子どもがスマホを持つ前に親子でできること。森ノオトのメディアリテラシー教育の現在地
NPO法人森ノオトは2022年12月に「こどもがスマホを持つ前に おうちでメディアリテラシー」という6分動画を作成しました。子どもも大人もメディアリテラシーを身につけるため、家庭でできるヒントをこめた、この動画の内容と制作意図について、6月27日に報告会を行い、参加者と情報交換を行いました。

NPO法人森ノオトにはローカルメディアデザイン事業部というチームがあり、市民ライターの育成やメディアリテラシーについての勉強会、ワークショップツール「ローカルメディアコンパス」の普及などの活動を行っています。2022年からは、子どもの健やかな育ちを応援する「ドコモ市民活動団体助成事業」に応募し、親子でメディアリテラシー力を高めるための活動に取り組んでいます。

 

 

家庭での学びは、大人も子どもと一緒に取り組むことが大切

この原稿を書いている私には、小学3年生と5年生の子どもがいます。一人一端末時代を迎え、学校でも当たり前のようにタブレットを教育に使うようになり、プライベートでもスマートフォンを使って調べ物をしたり動画を見たりする機会が多くなってきました。親である私は、子どもが情報を受け取る力をどう高めていけばいいのか悩んでいます。

 

情報化社会が複雑になる中、教育現場や行政、青少年健全育成団体、地域などでも対策が急がれ、情報があふれる社会で子どもが健やかに成長できるようにと、対応が始まりつつあります。大きなうねりが生まれているものの、成果の見えにくいこの取り組みについて、専門家ではない立場でどんな視点を持って活動ができるでしょうか。私たち森ノオトは、家庭でできることは何かと考えました。

 

家庭でメディアリテラシーを学ぶには、大人も子どもと一緒に取り組む姿勢が大切です。そこで、私たちなりに実践してきた家庭内でのメディアリテラシーを学ぶヒントを動画にまとめることにしました。動画には、「一つの情報を家族みんなで見る」ことと「横並びで受け取る」ことを盛り込んでいます。大人も子どもも一緒に一つの情報を受け取り、大人自身が悩み判断している横顔を子どもに見せていくことが、家庭の中で習慣的にできることだと考えたためです。

動画「こどもがスマホを持つ前に おうちでメディアリテラシー」は、問題提起、家庭で取り組むヒント、補足情報の3部構成。友人親子たちに自宅で撮影してもらった動画を使い編集しました。

 

また今回は、小学5年生という年代に注目しました。横浜市の公立小学校では、5年生の1月ごろの国語の授業で、ジャーナリストの下村健一さんによるメディアリテラシーについて書かれたエッセイ「想像力のスイッチを入れよう」を題材に学びます。

そのタイミングで家族で動画を視聴し、そこで提案していることを家庭で実践してもらえるよう動画を作成しました。

小学校を通じて、1月に横浜市の市立小学校335校の小学5年生全員へのチラシ配布を依頼した。「一人一端末時代では一人で〇〇しないことが大切です」と動画を見たら〇〇の部分がわかるクイズ形式になっている

動画の再生数は1408回(2023年8月25日現在)、動画視聴後アンケート回答数42件、まわしよみ新聞ワークショップ参加者数66人(6会場)となりました。

 

動画視聴後のアンケートから子どもがスマホやタブレットのデバイスを使用する年代の親の悩みは①「使用方法に関する悩み」と②「情報との接し方(メディアリテラシー)に関する悩み」とに大別されました。

 

①の代表的な悩みは「時間が守れない」、「フィルターを突破してしまう」「ルールを親が決めるのではなく一緒に考えていきたいが、なかなかまとまらない」などが挙がりました。

 

②の悩みの内容としては、「YouTubeをよく見たがりますが、関連する色々な動画がどんどん候補で上がってきてしまうので心配」、「近似内容の動画にしか触れないので、偶発的な好奇心の広がりを期待できないことが悩み」「YouTubeで見たことを事実だと思い込んでしまう」、などといった声が寄せられました。

 

また、動画を見た感想として、「子どもに一方的に押し付けるのではなく、家族でともに学ぶ、という取り組みがとてもよいと思いました」「一人で判断しないという解に、動画を見てたどりつけました」などの声がありました。

 

この動画を見て、もっと学んでみたくなった人のための情報を映像のラストにつけています。リアルで学んでみたくなった人のための情報の一つとして、私たちは新聞を使って情報の受け取り方を楽しむ「まわしよみ新聞ワークショップ」を市内6カ所で開催することにしました。

まわしよみ新聞ワークショップ参加者からは「やっていくごとにどんどん充実度が増して、とてもよかった。多世代の他の家族の関わりがとてもよかった」「子どもがどんなところに興味を持ったのか知ることができた」という感想が寄せられました。

 

また森ノオトでまわしよみ新聞を実践するメンバーで、「まわしよみ新聞」の発案者である陸奥賢さんにお話を聞く機会もいただきました。

「まわしよみ新聞」発案者に聞く、これからのローカルメディアとリテラシー

 

 

 

メディアリテラシーの日に森ノオトの取り組みの報告会を実施

6月27日に実施したオンライン報告会には、メディア関係者、教育関係者、子育て支援者、子育て当事者など、アーカイブ視聴希望14人を含む、21人が参加してくださいました。

