コミュニケーションに成功も失敗もない
横浜市都筑区にある一時保育さんぽは、横浜市乳幼児一時預かり事業の保育施設です。預ける理由は問いません。0歳から未就学のお子さんをお預かりし、自然の中でたっぷり遊びます。たくさんの地域の方に見守られながら、親も子もスタッフも一緒に育ち合っています。

(文=一時保育さんぽ・燕昇司 知里/写真=一時保育さんぽ)

*このシリーズでは、「子どもを育てる」現場の専門家の声を、毎月リレー方式でお送りしていきます。
 

見知らぬ人に自分から話しかける?かけない?

 
皆さんは、エレベーターを待っている時、電車に乗っている時、スーパーのレジに並んでいる時、自分と同じ空間にいる人に自分から話しかけることってありますか?
積極的に自分から話しかけるという人は、全国的にも1割程度しかいないそうです。大阪府だけ少し割合が上がるとか上がらないとか。半数以上の人は、“場合によって”話しかけるという答えだそうです。
 
確かに!私自身も場合によって自分から話しかけるときが思いあたります。例えば自分が困っている時や、用事があるとき(スマホがない時代はよく道を聞いたりしていました)。反対に相手が困っているかなと思う時にも話しかけたりします。「手伝いましょうか?」「落としましたよ」とか。
 
以前電車の中で激しい腹痛に襲われて苦しんだことがありまして、(2時間後に虫垂炎で病院に運ばれます)その様子を見ていた女性の方が「椅子に座った方がいいんじゃない?」と声をかけてくれました。自分ではそこまで苦しんでいる様子を見せているとは思わなかったのですが、女性は何か異変を感じ取ってくれたようで、声をかけてくれたのだと思います。若かりし私は、「大丈夫です」と断った記憶があり、今でも後悔しています。あの時の女性の優しさを素直に受け取ればよかった。
 
私の若さゆえの自らの発しづらさ、人からの優しさの受け取りづらさも経験してか、今では結構知らない人に話しかけちゃう自分がいます。小学生とかによく話しかけちゃったりしています。緑道で虫捕りしている子どもがいたら「何捕れたの?」とか、近所を一人で歩いている子に「おかえり」とか。子どもたちに声をかけるのは不審者だけじゃないことを、伝えたいのかもしれません。たまに不審者がられますが。
 

道端にヒカレガエル

 

お国によって違うマナー・文化

 
昔と違って、外国籍の方が近所に住んでいることが当たり前になってきたと感じます。嬉しいことに私たち一時保育さんぽにも、外国籍の方のご利用が増えています。私は英語が苦手ですが、それもまた楽しんでしまえばこっちのものです。以前英語で子どもの様子を伝えてみた時、「とってもエンジョイしていましたよ。公園にも行きました!ランチタイムも完食!お昼寝も3年しました!」と英語を使って片言で伝えると、それを聞いたお父さんは「OHH!3years!!! hohoho~」何をそんなに爆笑しているの?はッ!間違えた!!「お昼寝は3時間しました」を、「3年間しました」と伝えていました。恥ずかしいけど、笑い合えて距離が縮まる気がしました。
 
近所に外国籍の方が増えて感じるのが、挨拶を積極的にしてくれることです。それも「おはようございます」と丁寧に伝えてくれます。アメリカなどでは、見知らぬ人に積極的に話しかけるのが、マナーとされる文化があるそうです。その背景には、敵ではありませんよ、安心してくださいと伝える必要があるからだとか。反対にイギリスでは、見知らぬ人に話しかけることはマナー違反といった文化もあるそうです。
 
日本はどうでしょうか。例えば、普段エレベーターを待っている時、どこに視線を置きますか?私はエレベーターの扉の上の方にあるB1・1・2・3・・・・の階数表示を見ています。無意識で見ています。見ている人多いですよね?これって日本が平和である象徴の文化らしいのです。えっどういうこと?
 
ワークショップデザインの授業で教わったのですが、講師いわく、視線を階数表示に置くことは、「そもそも話しかけなくても大丈夫です、あなたを敵とは思っていませんので」と伝えているのだとか。そんなこと考えたこともありませんでした。日本人がエレベーターの階数表示を見ていることも文化だと言われ驚きました。でも“文化の違い”という言葉がぐっと身近に感じられます。
 
文化が違う人とも、お互い居心地よくいられるには、いかに自国の文化を押し付けずに、お互いの文化を理解しながら過ごせるかが大切になってきますね。それには自分のことも相手のことも理解するために、コミュニケーションが不可欠ですね。
 

子どもたちの遊びを見守る人

 

初めて聞く言葉 コンテクスト

 
最近私事ではございますが、社会人履修生としてワークショップデザインを大学で学んでいます。信じられないくらいカタカナ言葉が出てきます。その中で初めて聞いた言葉ですが、保育の現場では身近なことだなと感じた言葉があるので、それを紹介したいと思います。
 
