東急田園都市線・あざみ野駅からバスで約15分。昨年4月にオープンしたnexus(ネクサス)チャレンジパーク早野のフィールドは、「駅遠」エリアです。近くには虹ヶ丘団地、里山の自然環境を残す早野聖地公園があります。ここで、東急はnexus構想のプロジェクトとして、市民や地域団体、企業が手を取り合いながら、さまざまなチャレンジを仕掛けています。
昨年10月からは、コミュニティ農園「Niji Farm」と焚き火スペース「Fireplace」の活動もスタート。いずれも登録制の有料会員制度です。「農会員」は、約350平方メートルほどの広さの農園を、メンバーで話し合って使います。焚き火スペースでは、地元の里山から切り出した薪を使って「焚き火会員」となったメンバーが焚き火をすることができます。
今回、重原さん(農会員)、澤田さん(焚き火会員)、伊志嶺さん(農+焚き火会員)と、nexusスタッフの中上慎哉さん、藤野友紀子さん、上田朗さんにお話を聞きました。
——みなさんが会員になろうと思ったきっかけを教えてください。
重原さん(農会員):地域情報誌でここの会員募集を知りました。もともと家庭菜園をやってみたい気持ちがあったんですけど、やったことがないし、まったくわからなくて。自分でシェア畑のように区画を借りてやるのはハードルが高く感じていて。ここはみんなでやると聞いたので、教わったり調べたりしながら、ここならできるかも!と思ったんです。もう一つは、普通の生活の中で地域の人とつながりがなかなかないので、得られたらうれしいなと。小学生と幼稚園の子どもを育てているので、子ども同士の異年齢での交流も生まれたらいいなと思いました。東急さんが運営していることの安心感があり、プロジェクトの一環というお話を聞いた時に、その中の一つにいられる、社会に所属できたうれしさみたいなのもありました。
伊志嶺さん(農+焚き火会員):私はここから歩いて10分ほどのところに住んでいて、ポストに入っていたリーフレットで会員募集を知りました。楽しそうだなと思って、焚き火と農の両方の会員に申し込みました。2020年にコロナのパンデミックがあってさまざまな制限が強いられる中で、「心豊かな生活」「人とのつながり」をいっそう大事にしたいと思うようになっていたタイミングでした。
澤田さん(焚き火会員):東急ストアさんでパンフレットを見つけたんです。焚き火ができるんだと興味が湧きました。もともとキャンプが大好きで、焚き火をやるために山の方に行ったりしていたんですけど、ここは家から歩いて7分で、気軽に焚き火ができる。それで入りました。ここではコーヒーを飲むためだけに焚き火をしたりと、ちょっと贅沢な時間を過ごしています。
——それぞれに魅力を感じて入られたんですね。どんなペースで活動しているんですか?
澤田さん:ひと月に5回くらいは来ています。たぶん焚き火会員で誰よりも来ていますね(笑)。オープンする10時くらいに来て、焚き火でお昼ご飯も作ります。周りにお家が多いので肉や魚は焼けないですけど、鍋物とか、野菜を焼いたり。飯盒でお米をたいてレトルトのカレーを温めて食べたり、飯盒をフライパンにしてピザを作ったりとかしています。伊志嶺さんにもよく一緒に遊んでもらって。昨年は焼き芋もよくやりましたね。
伊志嶺さん:澤田さんはすっごく料理上手なんですよ。家で作ってきたものをここで温め直してくれて、毎回何かしらごちそうになっています。焚き火を囲みながらゆったりと過ごす皆さんとの時間は、日常では味わえない特別な時間に感じます。不思議と、知り合って間もない方とも会話が弾んでとても楽しいですよ。10時から夕方4時ごろまで、6時間があっという間に感じます。帰るときのほうが元気になっている。オーバーじゃなくて。
澤田さん:焚き火をしていると、本音で話せるところがあるので。普通に暮らしていたら年も違うし、伊志嶺さんとはおそらく話もしなかったと思う。ここがなければ会わなかった人たちとお酒を飲んで、いろんな話をしたり楽しい時間を過ごしていますね。焚き火に何を燃やしに行くって、嫌なことを燃やしに行く。魂の浄化をしに行くと家族に言っています。
伊志嶺さん:こうして毎回名言が出る(笑)。私は平日は仕事をしているので、主に土日に来ています。焚き火スペースは平日にしか利用できないのですが、今は試験的に土曜日もオープンにしてもらって月に何度か利用しています。農は、11月中旬くらいから毎週土日のどちらか、みんなでの作業日にしています。そうしてから、みんなが一斉に集まるようになりましたね。
重原さん:それまでは、行ける人が行けるスタイルで。そうすると、個々でやっていることが多くて。一人だと不安があったんですよね。みんながそんなふうにやっていたので、集まる日を週一にしようと決めたんです。種まきした直後の時期には、学校や幼稚園が終わった子どもを連れて平日に水やりにきたりしていました。
——スタートしてこの数カ月で感じている変化はありますか?
