今年の5月、森ノオトでは、フラワーダイアログあおばの企画の中で、雑草博士、吉田健二さんをお呼びして、足元の小さな草花を愛でる講座を開き、その後も区内あちこちの公園をめぐるパークの日(注1)というイベントを開催する予定でした。しかし、新型コロナウイルスの影響から、参加者を募って、草花観察をしながら対話を楽しむことが難しくなり、ウェブ上での雑草談義を行うことにしました。これからのまちの花と緑のあり方、身近な自然とのつきあい方を考えるきっかけになれば幸いです。
この春出会ったZASSOたち
梅原昭子(NPO法人森ノオト事務局長、フラワーダイアログあおば事業担当): 吉田さん、こんにちは。この春は新型コロナウイルス感染症の影響で、1人で散歩する機会が増えて。お気に入りのZASSOを見つけたんですよ。コメツブツメクサとクスダマツメクサ、黄色い小さな花が群生して花畑を作っていて、これが可愛いんです。今まで気がつかなったんですが。
吉田健二さん(以下、敬称略): 人間て、見てるけど見てない、視界に入っていても気づいてないことがたくさんあります。見慣れているはずのものでも、じゃあ、そのものを見ないで描いてみてというと描けないものって多いんですよ。コメツブツメクサもクスダマツメクサも、よくあるZASSOですね。
梅原: そうか、発見した時にはキュンとしたんですけど、今までも彼らは普通に存在していたわけですよね。やっぱり注意が向くと、だんだん見えてくるものってありますね。他にも今年発見したキュウリグサとか、ノヂシャという極小の花も可愛くて。
吉田: ああ、キュウリグサは本当に小さくて綺麗な水色の花を咲かせるんですよね。葉っぱを手で擦るとキュウリの匂いがします。UrbanWalk ZASSO(アーバンウォークザッソー)という僕が主宰するまち歩きイベントでは、キュウリグサとよく似たハナイバナとの違いを説明したりします。
梅原: ツメクサの話に戻りますが、シロツメクサとか、アカツメクサとかは有名ですけど、この「〇〇ツメクサ」というのは、小さい花がたくさん集まって丸みを帯びていますよね、あの花の形で分類されているんですかね?
吉田: シロツメクサというのは和名で、植物学の世界では「マメ科」の「シャジクソウ属」に分類されます。車軸草属。Torifolium(トリフォリウム)属といって、三つ葉のことですね。ちなみに、「ツメクサ」は、ナデシコ属の全く別の植物です。
梅原: シロツメクサは森ノオトの事務所にもたくさん生えているのですが、踏まれてもまた生えてくるし、なんなんでしょう、あのパワー。しかも、去年はいなかったのに、今年はあっちに!あれ?こっちにも進出?!って、あの移動の速さにびっくりします。あれは進む方向を自分で決めているんですかね?
吉田: シロツメクサは踏めば踏むほど根付くんです。強いですよ。シロツメクサはいちごなどと同じく、ランナー(ほふく茎とも言います)を伸ばして移動します。花が終わると種が飛んでも殖えますし。意志を持っているわけではないと思うんですけど、自然と自分に適した土地を見つけるんでしょう。踏まれても地下部や別のランナーは生きていて、そこからまた生えてくるんですね。逆に踏まれなくなると、50センチくらいまで背丈が伸びてしまいます。僕が屋上緑化した関内のTAISEI GARDEN(シェアオフィスなどが入居しているテナントビル「泰生ビル」の屋上にあるガーデン)も、保育園の園庭として使われていたのですが、この春、園児たちが入れなくなったら大きく育ちすぎてしまいました。
梅原: わかります。今年、森ノオトの庭にある畑にシロツメクサが侵入してきて、他の場所のより大きいのでびっくりしましたが、種類が違うわけではないんですね。一度刈って肥料にしてみたんですが、もっとよく踏んでいれば適切な大きさにとどまってくれたんですね。
吉田: そうです!シロツメクサの絨毯は、芝生よりも手がかからず楽ですよ。ちなみに芝生もZASSOです。元々あるものを品種改良しているので。
梅原: 芝生もZASSO……言われればそうですよね。元々がZASSOだったという園芸種や野菜はたくさんあるでしょうね。
吉田: そうですね。もうめちゃくちゃありますよ。春に黄色い可愛い花を咲かせるカタバミは、今、オキザリスという園芸種で販売されています。
梅原: カタバミといえば、家紋に使われているという話があって、ある記事で読んだんですが、昔の武士達は植物のことをよく知っていて、割に地味な草花を家紋にしているんですよね。齋藤道三の齋藤家はナデシコ、徳川家はフタバアオイを元にしているとか。
吉田: そうなんです! カタバミはたくさん家紋に使われています。根が深くて、踏まれても踏まれてもまた生えてくる、そのしぶとさ、強さにあやかっているんでしょうね。
梅原: 今よりも暮らしと自然が近かったことが伺えますね。それはさておき、ZASSOを暮らしに取り入れるには、食べるというのが割と入りやすいですけど、この春、私は、森ノオトの庭や畑の脇のカラスノエンドウ、ヨモギ、スギナ、ノビルを食べました。カラスノエンドウって、柔らかい新芽と薄い絹さやのような柔らかいところを食べるって、私は別の方から教わって食べているんですけど、ちょっと遅くなると、さやが硬くて口に残るんですよ。
