環境と経済の両立、モデルになるポートランド! Field Trip in PDXレポート(4)
ポートランドといえば、エコでも知られています。全米で最も緑が多い街と言われ、エコ建築に認証されている建物が多く、公共交通が整備されていて脱クルマが進んでいます。地球温暖化対策を進めながら人口増加と経済成長を両立している、まさに「環境未来都市」。ポートランドの環境政策について調べてみました。

<CO2を削減しながら経済成長を続ける>

米国・オレゴン州のポートランド市は、全米で最もエコな都市としても注目を集め、今年2月には環境未来都市の国際シンポジウムが開催されるなど、日本でもその風土に学ぼうという機運が高まっています(森ノオトでたいへんお世話になっている、横浜市温暖化対策統括本部の信時正人さんが参加したシンポジウムの資料を、読み込んでみました!)。

 

ごみの資源化が進んでいるポートランド。郊外の一戸建て住宅では、家庭ごとにごみ収集事業者と委託契約を結ぶ。ごみの収集は週に1回から2週間に1回に減らされ、それによるごみ排出量も減っているとか!

 

世界が気候変動対策への共通の目標を掲げた1997年、京都議定書発効の年より4年さかのぼる1993年、全米初の気候変動対策を打ち出したポートランド。交通や建物の省エネ、再生可能エネルギーの普及、リサイクル、植樹や車の燃費向上などの数値目標を掲げ、1990年から2013年までにCO2排出量を14%削減(この間全米では7%増加)、一人当たりの排出量35%マイナスを達成しました。

 

日本では、環境対策を語ると「エネルギーを減らすと経済が縮小する」という意見が強く、環境と経済の両立が課題となっています。その答えが、ポートランドにありました。

 

ミシシッピ通りそばにあるSPINランドリーラウンジ。お洒落なカフェやWi-Fiの飛ぶワーキングスペースがあり、コミュニティの集いの場になっている。洗剤は環境に配慮したものを無料で提供、販売もしている

 

ここでおさらいです。CO2=二酸化炭素は、主に化石燃料を使うことで排出される温室効果ガスです。化石燃料とは、石油、石炭、天然ガスなどで、発電をしてエネルギーのもとになり、石油やガソリンとして燃料やものづくりに使われます。私たちの社会にはなくてはならないものですが、化石燃料を使うほどCO2を排出し、地球のまわりを温室効果ガスがおおうことで、現代の地球温暖化や異常気象の原因となると言われています。先進国の豊かで便利な世の中と引き換えに、豪雨や洪水、渇水、山火事など、途上国ほど気候変動の猛威にさらされている現状が指摘されています。さらに、化石燃料は有限な資源なので、あと数十年から百数十年で枯渇すると目されています。結果的に、私たちの生活そのものの基盤が脅かされることとなり、今、全世界の共通の目標として、CO2を減らしていく課題を共有しています。

 

コインランドリーのごみ置き場は、ごみの分別や環境に対する啓発のポスターが貼られており、エコフレンドリーな人たちへの情報発信の場にもなっている

 

ポートランドでは、1990年から2013年まで、CO2排出量を減らしながらも人口を30%増やし、雇用も20%増え、ポートランド市内のGDPは300%以上増えています。太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギー分野や、エコ建築、都市の緑化やエネルギーの面的利用を進める都市開発、自転車産業などの最先端の取り組みが、ポートランドのあちこちで見られます。PDC(ポートランド開発局)では、こうしたクリーンテクノロジー産業に力を入れ、1万人の雇用創出を掲げています(『ポートランド ?世界で一番住みたい街をつくる』山崎満広・著)。さらに同著によると、ポートランド市では環境都市開発のブランディングと、そのノウハウの輸出を目的として「We Build Green Cities」を立ち上げたと紹介されています。そのコンセプトは次の通り。「(略)我々は、グリーンな街を目指す世界中の人々と、我々が自信を持ってお届けするアイデア、製品、そしてサービスを共有する。そして協働と発明の精神で、ともに次世代の都市の課題を解決していく」と。つまり、環境未来都市を掲げる世界各国の都市が、ポートランドを訪れるのは、「自分たちの街のため」でもあるのです。