それは、コンテクスト(context)。皆さんは聞いたことありましたか?私は初めてでした。コンテクストは、文脈や脈絡、状況、背景、前後関係などと訳されています。またコミュニケーションの基盤となる、文化の共有度合いといった意味もあるそうです。例えば、冒頭でお話したような、状況によっては人に話しかけたりするときに感じる「この人困ってるよね」と思う時。この時に考えているのは、目の前の人の見えない文脈や情況や背景を理解してどんなふうに声をかけようか、かけない方がいいのかということ。素敵なコンテクストです。
 
また例えば、子どもが他の子のおもちゃを取っちゃう時、見たままだと、人のものを取るなんてとドキドキしちゃいます。でも見えていることだけがその子の本質じゃない。見えない部分にこそ本質が隠れていて、その部分を想像することがめちゃくちゃ楽しい。人のものを取ったことには、理由がある。おもちゃしか見ていなかった。人が使っているなんて見えていなかった。さっき取られたから取り返した。自分も使いたい。人が使っていると自分も使いたくなっちゃう。人と自分のものの区別なんてそもそもない。などなど、想像が止まりません。
 
でもおもちゃを取ってしまった子どもの親は、自分の子どもが人のもの取っちゃってと、子どもを叱っていたとします。そんな時、どんなことを感じられるでしょうか。叱っている親の状況は、「こんなことをしてしまうなんて、うちの子は大丈夫かな」「なんで仲良く遊べないの」「向こうの親御さんはどう思っているかな」などなど不安でいっぱいなコンテクストを抱えているのではないでしょうか。

 

手には大きなバッタ!さぁだれから手をだす?

 

なんとなく、コンテクストの意味を理解してもらえたでしょうか。日本はこのコンテクストの共有性が高く、相手の立場に立って考えることができるハイコンテクストな国だそうです。相手の立場に立って、状況を察することができる文化。この文化は、人間にしかできない難しいコミュニケーションで、AIにはできません。東京オリンピックでの日本のボランティアが称賛されましたね。称賛される理由はたくさんあると思いますが、その中に、人を思いやることのできる姿、その人の立場になって考えることのできる共感力などが注目されていました。

 

子育て中のコンテクスト

 
コンテクストが人間にしかできない分、間違えることもあります。忙しかったり、疲れていたり、急いでいたり、イライラしていると、途端に影響されます。結局余裕がないとうまく受信できないのが人間で、完璧じゃないです。
先ほど述べたおもちゃを取ってしまった我が子を目の前にしたら、子どものコンテクストをうまく受信できないと思うのです。だって不安の方がいっぱいだから。子どもから「食べない、食べたくない」「帰らない」「行かない」「ママやだ」など、ネガティブな言葉が出てきたときも、コンテクストを考えることなく、そのまま受け止めてしまいます。
 
例えば「ママやだ」と言われて、本当は嫌いじゃないことはこっちだって百も承知です。たいていは子どもが疲れている時、頑張った時、帰りたくない時、甘えたい時、構ってほしい時など、子どもの立場や状況があるだろうと理解できます。
 
でもこちらに余裕がない場合、普通に子どもの言葉に傷つきます。「ママやだ」…子どもの言葉だからって傷つかないことなんてありません。そしてだいたいわかっています。子どもがそう言ってきたときほど、受け止めなきゃいけないことぐらい。裏に何かがあることぐらい。でも、
本当は、「〇〇ちゃんも、疲れたね」「楽しいから帰りたくないよね」とか子どものコンテクストを受け取って、返してあげたい気持ちは持ち合わせていますよこっちだって。でもできない時だってある。人間だもの。
 
そんな時は、見知らぬ人にでも話しかけちゃう人の出番。お母さんの代わりに、子どものコンテクストを受信して、返信してください。「あら、まだ帰りたくないのね」「ママのことやだは嘘だよね」「ママはあなたのこと好きだと思うよ」
 
何も解決できなくてもいいと思うのです。お母さんが言えないこと、子どもが言えないことを、他人が言ったっていいと思うのです。他人だからこそできるコンテクスト返しもある。

 

子どものコンテクスト

 
子ども同士のコンテクストは、超ハイコンテクストです。
 
こんなことがありました。一人の男の子が、おもちゃの線路をつなげて、電車を走らせています。他の子も来て電車を走らせます。すると、先に遊んでいた子は「だめっ」と怒ります。後から来た子の電車を手の甲で押し、線路から離脱させます。だめと言われた子どもは、こちら(私)に視線を送ります。視線の意味はたぶんこうです。「ぼくも遊びたいのに、だめって言われて、押されました」。彼の視線からのコンテクスを受け取り、相手の子どものことも含めて私はどうするか考えます。でもどうしたらいいかなんてわかりません(笑)なので、だいたい視線を送ってきた子どもにまず聞いてみます。
 
私「どうする?」
子ども「遊びたい」
私「ですよね」
 
じゃあ、別の場所に線路を組むか、相手の子どもに一緒に遊ぼうと交渉してみるか、と考えている間に、手の甲返しをした子どもが、相手の子どもに近寄り、視線を合わせて、にこ~っと笑いに来ました。
それだけ。そしたら二人で同じ線路で遊び出す。へ?なにが起きた?置いてきぼりです、私。
なので、遊んでいる二人を見ながら、想像します。
 