重原さん:毎日同じことのようなルーティンの中で、一つ楽しみの場所が増えたなと感じています。年代としては、子どもが小学生幼稚園年代のお母さん・お父さんが5名、60〜70代の人生の先輩方が5名いて、ここでの新しいつながりがうれしいです。一人でやるより全然心強いですね。勉強にもなります。この農園で活動する同じ共通項のある人たちなので、近い価値観を持っていることで、話してて心地いいなと、仲間だなと思います。子どもたちも、子ども同士で遊べることをすごく楽しみにしています。
伊志嶺さん:仕事以外の場面で若い家族と接する機会がなかなかないので、新鮮に感じています。みなさんお子さんたちを連れてきてくれるので、子どもたちとも接することができて楽しいですね。これからも、月に1、2回くらいイベントを企画していけたらいいなと考えています。
澤田さん:ここに来るようになって、火起こしや焚き火を知らない人が多いんだなと。家でスイッチを押せば火は出ますもんね。火起こしや火の扱い方についてよく聞かれるんですけど、人に教えるのは難しいですね。火力は風で全然変わるし、これで何分とか言えないので。どうやったら伝わるのかなと。これまでそんなこと聞かれたことがなかったので、考えるようになったのは変化かな。着火できることの喜び、火を扱えることの楽しさをみんなも味わってもらえたらなと思います。
伊志嶺さん:(澤田さんは)焚き火会員のなかで一番若いけど、焚き火に関しては一番知識があるので、皆さんから頼りにされているんです。ここでは年齢は関係なく、とてもいい雰囲気で焚火を楽しめます。
自分の中では会費の中で、(焚き火や農を楽しむということの他に)半分以上は人とのつながりが新たにできたということに価値を感じています。すごくそれが楽しいんですよね。ここまで人間関係がついてくるとは想像以上でした。会費以上の価値、収穫できる野菜以上の価値があると感じています。私はこの街に越してきて2年半になります。このnexusチャレンジパークのコミュニティファームと焚き火は、それ自体も楽しいのですが、人とのつながりが広がり、この街に暮らすワクワク感や満足度がますます高まりました。
——みなさんのお話を伺っていると、出会って数カ月とは思えないほど打ち解けていますね。これからこのコミュニティがどんなふうになっていくといいと思いますか?
