赤ちゃんと頬を寄せ合うお母さん、幼い兄弟を笑顔で見つめるお父さんとお母さん。展示された81組の家族写真からは、眩しいほどの幸せなオーラが伝わってきます。被写体は、障害をもって産まれてきた子とその家族。「障害」という言葉がもつ、マイナスのイメージとは異なる多くの笑顔との出会いに、驚く人もいるでしょう。
「子どもに障害があってもなくても、お母さんの笑顔は変わらず輝いている」と感じた後藤京子さん。2017年12月から始めた「Loveフォトプロジェクト」の活動は、お母さんたちの口コミから徐々に反響を呼び、多くのマスメディアに取り上げられ注目を集めています。
後藤さんとはじめてお会いしたのは、2018年4月のこと。まさにこの「Loveフォトプロジェクト」の場でした。私には6歳になるダウン症のある娘がいます。同じダウン症児をもつ家族で立ち上げた親の会に来てくださった後藤さんは、穏やかな人柄のなかに強い意思を秘めている、そんな印象を受けたのを覚えています。障害のある子を育てる母親として、後藤さんがどのような思いでこの活動に取り組んでいるのか、深くお話を伺ってみたいと思いました。
笑顔を忘れたフォトグラファーが、自分の夢をみつけるまで
後藤京子さんは福岡県の出身。2014年、結婚を機に横浜市都筑区に住むことになります。長男の康助くん(4歳)が誕生し、新天地での育児が始まりました。後藤さんは程なくして、康助くんと視線が合わない、首がすわらない、笑わない、といった違和感を覚えるようになります。
「育児は楽しいものだと思っていたんです。でも、不安ばかりで光が見えない気持ちになっていました」と、後藤さん。知り合いもいない心細さから、やがて障害児のための地域訓練会や親の会を訪れるようになりました。康助くんが1歳になる頃に参加した会では、お母さんたちの明るい笑顔に救われたといいます。なかなか笑わない息子が、音楽療法で笑顔を見せた時の驚きと喜び。後藤さんは、人との出会いのなかで心がほぐれていくのを感じました。
康助くんが3歳の時、転機がやってきます。小脳の萎縮による「精神運動発達遅滞」と診断結果が出たのです。
「原因がわかったことで、息子の障害を受け入れ、やっと前を向くことができました」
その時の気持ちを、後藤さんはこのように語ります。
「障害があっても、愛する息子であることはすこしも変わりませんでした」
もうひとつ転機となったのが、同じ頃に参加したグループコーチング。後藤さんは福岡時代に写真スタジオで勤務していましたが、その時は仕事から離れて10年ほどが経過していました。
「心のなかが整理されて、フォトグラファーの仕事に戻りたい!という自分の願いを思い出し、100組の親子を撮影するという目標を立てました」と、笑顔で語る後藤さん。思い描いていたのは、わが子に接する時に自然とあふれ出るお母さんたちの笑顔です。
「お母さんが笑っていると、子どもたちも輝くような笑顔になるんですよね」
この時の経験は、「Loveフォトプロジェクト」の実現に向けて、確実に背中をおしてくれました。
後藤さんが「100組の親子を撮影する」という明確な目標をもつことができた背景には、スタジオ勤務時代からの尊敬する友人、やまぐちゆかさんの存在がありました。やまぐちさんは、長女の死産という辛い体験を乗り越えて、「命を伝える」をテーマに撮影を続けています。やまぐちさんの活動に刺激を受けた後藤さんは、自分だからこそ撮れる写真は何か考えたといいます。
お母さんたちの口コミが、社会を動かし反響を呼ぶ
今から1年ほど前の2017年12月、最初に撮影会を開いたのは、障害のある子を育てるお母さんが主催するヨガサークルでした。
「障害のある子を撮影するのは難しいのでは、というご意見をいただいたこともあります。不安を取り除いてくれたのは、ヨガ仲間のお母さんたちでした」と後藤さん。初日に7組、計17組の親子が撮影に参加。「Loveフォトプロジェクト」は動き出しました。
その後は、口コミで順調に依頼が増えていきます。
「撮影会をするたびに感じるのは、みなさんが楽しみにしてくれていること。お母さんがお子さんとの写真を撮る機会って、意外と少ないのかもしれません」
確かに! 後藤さんの言葉に思わずうなずく私。わが家も子どもの写真に父親が写っていることが多いです。
後藤さんはこう続けます。「お母さんは、子どもといる時の自分の笑顔、キラキラ輝いている表情に意外と気付いていないんですね。撮影会を通して、それを感じていただけたら」
