この日の座談会の参加者は、この6名。
西岡麻里子さん(美しが丘第六公園愛護会)
栢森早苗さん(保木公園愛護会)
白井敦子さん(園芸療法士、保木公園愛護会)
山田麻子さん(森ノオトライター)
片山優也(青葉区区政推進課企画調整係)
梅原昭子(森ノオト・フラワーダイアログ事業担当者)
「フラワーダイアログあおば~花と緑の風土づくり~」(以下、フラワーダイアログ)の目的は、花と緑のあふれる持続可能な活動を区民参加型で広げることです。
青葉区は横浜市の中で最も公園の数が多く、その数は約230を超えます。公園の日々の管理は「公園愛護会」というボランティアの方々が行なっています。また、道路の美化や花壇づくりを行う「ハマロードサポーター」、青葉区役所などの花壇づくりをする「あおば花と緑のサポーター」、小中学校の花壇づくりなどさまざまなボランティアの方々によって、青葉区の美しいまち並みは支えられていますが、活動メンバーの担い手不足という問題が生じています。花と緑に関する活動を次世代へと引き継いでいきたい、この事業にはそんな思いがあります。
地域の人が参加する「協働」によるまちづくり
梅原昭子(NPO法人森ノオト事務局長、フラワーダイアログあおば事業担当): メディアとして子育て世代の読者層を持つ森ノオトは地域の取材と発信をベースに、フラワーダイアログでは多世代をつなぐ企画を実施してきました。「知る・体験する・対話する」ことを常に考え、集まった人がその場で話ができるよう考えました。
花と緑に関する活動をすることは、みんなが「いいね」と思うこと。しかし、担い手不足はどうして起こるのでしょうか。
まず、広報や活動に関わる構造的な問題があります。花壇づくりや花の植え替えなど、花と緑の活動に関心のない人は、花壇ボランティアなどの活動を知らないし、行政がやることだと思っているのかもしれない。そして、こうしたボランティア活動が始まってずいぶん経ちますが、共働きの増加など、ライフスタイルの変化に仕組みが追いついていないと感じています。仕事や子育てで忙しい若い人たちも、活動しやすくなるような方法があったらいいなと思っています。
もう一つは、「人と人との関わり方」の問題です。普段から、まちづくり活動のなかに「対話」が必要だと感じました。対話をすれば、柔軟なものの見方ができ、人との関わり方も変わります。
今年度は新型コロナウイルスの影響もあり、参加者を募ったイベントができませんでしたが、実際に活動をしている方の「生の声」を聞く機会をつくりたいと思ってみなさんにお集まりいただきました。
片山優也さん(青葉区区政推進課企画調整係): 入庁したての2019年4月から2年間、フラワーダイアログに関わってきました。最初は花と緑に関するイベントを行う事業だと思っていましたが、月1回の森ノオトとの打ち合わせ、公園でのワークショップや講演などのイベントや土木事務所とのやりとりをする中で、この事業は、花と緑の活動を通じて世代を超えたつながりづくりのきっかけになるとらえるようになりました。
地域ボランティアの方々への取材・対話、つまりダイアログをしていくことで、地域の方々の思いやアイデアを共有していくことが重要だと思っています。入庁2年目でこんなに地域の方と直接お話して意見にふれることができることは貴重な経験です。
区から「こうしてください」というだけの一方向ではなく、地域とのつながりをもつ森ノオトが地域の目として区民の活動を伝えてくださる。この事業を市民協働で行えてよかったです。たまに意見がぶつかることもありましたが、対話をして一緒につくりあげる、それを感じながらやってきた2年でした。
ーーみなさんはどういう経緯で活動に参加されたんですか?
