私が田部井美佳さんと初めてお会いしたのは2013年の夏。山形県の在来作物(その地域固有の種を継いで受け継がれてきた野菜や、種の保存に関わる文化のこと)を取り上げたドキュメンタリー映画『よみがえりのレシピ』の上映会でした。秋田県にルーツのある田部井さんはボランティアとして上映会を手伝ってくださって、テキパキとした動き、心配りに感激したものです。
その後も、横浜市の地産地消の普及推進を担う「はまふぅどコンシェルジュ」として、コマデリの小池一美さんと一緒に農家さんと飲食業をつなぐ「ロコ・アグリケーション」を開催したり、JA横浜クッキングサロンハマッ子で料理講師を務め、ある時は都筑区の農園で農作業をしていたり……横浜北部の地産地消のあらゆるシーンで田部井さんとは「バッタリ」。それだけ、目に見えない部分でも地道に緻密に、食の活動を重ねている方なのだなあ、と思っていました。
いつか田部井さんとお仕事でご一緒したいなと思っていた時に、2018年の「3R夢なクッキング講座」の講師をお願いできることになりました。ちょうど昨年冬に、田部井さんが代表を務めるはまふぅどコンシェルジュかつ野菜ソムリエとして活動するメンバーによるグループ「はまキッチン」として、横浜市資源循環局の発行する小冊子『丸ごと旬野菜〜使い切りレシピ〜』にレシピ提供されたというタイミング。まさに「3R夢」の実践者ではないですか!
田部井さんのキャリアは、料理研究家・落合愛子さんの娘として生まれたことからスタートします。「母は料理研究家として30数年、教室を開いたり、スーパーのコンサルタントなど、第一線で活躍してきました。おかげさまで私は幼い頃からいいものばかりを食べさせてもらっていたので、舌が、体が、(本物の味を)覚えているんですね」と、語ります。ただ、田部井さんはお母様の後を継ごうとは考えていなかったようで、大学卒業後は憧れていた海外と関われるよう、翻訳の仕事に就きます。
「ところが不思議なもので、母が日本の食文化を海外に伝える仕事をすることになり、その手伝いで、母と一緒にアメリカやヨーロッパ諸国を回るようになったんです。日本の食文化と一緒に、折り紙や書道、和服など、様々な日本文化を伝えるなかで、わたし自身が日本の文化を知らないことに気づいて愕然として、帰国後、茶道を習って、それが今でも続いている趣味になっています」
自身の仕事と並行しながらお母様と海外を巡る生活を続けて10年ほどして、お父様が他界されたことを契機に田部井さんは会社を辞めて本格的に料理教室のアシスタントや食業界のリサーチなどに専念することになります。買い出しで市場に行き、野菜を仕入れるようになると、野菜の良し悪しを自分で判断できるようになりたいと、野菜ソムリエの勉強をして資格を取得したことが、一つの転機になりました。
「ちょうどその頃結婚して、落合から田部井に姓が変わって、偏食だった主人に野菜を食べてもらいたいと、日々料理をがんばったんですね。そうしたら主人の体がみるみる変わっていって、気づいたらメガネが不要になっていました。食は人の体を変えるんだなあ、と身をもって体験した出来事でした」
野菜ソムリエの仲間たちとの交流を深めるなかで、研究熱心な田部井さんは「はまふぅどコンシェルジュ」の講座を受講することになります。
「横浜野菜の底力を知りましたね。石川照雄さん(都筑区)や三枝浜太郎さん(神奈川区)、佐藤克徳さん(緑区)など魅力的な農家さんたちと知り合い、“この人の信念のもとでつくった農作物なら”と全幅の信頼を寄せられるようになりました。それから、農家さんの家に行くと、縁側で種取りをしたり、土間にお神輿があったり、横浜の生活文化を垣間見られることにも衝撃を受けました」
田部井さんの考える地産地消とは、「この人から食べ物をいただきたい、と思える人との出会い」だと言います。農薬や化学肥料を使わないにしても、なぜそうしているのか、その人自身から考え方を聞くことができ、その人に惚れ込んで命ある食べ物をいただくこと。