会の後半では「メディアリテラシーの現在地」をテーマに話し合いました。

オンライン報告会では動画作成の狙いやまわしよみ新聞ワークショップの内容、動画視聴後の行動変容についてのアンケートの結果などを発表した

ニュースパーク・日本新聞博物館館長の尾高泉さんは「SNS社会では、マスメディアだけでなく、一人一人の受発信が情報の生態系に大きく作用するようになってきました。情報が人々の不安をあおるものでなく、助け合い励まし合えるものになるように、今回の取り組みも心から応援しています」とメッセージを寄せてくださいました。尾高さんは2019年10月~12月にニュースパークの企画展「地域の編集―ローカルメディアのコミュニケーションデザイン」を開催して以来、継続してローカルメディアや新聞社の地域連携の動きを共有するイベントを開催しています。

 

「いまは変化の時代です。LGBTについてや働き方の多様化など、これまで常識とされてきたことがどんどんとアップデートされて古くなっていく。この時代に対応していくためには、多様な価値観を持った人たちと対話をするということが大切だ」とジャーナリストで元東京新聞記者の鈴木賀津彦さんが話しました。大学でメディアについての講座を担当する鈴木さんにはまわしよみ新聞ワークショップの講師を務めてもらったほか、さまざまな知見を教えていただきました。

オンライン報告会を行った6月27日がメディアリテラシーの日。下村健一さんは講演先の新潟の小学校の控室から参加してくれた

「いま大きな危機感を感じている」と語ったのはジャーナリストで情報教育の専門家の下村健一さんです。「情報発信のテクニックがすごいスピードで発展している。チャットGPTが出てきて、動画生成の技術も進化し、日々、考えられないスピードで新種の情報が出始めている。変化のカーブが垂直になっている。メディアリテラシー教育も垂直に成長していかなくてはいけない」。私たち森ノオトがミニレクチャーとして参加者に伝えている「子どもたちに投げかける4つの疑問」は、下村さんが学校関係者向けにオープンソースとして提供されている資料をもとに作成しています。

 

 

今後の情報教育はどうなっていく?

2020年度に学校独自の教育課程として「情報」の時間を設置したという県内小学校教員の話によると小学5年生の学習では、社会の授業で情報産業を取り扱うタイミングに合わせて、国語や道徳などの教科学習も情報に関する教科学習が多く取り扱われます。複数の教科を掛け合わせることで多視点から情報活用能力を高めることができるチャンスです。

各学校のカリキュラムマネジメントは、学校や教師個人の裁量に任されているそうです。

ただ、国語、算数、理科、社会など教科として確立していれば担当教員が深掘りする機会がありますが、その他の分野はなかなか手が届かないそうです。例えば、キャリア教育、防災、安全、金融教育などと同じく、情報教育も、学校で取り扱ってもらえたらいいと思いながらも隙間時間で取り組むしかありません。

 

報告会を開催した6月27日はテレビ信州が定める「メディアリテラシーの日」です。

29年前の6月27日に松本サリン事件があり、裏付けが取れていない情報がマスコミから発信され無実の男性が犯人のように報道される報道被害が起きました。

曖昧な情報にマスコミも市民も踊らされてしまった。この間違いを繰り返さないために私たちは、この先の活動としてどんなことに取り組めばよいでしょう。

 

アンケートからは「もっと継続的にコンテンツ提供してほしい」「間違った情報、偏った情報を得てしまうことで起こるトラブル事例などを知りたい」「フィルターバブル現象の弊害と抜け出し方、また合成や、フェイクの動画や写真の見抜き方、詐欺メールを踏まない警戒の仕方などの効果的な教え方を知りたい」「実例をもとに子どもが学べる機会があったらうれしい」という声が寄せられています。

子どもへのスマホ導入にあたり、注意点とコツが知りたいというニーズは今後も高まりそうです。

 

秋以降、私たちは子どもたちに自発的に考える習慣を持つためのプログラムを開発したいと考えています。いくつかの事例を提示し、「私ならどうするか」を考えてもらうための情報のヒヤリハット問答集(仮)とそれを活用したワークショップの企画を想定しています。

そのワークショップを社会に提供することで、学校やPTA、放課後の居場所の運営者、教育関係者や青少年育成関連団体、行政や企業などと連携してメディアリテラシーの普及を進めていきたいと考えています。

 

今後もコツコツと活動を続けていきます。今回のプログラムで研究した内容についてもっと知りたいという方、私たちのコンテンツを活用してくださったり、ともに活動してくださる方がいれば、ぜひご連絡ください。

Information

動画 オンライン報告会

https://youtu.be/j5S2YFPf_XU?si=fb9awkhy5aZ7JAP6

 

動画「こどもがスマホを持つ前に おうちでメディアリテラシー」

https://youtu.be/d_TawRI6mgE?si=J1tEmtL-ZDx6Mor6

 

お問い合わせ先

NPO法人森ノオト ローカルメディア事業部
localmedia@morinooto.jp

Avatar photo
この記事を書いた人
船本由佳ライター
大阪出身の元TVアナウンサー。横浜市中区のコミュニティスペース「ライフデザインラボ」所長。2011年、同い年の夫と「私」をひらくをテーマに公開結婚式「OPEN WEDDING!!」で結婚後、自宅併設の空き地をひらく「みんなの空き地プロジェクト」開始。司会者・ワークショップデザイナー。
未来をはぐくむ人の
生活マガジン
「森ノオト」

月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる

森のなかま募集中!

寄付についてもっと知る

カテゴリー

森ノオトのつくり方

森ノオトは寄付で運営する
メディアを目指しています。
発信を続けていくために、
応援よろしくお願いします。

もっと詳しく