心地よく、楽しく、自分らしく。tamaki niime machidaの色とりどりな「一点モノ」の服たち
町田市鶴川の小田急線線路沿いに昔からある、真っ白な不思議な形の建物。そこに、2021年7月、tamaki niime(たまきにいめ)のお店がオープンしました。糸の染色から縫製までの全ての工程において、一つひとつ丁寧につくられたものは、全てが「一点モノ」。色とりどりの服は見ているだけでも心がワクワク。そのふんわりとやわらかい服を身に着けると、自分が自分らしくいられるような、そんな心地よさまで感じられるようでした。

生き物みたいな白い建物の中に広がる、やわらかく優しい、色とりどりな世界

 小田急線・鶴川駅から徒歩約5分ほどの線路沿いに、そこだけまるで別世界のような雰囲気を醸し出す、白く丸みを帯びた建物があります。子どものころから、生きてるみたいだなぁと不思議な気持ちで眺めていました。その建物に、「tamaki niime」というロゴが描かれていることに気が付いたのは、2021年の夏の終わりごろでした。建物が、服屋になったということを知ったのは、つい最近のことです。あの建物がお店になるなんて!と驚き、ワクワクしながら取材に伺いました。

 

取材当日は空気が抜けるように青い、まさに、秋晴れの日。その真っ白な建物は、やさしい陽の光に包まれていました。花々の鮮やかな色と、生き生きとした観葉植物の緑と、建物の白とが、互いを引き立て合っているようでした。階段を登り、木のドアから中に入ると、内部はあらゆる場所が曲線につつまれた、色彩が広がる空間でした。白い壁をさわると、ザラザラしているようで、でも滑らかで、どこか温かい感じ。初めてきた場所なのに、前から知っているような、不思議な居心地のよさも感じました。

その中で、色とりどりのショールが、空間に溶け込むかのようにありました。

お店を案内してくださった、川畑麻美さん(写真右)が手に取っているのは、樹皮の模様のようにも見えるショール。自然な雰囲気で、ふんわりしていて、温かみのある感じがします(撮影:梶田亜由美)

地下1階には、自分で値段をつけられるというハギレ、播州織の生地や子ども服も。気に入った生地を買って、手作りするのも楽しそうです。地下2階には、「ふれふれ」「deniime」など、遊び心のある作品名がつけられた、スカートやパンツ、ニットなどが、まるで動き出しそうにディスプレイされていました。さわってみると、どれも、ちくちくしがちなニットでさえも、やわらかく、ふかふかしていて、とても気持ちがいい。いろんな色や柄、風合い、デザインにあふれていて、見ていると時間を忘れてしまいそうです。夢中になって服を手に取り選んでいるうちに、来た人は気がつくことになるでしょう、「全部違う!」と。

そう、ここにある服のすべては、この世界にたったひとつしかない、「一点モノ」なのです。

服がディスプレイされていたハンガーが変わった形をしていることに気がつきました。「これは、鹿の角なんですよ」と川畑さん。「日本ではたくさんの鹿が殺処分されているんです。その命を少しでも無駄にしないように、うちでは角をつかったり、皮をスリッパに使ったりしているんです」と教えてくれました(撮影:梶田亜由美)

tamaki niimeの成り立ち。そして、なぜ、東京出店を町田にしたのか?

tamaki niimeは、玉木新雌(たまきにいめ)さんが2004年にブランドを立ち上げ、2006年に法人化した、播州織のものづくりをする会社です。播州織は、tamaki niimeの本社がある、兵庫県西脇市を中心とした地域で生産される、約220年の伝統を誇る綿織物。布を織る前に糸を染色する「先染め」が特徴で、織り上がった布を後から染色するよりも色合いに深みが出て、さまざまな色柄を織ることができます。

 

玉木さんは、ご両親が洋服屋を営んでいたこともあり、子どものころから服が大好き。ハサミをもってコツコツとつくるのが大好きな子どもだったそうです。一度アパレルの会社に就職したものの、自分の本当に着たいもの、つくりたいものをつくろうと独立し、tamaki niimeを立ち上げました。その後、播州織の職人さんとの運命的な出会いをし、播州織で服をつくると決めると、捨てられそうになっている播州織の古い機械を集めました。マニュアルもない中、自身で試行錯誤しながら機械を動かし、糸を織れる極限までスピードを落として織る方法を見出し、手織りのようにふんわりとやわらかくて着心地がよく、さまざまな色やデザインをつくり出せる、「一点モノ」というtamaki niimeの播州織のスタイルを作りあげました。

本店とオンラインでつないでいただき、玉木さんとお話ししました。画面越しにも鮮やかな色彩とパワーある言葉があふれ出て、すぐ傍に玉木さんがいるように感じました。本店と町田店はこのモニターでいつもつながっていて、本店の社員食堂が映っている日もあるとか。インタビュー中も、本店のお客さんと目があったり、玉木さんと町田店のお客さまが会話する場面もありました(撮影:梶田亜由美)

tamaki niimeは、なぜ、東京の都心部ではなく、郊外の町田市鶴川に出店を決めたのでしょうか。

 