伊志嶺さん:1月に初めて懇親会をやってすごく楽しかったですね。次は2月に焚き火スペースでやろうと。こういう機会を毎月もてたり、他の農園にみんなで見学に行ってそこの人たちと交流をしたりできるともっと楽しいのかなと。みんなで協力して野菜を育てるという経験を初めてしていますが、これを子育てに例えると一人目の子はすごく神経を使うけど、二人目の子ってそんなことないですよね。私たちは今、初めての子育てをしている感じかなと。皆さんと一緒に、他のコミュニティファームの先輩方にお話しを聞く機会をもてたら「あ、こういうやり方があるんだ」とか「こういうやり方でも良いんだ」とか、きっと学ぶこともたくさんあって楽しいかなと思います。
nexus 構想では、駅から離れたところでのまちづくりにチャレンジしていますよね。実際に私たちが支払う会費では採算は合わない気がしていて、必要とするものに対してどこまで言っていいのかと思うことはあります。初めてのチャレンジですけど、野菜もみんなで相談しながら育てて、人とのつながりもみんなで満足して、という姿になれるといいんじゃないかと思っています。
中上さん(nexus):収益はまったく気にしていないわけではないですが、それよりも大事にしていることがあります。ここで何がうまくいくのか、いかないのか。それを他のところで展開して、こういうまちづくりができるのか試す実証実験の場と考えています。採算の合わないところは多少目をつぶって、うまくいくこといかないことの情報を得るほうが大切だと考えています。
澤田さん:そういうこと言われたら、私は伊志嶺さんみたく考えず燃やすだけ燃やして楽しんでいるけど……(笑)。薪にしている木は、腐って倒れちゃうから間伐していると聞きましたが。
中上さん:ナラ枯れっていう病気がはやって。放っておくとそのまま倒れてあぶないので倒しているんだそうです。早野聖地公園里山ボランティアの方が木を切って薪に、一部炭にしている。健全な森、林を守っていくにはそういうサイクルが大事なので、その一部にここを入れていただいています。
澤田さん:燃やすこともとりあえず無駄じゃないと知りほっとしました。
藤野さん(nexus):収益目的ならシェア農園をやればいいと思うんです。伊志嶺さんのご理解が深いようにコミュニティ農園としてやっているので、みんなで楽しく続けていくことに重きを置いています。こういう話し合いを大事にしていきたいなと思っています。
澤田さん:地震とかでなにかあったときにここで何かできるかなと。焚き火があれば、電気やガスが止まっても何かできるなと。聖地公園の薪もあったり、野菜も育てる能力のある人たちがいて、食糧もある程度保存できる場所があったら、会員同士で有事の際の蓄えとかどうでしょうね。せっかく焚き火が使える場所なので。3・11のときなんか、カセットボンベが軒並みお店からなくなったということもあったので。困ったらここに来る、という場所になりうるかも。
中上さん:チャレンジパークをオープンしてから、どんなコミュニティにしていこうかといろいろ話し合いながら、正直不安もある中でスタートしました。それが、われわれが手を加えるまでもなく、会員独自のルールと楽しみ方をつくりあげてくれて、いいコミュニティができあがっています。中でも、農会員さんが自分たちで収穫祭やります、と集まってくれたことがうれしかったです。焚き火会員さんも、平日日中に nexusスタッフがいる時間からスタートして、会員さんが火守りするからと、土曜開放のきっかけをつくってほしいと申し出てくれたんですよね。試行錯誤しながら改善点をみつけて、土日も開放できるようになるといいと思っています。出てきた課題に真摯に向き合いながら、今以上のものをつくり上げていきたい。会員さんの輪も少しずつ広げていきたいですね。
藤野さん:もともと東急の中で nexus で目指す方向性がある中で、会員さんと東急の役割の違いが今はあっても、みんなで試行錯誤しコミュニケーションをとりながら、ここを拠点とした自慢できるまちというものができあがっていくといいなと思います。
上田さん(nexus):集まったみなさんがすごくいろんな意見を出し合いながら、つながりが増えている。ここまで活発な農園ってない、って思うほどに前向きな雰囲気がうれしいです。これからも一緒にチャレンジパークを盛り上げていけたらと思っています。
(取材を終えて)
対談の場では笑いがあふれていて、メンバーが集ってからほんの数カ月とは思えないあたたかな関係性が築かれつつあるのを感じました。職場でも学校や保育園でも自治会でもない、新しいつながりが、年代の壁もとっぱらって生まれています。自然に抱かれた早野の豊かなフィールドと、それを生かしてまちの関係性を育んでいこうというスタッフのみなさんの思いが形になって現れていました。
集う方たちからは自らこの場を育てていく楽しさや、大切に思う気持ちが満ちていて、まちづくり企業が介在する地域コミュニティの可能性が見えました。これから、立場の垣根を超えてどんな化学変化を起こしていくのか、注目していきたいです。
撮影(収穫イベント以外):齋藤由美子(森ノオト)
<nexusチャレンジパーク早野 >
神奈川県川崎市麻生区早野1150番2(地番)
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