店内に一歩足を踏み入れると焼き上がりの甘く優しい香りに出迎えられ、ただいまって言いたくなるような懐かしい気持ちになりました。
“常乃菓舎 トキノカシャ”。一度聞いたら忘れられない名前の洋菓子屋さん。その名前には「日常に寄り添うようなお菓子を作っていきたい」、そんな思いが込められています。
初めて訪れたのに何度か通っているかのように落ち着くのは、温かいミックスインテリアと甘く優しい香り、そして何より常乃菓舎を営むパティシエ高須健さん・晶子さんご夫妻の笑顔があるからかもしれません。
別の洋菓子店で製菓長まで務めた後にたまプラーザで独立した健さんと、晶子さんは、同じお店で働いていたことがきっかけで出会いました。
大学在学中にフレンチレストランでアルバイトをしていた健さんは、サラリーマンとして働いている自分の姿が想像できず、大学卒業後に製菓学校へ進みました。幼い頃からお菓子作りが好きだった晶子さんも、製菓学校で学び洋菓子店へ就職しました。
この街との縁ができたのは、晶子さんがたまプラーザのレディースセレクトショップ “アナベル” へ訪れたことがきっかけでした。
何度かアナベルへ通ううちに、同じたまプラーザの眼鏡店 “Local” を紹介されました。晶子さんの雰囲気にピッタリと合っている眼鏡はLocalであつらえたもので、お店で着ている洋服はアナベルで手にしたのものが多いそうです。
こうして少しずつたまプラーザとの縁が深くなっていき、どこの街とは決めずに店舗を探していた頃にLocalの店主さんから今の場所を紹介され、2021年6月に開店しました。
店舗内装は晶子さんが選んだモロッカンスタイルのモザイクタイルや、そのタイルと色を合わせたランプが温かさを醸し出しています。
お父さまの仕事の関係で子どもの頃の数年を南米で過ごした健さんですが、その南米の地で、大学時代に織物を学ばれたお母さまが手織りの織物や置物、陶器などの工芸品を集めました。それらを使って晶子さんがディスプレイし、訪れた人をぬくもりで包んでくれるような雰囲気のお店になっています。
木の実で作られた猿の兄弟や、陶器や木製、アイアン素材の鳥たちがそこかしこに。訪れた時に、動物たちを探してみるのも楽しいかもしれません。
ハレとケと、暮らしのかたわらにあるお菓子
営業日は毎週金曜日から月曜日までの4日間。
手間のかかる工程や作業をお二人で丁寧に進めているため、今のところ週末を挟んだ4営業日のオープンとなっていますが、営業していない曜日の多くも店内では仕込みが進みます。
おいしそうな色をした焼き菓子が多く並び、家庭で食べたい日常のお菓子が選ぶのを迷うほどに揃っています。訪れるたび、私は迷いながらおなかと相談して選んでいます。
「常乃菓舎のおすすめはなんですか?」との問いに、「フィナンシェです」と答える晶子さん。オープンする前から、日常に寄り添うお菓子として焼き菓子を多く揃えていくことを考えていたそうです。
人気のフィナンシェは、しっとりホロっとした生地で頬張ると口の中にバターの香りが広がり、しっかりとした存在感で生地そのもののおいしさを感じられます。教えていただいたように、食べる前にオーブントースターなどで軽く温め直すと香りが立ち、焼きたてのようになりました。
自然栽培のレモンを用いたレモンケーキにアプリコットタルト、ナッツの食感に香ばしさと甘味が加わるキャラメルナッツタルト、焼き菓子に香りや食感を添えてくれる胡麻や、きなこがクッキーに用いられていたり。
香りを立たせるために、食べる直前用の“追い山椒”が付いたクッキーの“バッキー”。山椒を合わせるアイデアはうなぎの蒲焼きから思いついたそうです。
まろやかで優しい甘味
取材以外でも常乃菓舎に通い、お菓子をいく種類か食べるうちに思いました。食べ疲れず飽きないなと。それは甘味として多くの菓子に使用されている、砂糖の種類に秘密があるのかもしれません。
常乃菓舎では多くの菓子に「一番糖」を使用しています。
砂糖を精製する過程で一番初めにできる砂糖である一番糖は、精製が抑えられているために、お菓子づくりに用いられることの多い上白糖やグラニュー糖よりも風味や旨味が感じられます。
常乃菓舎のお菓子は生地の優しい甘味がベースとなり、そこへプラスされる季節折々の果物や香辛料などの材料がそれぞれの特徴を引き出し合っているのかもしれません。
焼き菓子をしっかり揃えたお菓子屋さんを営みたかった、健さんと晶子さん。
生地そのものをいただくフィナンシェなどの焼き菓子は、お二人が選び抜いた素材がダイレクトに伝わるのではないでしょうか。
選び抜いた素材を活かして生かす
常乃菓舎の冷蔵ショーケースには、今の季節の “推し” はコレですよと誇らしげに季節限定のケーキなどが並んでいます。美しく作られたどのケーキも、まるでアートピースのように輝きを放っていました。
ショートケーキのベースとなる生地は軽く、生クリームは控えめの甘味。お二人が厳選したフルーツの素材を生かし、生地とともに存分に味わえます。
四季のある日本で、旬のフルーツを使ってケーキにする。季節菓子をいただくということは、目でも舌でもおなかでも季節を味わい、心をも満たしてくれることかもしれません。
自然栽培レモンケーキは、無農薬・無肥料で育てられたレモンを使用しています。そのレモンは、実の中の種から芽を出していたことがあったほどの生命力。
レモンは果汁だけでなく皮も使用し、レモンの爽やかな酸味と香りと甘味が広がります。
健さんと晶子さんがぶどう狩りに訪れた際においしさに感動して取り引きが始まったぶどうや、桃や、柑橘、そしてスパイスなど自分たちがおいしいと納得したものを取り寄せたり、産地へ足を運んだりしながら一つひとつ吟味してお菓子に使用しています。
根をおろし広げるように、街の暮らしの中へ
実は常乃菓舎にはお菓子だけでなく、朝ごはんや軽食にちょうどよいオリジナルのフルーツグラノーラもあります。
市販のグラノーラの食感は固いと感じていた晶子さんが、自身が満足するグラノーラを目指して作り上げたもので、一般的なものよりもしっとりした優しい食感に仕上がっています。
取材中に小学生くらいの男の子が常乃菓舎を訪れました。
木のドアを開け右手にある焼き菓子の棚へ迷いなく一直線に向かい、慣れた様子でフルーツグラノーラをひと袋手にして購入していきました。犬の散歩中の方が、お店に立ち寄りお菓子を購入していくことも。
訪れる人のハレとケのどちらにも寄り添う、暮らしの中の菓子店に育っている常乃菓舎。
たまプラーザの街に根付いて優しい笑顔が広がっています。
お菓子や営みを通じてつながり広がる輪。街はこうした小さな輪が増え広がることによって、豊かに健やかに育っていくのかもしれません。
常乃菓舎のお菓子に出合いに訪れ、そして、魅力的なお店が増えている緑豊かな街たまプラーザを散策してみてはいかがでしょうか。
【店舗名】常乃菓舎-TOKINO KASHA
【住所】〒225-0002 神奈川県横浜市⻘葉区美しが丘4-19-1
東急田園都市線・たまプラーザ駅から徒歩10分
【営業時間】11:00〜18:00
【定休⽇】⽕・⽔・⽊曜⽇
【電話番号】045-479-9271
【Instagram】https://www.instagram.com/tokinokasha/
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