「東京に進出しなきゃ、って自分の中で思ったんですけど、いわゆる商業施設とか、マンションの一角とかで出すのもなんか違うよねって。やっても楽しくないし、うれしくないよね、って。東京に出向いて取材を受けた帰りに、取材を受けるなら自分らしくいられる場がいいな。口で説明するより、感じてもらえるような場所が東京にほしいって思って、携帯で検索したんですよ。そしたら、この『TRUSS WALL HOUSE』に出会った。単純に、わたしが取材をうけるのに、そこだったらいいなーって思ったの。リラックスできて、自分らしくいられる場所だなって思ったの。これはもう運命だね」

地下一階に降りる階段。まるで洞窟探検をしているようなワクワク感がありました。窓も潜水艦みたいでかわいらしい。(撮影:梶田亜由美)

以前は個人宅だったというこの建物。玉木さんは、この建物のどんな点に魅力を感じたのでしょう。

「中に入ったら、『わーー!』って、もう子どもみたいに走りまわってた。家族がここで30年暮らしてたんだ、って思うと、びっくりして。すべてに度肝をぬかれた。建物は直線なものなのに、そこはすべて曲線でしょ。コンクリートだけど、なんかやわらかいじゃないですか。その上、このすごい難しい建築技術を、家庭用の家で使うものじゃないだろって。多分今でも技術はあるんだろうけど、こういう建築技術をみんなが求めていた時代だから成立したんじゃないかな。それをなくしちゃうのはもったいないというか。そういうところをちゃんと残したいなっていう思いも強かったですね」

 

取材中、この場所には、訪れる人をワクワクさせたり、同時に、いい居心地にして和ませてくれる、不思議な力があるな、と感じていました。玉木さんがお話されていた、「口で説明するより、感じてもらえるような場所」って、そういうことなのかな、と思いました。

取材に伺った時に対応してくださった町田店のスタッフのみなさん。川畑さん(左端)は、「この建物は30年間たくさんの人の目に止まってきた。お客さまから、お店にしてくれてうれしいという声も聞きます。時間が育んでくれた見えないつながりを感じています」とおっしゃっていました(撮影:梶田亜由美)

こんな素敵なお店が、町田にきてくれた。玉木さんの言葉をお借りすれば、「運命」的な、この出会いに、私もとてもうれしくなりました。

 

 

着心地がいい、この世界にただひとつの一点モノを、播州織でつくる

玉木さんに、tamaki niimeがものづくりで大事にしていることをお聞きしました。

 

「まず、着心地ですね。着心地は着ている間じゅう感じるもので、人に見られてどうとかではなく、自分が気持ちいいかということだから、生きていく上でまず大事なことだと思う。そして、播州織は先染織物で、いろんな色の織物ができるのが特徴。それを活かして、自分もつくっていて飽きないもの、少しずつ更新しながら挑戦し続けられるものは何だと考えたら、『一点モノ』という考えにたどり着いたんです」

お店の中には、壁に、窓に、いろいろな場所に、さまざまな言葉がちりばめられています。宝探しをするように、tamaki niimeを表現する言葉たちに出会うことができます(撮影:梶田亜由美)

アパレルやファッションビジネスというと、トレンドにのったデザインの商品を量産しながら、消費を促していく、というイメージがあります。ものづくりの工程は経済性や効率性を重視して分業体制をとり、海外に外注するというパターンがスタンダードです。

そんな中、tamaki niimeでは、「イッテンもの量産主義」という独自のコンセプトを掲げ、一見相反するように見える、「一点モノ」と「量産」とを、同時に成立させるものづくりに挑戦しています。そして、デザインのみならず、糸を染める、布を織る、縫製する、という全てのものづくりの工程を、自社で行えるようにしています。現代のものづくりを取り巻く環境を考えると、その方法を続けていくことは、とても難しいことのように思えます。なぜそこにこだわりをもって、つくり続けているのでしょうか。

 

「世の中にそういうものがないなぁ、と思った時に、誰かのためにというより、自分のためにつくりたいという思いが強かったんです。アパレルの会社でこれが売れたからこれの色違いやろうかとか、そういう世界を見たときに、『あーもう、つまんないー!』って当時は思った。絶対私はそんなモノに負けない気がするって、勝手な妄想で走り出したんですよね。アパレルのあかんとこもいっぱい見ちゃって、そんなのあかん!てなったから、全部真逆に走っていると思う」

昔から播州織を織り続けてきた機械で、一点モノを、丁寧に量産し続けています。機械たちからは、まるで生きているかのような、力強い息づかいが聞こえてきそうです。その一つひとつに名前も付けられているそう。つくる人の魂が宿っているのかもしれません( 写真提供:tamaki niime)