 

ハリウッドファーマーズマーケットで山川紋さんがエリキシールを購入したら、目の前でびんに詰めてくれた。本体価格にびんのデポジット(預かり金)が上乗せされる

 

環境先進都市・ポートランドは一朝一夕でできあがったわけではありません。かつてポートランドはアメリカ全土で広がるクルマ社会と高速道路の建設ラッシュで樹木が切り倒され、「ストンプタウン(切り株の街)」と言われてきました。市内中心部を流れるウィラメット川沿いは鉄鋼業や造船業などが発達し、全米で一番汚い川とも呼ばれました。過度に進むクルマ社会が、オレゴンの豊かな自然を破壊し、環境を汚染していく状況に、市民の反発が高まっていったのが1960年代後半から70年代にかけてのことです。

 

1967年にオレゴン州知事になったトム・マッコール氏、1973年にポートランド市長になったニール・ゴールドシュミット氏という、二人の環境派の首長が、環境政策に大きく舵を切るようになります。

 

私たちが2日間通ったJean’s Farmでは、ジャーにミントやエルダーフラワーを入れたハーブウォーターを出してくれた。ポートランドではメイソンジャーをよく見かける

 

1969年にはバスとライトレールを統合した公共交通網「トライメット」が誕生し、1986年には郊外まで延伸するライトレールMAXが開通。1971年には、びんに初めてデポジット(預かり金)を課して、飲料容器のリユースが始まりました。1979年には都市成長境界線(UGB)が定められて、人口と産業を集中するエリアと、自然と農地を守るエリアを明確に線引きしました。1994年には全米初のグリーンインフラプランを策定、1996年には全米初の再生可能エネルギー戦略、自転車都市のマスタープランを策定し、2001年にはエコ建築に対して支援策を講じ、1895年に建てられた古い倉庫を改築したパール地区の「エコトラストビル」では全米で初となる環境建築認証「LEEDゴールド」を取得しました。全米でもっとも環境建築の多い街であると言われています。

 

ポートランド発のオーガニックスーパーマーケット「New Seasons Market」では、量り売りがスタンダード。紙袋、ビニール袋ともに課金される。そういえば、New Seasonsでも、TRADER JOE’Sでも、WHOLE FOODSでも、プラスチック製のレジ袋は存在せず、買い物袋はマイバッグか、有料で紙袋を使う。その紙袋も、森林認証紙やリサイクルペーパーなど、環境配慮型だ

 

New Seasons Marketでは、買い物袋に課金されたお金の一部を、貧しい人への支援、環境保護、教育分野で活動するNPOに寄付する仕組みがある。買い物時にレジで渡されたコーヒー豆を、寄付したい分野のメイソンジャーに入れる

 

 

<Drive, Transit, Bike, Walkを使い分ける>

ポートランドは、全米初の「Bike Friendly community」でもあり、市内に約500kmもの自転車道があり、約6%の通勤者が自転車を利用しているといいます。私たちが暮らした郊外の住宅地でも、散歩しているとバックパックを背負って颯爽と自転車で通り過ぎる人とすれ違いました。自転車産業の成長はものすごく、1994年から2011年までに254%ものGDPの伸び、さらに2036年まで346%の成長が見込まれています。2015年12月には、ウィラメット川に架かる12本目の橋「ティリッカム クロッシング橋」が開通しました。ティリッカム橋は全米で初めて自動車が通れない橋で、ライトレールと自転車、徒歩のみで通行できます。橋から眼下に広がる雄大なウィラメット川を見てはしゃぐ子どもたち。子連れでヨタヨタと歩く私たちの横を、軽やかに自転車が駆け抜けていきます。

 

私たちが滞在したAirbnb(民泊)の近所を散歩していると、自転車通勤と思しき人たちが颯爽とペダルを漕いでいる姿をよく見かける。バックパックとTシャツ、半ズボンのスタイルが一般的

