2016年は『横浜の食卓 〜ど根性レシピ〜』の制作で、横浜の北から南まで、農地や工場、レストランを駆け巡った1年でした。
マスマス関内フューチャーセンターを運営する関内イノベーションイニシアティブ代表の治田友香さんに声をかけられ、「濱の料理人」代表で「大ど根性ホルモン」オーナーシェフの椿直樹さんに会ったのは、2016年1月のこと。地産地消の仕掛け人として有名な椿さんとは、以前もイベントで何度かお会いしたことがありましたが、じっくり膝を交えて話しをするのは初めてでした。
「当時シェフをしていたスペイン料理店で、初めて横浜の野菜を使った時に、その鮮烈な味わいに鳥肌が立ちました。横浜野菜ってすごい! と。それから都筑区の農家さんを訪ねて、畑に実る作物から旬を学びました」(椿さん)
椿さんが地産地消を発信するようになって16年。この間、料理教室や食育イベント、講演、料理人のネットワークづくりと、精力的に活動を続けてきた椿さんは、2012年に独立して横浜市西区戸部町に「ど根性ホルモン」という居酒屋を開きます。そこで、その日採れた横浜野菜を豪快に盛り付けた「ど根性サラダ」が店の看板メニューとして知られるようになります。私も戸部のお店に食べに行ったことがあるのですが、野菜の色鮮やかさ、食感の多様性、「土の味」に、衝撃を受けたのをよく覚えています。
「椿さんのレシピ本をつくりましょうよ」という治田さんの呼びかけに、その場で椿さんの地産地消に対する思いを聞き取った1時間後に企画書を書き上げて、『(仮)横浜の食卓』出版プロジェクトがスタートしました。
そんな椿さんとご一緒できるのがうれしくて、私の編集経験を少しでも生かせるのならばと、制作を森ノオトで引き受けることにしました。ところが、出版社に企画を持っていくも、未曾有の出版不況で地域に特化したレシピ本は販路が限られていることから難色を示されることが続き、道のりはラクではありませんでした。
そのうち、春が近づいて、冬野菜の撮影チャンスを逃すことはできないと、出版社も決まらないのに取材をスタートすることにしました。「どうなるかわからない」旅路ではあるが、文字通り「横浜の食卓」に新風を巻き起こすプロジェクトにしていきたい、資金は必ず集めるという椿さんの約束に、一つ返事で乗っかってくださったのが、写真家の川名マッキーさん。ご自身も椿さんのお店の常連で、プライベートでも家族写真を撮るほどに親しいマッキーさんが撮ってくださることで、本書の成功は確約されたようなものだと感じました。マッキーさんとお仕事をするのは初めてでしたが、マッキーさんの撮る人物写真は本当に温かく、農家さんの顔も野菜の力強さも料理の表情も、きっと素敵なものになるだろうし、写真を前面に押し出していけば、きっと美しい本になるだろう、と。
取材は順調に進んでいくものの、出版元が決まらない状況で、取材時の新鮮な思いをまずはアウトプットすることが必要と、森ノオトで先行連載を始めました。森ノオトリポーター養成講座を修了し、地産地消のライターとして活動したいという明石智代さんにレポートを頼みました。
あとは制作資金をどうしていくか……。椿さんの意に沿う形で、横浜野菜の魅力をシンプルに伝えるための最も有効な手段は、「クラウドファンディング」ではないだろうかと、春先には方向性が定まりました。治田さんはクラウドファンディングのプラットフォーム「FAAVO横浜」を運営していますし、何より椿さんには多くの応援団やお店の常連さんがいて、本の制作プロセスに関わっていただける人が増やしながら制作できる、またとないチャンスだと、一致しました。