「農家さんは農作業に忙しくて、自分の野菜のことを伝えきれないことも多いんです。だから、私たちはまキッチンのメンバーがマルシェなどで農家さんに代わって、消費者の方々に、野菜に関すること、旬の情報、地産地消のよさを伝えるようにしています」
農家さんと直接会い、農作業を手伝ったり、出荷の現場などを知ることで、田部井さんの野菜に対する意識はどんどん変化していきます。
「昔は、人参の皮をピーラーでむいて捨てていたんです(笑)。でも、野菜ソムリエになってから、人参の皮と呼ばれるところと実の間がもっとも栄養が豊富で、それを捨てるなんてもったいない!と知って。農家さんが出荷前に人参をていねいに洗っているのを見ると、ああ、この人のつくった野菜ならば安心して丸ごと食べられるな、と納得しました」
それからは、野菜の皮を捨てなくなったという田部井さん。大根の先端部も料理に刻み込んで入れたり、包丁研ぎやシンクの汚れ取りに使ったり、キャベツの芯やみかんの皮をスムージーに混ぜ込んだり……まさに3R夢なクッキングを当たり前のように実践しています。
この夏に開催される「3R夢なクッキング講座」で教えていただけるのは、とうもろこしが丸ごと入った「とうもろこしごはん」。実の甘みを味わうはもちろんですが、芯ごと炊き込んで芯から出るだしまで丸ごといただきます。それから夏野菜のガパオ。旬にたくさん採れる野菜をさっと干してうまみを凝縮させ、さらにピーマンのワタや種まで一緒に炒めて食べるエスニック風の肉野菜炒めです。田部井さんの多岐にわたる知識と経験の一部を、3R夢なクッキング講座にのせて、その先に広がる横浜の農業の風景を感じられる時間になりそうです。
「私はこれまでの料理教室で特にエコクッキングをうたっていたわけでもなく、地産地消の普及啓発活動や、はまキッチンで『丸ごと旬野菜〜使い切りレシピ〜』にレシピ提供するなど、あたえられた仕事に全力を尽くしてきた結果、新たにエコというテーマに向き合うことになったのかな、と思っています。農家さんとお付き合いしてきて、横浜野菜の魅力にはまって、旬の野菜を丸ごと使い切る3R夢なクッキングレシピを提案できるのは、新しい切り口で農家の仕事を伝えることにつながるのでうれしいですね」と、田部井さんは語ります。
横浜で育ち、世界を旅し様々な食に出会い、今では料理という枠にとどまらず、農と食卓をつなげる仕事に邁進する田部井さん。世界の注目が日本に集まる2020年を見据え、「横浜の農作物を世界に発信していきたい」と今後の展望を語ります。伝えるには、その土地の文化を知り、学び続けること。そんな風に地に足つけて、日々、横浜の農、野菜に向き合い、料理という形で発信している田部井さんと、これからも様々なシーンでご一緒することが増えそうで、楽しみです!
田部井美佳さんのブログ
https://ameblo.jp/mikarin030312/
3R夢なクッキング講座〜2018夏〜
2018年6月21日(木)藤が丘地区センター
2018年6月22日(金)山内地区センター
時間:両日とも10:00〜12:00
定員:各12名
参加費:無料
保育あり、1歳以上未就学児4名まで
締め切り:2018年6月1日(必着)
申し込み方法:氏名、希望日、会場、保育希望の場合はお子様の名前、性別、生年月日を明記し、ao-shigen@city.yokohama.jpまで
問い合わせ:青葉区役所資源化推進担当(TEL 045-978-2299)
平成30年度はまふぅどコンシェルジュ講座受講生を募集しています!
応募締め切り:2018年5月14日(月)
http://www.city.yokohama.lg.jp/kankyo/nousan/tisantisyo/torikumi/concierge-apply.html
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