町田市民文学館ことばらんどへ「ことばの扉」を見つけに行こう!
JR横浜線町田駅ターミナル口から徒歩8分。駅前通りから一本入った路地に、新進気鋭の文学館があるのをご存知ですか?その名も、町田市民文学館“ことばらんど”。文字通り“ことば”にスポットを当てたこの文学館で斬新な企画展を次々に生み出している、学芸員の山端穂(やまはたみのる)さんにお話を伺いました。

※「57577展2nd」の会期は2024年6月23日をもって終了しました。

 

私はいま、短歌を詠むことにも、読むことにも夢中です。5・7・5・7・7、たった31音の言葉で作られる豊かな短歌の世界を知れば知るほど、その面白さから抜けられなくなっています。

 

この4月、森ノオトのある横浜市青葉区のすぐお隣、東京都町田市で、短歌の展覧会「57577展2nd」が開催されていることを知り、私は期待に胸を膨らませながら足を運びました。会場は、町田市民文学館ことばらんど(2024年4月20日から6月23日まで開催)。

 

文学館での展示ということで、ちょっぴり緊張しながら会場を尋ねると、そこには……スタイリッシュでインタラクティブ、まるで現代アートの展覧会のような世界が広がっていたのです!短冊に書かれた短歌と作者の写真と解説、というような、いわゆる「文学館での短歌の展示」を想像していた私は、ただただびっくり!

 

ことばらんどでの展覧会がどのように、どんな思いで作られているのか知りたくなり、この短歌の展示を手がけた学芸員の山端穂さんにお話を伺うことにしました。

学芸員の山端穂さん。57577展2ndの看板の前で

文学館ってどんなところ?

町田市民文学館ことばらんどは、2006年に開館した東京都町田市の公立文学館です。町田で暮らした作家・遠藤周作氏の資料の寄贈がきっかけとなり開館しました。山端穂さんは開館当初から、ここで学芸員を務めています。

 

「一般的に文学館というのは、文学者の原稿や日記、書籍などを展示することで、作家について検証をする施設です。公営の文学館となると、その町ゆかりの作家を取り上げて紹介するのが主な目的になりますね」

 

「“ことばらんど”という名は、当時小学校4年生だった女の子が名付け親で、開館時に公募で決まりました。選ばれた時はピンときませんでしたが、展示やイベントを考えるようになると、ただの文学館という名前より、“ことばらんど”という施設名であれば、言葉の面白さ、文字そのものの面白さなんかにも視点を広げることができて、選んで良かったなと思うようになりました」と山端さんは話します。

ことばらんどでは、子ども向けのことば遊びや紙芝居・おはなし会、作家や専門家を迎えての講座や講演会も定期的に開催しています。季節や展覧会に合わせた本の展示や貸出サービスも充実(写真提供:町田市民文学館ことばらんど)

ことばらんどでは現在、1年間に4回の展示を行っています。展示の内容は、町田ゆかりの作家を紹介する回顧展、子どもたちに向けた絵本展、10代・20代向けに漫画、映画、音楽、デザイン、アニメなどとコラボレーションしたテーマ展などを組み合わせて実施しているとのこと。

 

「そもそも文学館って、来館者の期待値がそんなに高くない場所なんですよ。だから、来館者の評価は必然的に加点式になる。あれ?結構文学館って面白いところだな、おぉ、結構いいじゃん!そう思ってもらえたら成功です。展示が想像と同じではダメです。なんだこんなもんか、やっぱりね、と思わせてしまいますから。こんなところにこんなに面白い展示があったんだ、また来たいなと思ってもらえる場所でなければ、ことばらんどのような小さな文学館に未来はないと思っています」

 

「そのために、ものすごく考えて展示を作っています」と、山端さんはまっすぐにそう話してくださいました。

 

 

「文学館として何ができるか」コロナ禍での模索

現在の展示スタイルを取るようになったのは、コロナ禍での模索を経てのことなのだそう。

 

2006年に開館してからの10年は、公営の文学館らしく、町田ゆかりの白洲正子(随筆家)や森村誠一(小説家)、わたなべゆういち(絵本作家)、田河水泡(漫画家)らの回顧展を開催してきたことばらんど。しかし、新型コロナウィルスのパンデミックにより、運営について大きな決断を迫られることになりました。

 

「ただでさえ、そこまでたくさんの人が見に来るわけではない」という文学館。コロナ禍による自粛期間中、ことばらんども臨時休館を余儀なくされました。外出制限が解かれてからも入館者は戻らず、今後、どのように運営を続けていくかが大きな課題となります。