取材と並行して準備を進め、6月1日に目標金額250万円を掲げてスタートしたクラウドファンディング。細かい事務作業を一手に引き受けてくださった成田弥土里さんは、横浜の地産地消を伝える「はまふぅどコンシェルジュ」で、地産地消マルシェの運営などを一生懸命がんばっていて、いく先々で農家さんと信頼関係を結んでいるのがわかりました。クラウドファンディングは、マスマス関内フューチャーセンターの若手スタッフ・堀篭宏幸さんが、本当にていねいに、細やかにサポートしてくれました。
クラウドファンディングでどんどん金額が積み重なっていくなか、7月下旬には、いよいよレシピの撮影に取りかかりました。森ノオトでは今年、大西香織さんの料理家デビューを応援しようと、フードコーディネートを彼女に一任することにしました。元々有名な料理研究家のアシスタントとして、カフェの立ち上げやレシピ本のスタッフをしていた大西さん。季節の植物にに詳しく、旬を大切にする彼女の感性は、きっと椿さんの料理を女性らしいやわらかさで引き立ててくれるだろうと思いました。
撮影場所を提供してくれたのは、これまた森ノオトリポーターの清水朋子さん。自宅兼アトリエの「Glanta(グレンタ)」を2日間スタジオにして、主に清水家、大西家、北原家の食器を集めて、椿さんの料理を家庭の雰囲気で撮影しました。
8月中旬にはクラウドファンディングの目標を達成し、数字はどんどん伸び続け、最終的には212人から339万3000円もの応援が集まりました。椿さんのおおらかで温かい人柄、人と人をつなげてきた力が、数字で示されたのだなあ、と感じました。
FAAVO横浜「横浜発! 新しい食文化を創造するレシピ本をつくりたい!」
これで、制作資金の目処が立ち、農家さんとレシピ撮影が終わったところで、「素材はほぼそろった」ことになります。デザインは森ノオトのながたに睦子さんに頼みました。三姉妹の子育て中の睦子さんですが、根性のある頑張り屋さん。きっといい仕事をしてくれるだろうと期待していましたが、本当に素晴らしい働きっぷりで、打てば響く、気持ちのよいレスポンスでした。
生産者と椿さんの信頼関係がにじみ出てくる写真を生かすことが、本書の何よりのキモになるだろうと、メリハリの効いたデザインを心がけました。
実はこの間、椿さんは8月31日(ヤサイの日)に新店舗「ど根性キッチン」を相鉄いずみ野線「いずみ野駅」ロータリーにオープンさせます。「地産地消の範囲をもっと小さくして、あちこちに点在させていきたい」という思いを体現するかのような、泉区版「Farm to Table」(農場から食卓へ)を実践し始めました。
8月から11月まで、ほぼ全レシピを試作校正して椿さんのつくる料理を理解し、椿さんの思いに寄り添い、ともに走った1年間。何十回と繰り返し読んだゲラ。印刷所に送り出したあとも、「誤字脱字はないかな、大丈夫かな……」と眠れない夜が続きました。そして、12月初旬に本書が完成し、まずは取材協力者、クラウドファンディングの支援者に本を送りました。Facebookにあがってきたのは「とても写真がきれい。読み応えがある!」「農家さんの表情がいい!」「横浜ってこんなに農業が盛んだなんて驚いた」など、本書に対する絶賛の嵐。……ほっと胸をなでおろしました。
この本は、横浜を愛する、本当に多くの方々のご支援と協力で成り立っています。皆さん、ありがとうございました。
本書『横浜の食卓 〜ど根性レシピ〜』をぜひ必携して、毎日の食卓に役立ててください。そして、気に入ったら、椿さんのお店や、本書に登場する生産者を訪ねてみてください。は、横浜がますます大好きになる、横浜野菜をもっともっと食べたくなる、そんな一冊です。
『横浜の食卓 〜ど根性レシピ〜』
著:椿直樹・著
発行:株式会社よこはまグリーンピース
<本書の最新情報は、こちらのページをご覧ください>
https://www.facebook.com/yokohama.dokonjourecipe/?fref=ts
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