「食べてみて、美味しいと思えること。それが私の考える羽沢のブランドです。これからも、味にこだわった野菜作りをしていきたいですね」と語る平本さんが、次にどんな野菜に挑戦し、横浜の食卓を彩るのか、注目しています!
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