 

ポートランド市では、ライトレールなど公共交通網の整備に力を入れ、自動車所有への増税などで、脱クルマ化が進んでいます。市のホームページに、自動車、公共交通、自転車、徒歩の交通分担率のデータが掲載されていました。市内の中心商業地や中心市街地では、自動車利用率が低い(34-42%)に対し、郊外では69-81%と高く、全市で完全に脱クルマが進んでいるわけではありません。中心市街地では徒歩、自転車、公共交通を重視し、郊外ではクルマも利用しながら、ライフスタイルに応じて「選べる」のがポートランド流なのだと思いました。

 

ティリッカム橋を通行中の私たち。左をライトレールが走り、真ん中が自転車、いちばん右側が歩行者

 

1日で何台自転車が通過したのか表示される。トライメットのライトレールが通行中

 

実際、私たちが過ごした郊外では、子連れで公共交通だけを利用するのは難しかったのも事実です。全市に張り巡らされているバスやライトレールは便利ではありますが、乗り換え、乗り継ぎなどで、目的地までは1時間近くかかるケースもあり、1時間に3本しかないバスに乗り遅れるとアウト。大荷物と寝てしまった子どもを抱えるとなすすべなく、Uber(ウーバー:個人タクシーの配車アプリ。スマートフォンで現在地と目的地を指定すると、近くにある個人タクシーが迎えに来てくれて、そのまま目的地まで運んでくれる。事前登録しておいたクレジットカード決済なので面倒な支払いトラブルもなし)に助けられることもしばしばでした。

 

郊外での移動はバスを使った。バスの前に自転車を2台置ける仕組みになっていて、自転車利用者がバスを使うシーンも多く見た。車椅子やべビーカーでの乗車がしやすく、乗降の際にはフラップがおりてスロープ状になって、ラクラクだった

 

いくら公共交通が発達しているとはいえ、こどもが泣いたり疲れて動けなくなると、もう降参! そんな時は自動車に頼るのもあり?

 

 

<街全体がエコ建築の見本市!>

ポートランドの中心部は、街全体がエコ建築の見本市とも言える魅力的な場所でした。

 

もともと、環境ライターとして特に建築分野を取材することの多かった私。数多の書籍で紹介されている、ダウンタウンの北に位置するパール地区の都市再生事例は、心踊るものでした。

 

パール地区のシンボル的な存在・エコトラストビル。レンガの壁を覆うグリーンウォールが印象的な外観

 

パール地区はもともと、輸出用の倉庫が林立する地区で、貨物輸送鉄道が引かれていました。輸送が鉄道からトラックに変わることでブラウンズ・フィールドと呼ばれるようになったエリアが生まれ変わったのは、1990年代のことです。市当局とデベロッパーが荒れ果てた旧倉庫群を再生し、でエコ建築、建物間のエネルギーや水の相互利用、環境に配慮した公園の整備、食住遊が一体となった複合使用(ミクストユース)など、まち全体がエコな生態系のように見えてきました。

 

エコトラストビルは、旧倉庫の雰囲気が生かされた美しいリノベーション。木の構造は金物で継がれているが、それがシャープなアクセントになっている。木製の柱にはステープルでさまざまな活動情報が貼られている

 

特に印象的だったのが、パール地区の中心部にあるシンボル的な建物「エコトラストビル」です。先に述べた全米初のLEEDゴールド認証の建物で(LEEDとは米国発・グリーンビルディング協会が開発・運用している建物の環境性能の評価制度で、Leadership Energy Environment Designの略)、1895年に建てられた旧倉庫をリノベーションしています。旧倉庫の廃材をほぼすべて利用し、天窓を穿ち照明のエネルギーを削減し、さらにはグリーンウォールによる遮熱や雨水利用など、エネルギーを効率的に循環しています。

 

テナントは、生態系保護で有名なNPOエコトラスト、環境保護で有名なアウトドアブランド「パタゴニア」や、地産地消のオーガニックピザ店「ホットリップス」、ポートランド市サスティナビリティ計画局など、産官民・非営利の多様なセクターが入居しているのが特徴です。

 

最後のギャザリングで、旅の感想を語り合うライフサンプリングツアーの一行。パタゴニアのロビーで、ホットリップスのピザやビールでお腹を満たしながら、最後の交流の時間を過ごした。吹き抜けを介してオフィスとつながっている。子どもたちが賑やかでヒヤヒヤしたが、そんな様子も温かく受け入れてくれるポートランドの風土に感謝!

