花と緑のまちづくりへのあふれんばかりの情熱。塚本こなみさん講演会
女性初の樹木医として知られる、はままつフラワーパーク理事長の塚本こなみさんによる、「フラワーダイアログあおば」の講演が10月19日に青葉公会堂でありました。信念を持って花のあるまちづくりに取り組む塚本さんのお話が、情熱をおびて客席に伝わってきました。ロビーでは、青葉区内の園芸店や造園業者、花農家さんが手がけた花壇が展示され、ステージでも交流がありました。

22歳で結婚し、3人の子どもを育てながら造園業を営む夫を支えてきた塚本さん。樹木医試験に女性で初めて合格後は、毎週のようにメディアの取材が相次いだそう。写真に写るのは、移植を成功させたあしかがフラワーパークの藤

 

塚本こなみさんといえば、あしかがフラワーパーク(栃木県足利市)の藤の大木の移植のエピソードが知られています。「大木と呼ばれる樹木の移植を数多く成功させてきましたが、依頼を受けるまで、藤に触れたこともなかったんです。この藤の下に入って、この藤は動く、と思ったんですね」と振り返ります。移植の方法は、従来の造園の手法にはない、木の幹に石膏包帯を巻き、その上から荷揚げ用のロープを巻いて引き上げるというもの。「この方法を思いつくまで2年間悩み、円形脱毛症にもなって。ある時ふっと、樹木にも命があると思ったんですね、人間と同じ命が」。徹底的に悩んだ末に編み出した独自の方法で、移植は成功し、数年後には美しい藤の花を咲かせるようになったそうです。

 

子どもたちを変えた「マイツリー」

 

木を通した子どもたちとのかかわりについて、お話がありました。10年ほど前、NHKの『課外授業 ようこそ先輩』という番組で、ふるさとの子どもたちに授業をすることになったそうです。

 

静岡県浜松市にある、樹齢1300年の杉の大木。塚本さんが「自分の木」と決めた「マイツリー」。何かあるたびに、この木のところに行って話をするそう

 

どんな授業をしたらいいかと頭を悩ませる中で、塚本さんはまず、この木を子どもたちに見てもらったそうです。「木の前で、子どもたちは『体がほわほわ温かくなる』『何かが伝わってくる、じんじんする』そう言ってくれたんです。木の力がかれらに伝わっていると感じて、本当にうれしい瞬間でした」。それから学校に帰って、子どもたちに校庭の中から自分の木「マイツリー」を1本選んで、その木と話をするという宿題を出しました。

 

「1週間たち、全員が『木とは話はできない』と日記帳に書いていました。当たり前ですね。2週間たちました。だれ一人話ができた、こんな会話をした、なんてことはありませんでした。もうちょっとかな、と。3週間たちました。『今日、学校で運動会があって、ぼくは2位になった。ぼくの木が応援してくれた。木にありがとう』って書いてありました。しめしめ、です。そして4週間たちました。『学校で嫌なことがあった。その嫌なことを木に聞いてもらった。ぼくの心が軽くなった』というお子さんがあと2人。あぁ、やったねっと思ったんですね」と話します。

 

その約1カ月後、授業をしたクラスの先生から手紙が届き、言葉が出なかった子はぽつりぽつりと話し始めたり、暴力的だった子が穏やかになったりと、子どもたちに変化が出てきたのです。「木にこんなにすごい力があるとは思ってもみませんでした」と、先生も驚き、感謝の言葉を寄せてくださったそうです。

 

塚本さんは講演で、子どもだけでなく、大人にも「マイツリー」を持つことを呼びかけました。「皆さん、今、世の中で文句もいわず、何かをしなさいと命令したり、怒ったりしない。ただただ話を聞いてくれる、受け入れてくれる、そういうものが少ないような気がします。ぜひ皆さまも、自分の庭の木でなくても、公園でも街路樹でも『私の木』を選んで、いろんなことを話してみてください。何かを感じ、通じ合っていただけるのではないかな、と思っています」

 

この話を聞いてからというもの、「マイツリー」のことばが心にとどまり、わたしのマイツリーを探すようになりました。

 

はままつフラワーパークの再生

 

静岡県浜松市の自宅から、毎週足利市に通う生活を続けていた塚本さんですが、7年前から浜松市が運営する、はままつフラワーパークの理事長になりました。赤字経営が続いていた同園は閉園の危機に追い込まれ、民間人の理事長として塚本さんに赤字脱却の期待がかかりました。

 

