子どもが生まれてから、たくさんの絵本とふれてきました。そのなかでも、特に印象に残っている一冊が、『14ひきのあさごはん』(作・いわむらかずお、童心社)です。朝陽が差し込む森の中、おじいさん、おばあさんねずみ率いる14匹のねずみの家族が、早起きをして、全員で朝ごはんの支度をする姿が鮮明に描かれています。野いちごを摘みに出かけたり、外で湯気が立ちのぼるきのこのスープをつくったり、その一つひとつの描写が美しく温かい気持ちになる絵本です。そのなかで登場するのがどんぐりの粉でつくった焼きたての「どんぐりパン」。パチパチと薪が燃える“だいどころ”でつくられる「どんぐりパン」、いつしか、このどんぐりパンを食べてみたい! という夢が、子どもと私の中で密かに芽生えていました。
そんな願いを心よく受け入れ、森の中でどんぐりパンを味わう機会をつくってくれたのが、横浜市の指定管理者として旭区にある「こども自然公園」内の水田、畑、雑木林などの管理運営をしている「特定非営利活動法人こども自然公園どろんこクラブ」の藤井優子さんです。横浜の中でも最大級の広さをもつこの公園へ、森ノオトメンバーやその家族と一緒に、秋の遠足に出かけました。
藤井さんと職員の山下直子さんに案内され、公園の奥へと足を踏み入れていきます。カサカサと音のなる落ち葉の上を歩きながら、まるで獣道のようなところを進んでいくと、その先にぽっかりと小さな広場が表れました。大きな樹木に囲まれ、手作りの木のベンチに、奥には小さなエコストーブがひとつ。藤井さんたちが少しずつ手を加え整えてきた、まるで秘密基地のような場所です。
さあ、ここで、どんぐりパンをつくります。
今回は、事前に藤井さんたちが集めておいてくれたどんぐりを使用します。どんぐりにもたくさんの種類がありますが、この日は、アクが少なく、そのまま煎ったり加熱したりしても食べられる「マテバシイ」の実を使いました。森ノオトでは、以前に「スダジイ」を使ったどんぐりクッキーのレシピを紹介したこともあります。こちらもぜひご覧くださいね。
ここで、レシピを簡単におさらいします。
「どんぐりパンのつくり方」
材料
(パン生地、食パン1斤ほどの量)
強力粉 250g
塩 5g
オリーブオイル 5g
ドライイースト 2g
水 160g(季節によって調整)
(その他)
どんぐり(今回は、マテバシイ) お好みの量
*スダジイやマテバシイなどのシイの実のどんぐりは、アクも少なくアク抜きの必要はありませんが、シラカシ、アラカシやコナラ、クヌギなどのどんぐりは、アクが強いため何度も茹でこぼしてアク抜きが必要です。
枝
アルミホイル
ーつくり方ー
1 強力粉と塩を入れた大きなボールに、あらかじめドライイーストと水、オリーブオイルをよく混ぜ合わせておいたものを加え、へらで混ぜる。手で5分ほどよくこねる。丸くまるめ、タッパーかビニール袋に入れ、一晩、一次発酵させる。
2 どんぐりを厚手のビニール袋に入れ、上から木づちで叩き、殻と実に分ける。実をビニール袋に戻し、再び上から木づちで叩き、好みの大きさに砕く。
3 一次発酵を終えたパン生地に、?のどんぐりを加え練り混ぜる。
4 木の枝の先端(パン生地を巻きつける部分)にアルミホイルを巻き、そこへ適当にカットした?のパン生地を巻きつけていく。巻きはじめる前に、生地はある程度細長くのばしておくと巻きやすい。
5 炭火に当てながら、表面がこんがりと色づくまで焼く。
6 出来立てを召し上がれ!
*パン生地は、日頃我が家でよくつくるパン生地の配合です。あくまで目安になりますので、お好みのパン生地でどうぞ。キャンプなどの場合、?を自宅で前日までに済ませておくととても便利です。
「まずは、木質の柔らかいスギやヒノキなどで勢いよく火を付け、その後、クヌギやコナラといった木質の固い薪を足していくと、火付きがよく火持ちのよい焚火ができます」と、藤井さん。
さらにもう一つ。焚火など火をいじる作業をする時には、綿100%の軍手がベストとのこと。燃えやすい化繊などが混ざった素材のものでは、火の粉が飛び散った際にすぐに燃えてしまい、とても危険だからです。焚火ひとつとっても、あまり知られていないことも多く、やはりそこにはプロならではの奥深い知識が必要だと思いました。
パン焼きが終わると、大人たちは炙りものタイム。マシュマロ、焼きりんご、焼きバナナ、ソーセージ、焼きおにぎりなど、思い思いに楽しみます。そして、子どもたちはというと……
こうして、「どんぐりパン」とのはじめての出会いは、藤井さんと山下さんが用意してくれた最高のシチュエーションのなかで実りました。
腐葉土の湿った香り、冷んやりとした土の感触、かさかさと鳴る落ち葉の音、上を見上げれば深い緑とすき間から見える澄んだ青空。そこにある、パチパチとはぜる薪の音、立ち込める煙の香り、子どもや大人のしゃべり声や笑い声。その風景の一つひとつが美しく、ただそこに居るだけで、五感が研ぎ澄まされ、身体の芯からリラックスすることができます。
森の中に突如現れた小さな広場は、そこにいる誰もが心地よくなるような、自然からの贈り物で満ちあふれた空間でした。
「こども自然公園」
住所:横浜市旭区大池町65-1
開園時間:終日開園
休園日:なし
TEL:045-353-1166
HP:http://www.city.yokohama.lg.jp/asahi/guide/shisetsu/midori/park/kodomoshizen/
「特定非営利活動法人こども自然公園どろんこクラブ」
営業時間:9:00-17:00
営業日:火、金、土、日、祝
TEL/FAX:045-352-2820
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