 

今回私たちが参加した、ポートランドの日常を巡る旅「Life Sampling」ツアーの最終日、天候があまりよくないなか、自由時間の最後の集合場所がこのエコトラストビルの1階ロビーでした。パタゴニアの店舗と飲食店の前の通路で、5日間のツアーの感想を分かち合う時間を持ちました。夕食にピザをテイクアウトして食べながら、それぞれ5日間の旅で感じたことを語り合うなかで、こどもたちは階段で声をあげながら遊んでいました。吹き抜け越しにつながるオフィスの入居者は嫌な顔一つせずに「Hi」と声をかけてくれ、多様な人たちを受け入れてくれるポートランドのおおらかさを感じました。ビルで働く人々がこのロビーで顔を合わせ、意見交換することも度々とのことで、多様なセクターが協働しやすい土壌がすでにここにあるのだな、と思いました。

 

オレゴン州兵訓練所・兵器庫(1881年建設)が600席の大ホール舞台と200席のスタジオ劇場のシアターに変貌した「ガーディングシアター」は、ポートランド初のLEEDプラチナ認証の建物。旧建築の95%の廃材を再利用し、雨水利用や天井の放射冷暖房、空気循環やCO2測定など、最新の省エネ設備が整っている

 

パール地区にあるTANNER SPRING PARK。NPOグリーンワークスが運営している。生態系の保護と修復を目的とし、そのため犬が入れない。線路の廃材を使ったデザインで、雨水利用、水の浄化システムが整備されている

 

公園の端には東屋のような人が集えるスポットがあり、コミュニティでの交流がデザインされた設計だ

 

今回私たちが参加した、ポートランドの日常を巡る旅「Life Sampling」ツアーを開催したポートランド在住のユリ・バクスターニールさんは、「ポートランドはある日突然生まれたユートピアではなく、行政による綿密に計算された施策と、40年に及ぶ市民活動の両方があって成り立っている街」と言います。ポートランドの街歩きで見てきたさまざまなエコ建築、整備された街区、ローカルビジネスの活気、企業誘致の成果など、帰国後に調べれば調べるほど興味深く、再訪した時にはしっかりと取材したい、そして我が街横浜に持ち帰りたいと思うことばかりでした。

 

ポートランドの地産地消ライフの象徴とも言えるファーマーズマーケット。私たちのAirbnbから徒歩5分ほどのところで毎週土曜日に開催されているハリウッドファーマーズマーケットでは、この日はキッズデイで、ライブイベントがおこなわれていた

 

野菜、苗、グルテンフリーのスイーツ、ジュース、チョコレート、ハチミツ、ソーセージまで、食まわりのものがなんでも揃うファーマーズマーケット。地元の農家さんとの交流も楽しい!

 

 

参考書籍

“ポートランド 世界で一番住みたい街をつくる”

“TRUE PORTLAND -The unofficial guide for creative people- 創造都市ポートランドガイド Annual 2015”

“緑あふれる自由都市 ポートランドへ (旅のヒントBOOK)”

“グリーンネイバーフッド―米国ポートランドにみる環境先進都市のつくりかたとつかいかた”

 

参考資料

内閣府:「環境未来都市」構想 http://future-city.jp

ポートランド交通局:https://www.portlandoregon.gov/transportation/59969

Information

子連れでPDXツアー レポート集

(1) 概要編:(北原)

(2) 子連れ旅編:(船本)

(3) ものづくり文化編(北原)

(4) 環境編(北原)

以下、続きます!

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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