西岡麻里子さん(美しが丘第六公園愛護会): 美しが丘西部自治会は加入世帯が300世帯ほどの小さな自治会なんですが、長年集会所を要望していたんです。行政に熱心に働きかけて、特例として公園内への建設が認められました。さらに準備を重ねて「ヨコハマ市民まち普請事業」の助成金も獲得してできたんです。その代わりと言ってはなんですが、1年くらいかけて自治会について勉強し、私はその縁で花壇の担当をすることになったんです。集会所は、平津三叉路(ひらつさんさろ)交差点のすぐそばなので「ン」をつけて「平津SUNサロン」という愛称になりました。2011年のことです。
栢森早苗さん(保木公園愛護会): 家が保木公園のすぐそばで、愛護会に入って1年半になります。保木公園でペットのイベントをやっていて、愛護会の人が足りないことを知って夫と二人で入りました。
白井敦子さん(園芸療法士): 私は園芸療法士として、福祉施設やハンディキャップを持っている方に対して植物を通した状態の改善や予防を目指したプログラムを行なっています。昨年12月に保木公園で堆肥づくりをやると知って集まりに参加したら、花壇の経験者ということもあり、公園愛護会の活動のお手伝いをすることになりました。
栢森さん: 白井さんは救世主。入ってくださってガーンと愛護会の活動ステージが変わったんです。
白井さん: 2時間で球根を900個植えると聞いて、道具もないし難しいのではと思って資料を作りました。ほんわかムードで和気あいあいと活動されているのに、後から入ってきた私があれこれ意見するのもどうかなとも思っています。
山田麻子さん(森ノオトライター): 荏子田に住んでいることもあって、森ノオトライターとして荏子田太陽公園の取材をしました。私、熱くなりやすくて、荏子田太陽公園のボランティアさんたちかっこいい!私も一緒にやる!となって(笑)。それまで地域とのつながりが薄かったんですが、荏子田太陽公園の方々と親しくなって地域に知り合いがものすごく増えたんです。子どもも覚えてもらって声をかけてもらったり見守ってもらって「私、荏子田の人になった!」という感覚を得られたことがすごくよかった。今は、このつながりから公園内にあるローズハウスという施設の子育て支援のお手伝いをやっています。
「花端会議」「公園の日」…
フラワーダイアログから生まれたキーワード
ーーフラワーダイアログでは「対話」を重視してきました。2020年10月に発行した「花端会議マップ」には、区民との対話から生まれたキーワードが散りばめられています。
梅原: 1年目のキックオフイベントの際に飛び出したのが、井戸端会議ならぬ「花端会議」。「あおば花と緑のサポーター」で当時リーダーをされていた齋藤世二さんが壇上で、広めたいこととして提案されて、当時の区長も「やりましょう!」、参加者からも「いいね!」となったんです。元々、フラワーダイアログ(フラワー=花と緑、ダイアログ=対話)という事業だったから、つまりは「花端会議」だねって。
西岡さん: コロナウイルスで集会所が一時閉鎖になって、通っていたお年寄りたちも集まれなくなったんですが、週に1回花壇メンバーが作業している日時に合わせて通ってくれて、話したりするんです。これは花端会議ですよね。声をかけると出てきてくれる方もいて、作業の傍ら花壇に腰掛けておしゃべりするんです。おしゃべりしたら「元気が出た」って言ってもらって。花壇って、ただ単に、花壇じゃないんですよね。(居)場所なんですよね。
白井さん: 福祉施設の花壇の改修工事をしていた時、予想外に大きな木の根っこが広がっていて……。大きな根っこを移動したり、時間と人を増やして作業していると、職員や通所者、入居者、業者さん、本当にいろんな方が声をかけてくださったんです。オープンな場所での花壇づくりを失敗した経験が、人とつながれるんだという大発見だった。
梅原: 白井さんがおっしゃるように、花壇や公園で作業していると話しかけてくる人が結構いますよね。身元を知らなくても話かけやすい、つながりが生まれやすい「場」ですよね。作業しながらだと普段話しづらいことも話せるし、ただの雑談もいい。そういう関係性が地域を豊かにするなと思います。
1年目に出たもう一つのキーワードは「公園の日」です。事業で区民と対話をするなかで、「その日に行けば公園の清掃や花壇づくりをしてくれているボランティアさんに会える」そんな感覚がいいねという話になって、公園=パーク=毎月8日9日を「公園の日」にしました。私は、「公園の日」に公園をまわってみて、写真をSNSにあげています。色んな公園をまわってみると、ここは花壇づくりがうまい人がいるとか、清掃している人がいるとかが分かります。身近な公園にもっと行ってほしくて、広めていきたいんです。
山田さん: 梅原さんに誘われて公園で打ち合わせをしましたね。子どもが大きくなると足が遠のくけど、公園で何かをするのっていいなって思いました。知り合いに日曜日の朝ごはんは公園で食べる人もいるんです。以前記事でも書いたんですが、公園って読書もできます。公園の日にみんなが集まる何か、例えばどんぐりを拾いましょうとか、そういうささやかなイベントがあるといいかも。愛護会の活動をする前に、まずは公園に行かないと活動しようという気持ちにならないですよね。
白井さん: 保木公園だと堆肥置き場を探すとか、一番早く紅葉する桂の木を見つけるとか。公園めぐりをイベントにするのもおもしろいですね。