就任すると、まず、幹部の一人ひとりに、はままつフラワーパークの一番の魅力について尋ねたそうです。「梅が、桜が、バラが、花しょうぶが、あじさいが」とたくさん答えが上がります。「そうね。いっぱいあるのね。いっぱいあるのは、なんにもないのと一緒よ。日本中の公園に行ってみなさい。今言ったのは全部ある。あそこに行かないと見られないシーンをつくるにはどうする?」。塚本さんの問いかけから、「桜とチューリップを同時に圧倒的に美しく見せる」ということへの挑戦が始まりました。

 

「私の取り柄は、行政を脅かすことと藤の花を咲かすこと」と冗談交じりに話す。はままつフラワーパークにも塚本さんの就任後に藤棚がつくられた

 

このほか、入園料を季節によって変動する仕組みも導入しました。また、市長をはじめ、政財界と交渉して、エレベーターの設置も進めました。「ある方がおっしゃいました。『塚本さん、もう全園、全トイレも改修したでしょう。あれもこれもやったでしょう』と。『あなたたち、何言ってるの、十数年何一つやってこなかったことを、私のときにやっていただいているだけでしょう。と』。体のきつい方、足腰の弱い方、車椅子の方、妊婦の方、すべての方に楽しんでいただきたい。そう思っているだけですから、足りないことがいっぱいなわけです」。誰におもねることもなく、市のトップにも切り込んでいく、塚本さんの勇敢な行動力に、ほれぼれしました。

 

プロとして仕事をするということ

 

また、こんなエピソードも。見どころの一つである花しょうぶの花が、4年ほど前に半減してしまったそうです。塚本さんは、ある看板をチケット売り場の前に出すよう指示を出しました。「今年の花しょうぶの開花数は半減しております。育成不良のためです。誠に申し訳ございません。それでもよろしかったらご入園ください」と。花しょうぶが半減した年はあったけれども、そのような対応をしたことはなかったと園長は言います。

 

「『それはあなた、不誠実じゃない。はままつフラワーパークの花しょうぶがきれいだから、見に行こうと思って来てくださり、入園料を支払って中に入っていただいたときに、半分じゃない。こんな失礼なことはない。入園料返せ、ということになるわよ。そんな仕事をしているからお客さまが減るのよ』と、私の爆弾が落ちたちのです。お客さまは『理事長、あんな看板立てなくても大丈夫よ』と。おっしゃいますが、立ててあるから、おっしゃってくださったんです。立ててなければ心で失望するわけですよ」

 

それから、花壇や樹木の前に担当者の顔写真と名前を立てて、「私が担当しています」と書くように指示を出したそうです。「自分の仕事に責任を持って、いい仕事をしてください、という私の愛のむちです。今は園内のあちこちに、担当者名だけ書いてあります。技術がしっかりと身につき、本当のプロの仕事ができたときに、顔写真付きになるのかなと思います」

 

不登校、引きこもりの若者たちを受け入れる

 

塚本さんが、はままつフラワーパークの理事長に就任して一番やりたかったことが、不登校の子どものための適応指導教室を園内に開くことでした。もう一つは、引きこもりの青年を預かり就労支援をすること、そして、発達障害の若い人たちに花苗を栽培して収入を得てもらうこと、その3つを強く思って就任したそうです。

 

適応指導教室については、1部屋を整備してすぐに開室できるように準備し、教育委員会との交渉の末に5年がかりで実現しました。「子どもさんたちの回復力はすごいです。浜松市の8カ所の適応指導教室のなかで、一番復学率が高いんです。修了式で、ここでの思い出をお話ししてくださいとお願いしたら、花育の時間が一番楽しかったと話してくれました。マイプランターとして、誰も手伝わずに子どもたちに育ててもらい、飾ってもらうのです。お客さまが、まあきれいと褒めてくださる。そのことも、子どもたちの自信に、喜びに繋がるといういうことでやっています」

 

引き込もりの若者たちを預かる中でも、花の力で少しずつ少しずつ自分の人生を歩き始めているのを感じているそうです。

 

終わりに、花のあるまちづくりへの思いを塚本さんは語りました。「『生きていてよかった、と思うほどきれいだった』と南相馬の方から園内で声をかけられました。昨年まで、桜を見ることができず、私の講演を聞いて来てくださったんです。感動をお渡しできることが何よりの幸せだと感じました。私も古希に入り、ぼちぼち終活に入る時期ですが、体の動く間は、みなさんと一緒に花のまちづくりのお手伝いをできたらと思っています」と結びました。

 

穏やかな語り口調ながら、自然を通した子どもたちへの教育の思い、プロとしての花のあるまちづくりへの信念と情熱が、あふれんばかりに伝わってきました。花と緑のまちづくりについて、塚本さんのお話を聞きながら、たくさんのヒントがあったように感じました。

 

「ほかでは聞いたことがない」花壇マッチング

 

青葉公会堂のロビーに展示されたフラワーショーの花壇。マッチング先を考えて趣向をこらした花壇が会場を彩った。講演会の前後や休憩中には、鑑賞したり撮影したりする人たちの姿が