 

「そこで、外部から有識者を招き運営協議会を持つことになり、これから迎えるニューノーマル時代に文学館はどうあるべきか、という模索が始まりました。今までと同じことを続けていても、これまでの顧客=年配の方々の足は戻らないだろう。40-50代、もっと若い人たちに興味を持ってもらえる展示はどういうものなのかをずっと話し合ってきました」

 

 

「生まれました/死にました展」から「ことばの扉」となる展示へ

「これまでやってきた回顧展というのは言わば、作家の“生まれました/死にました展”なんですよ」と山端さんはちょっとドキッとするような言い回しで表現します。

 

「どこで生まれどこで育ちどこで何を書いてどこで死んだ、という作家の一生涯を展示する回顧展は、写真を展示して年表を並べてそれに解説をつけるのが主流です。公営の施設なので、回顧展を丁寧に行うことももちろん大切なのですが、それでは若い人に足を運んでもらうことはできません。そもそも回顧展は作家を知らなければその時点で終わりですから。そこで、作家が紡いだ“作品”=“言葉そのもの”に目が向くような仕組みを作れないか、と考えるようになったんです」

 

何度も協議を重ねる中で、ことばらんどは、広く市民が言葉の魅力に触れ、新しい文学と出会うための「ことばの扉」になることを目指そう、と決めたのだと言います。

 

「“ことばの扉”になるためには年表ではなくて、“言葉そのもの”に目が向くような展示が不可欠です。でもそうすると展示の方法がとても難しい。文学館で作品を展示しようと思うと、“文字だけ”を展示すること、になってしまうから。どうやって“文字”を展示して、楽しんでもらうか、ということが展覧会の肝になるんです」。

 

そこで、前述の運営協議会の方々と相談をしながら、

① 足を運んで貰うきっかけや結び目をいかにしてつくりだすか

② 非日常の大きな空間の中でしか体験することができない価値(体感や体験)を重視した展示を行う(“展覧会のトレンドを意識する”)

ということを意識した展覧会作りが始まりました。

 

 

山端さん流、短歌の展覧会の作り方

コロナ禍において「ことばの扉」となることを目標として掲げる中で、山端さんが企画したのが、短歌の展覧会「57577展」でした(2022年1月29日~3月27日)。

 

「短歌の展覧会をしよう、と決まっていたわけではないんです。コロナ禍において文学作品を展示することで、お客様に訴えるもの(「きっかけや結び目」になるもの)はなんなのだろう、というところから展覧会作りがスタートしました。コロナ禍では人と人との交流が絶たれ、互いに共感する場が奪われてしまった。この社会的な課題を、文学を通じて考えるような展示がいいだろう。そこで、訪れる人も何か気軽に参加ができるような双方向性の展示を試みよう、そう考えて、文学ジャンルを見まわした時に、たまたましっくりきたのが短歌だったんです」

 

「展覧会のトレンドも意識しました。鑑賞だけではなく“体験”をキーにした展示を増やし、ほとんどの場所で写真撮影もOKにしました。若い人の承認欲求を上手にくすぐることができるよう、SNSで短歌募集をして若手の歌人のみなさんに選んでもらい、展覧会の空間で展示する試みも。憧れの作家が自分の作った作品を選ぶ、そしてそれを素敵な形できちんと展示するということにも価値があると考えました。出来あがった展覧会は、現代短歌による芸術祭みたいで、社会的課題をテーマに据えたことも必然的なものになりました」

 

現在開催中の「57577展2nd」はその展覧会をさらにブラッシュアップした、続編となる展覧会です。同じコンセプトの展覧会を2度行うことは、文学館開館以来初なのだそうです。

以下で、展覧会の様子を少しご紹介しましょう。

 

 

「57577展2nd」の様子

社会課題への視点は、今回も明記されています。分断の続く社会情勢のなかで、短歌という文学はどんな役割を果たすことができるのか、どんな可能性を見せてくれているのか、ゆっくり考えてみたくなります

 

展覧会期間中、X上で「まわる」「ボタン」「泡」「こども」などのお題が出され、広く短歌を募集しました。3人の歌人が選んだ短歌は、このようにモビールになって飾られています。企画のたびにモビールがだんだん増えていき、今はさらに素敵な空間に!