梅原: 2年目のキーワードは「マイツリー」です。講演にお招きした樹木医の塚本こなみさんがをオススメされた自然とのふれ合い方です。公園の中でも森の中でも自分の木を1本見つけてその木に話しかけてみると、子どもにとってもすごくいいんですと話されていました。木は何も言わないですがその存在で癒やされる。そういう木がまちにあるといいですよね。
栢森さん: 秋に保木公園の桜の木を剪定したんですが、その枝を使って子どもたちと一緒に染物をしたんです。桜の木って、子どもたちにとっても大事だろうし、染物をすることで大切な木になると思うんです。マリーゴールドも染めるときれいだと聞いたので、子どもたちと一緒に育てて摘んで染めるということをやると、公園の中に自分の思いが少しずつ入っていくなって思っていて、コロナが収まったら公園で大々的にやってみたいと思っています。「マイツリー」「マイフラワー」について、私はイベント好きなんで、そんなことを考えています。
西岡さん: 公園の花壇を長年支えてくださった方が「私の思い出にこれを植えて」って言って小さなライラックの株を持ってきてくださって、一番目立つところに植えたんです。そのあと、その方が亡くなられてしまって、毎年ライラックを見ると「○○さんの木だよ」ってみんな思うんです。木ってそういう力も持っていますよね。
片山さん: それぞれのキーワードに対して、いろいろな意見がうかがえました。画一的な定義ではなく、人それぞれ多様な意味があっていいなと感じます。
ーーフラワーダイアログでは、公園愛護会の現状や課題解決のための手立てについてより深く知るため、2020年8月より半年ほど保木公園をモデルとして、花と緑の活動を活性化するプロジェクトを行いました。月1回の会議では、愛護会のメンバーだけでなく、自治会、小学生のお母さん、小学校の「おやじの会」のお父さん、小学校の校長先生も参加。公園の現状と課題をふまえてどんな公園にするべきか考え、活動計画や若い世代も参加しやすい仕組みについて話し合いました。
栢森さん: 公園愛護会というと義務感などの責任を感じる人もいるので「保木公園ファンクラブ」(公園愛護会をサポートする准メンバー制度)をつくって活動も盛り上がっていて、人のつながりが広がるのが楽しみです。この1年半でメンバーが少しずつ増えて、今では40人くらいに。子育て世代のママさんたちの参加で子どもたちがかわいらしく、水をまいてくれる光景も目にするようになりました。この半年は、地域のメンバーと梅原さんとで未来を設計して、人がつながっていく楽しさと、安心感を味わっています。課題はあまり感じていないです。いつかメンバーが減って雑草だらけになるかもしれない。未来から見れば「ああいう時期だったね」と思うかもしれない。肩肘をはらずに自然な姿で活動できるといいと思っています。
白井さん: 私は個人的に季節ごとに香る木があってそれで堆肥も作って循環させるのがいいなって勝手に妄想してます。花を植えるにしてもまず、日の当たり方、広さを調べないといけないんですが、どう仲間に呼びかければいいのか。楽しんでできる人が加わってもらうようなかたちがいいのかなと思うんですが、メンバーの皆さんの意見を直接聞いてみたいです。
ところで、美しが丘第六公園はいつもきれいですが、どうやって花壇づくりされているんですか?
西岡さん: 花壇のデザインは、永井さん(青葉土木事務所公園愛護会等コーディネーター)のご指導のもと始めたんです。高さや開花の時期が合うようみんなで勉強しました。
それと、愛護会メンバーに凄腕の人がいるの。その人がタネから苗を120株も育ててくれたんです。タネから育てると500円くらいでできるんです。なのに彼女は一言も自慢しないの。私よりずっと若い人ですが、尊敬しています。みんな彼女のことを大好きで、彼女が幸せに花壇活動をできるようにって大事に思っていて、とっても仲がいいんです。
梅原: 凄腕の人はどうやって関わったんですか?
西岡さん: 集会所ができる5年前に、うっそうとしていた公園を土木事務所の方がきれいにしてくれて、その時に花壇ができたんです。せっかくだからと当時の自治会長が彼女に声をかけて(前出の)ライラックの花の方と2人で5年間ずっとやってくれていました。横浜市から集会所建設の許可が降りたのも「あの公園きれいだから。花壇がきれいだから」ということが大きかったです。本庁の方からも「あの花壇がきれいな公園ね」って言われて、花壇の力ってすごいなって感動しました。
梅原: 事業を通していろんな公園に行くことで、公園の花壇を自分の花壇みたいに大事にしている人たちがいることが分かります。
西岡さん: 花壇づくりは地道な活動。ハレとケでいうなら地道なケの活動ですよね。
梅原: 楽しくやっていて、自慢にも思わないし生活の一部になっている。こういうことが本当に地域を守っていると感じます。まずはそういう人や花と緑に興味のある人を発掘する。今日もそうですが横のつながりが広がるといいと思っています。
山田さん: 愛護会のメンバーを増やしたいと思ったら、小さい子ども連れのママたちに、公園でお話しするところから始めるのがいいと思う。すぐはできなくても知り合いになれば後々興味を持ったり参加もしやすくなるので、そういう種まきも必要なのかもしれないですね。私はライターとして取材ができたので、つながりやすかった。
これからのまちづくりに必要なこと。
ーー花と緑のまちづくりの活動をする上であったらいいと思うサポートなどありますか?