手の甲返しした子ども「まちがえちゃった!さっきはあんなことしましたが、条件反射でダメとか押しちゃったりしちゃいました。悪気はないです。今からでもよかったら一緒に遊びませんか?にこ~(笑顔)」
 
押されちゃった子ども「了解です」
 
です。※ちなみに二人は言葉を交わしていません。そう想像すると今度また同じことが起こっても、この子たちは大丈夫!って見守ることができます。また違う子どもが押されちゃったとしても、「間違っちゃっただけだと思うよ。ちょっと待ってみようか」と言葉に変換することができます。代弁することで、肯定されたと感じてられて、子どもとの信頼関係も築くことができますし、子どももそう言えばいいのかと段々と自分のものにしていくことができます。
 

私も負けないからー

 

「そんなことしないよ」って見たままの行動を指摘するより、「たぶんこうだと思うよ」って見えない感情を伝えてみると、どちらの子どもも「へぇそうなんだ」と自分の気持ち、相手の気持ちに気づくことができていく。そう願いを込めていたりします。
反対バージョンもあります。押されちゃった子どもの方が、手の甲返しの子どもに対して「えへへ~」って笑って、遊び出す。また置いてきぼりです。想像タイム…押されちゃった子ども「ダメって言われても、押されても怒っていないよぼくは。えへへ~(笑顔)」です。相手の子どもはその笑顔を受けて、「え?怒ってないの?ありがとう。一緒にやろう!」と、お互い遊び出すのです。
 
超ハイコンテクスト!言葉なし。笑顔一発でこのやり取り。すごすぎです。見えているもの、されたことだけじゃない、相手の立場に立って、こうしたら仲良く遊べるんじゃないかなってわかっています。私の価値観で別の場所に線路を組まなくてよかったし、「仲良く遊んでみるのはどうでしょうか」なんて言わなくてよかった。本人たちは、相手の立場になって考えているし、共感しています。いいえ、そんなことたぶん考えていないかもしれません。でも自分の笑顔をまず見せることで、相手の不安を取り除けるのではないかと無意識で感じているのかもしれません。
 

とは言ったものの

 
とは言ったものの、相手の立場に立つことができる人ってどんな人でしょうか。
私は、自分らしさを理解している人なのではと思います。自分らしさを理解するには、自分の感じ方を知る必要があります。幸せな気持ちの自分、頑張っている自分、無理している自分、高揚している時の自分、落ち込んでいる時の自分、違和感を覚える自分など。その感じた自分を相手に伝えるのも大切です。こんな自分がいるんだ。あんな自分もいるよ。伝える相手はたくさんいますが、特に子どもに伝えることを私は重要だと思っています。
例えば、「天気が良いときに気持ちいいね」とか、「雨だけど家にいられて幸せ」とか。「お腹いっぱい食べちゃって苦しい」「人前でこけちゃって恥ずかしい」とか。とっても些細なことでも、伝えることでそれが子どもにも伝わる。嫌なことをされたときは嫌だって言ってよいことを知る。小さな幸せがあることを知る。人と共感することの楽しさを知る。子どもにはそんなことを知っておいてほしいと思うのです。つい子どもの頑張っている姿を見たくて、優しい子どもの姿を見たくて、色々条件を付けたくなります。○○してくれたら嬉しいなとか、全部食べたらお母さん喜んじゃう、○○できてすごいね、仲良く遊ぼうねとか。それとはまったく違います。先にも述べましたが、子どもはハイコンテクストです。親が、周りが何を望んでいるか察してしまいます。察して行動するうちに、だんだん疲れてきちゃって、本当の自分を見失っちゃうことになりかねません。
 
コンテクストで大事なことは、空気を読んで、周りにあわせることではないと思いますし、押し付けるものでもないと思います。赤ちゃんに話しかけたり、時にはモノに話しかけちゃうことだってある。それぐらい言語だけじゃない、通じる何かを私たちはいつも感じている。感じたいと願っている生き物。だから通じないと寂しいし通じると嬉しい。
 

好きなものは一人でこっそりとあそびたい

Information

横浜市乳幼児一時預かり 一時保育さんぽ 平日9001700

横浜市都筑区荏田南5-8-13 1階
TEL045-532-9960 FAX045-532-9967

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<プロフィール>

燕昇司知里

21歳で結婚して、22歳、23歳で女の子を出産。育児を楽しめなかった暗黒期を経て、33歳で男の子を出産。そこで初めて家族との育児の楽しさ、地域との関わりでの子育ての楽しさを知る。自分の経験から育児をつらく感じている人に寄り添いたいと思い、35歳から通信制短期大学で保育士資格を取得し、子育て支援の世界へ。その後様々な生きづらさを感じているご家庭にも直面し、特別支援士、早期発達支援士を勉強、取得。おしゃべりカフェ「ぽこぺん」に参加。自身ではワークショップ「ワレワレハウチュウジンダ」にて、だれもが暮らしやすい地域を目指している。

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