吉田: 僕は、カラスノエンドウに関しては、さやの中の実がパンパンになった頃が食べ頃と思っています。枝豆のように、さやごと茹でたら、中の豆だけ食べて筋張っているさやは出しちゃう。熟しきって黒くなったものは食べたことはないけど、お茶にはできますね。
梅原: そうか、枝豆式にすればいいんですね! 黒豆茶なんてのもありますしね、お茶は来年試してみよう。今年は、スギナを乾燥させて焙じたお茶をおいしくいただいています。スギナは食べたり飲んだりできると知らない人が多くて、みんな一生懸命抜いて捨ててるんですけど薬草ですからね。天然の茶畑で薬草園。もったいないです。見た目も青々として清々しいし、スギナ風呂にしたり、刻んで料理に混ぜたり色々楽しめます。
吉田: いいですね。ZASSOはその多くが野草、薬草でもあるんです。5月中旬から6月にかけてはドクダミが花を咲かせ始めて元気です。ドクダミもスギナと同じく、栄養薬効に優れていて、利用価値が高いんです。花もきれいだし、ドクダミの絨毯もいいですよ。ZASSOを食べることに関して、僕のオススメは、熊本県の崇城大学薬学部教授の村上光太郎先生(故人)の『食べる薬草事典』です。
梅原: 本、読んでみたいです。ちなみに、森ノオトでは以前、ドクダミチンキの作り方を紹介しています。私は今年ドクダミ茶を作る予定です。すりつぶした生葉をパックにすると良いとも聞いて試してみたいと思っています。今後、ドクダミやスギナの手入れに困っている人がいたら、呼んで欲しいくらいですね。喜んで摘みに行きますよ(笑)。
夏から秋にかけて注目したいZASSOは?
吉田: これからの季節、ドクダミの他に、ツユクサも葉っぱを生で食べたり、茹でて食べたりします。花も青くて可愛いですし。いかにもみずみずしく目にも楽しめます。それから秋になると、セイタカアワダチソウ。セイタカアワダチソウは外来種として嫌われていましたけど、今はもう全国的に広がって逆に減ってきている。薬効を利用する動きも生まれています。セイタカアワダチソウの黄色い花と、ススキの穂のシルバーの組み合わせは新たな日本の風物詩、風景として美しいものと捉えられるようになっています。
梅原: セイタカアワダチソウに関して、2月にフラワーダイアログのプログラムのゲストに来てくださった小島理恵さんが、先日、株式会社QGARDENのオーガニックガーデナー養成講座で同じことを話されていました。これからの時代の自然保護は、身近な自然を、人の手が入ったガーデンと考えて、目指す目的に沿って環境をつくっていくべきではないかという、多自然ガーデニングという方法の提案です。(参考資料:『自然という幻想 多自然ガーデニングによる新しい自然保護』著・エマ・マリス 訳・岸由二 出版・草思社)。自然はそもそも移ろいゆくもので、外来種とは何か?を長い目で見て考えていくと、悪者として駆除対象にすればよいとは限らない。例えば日本の場合、もともとは稲やお茶だって外から入って来た種ですよね。人為の入らない手つかずの自然に戻すことを自然保護の目的とするのではなく、人間を含め、今、外来種と呼ばれるものも在来種も、共に生きていけるような環境を、小さな身の回りの自然からデザインしてつくっていきましょう。そんな考え方です。
吉田: 今は、ナガミヒナゲシが外来種として話題になっています。もし、はびこって欲しくない場所で見つけたら、抜いてタネを残さないように、燃えるごみとして焼却するのが良いです。セイタカアワダチソウと同じで繁殖力がとても強い。自分たち以外の種が育たないように毒性のある成分を根から放出して、他の植物を枯らすアレロパシー活性が強いのです。でも花はオレンジ色で可愛らしいし、摘んだり、愛でる気持ちもまた、自然な反応ですよね。
梅原: 自然は人智をはるかに超える動きをしていますからね。まずは関心を持って、いろんな考えに耳を傾けて、実際の自然に触れることが大事だと感じます。吉田さんから聞いた話で、雑草の種は目には中々映らない位の小ささで空気中を舞っているというのが、目からウロコだったんです。だから、うちの7階のベランダの土にもZASSOが生えてくるんだなと。いわれてみれば当たり前なんですけど。スギ花粉とかPM2.5なんかと同じで、目では見えていないものがたくさんある。いつも身の回りにZASSOたちの種が浮遊していると言うと、怖いとか厄介だと思いがちだけど、私は、すごく楽しいことだなと受け取ったんですよ。
吉田: それは素晴らしい気づきですね。僕は広島出身で、広島県立大学で雑草を研究するゼミに入っていました。就職を機に関東に来て、横浜の種苗会社でも働いていましたが、ZASSOは知れば知るほど楽しくて、その魅力を人に語るようになり起業に至りました。僕の会社ではZASSOの中から選抜したものを育てて増やし、人手やお金をあまりかけなくても楽しめる種として壁面緑化に使ったりしています。青葉区では、今ちょうど、すすき野団地の緑化の一部として、法面にヒメツルソバを植えてみるという取り組みも始まりました。庭やベランダに根付いたものも、抜いてしまう前に、ちょっと立ち止まって来歴を考えると楽しいですよね。
ZASSOは、人類を救う?