玉木さんはさらに続けます。

「結局、手を使ってつくることでそこに想いも入るし、最終的に長く使ってもらえるものになると思う。つくるという行為を外になげちゃうと、こころが伝わらないよね、って思うんですよ。だから、つくるってところが一番大事だと思う。一社で全部がちゃんとつくれるっていう状況は、ちゃんと持っておかないと。もう日本じゃできなくなっちゃうと思う。めちゃめちゃ手間で、大変ですよ。やれるかやれないかって、一か八かの挑戦だった。でも、いいと思ってくれる人がたくさんいたら、漕ぎ続けられるんじゃないかこの船は!って、思ってる」

糸の染色も人の手で。驚くべきことに、同じ色は染めないそうです( 写真提供:tamaki niime)

播州織の服屋が、土を耕し、農業をし、羊を飼う理由 

もう一つ、絶対に聞いてみたいことがありました。tamaki niimeでは、コットンを栽培し、羊も育てています。それらは服をつくるための原料でもあるため、全部の工程で一貫したものづくりをしようとすると、そこにたどり着くことまでは想像ができます。でも、それだけでなく、働く人が、自分たちで食べる米や野菜をつくり、そして、働く環境である工場周辺の自然環境でさえも、自分たちで整え始めているというのです。これはどういうことなのでしょうか。

 

「最初にコットン畑を自分でやったとき、すごいたくさんの農薬を使ってることとかが初めてわかって。『そんなんだめでしょ!』ってなって。そこからいろいろ勉強していったら、やっぱり、オーガニックなものがいいなと思ったんです。農業って接点が全然なかったんですけど、自分で鍬持って一つの畑を耕してみたら、もう地獄のような大変さで。そこで原点回帰したんです」

 

「地球の環境をどうするかって広い視野で見始めたら、もう気が狂うじゃないですか。問題だらけで。完璧でなくてもいいし、一日でバーンと変われるわけじゃないけど、自分がやれることをしっかり一歩ずつやっていくって決めた。ちょっとずつでもみんなで考えていって、最終的には自分たちで出したゴミが、自分たちで再利用できる仕組みとかを、自分たちの手でつくっていけたらいいなと思ってる」

兵庫県西脇市のラボ(工場)では、ドキュメンタリー映画「杜人(もりびと)」で知られる、造園技師・矢野智徳さんの「大地の再生」に基づいた環境改善に取り組んでいます。まるで、工場から植物が生えてきているみたい( 写真提供:tamaki niime)

一貫したものづくりをしたい探求心で、原料にまでさかのぼったら、農業や環境のことを知り、「いい環境でなかったら、いいものはできない」と体感した。だから、つくる人をつくるいい食べ物、つくる人が働くいい職場、それらの根本となるいい自然環境をつくる、という考えになり、それを実践していると言います。

 

「情報はネットで調べられるし、本もあるから、これがエコでしょ、とか、世の中にはいいんでしょとか、『きっとこれが』って答えはわかっちゃうんだけど、なんかリアリティがないじゃない。腑に落ちないというか。でも自分が体験したこととか、目の前のことだと、そこから感じられるものっていっぱいある」

 

今、SDGsという言葉で語られているような活動を、ここでは、リアルに自分たちで体感しながら、心の底からやりたいと思って実践しているのだと思いました。

 

誰のためでもなく、まずは、自分たちが心地よく働いて、いいものづくりをするために。

 

 

思いの込められた服を、自分らしく、大切に着る

取材が終わった日、子どもが寝静まった後、選んだワイドパンツを触りながら、何度も眺めていました。「どうしてこんな形になるんだろう?」と、その模様や風合いは、眺めるほどに、面白さが増していきました。そして、触っていると、どこか温もりを感じるようでした。

そんな気持ちを、取材をつないでいただいた、社員の藤本さんにお伝えすると、こんな返信をくださいました。

私の選んだワイドパンツ。素敵なものがたくさんある中、ビビッと来たこの一点に決めました

「tamaki niimeの『作品』には、一つとして同じものはありません。その一着、その一枚に創り手の想いが込められています。人が創るものだから、移ろいや心のゆらぎも影響します。創り手の意識と、無意識の感覚が内包されていくからこそ、どこか温かみのある作品になっていくのかなと思います」

 

私が出会ったこの服は、誰が、どんな思いでつくったものなんだろう。西脇にいって、つくった人に会ってみたいな。

そして、自分らしく、楽しく、大切にこの服を着たいな、と思いました。

Information

tamaki niime machida (有限会社 玉木新雌)

〒195-0062 東京都町田市大蔵町1-3

Tel: 042-708-9800

E-mail : tamaki@niime.jp

HP: https://www.niime.jp/

Instagram: https://www.instagram.com/tamakiniime/

Facebook: https://www.facebook.com/tamakiniimeofficial/

営業:11:00〜17:00、月曜・火曜定休

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この記事を書いた人
濱田明日美ライター
子育てを通じ地域との関わりが増え、地域のヒト、モノ、コトとつながり豊かに暮らす心地よさを実感。ライターとして「食べることは生きること」をモットーに、それを構成する地域の環境、文化、人について中心に書き記しながら、よりよく豊かに生きることについて探究したいと考えている。
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