はじめての展示は、2018年8月に「障害者スポーツ文化センター 横浜ラポール」で行われました。康助くんと遊びに行った時に、職員の方との会話からその場で展示が決定。幸運なスタートをきります。10月にはお母さんたちの口コミから、神奈川県庁での展示が実現。昨年はラポールを皮切りに半年に満たない期間で、横浜市を中心に首都圏の8つの会場で展示を行うことになったのです。
その間にも、後藤さんは複数の新聞社、通信社からの取材を受け、反響は広がってはいきます。12月には、NHK首都圏ネットワークの放送で「19のいのち~あすへの一歩 “笑顔の写真”が語るメッセージ」として撮影や展示の様子が紹介されました。「19のいのち」とは、2016年7月に起こった「知的障害者施設 神奈川県立津久井やまゆり園」での殺傷事件で命を奪われた方々のこと。
放送のなかで、事件の被告が「障害者は不幸をつくる」と主張していたことにふれ、後藤さんの写真からは「全く逆のメッセージが伝わってくる」と視聴者に問いかけています。
マイナスのイメージをプラスに。「笑顔の写真」が伝えるメッセージ
国連による「障害者の権利に関する条約」が日本で発効したのは2014年2月。2016年4月1日から施行された「障害者差別解消法」は、「全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進すること」を目的として制定されました。
ここ数年で、「インクルージョン」「合理的配慮」といった言葉を耳にしたことはありませんか。「インクルージョン」は「包摂、包み込む」といった意味があり、障害のある人もない人も分け隔てられることなく社会の一員として生活すること。「合理的配慮」とは、障害のある人が社会生活に参加するために、それぞれの特性に合った配慮を行うことを意味します。
公共施設や学校のバリアフリー化などの「環境整備」もその一環ですが、学校の教室、職場といった社会生活のなかで、「個人の特性に合わせたきめ細かい配慮」を行うことに関しては、残念ながら議論は深まっておらず、考え方も浸透していないのが現状です。
「障害という言葉自体が、マイナスのイメージにならないようにしたい」と、後藤さんはいいます。「障害」は「多様な属性のひとつ」という捉え方に世界レベルで転換している今、「Loveフォトプロジェクト」は大きな役割を担っているといえるのではないでしょうか。
後藤さんは、障害のある子を育てる試行錯誤のなかで、人との出会いを大切にしながら自己の内面と対話し、「自分が本当にしたいこと」をみつけて実現しました。
康助くんとの向き合い方も変わったそうです。「康助が見てくれている。背中を押してくれている。いつも、もっと前を向いて、と言ってくれているようです」
後藤さん自身も、康助くんと一緒の時は笑顔の自分に気付きました。
100組の親子の撮影を達成した今、次の目標は写真集を出すこと。加えて、障害のある子とその家族のための出張撮影「おうちスタジオ♡Love photo smile」もスタートします。
わが子に接する時のお母さんたちの笑顔に魅せられ、ブランクを経て再びカメラを手にした後藤さん。命の大切さ、生きること、愛すること。「笑顔の写真」には、障害という言葉のイメージを変える力強い命の輝きがあります。
「心配や悩みは尽きなくても、今しかない幸せな時間を生きていることを忘れないで」と後藤さん。「笑顔のお母さんは、本当に素敵です」
ココロはずむアート展
「Loveフォトプロジェクト 幸せオーラ写真展」
2019年1月23日(水)~2月8日(金)
えだ福祉ホーム
横浜市青葉区荏田町494-7 2F
【受付中!】障害のある子とそのご家族のための「おうちスタジオ♡Love photo smile」
自然とあふれ出る幸せの瞬間を出張撮影致します。マタニティ、お宮参り、誕生日記念、七五三、成人式などお子様の成長をご自宅で遊びながらゆっくり撮影致します。
お問合せ:smile06202525@yahoo.co.jp(後藤京子さん)
◆後藤京子(ごとうきょうこ)プロフィール◆
1973年生まれ。福岡県出身、横浜市都筑区在住。障害のある子どもとその家族の、自然とあふれ出る幸せの瞬間を撮影し展示を行っている。首都圏を中心に、ママフォトグラファーとして活動中。
ホームページ
https://love-photo-smile05.webnode.jp/
ブログ
https://ameblo.jp/lovefhoto3016/entry-12429852378.html
インスタグラム
@love_photo3016
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