また、今後青葉区がどんなまちになったらいいと思いますか?
山田さん: 青葉区の公園すごいな、公園がいいから友だちを呼びたい、みたいに、公園が青葉区の誇りになるといいなと思います。今、私は子育て支援の方に力を入れていますが、公園に限らず「地域のために何かしたい」という人が増えればいろんな分野で動く人が増えるので、緑にかかわらず青葉区の人が青葉区のために動いて、もっと愛してくれるといいのではないかと思っています。
栢森さん: 私はハレとケのハレ好きなので、楽しいイベントを考えてしまうんですが、愛護会に入ってからはケのおもしろさも感じています。水をあげていると地域のおばあちゃんに「ありがとう」と声をかけられる。そんな喜びを愛おしく感じ始めています。
白井さん: 今日は他の公園の話を聞けたのがとても楽しかった。美しが丘第六公園がどんな道具をそろえてどんなふうに活動しているのかを知りたいです。他の公園の方にもお会いしたいです。
西岡さん: 私も園芸療法に興味があります。横のつながりをつくってくださるこういう事業はありがたいです。
白井さん: 他の公園の方も応援したいんです。読者の方が今日の座談会の記事を読んで、じゃあちょっと美しが丘第六公園に行こう、となるかもしれない。中心となって活動する人たちのつながりをゆるやかに外側に広げていく。そんなやわらかいつながりに希望を持っています。
西岡さん: 堆肥も作っていますが足りないのでたくさん購入もしています。公園愛護会に支給される補助金年間2万円と住民が支払う自治会費から10万円を公園に使っています。土を耕したり、作業は人力をかけています。土木事務所にお世話になっているけど、予算がもう少しあるといいなと思います。
梅原:横浜市や青葉区の補助金のほか、民間の補助金に応募するのも手ですが、それ以外にも支援があるといいかなと思います。
片山さん: 区でも、さまざまな活動をサポートする補助金を用意しているので、応募を検討してみてはいかがでしょうか。
今日は色々なご意見をうかがえてよかったです。栢森さんの話の中で、「各々が保木公園を思ってくれたら」という考え方や、白井さんの「みんなでやりたいことを決めたい」という思い、そして西岡さんの仲間を思い合う活動。みなさんの活動が、公園という場所だけでなく、ともに活動するメンバーや利用する人たちに向かっていて、それが地域の中での協働なんだと思いました。
梅原: 地域に入っていくというのは怖いことでもあります。保木公園でのプロジェクトについても、地域に入っていく中での摩擦を覚悟していましたが、直接意見をぶつけてくれたことで前に進むことができました。コアに関わらないメンバーにも情報が伝わるよう図解をしてみたり、スケジュールの共有もしたんですが、会議の場だけでなく現場作業も付き添って、ちょっと離れた隣人として関わるなかで、いろんなことが見えてきました。みんなそれぞれの思いがあって、それぞれを大事にしたい。でもある程度方向性は決めなくちゃならない。人間関係の調整が大事だなと。それをやっていくのが地域活動では大事だけど、仕事とは違う。みんなボランティアでやっていて、そのことを地域の方々にも知ってほしいと思っています。フラワーダイアログではそのきっかけをつくれたと思っています。
今日お声がけした方々は、それぞれ素晴らしい意見を持っていて、活動する方々同士が横につながっていける、今日のような場がもっとあればいいと思いました。ありがとうございました。
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「フラワーダイアログあおば~花と緑の風土づくり~」は、青葉区役所と森ノオトも時にぶつかり、試行錯誤しながら「対話」を重ねた3年間でしたが、事業の方向性もまた、区民の方々との「対話」から得た意見を元に進めてきました。
参加する人もしない人も、まちづくりにはそれぞれの思いがあります。「対話」を深め、互いを知る。その結果が花と緑のあふれる豊かなまちへとつながるのだと私は感じています。
「フラワーダイアログあおば」は2021年度も「フラワーダイアログあおば~花と緑から生まれる対話~」と少し名称を変更してして森ノオトと青葉区の協働で花と緑のまちづくりを進めていきます。「対話」を通じたまちづくり、みなさんも「花端会議」から始めてみてください。
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