登戸の変わりゆく街の変化とともに。 コーヒーと椅子でつくる居心地の良いカフェ「RIBOT COFFEE」
小田急線と南武線が交差する登戸駅から徒歩3分の空き地で週3回キッチンカーでハンドドリップコーヒーを販売するRIBOT COFFEE。区画整理でビルや住宅が建ち並ぶ小さな空き地で、訪れた人と会話を楽しむ空気をつくるRIBOT COFFEEの手塚壮博さんに話をお聞きしました。(2022年ライター養成講座修了レポート:スミナツコ)

RIBOT COFFEE(リボーコーヒー)は3年前に区画整理事業で取り壊されることが決まっていた登戸にある昭和の木造アパートの1室から始まりました。
その頃の登戸駅周辺は、住宅が密集し、細い路地が迷路のように入り組んでいました。ある日、私は道の角に小さな看板が立てかけてあるのを見つけ、その看板を頼りに歩いて行くと隠れ家カフェが現れたのです。「こんちは!」と挨拶をする手塚さんのカフェに出会ってから、変わりゆく街と共に過ごすカフェの時間や訪れる人に魅了され、今でも通い続ける常連になりました。

RIBOT COFFEE が始まった昭和の木造アパート。大きな夏みかんや枇杷の木があり昔ながらの風景が残る場所でした。壊される間際までお客さんに愛されていました

アパート時代は軒先があり縁側から土足で上がる入り口の店舗でした。狭い店内には手塚さんが修復し販売している椅子が店内をぐるりと囲む配置になっていて、その頃から手塚さんはお客さんとの会話を楽しみ、初めてのお客さん同士も椅子に座って会話をするスタイルの少し変わったカフェでした。

 

その後、アパートが取り壊され、キッチンカー営業に切り替え区画整理で現れる空き地を転々とし営業を続けています。数年後にはアパートのあった場所に新しく7階建てのビルが建ち、その土地の中に新しい店舗が戻ってくるのです。店舗のスタイルがアパートから空き地に変わっても、変わらない自由な空気と場のつくり方は手塚さんの「技」だなと感じています。普段はくだらない話や昔のテレビの話などを喋っている日々ですが、いつもよりちょっと真面目にインタビューをお願いしてその「技」の秘訣を教えてもらうことにしました。

 

焙煎をしながら話をしようということになり、焙煎所にお邪魔してコーヒーを焼く香ばしい香りの中、どうしてコーヒー屋さんを始めることにしたのかお聞きしました。「昔からコーヒーが好きだったんだ。淹れるのも飲むのもね、仕事は5年間家具屋で働いていたんだけど、このまま家具屋でずっと働くか転職か独立かで悩んでいたタイミングの時に、区画整理で取り壊しが決まったアパートの角部屋がたまたま空いたんだ。1年間空き家になるならと思って、好きだったコーヒーと家具のお店を開くことにしたんだ」と焙煎をしながら話してくれました。

キッチンカーでは季節に合わせてシングルオリジンで深煎り、中煎り、浅煎り3種類の豆をお客さんと会話しながら好みに合わせて提供している

アパートの内装は前職の経験やノウハウを生かしてその場所に合うテイストに自分で仕上げることが楽しかったそう。「質のいいものを生かして手入れをし、お金をかけないで居心地の良い空間をつくりたい」。その頃のお店は手塚さんが修復したアーコールチェアと昭和のアパートが馴染んでいて、軒先にはアウトドアチェアとハンモックがぶら下がり居心地の良い落ち着いた空間だったのを、今でも忘れられない感覚で懐かしく覚えています。

アパート時代は小さかった手塚さんのお子さんたちも一緒に過ごす時間も多くあり、娘さんと息子さんがお客さんと遊んでいることは日常の風景でした

「いよいよアパートの取り壊しが近づいてきたとき。近所の個人の方から空き地を使ってもいいですよ、という話がきたんだ、それならキッチンカーにしようと思った」。その時のタイミングや運を生かし自然に流れに乗る手塚さん。空き地でのスタイルに合わせてキッチンカーとスノーピークのゆったり座れる椅子、天候に合わせてタープやシェルターをその都度設置し営業を続けています。

一番初めの空き地はアパートからほど近い、猫じゃらしが広がる空き地でした。最初は建物が何もなかった場所も、1年後には住宅が建ち並び空き地がだんだん小さくなっていった