梅原: フラワーダイアログの企画では、オーガニックガーデンをすすめている、ひきちガーデンサービスのお二人を招いて、虫や雑草を生かす庭づくりについての講座をしたこともあります。それから、とある研究者の論文がネットに出ていまして(注2)、雑草は、氷河期以降1万年前くらい(10万年という説も)に地球を修復するべく出現し、自然圏の中に雑草圏を作り、人間が再び生きやすい土壌ができてきたという説があったんですよ。それについては吉田さんはどう思いますか?
吉田: ZASSOの起源は諸説あって難しいですね。僕は、もっと遡って地球上に植物が誕生した時、海から陸にあがった時だと思っています。岩盤が風化して粉になって、コケがまずついて、あ、コケもZASSOです。その後、先駆者と言って、ZASSOの中でも最初に出現するものの一つが、ベニバナボロギクです。それが枯れて、また別の種が育ち……だんだん土壌ができてくる。ZASSOなくして人間は生きられないというのは本当にそうだと思います。
梅原: 感染症による世界的なパンデミックで、「新しい生活様式」の実践が求められていますが、豊かな植生の広がる土の上では、ウイルスは生きられないという話もあるんですよね。(注3)これからのスタンダードとしてZASSOを愛でる暮らしが、もっと根付くといいですね。
吉田: ありがとうございます。100年前と比べても、種としての人間は確実に弱くなっていると感じます。筋肉の量、体力、免疫力、生殖力?! ZASSOをガリガリ食べる、ZASSOを生かす暮らしは人間社会の永続的な発展に役立つのではないでしょうか。植物には五感があるという説も出てきていますし、まだわかっていない魅力がたくさんあるんです。フラワーダイアログあおばの企画でもこうして取り上げていただいて嬉しいです。パークの日の活動も秋には開催できるといいですね。僕も青葉区の公園をめぐってみなさんと直接お話をしたいですし、今後の活動も応援しています!
(終)
- 吉田さんとのオンライン雑草トーク、いかがでしたか?
フラワーダイアログあおばでは、6月から#フラワーダイアログSNSキャンペーンを実施します。Facebook、Instagram、Twitter等、ご自身の使うSNSで、ハッシュタグ「#フラワーダイアログ」をつけて投稿して、みんなで青葉区内の花や緑の情報を集めようという企画です。ZASSO情報ももちろんOK。オンライン上で花と緑を通じた対話を楽しみましょう。11月7日から15日開催予定の花端会議ウィークに向けたマップづくりにあなたの写真や情報が使われるかもしれません。ページのシェアやいいね!をつけて、ぜひ参加してください!
注1:パークの日、または公園の日とは、フラワーダイアログのプログラムの中で、区民からでたアイデアです。青葉区は横浜市内で一番公園の多いまち。毎月8日と9日をパーク=公園の日と定めて、身近な公園を楽しむ日としませんか?という提案です。これをきっかけに、多自然ガーデニングの考え方をもって、公園愛護会などのグループに参加して、積極的に身近な自然に関わる人を増やすことを上位目標としています。
注2:九州東海大学農学部教授 片野学氏の講演録「雑草を考える」http://www.yu-ki.or.jp/semi/img/zassou.pdf
2007年 雑草研究所収 宇都宮大学雑草研究センター 一前宣正「雑草とは何かについて考える」https://www.jstage.jst.go.jp/article/weed/52/2/52_2_85/_pdf?fbclid=IwAR1YarP13zm4RoBE8aiyyuUCEadJ1oqGZN2e8Lnqnj4d6zbrJ5GbAdEqj2I
注3:ソニーCSL発行のメールマガジン T-pop News No.177 船橋真俊氏による寄稿 「表土とウィルス」
grobe株式会社
UrbanWalk ZASSO Instagram
https://www.instagram.com/urbanwalkzasso/
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