横浜市南区にある弘明寺商店街の側を流れる大岡川沿いにある絵本屋さん「子どもの本& クーベルチップ」の中村裕子さんと神保桂子さんに、カレーをキーワードに、おすすめの絵本を尋ねてみました。
「まずは、基礎知識から」と中村さんが見せてくれたのは、1988年出版の『月刊たくさんのふしぎ カレーライスがやってきた』(文・写真=森枝卓士、福音館書店)。
現在では、日本の食卓に欠かせない定番メニューのカレーですが、どのようにして広まってきたのでしょうか。スパイスの本場インドを植民地にしていたイギリスにカレー粉が渡り、明治時代の貿易を通して、日本に伝わりました。
写真とともに、インドやイギリス、日本、それぞれの国のカレーの特色が紹介されています。
「カレーをうどんにかけたり、パンや饅頭の具にしたり、いろいろとアレンジすることで日常に溶けこんでいったというのが、日本らしくて、おもしろいですね」と中村さん。
『カレーライスがやってきた』は、福音館書店が小学生向けに出版している「たくさんのふしぎ傑作集」のひとつです。カレーにまつわる異国の文化や歴史について学びを深めたいときにおすすめです。
「これが一番オーソドックスかなぁ」と、神保さんが取りだしてくれたのは、『カレーライス』(作=小西英子、福音館書店、2016年)。野菜を切って、お肉を炒めて、ルーをいれて、カレーをつくる、シンプルな絵本です。作者の小西英子さんは、他にも、サンドイッチやお弁当など、身近な食べ物を題材にした絵本を出版しています。
続いて紹介してくれたのは、『パパ・カレー』(作=武田美穂、ほるぷ出版、2011年)です。パパがつくるカレーは、一味違う。お肉も大きくて、なんと、最後にバナナもはいります。「オノマトペがたくさん出てきて、楽しいのよね」という中村さんの言葉通り、思わず、生唾を飲んでしまうほど、臨場感ある音の表現です。
『ぐるぐるカレー』(作=矢野アケミ、アリス館、2012年)は、丸の中にいれた食材をぐるぐるぐるぐるかき混ぜて、カレーをつくります。このカレーにはブロッコリーがはいっています。子どもといっしょに指をあてて、いっしょに混ぜている感覚を味わえるアリス館の「ぐるぐるえほん」は、他にも、ジュースと洗濯があります。
「これは作りかたが変わっていてね……」と神保さんが次に見せてくれたのは、『カレーちゃん』(作=きたがわめぐみ、アリス館、2014年)です。「どんぶら どんぶら」と壺で海を渡ってきたカレーちゃん。にゅるんと、上陸して、歩きだし、「おぉーい」と呼びかけては、「出番ですかー」と次々に食材たちが集まってきます。ユーモラスなタッチで、思わず、笑いがこみあげます。
続いては、『かえるとカレーライス』(作=長新太、福音館書店、1996年)です。「ナンセンスを楽しむなら、これ」と、神保さんは、紹介してくれました。中村さんは「突然、山からカレーが噴きだし、それを、かえるが食べちゃうというお話しですが、なぜ山からカレーが噴火するのか、なぜかえるなのか、意味はありません。まさに長新太ワールド」と解説してくれました。
中村さん一押しの物語で、わたしも特に気にいったのが『とっておきのカレー』(作=きたじまごうき、絵本塾出版、2011年)です。舞台は、一軒の山小屋。主のおじさんが、ハイキングで泊まりに来ていた子どもたちにカレーを振る舞いながら、毎日やってくる変わったお客さんの話しをします。ある日は、カモシカがやってきて、きれいにカレーを食べていきました。次の日の朝、山でとれる木の実をおいていきます。おじさんは、その木の実をカレーの材料に加えます。すると、ふくろうが食べに来て、今度はヘビやネズミをおいていきます。翌日、ヘビやネズミのはいったカレーを食べにきたのは……。温かいタッチの絵に心を惹かれ、自分も山小屋でお話しを聞いているような気分になりました。
続いての物語は、『ひみつのカレーライス』(作=井上荒野、絵=田中清代、アリス館、2009年)です。主人公のフミオが大好きなカレーライスを食べていると、口の中にカリっと小さな粒がはいったのに気がつきました。カレーのたねです。それを、庭に埋め、お父さんお母さんと大切に育てると、お皿の葉がつき、福神漬けの花が咲きました。最後には、おいしそうな匂いにつられた町中の人たちが集まって……。野菜とお肉がごろごろはいった定番のカレーライスに、福神漬けのつけあわせ、わたしが子どもの頃に、家族といっしょに食べたカレーの味を思い出しました。
「これも人気があります」と神保さんが出してくれたのは『ノラネコぐんだん カレーライス』(作=工藤ノリコ、白泉社、2019年)。『ノラネコぐんだん アイスのくに』『ノラネコぐんだん おすしやさん』『ノラネコぐんだん パンこうじょう』など、毎回、いたずら好きの8匹のノラネコが騒動を巻き起こすシリーズの最新作です。内容が理解できるようになる幼稚園年長さんから小学生向けです。
取材時には入荷しておらず、実際には見られませんでしたが、神保さんは、「『ぼくんちカレーライス』(作=つちだのぶこ、佼成出版社、2005年)もいいですよ」とすすめてくれました。「ぼくんちカレーライスなんだ」と自慢したら、それを聞いた周りの人たちもみんなカレーを食べたくなってしまうというストーリーです。
「メインではないけれど、『きょうのごはん』(作=加藤休ミ、偕成社、2012年)にも、カレーが出てくるわよ」と中村さんがこれまたおいそうなカレーのページを開いてみせてくれました。「作者の加藤さんは、クレヨンで描くことに定評があります。クーベルチップで原画展をしたときも、見ごたえがあってよかった」と中村さんは言います。カレーだけでなく、隣近所の晩御飯が次々に登場します。
生後9カ月を迎え、指先が器用になってきたわたしの娘は、クーベルチップで購入した『いろんなおやさいどこになる?』(作=きのしたけい、絵=阿部真由美、コクヨ株式会社、2019年)というしかけ絵本が気にいっています。葉っぱの絵をめくると、その下に、野菜の実っている様子が描かれているというものです。その同じシリーズに、『おやさいどうぞ』(作=きのしたけい、絵=阿部真由美、コクヨ株式会社、2018年)というのがあり、こちらは、野菜の皮をめくり、最後にカレーとサラダができあがります。
クーベルチップの中村裕子さんと神保桂子さんに協力してもらい、13冊のカレーが登場する絵本を紹介しました。中村さんは「どの作品も、絵が違うから、味もいろいろと想像できるわよね。おうちでつくる我が家のカレーと同じで、ルーを使ったり、バナナなど変わったものをいれてみたり、つくりかたもそれぞれ。
それから、カレーの出てくる作品は、一人で食べるというより、大勢で集まって、みんなで食べるというシーンが多いわね」と最後に言っていました。
その言葉を聞いて、小学生のころ、同級生たちと野外活動でつくったカレーをふと思い出しました。カレーの出てくる絵本に着目してみたら、思いがけず、自分の家族や友達との記憶がよみがえりました。普段、何気なく食べているけれど、カレーは、わたしにとって身近な存在なのだと改めて気がつきました。
絵本作家さんによって味わいの違うカレーの絵本、みなさんも家族といっしょに好みの作品を探してみませんか?
クーベルチップで、数々の絵本を堪能したあとは、すっかりお腹がすきました。
この日の夕飯は、もちろん……。
子どもの本&クーベルチップ
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