 

さて、この日の会場の青葉公会堂のロビーでは、青葉区制25周年を記念したフラワーショーとして、区内の花と緑にかかわる事業者の花壇展示がありました。シモヤマランドスケープ、たかはし園芸、桜台園芸、LEADガーデニング&エクステリア 、アン・ヴォヤージュ・ド・フルール、ジョイフロリスト、三橋緑化興業 、横浜庭苑、横溝園芸の9事業者です。園芸店、造園業者、花農家など、他業種にわたります。

 

これらの花壇はそれぞれ、江田記念病院、ナザレ幼稚園、美しが丘中部自治会館マダム会、青葉さわい病院、山内中学校、市ケ尾高校、すすき野小学校、田奈駅前クリニック、保木公園の青葉区内9 カ所に移植されます。

 

「展示で終わりではなく、出店者のお近くなどにお渡しして、という仕組みの説明を受けて初めて知りました。こういうことをやっているところは、実は見たことはない。皆さんのお力で花壇づくりをする、地域連携の素晴らしい取り組みだと思いました。どこかでまちづくりの提案に使わせていただければと感動しました」と塚本さん

 

ステージでは、花壇を出品した3人が登壇し、塚本さんを交えてお話しました。

 

たかはし園芸の高橋佳晴さん、LEADの安生敏弘さん、桜台園芸の森健太さんは、それぞれ80代、50代、30代。花とのかかわりや、出展した花壇への思いを話した

 

まずは高橋さん。「日本の植物学の父と呼ばれる牧野富太郎先生の会に中学生の時に入り、先生方について野山をかけずり回って植物を観察してまいりました。今では毎月1回、バスで山の観察会を開いています。植物の名前を覚えるときに、由来を聞くと忘れないです。全部、中学生のころに覚えたものです。今、外国から入ってくる植物の名前を聞いても明日には忘れます。牧野先生の会に入って、よしはるくん、植物の名前は必ずついた理由があるんだよ。その理由が思い浮かぶと、名前が覚えられるんだよ、と教わりました」

 

たかはし園芸の花壇のテーマは「秋の山野草の寄せ植え」。シュウメイギク、ホトトギス、紫式部、大文字草など、高橋さんが好きな山の草を中心に

 

続いてLEADの安生さんは、「レモンでつながるなかまたち」をテーマにした花壇を紹介しました。「マッチング先の青葉さわい病院は、近くにありながら、これまで縁がなかったところ。提案したレモンは、虫はつきますが、人間に害はない。実がついて香りも高く、収穫して食べ物として活用できればと思っています」

 

桜台園芸の森さんは、30代の若き花農家。青葉区にある3軒の花農家のうちの1軒

 

最後に森さん。「年間40万ポットの花を育てています。地産地消を花壇のテーマとしてやらせてもらいました。使っている花はすべて桜台園芸の生産です。マッチング先の美しが丘には、住んでいた時期があり、今も時々通ります。マッチング先の方々と話をしながら、今後の展開を話せたらと思います」

 

園芸王子の愛称で知られるタレントの三上真史さんが登壇した昨年の講演会では、「花端会議」という言葉が生まれました。今後広げていきたいというアイデアを聞かれると、高橋さんは「青葉区は植物が好きな方がたくさんいらっしゃる。青葉区ならぬ、青葉花区にしたらいいんじゃないかな」とユニークな提案をしました。森さんは、「横浜市には69軒の花農家さんがいる。小学校で何度か授業をやらせてもらったことがあるが、小学校でも中学校でも、若い子たちが花に興味を持ってもらう取り組みが大切だと思う」と話しました。

 

「1回で終わることではなく2回、3回と重ねて、10年、20年後の未来までつながるような会になれば」と安生さん

 

この講演会の後に花壇は撤収され、それぞれのマッチング先に植え込みされました。出展した業者さん同士でつながりができるど、地域での新たな花と緑の関係が育まれつつあります。これから先に、花と緑を介してどんな出会いが広がっていくのか、その先の物語も楽しみたいと思います。

 

〜〜〜

青葉区と森ノオトが進める「フラワーダイアログあおば」は、3年間の事業の2年目です。引き続き、花と緑をきっかけに、住民同士の対話が生まれるような仕掛けづくりを進めていきます。

「フラワーダイアログあおば」に関する記事は、こちらの特集からご覧ください。

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この記事を書いた人
梶田亜由美編集長/ライター
2016年から森ノオト事務局に加わり、AppliQuéの立ち上げに携わる。産休、育休を経て復帰し、森ノオトやAppliQuéの広報、編集業務を担当。富山出身の元新聞記者。素朴な自然と本のある場所が好き。一男一女の母。
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