手塚さんがRIBOT COFFEEで一番大切にしていることはなんですか?と尋ねてみました。「ノーストレスで働くこと。素に近い状態でいること、背伸びしない無理をしない、仕事中でもお客さんと喋ること、自分がストレスになることはとにかくやらない。カッコつけず人に合わせないこと、これを貫くことで、その空気に合った人が集まりコーヒーを飲みにきてくれる」と語ってくれました。確かに手塚さんはいつもお客さんとの会話を大切にしていて、そのくだらない会話のやりとりは、無駄のようでも生活の余白と遊びになっています。空き地に来るお客さんは家族連れも多く、子どもたちは空き地でのびのびと遊び、大人たちはコーヒー片手に会話を楽しむ。RIBOT COFFEEには老若男女多世代が集まり、そこに行けば素の自分でいられ会話ができる場所になっています。

現在は川崎市と小田急電鉄が運営する空き地「ミライノバ」で営業中。 注文がない時は手塚さんも椅子に座りお客さんと話す時間も。区画整理で均一化したビルやチェーン店の街になってゆく登戸に人の温かみや人情のある場所があって安心する

新しい店舗に、手塚さんはどんな思いを持っているのでしょう。「この街がどうなっていくか不安だよ。区画整理で一気に新しくなっていくから、周りのビルの1階のテナントの空き店舗が1年続いている。どんな街になるんだろう。新しい街に生まれ変わろうとしている登戸だから選択肢が増える街になってほしいし、いろんなことがチャンスの街ではあると思う」と語ってくれました。「街の人たちが楽しんでくれるコーヒー屋になればいい、いろんなところからも飲みにきてもほしいけど。地元のお客さんを大切にしたい」

「登戸生まれはコンプレックスだったんだ」と話してくれた手塚さん。ドリップ中の会話も手塚さんの「技」があります。地元トークは詳しいので話すと面白い

ここ数年、街の変化が激しい登戸。駅周辺の区画整理が徐々に完成に近付いています。登戸・向ヶ丘遊園は私の祖母が昔住んでいた街で、私が幼い頃から区画整理は始まっていました。良い街にしようと30年以上続いている区画整理事業ですが、昔ながらの個人店がなくなり、この地域に戻ってきたとしてもきれいなビルに変わってしまい、昔の姿を知っていると味わいや温かさが消えていく悲しさがありました。ビルが建ち、空き地もなくなってゆく中で、川崎市と小田急電鉄が街の賑わい創出とテナント出店誘致を目的とする取り組み「ミライノバ」を始めています。区画整理中の道路や空き地を活用して、日常のキッチンカー出店や親子の遊び場としてイベントを開催し地域に賑わいが生まれています。空き地を楽しむことは区画整理中だからできる登戸の良さです。

空き地はコーヒーと椅子があれば、みんなが集う居場所になりました

RIBOT COFFEEに1杯のコーヒーを飲みに通っているだけで街の雑談が生まれ、街の動きや街の悩みが他人事ではなく自分事に見えてきました。お店やまちづくりに関わる人たちの声を身近に聞くことができます。街の景色は変わっていくけれど、「コーヒーと椅子でつくる」手塚さんのカフェは新しいビルの土地でも、変わらずに「居心地の良いカフェ」になるんだと取材をして感じることができました。今しかない空き地のある登戸の時間を大切に過ごしたいです。

駅前でアウトドア気分を味わえる私の行きつけの空き地。 浅煎りのブラジルアイスコーヒーで爽やかな1杯。ごちそうさまでした!

Information

「RIBOT COFFEE」
最寄り駅:小田急線・南武線 登戸駅
月 8:30-16:30 OdakyuOX向ヶ丘遊園店 店舗前
木・土・日 9:00-17:00 登戸駅 ミライノバ空き地エリア
金 12:00-20:00 登戸駅 ミライノバ駅前エリア
詳しい情報はインスタグラム
https://www.instagram.com/ribot.crf/

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この記事を書いた人
スミナツコライター卒業生
川崎生まれ川崎育ち。エンターテイメント業界の商業グラフィックデザイナーを経て独立。地域と子どもとの身近な暮らしを選び、絵本と森と街をライフワークに多摩区でイベント活動中。コミュニティやソーシャル等、紙以外のデザインも気になるデザイナー。
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