大きな空の下の、ちいさな なかまたち。 ~ちいさなちいさな「うん」~
青葉区のゆたかな自然の中で、季節の移り変わりを心とからだいっぱいに感じて育ち合う「NPO法人青空保育ぺんぺんぐさ」。安心できる場で一人ひとりの意思と個性を輝かせて遊びこむことで、だれでも子どもは自ら育ちゆく「力」を発揮します。初夏のできごとから、子どもたちのそんな素敵な力をお伝えできたら嬉しいです。

(文=NPO法人青空保育ぺんぺんぐさ保育士・土井三恵子 / 写真=NPO法人青空保育ぺんぺんぐさ)
※このシリーズでは、「子どもを育てる」現場の専門家の声を、毎月リレー形式でお送りしていきます。

ズボッ、ズボッ、あれ?どんどん足がはまっていく……。

今日は畝をつくるぞ!と、この日はいざ張りきって、畑に集まりました。ふかふかの畑に畝をつくって、350株のさつまいもを植えて、冬は焼き芋ざんまいが楽しみ……と思っていたら……前日に降った台風のような大雨のしわざで、ふかふかに見えた土の下は、実はどろどろだったのでした。

あれ?

足を取られ、尻もちつく子が続出で、腰までつかる子も出てきて、みるみるどろだらけになっていく子どもたち。行く先はどろどろを超えて、液状化のようにびちゃびちゃで、子どもたちがまるでサンショウウオに見えてきてしまうほどでした。

あれれ?

腰までどろどろだあ

畝が……

「これじゃあ畝をつくっているんだかなんだか、わからないよ~~」という叫び声と大笑いと歓声。でも、こんなにおもしろいことはめったにないから、そのまま続行してしまいました。

 

きっと乾いたセメントみたいに、カチカチの畑になってしまうかもしれないけれど、今年は畝1本だけはがまんしましょう。いつも過ごしている畑や里山だけど、その時々に表情がちがったり、一期一会の出会いが待っているのが、「自然」の醍醐味なのだから。

おいものベッドをつくる

そんな騒ぎの中、神妙な顔つきをずっとくずさなかった子が、ひとりいました。この春、大きい子ぐみに進級して、3月末に3歳になったばかりのタツル。年少さんのいちばんおみそで、小さい子ぐみのときは「どろ、水、どんとこい」の、よく走ってよく笑ってよく食べる、大人たちが見とれてしまうくらいの遊びっぷりの男の子でした。

 

でも進級して以来、遊びも行動もスケールのちがう大きい子ぐみでは、じいっと遊びを見つめていることが多くなりました。2歳半ごろから始まった、この時期特有の「やだやだ」が、ぺんぺんでも少し始まって、大好きだったはずの水やどろや雨も、いまひとつ気が乗らない。おうちでは特にやだの大連発で、普段おおらかなママも、困り果てていると聞いていました。

 

この日も、畑しごとを終えて里山に出かけるとき、大きい子と手をつなぐのやだ、歩くのやだ、リュックやだ、ぞうり濡れてやだ、の、やだやだで、ついには道路に座り込み。

歩いて、

歩いて、

毎日最後まで居残って遊ぶくらい、体力は十分なのに、おへそが曲がってしまったタツル。暑い日だったので、みんなは少し先まで歩いて、木陰にある直売所まで行き、冷えたきゅうりの糠漬けを買って、待っていることにしました。

 

遠くかなたを渋々歩いているタツルに「きゅうり~~買ったよ~~」と大声で呼んだら、きゅうりに誘われて、タツルはみずから「超特急」に大変身して到着しました。順番に丸かじりして元気を取り戻して、あと半分は林に着いたら食べようねと、再び出発しました。

きゅうりの丸かじり

自分の分のきゅうりをバクバク食べてしまって、まだまだ欲しい…

林を抜ける風はとてもさわやかで、新緑に囲まれてお弁当をいただき、それからもうひと遊びが始まりました。桜の実を拾ったり、おうちを作ったり、赤ちゃんごっこが始まったり、保育園ごっこで練り歩いたり……

 

前日の大雨で流された土がたまった場所がありました。枝でつついて掘って、団子づくりも始まりました。私が団子をずらりと並べ始めたら、タツルがやってきて、あっという間に全部壊してしまいました。あえて「やめてって言ったのに、わざと壊したのはやだ。やめてほしい」と言ってみた、私。すかさず「やだ」と答えたタツル。

林の中で

実はその2日前、小さい子ぐみにまじって畑で遊んでいたとき、タツルはふかふかに耕された土の上に足跡をつけたくて、タタターっと走りこんでしまったのでした。年中年長がいないから気が大きくなって、何度も止められた末に、ニヤリと笑いながら。

 

小さい子も釣られて大変なことになるのは、目に見えていたので、私は手を握り、「ごめんね、今日は入らないでほしい」と真剣に伝えました。でも、逃げようとするばかりでした。

 

大きい子ぐみになった今、よし今日こそ根気くらべだと私は覚悟を決めて、「今日は入らないでほしい」と伝え続けました。なるべく単調に、おだやかに、小さな声で。ゆっくり繰り返す私に、そのたび「やだ」とくり返していた、タツル。長い沈黙も挟みながら、約30分。

 

だんだん私の膝に頭を埋めはじめ、うっとり甘えたように体の力が抜けてきて、体を寄せてきました。そしてほかの子どもたちも寄ってくる。「やだ」という声がだんだん弱くなってくる。おそらく 「今日は入らないでほしい」「やだ」のくり返しを4、50回続けました。その末に、タツルは風に消されてしまうほど小さな声で、「うん」と言ったのでした。

 

ところが、この日の林の中でのどろ団子の一件は、大きい子たちに見つめられて、なんと5回のやりとりで「うん」という答えが返ってきました。

 

おうちで食べ物は投げる、座って食べない、ママをチラッと見ながら車道に向かって走り出す、部屋も庭もおかまいなしに裸足でグルグル走り回る、叱られても笑うばかりだったタツルが、「うん」と答えたと聞いて、ママは目を丸くしてびっくりしていました。

お団子をならべる

そして、お迎えの時間が近づいて、絵本を楽しんで、リュックを背負って歩き始めた時、並べたままにしておいたはずのどろ団子が、全部壊されていました。「カラスが壊したんじゃない?」と誰かの声が聞こえました。子どもたちは、お弁当をねらうカラスが、木々にたくさん止まっている様子を見上げました。

 

そういえばさっき絵本のときカラスがここを歩いていたよね~、この間荷物のポリ袋を食べ物だと間違えて突いて破かれたね~と言いつつ、みんなで半信半疑。「ねえ、タツルが壊したの?」と聞いてみました。タツルが首を横に振ったので、みんなで口を揃えて「やっぱりカラスだよ~~!」と大笑い。「ホンモノの団子と間違えたんじゃない~」「そんなことって、あるんだね~!」と。

 

ところが、そんなやりとりを言葉少なにじ~~っと聞いていた、年少さんの男の子が、もうひとり。ポツリとつぶやいたのです。「……ソーちゃん、こわした」と、やっと聞きとれるくらいの、小さなあどけない声。

一瞬沈黙が広がったあと、「なんだ~~~!!」広い林の中を、大きな大きな笑い声が響きわたりました。

 

子どもは安心してたっぷり遊べば、一日一日前に向かって歩いている。そして、子どもって、やっぱりおもしろい!

たのしいお弁当

 

*     *     *

小さい子たちをつれて

 

後日、小さい子たちもつれて、となりの畑でじゃがいも掘りをさせていただきました。タツルは、大好きな2歳のダイちゃんと手をつないで、すっかりごきげんでした。

Information

【土と水と草と虫とあそぼう会】

◎暑い日は水に濡れたり涼しい木陰で、雨の日は雨宿りや雨だれも楽しんで、その季節ごとの楽しみはいっぱい。夏を涼しくあそぶコツもお伝えします。

 

日時: 7/18(木)8/26(月)9/19(木)9:45~13:00頃 以降毎月第3木曜

場所:桜台公園またはしらとり台第一公園 青葉台駅より徒歩10分または5分

参加費:400円+100円保険代

申し込み:前日朝11:00まで

Mail:aoba.penpengusa@gmail.com

電話:090-9147-3027(内藤)

 

※のびのび自由に遊ぶ、外遊び体験会とおしゃべり会。生後8ヵ月ごろから、どなたでもどうぞ。

※天候が悪い日は、屋内もある場所で畑あそびやたき火体験等に変更する場合があります。

※変更の場合がありますので、HPでご確認ください。

 

 

【横浜Umiのいえ・齋藤麻紀子さんミニ講演会『外で遊ぼう。あなたが選ぶ、子育て。』】

◎保活すべき?幼稚園プレを探すべき?習い事すべき?「べき」がどんどん迫ってくるのは、なぜ?さまざまな情報にあふれている今、全国の助産師さんや、お母さんや、子どもに関わる人たちが集う「Umiのいえ」の麻紀子さんに、勇気とヒントをわけてもらえたらと思います。

 

日時:2019年7月3日(水) 10:00~12:00頃(9:45開場)

場所:もえぎ野地域ケアプラザ(東急田園都市線「藤が丘駅」より徒歩7分)

参加費:1,000円(ドリンク・お菓子つき)

共催:もえぎ野地域ケアプラザ

 

※7/1までにあそぼう会と同じ電話・アドレスにお問合せ・お申込み下さい。

※詳しくは、HPをご覧ください。

※託児はありませんが、マット敷きの座席でお子さんと同室できます。

 

 

 

NPO法人青空保育ぺんぺんぐさ

 http://jisyuhoikupenpengusa.blogspot.jp/

 

NPO法人森のようちえん全国ネットワーク連盟の安全認証を受けた認証団体になりました

 http://www.morinoyouchien.org/

 

<Profile>

土井三恵子

NPO法人青空保育ぺんぺんぐさ保育士/共同代表。10年の田舎暮らしと2人の出産を経て、療育センター・里山保育を行う保育園などを経験、そして横浜市青葉区のお母さんと青空保育を立ち上げ、8年目。現在保育スタッフ4人と20組前後の親子でにぎやかにすごし、野山で土や水や草や虫と子どもたちとたわむれ、日々小さな発見に胸を躍らせる(ザリガニを見つけると急に真剣になって子どもと張り合ってしまう面も……)。保育士、幼稚園教諭免許、小学校教員免許、中学・高等学校理科教員免許。

この記事を書いた人
寄稿者寄稿者
未来をはぐくむ人の
生活マガジン
「森ノオト」

月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる

森のなかま募集中!

寄付についてもっと知る

カテゴリー

森ノオトのつくり方

森ノオトは寄付で運営する
メディアを目指しています。
発信を続けていくために、
応援よろしくお願いします。

もっと詳しく