 

歌人の木下龍也さんと鈴木晴香さんによる歌集『荻窪メリーゴーランド』の展示コーナー。男女二人が交互に短歌を詠みあいながら虚構のラブストーリーが展開する異色の歌集から、短歌をピックアップして展示しています。こちらは、丸く配置された二人の短歌の中に入って写真が撮れる撮影スポット

 

歌人・岡野大嗣さんの展示ブース。短歌を岡野さんご自身が読みあげたカセットテープを再生しながら、展示を見て回ることができます。57577からなる言葉の、どの部分で音が切れて意味が作られているのか、耳からも知ることができるのは面白い体験

 

秋山ともすさんの作品「デザイン短歌」。町で見かける身近なあれこれにぴったりの短歌が詠まれ、違和感なくデザインされていて、思わずふふふと笑ってしまう

「今回も、言葉の魅力を引き出す空間作りを丁寧に考えて、この場を作っています。短歌なんて歌集で読めばそれでいい、と思っていた人が、展示されている言葉を鑑賞することの面白さをここで感じてもらえたらうれしいですね」

 

私が驚いた、スタイリッシュでインタラクティブ、まるで現代アートのようなことばらんどの展示には、こんなにも考え抜かれた理由があることを知り、心底感動してしまいました。

 

 

正解を提示しない/徹底して言葉だけを展示する

学芸員として文学館で展覧会を作っていく際に気をつけていることは何か、山端さんに尋ねてみると「学芸員として解説を書きすぎないこと」なのだと教えてくれました。

 

「そもそも美術館や博物館って、学芸員の解説とともに展示物が飾られていることが多いですよね。私は、もともと歴史学を勉強して学芸員になったので、間違いのない、分かりやすい展示が当たり前だと思っていました。でも、文学館の学芸員になってみると、間違いのない解説って文学の展示と馴染みがあんまり良くないなぁと思うようになったんです」

 

「そもそも文学には、正解というものがないはずなんです。文学って、ひとたび作家の手を離れてしまえば、その紡がれた言葉をどう読んだとしてもそれはもう読み手の自由。それゆえ、文学館での展示は、正解のないものを展示することになる。だから、来館者が作家の言葉を読んで何かを感じる前に、学芸員が解説によってフィルターをかけてしまってはよくないと思うんです。なるべく正解を示すような解説は書かずに、作品=言葉を、読んだ人に委ねるように心がけています。私たちにできることは、そのきっかけや結び目をつくる、ということですね」

57577展2ndに、山端さんの解説は数カ所のみ。短歌の読み方そのものに触れるような解説は一つもありませんでした。社会の中でのその文学の有りようを説明するにとどまっていますが、展示を見る前の私たちに提示された俯瞰的な視点は、ぐっと短歌の世界に引き込んでくれるようです

想像する余地を十分に残しておけば、きっと、興味を抱いた人はもっと知ろうとするし、もっと作品を読んでみたくなるはずーー。その時、きっとことばの扉に触れて、さらに新しい言葉の世界、文学の世界に連れて行ってくれるはずーー。

 

この、とても静かだけれど、とても力強い“見る人への信頼”はきっと、山端さん自身が、“ことばの力”をずっと信じ続けているからこそなのだろうと、私は思います。

 

「開館から17年を過ぎても、どんな展示をしたらいいのか、まだまだずーっと模索している最中です」と話す山端さんの真摯な姿勢を知って、この先、山端さんがどんな展示を手がけていくのかますます楽しみになりました。

 

まだ知らない「ことばの扉」が開いていく体験をしに、町田市民文学館ことばらんどへ、みなさんもぜひ足を運んでみてくださいね。

Information

町田市民文学館 ことばらんど

URL:https://www.city.machida.tokyo.jp/bunka/bunka_geijutsu/cul/cul08Literature/
住所:東京都町田市原町田4-6-17

電話番号:042-739-3420

開館時間:午前10時から午後5時(展示室、資料の閲覧・貸出業務、資料閲覧室の利用)、午前9時から午後10時(会議室・保育室の貸出、文学サロンの利用)

休館日:毎週月曜日(祝休日の場合は開館)、毎月第2木曜日(祝日の場合は次の平日)、12月29日から1月4日/特別整理日等

 

【57577展2nd】

会期:2024年4月20日(土)から6月23日(日)

休館日:毎週月曜日、6月13日(木)

観覧時間:午前10時から午後5時

観覧料:無料

協力:太田出版、ナナロク社

 

【57577フェス フリーマーケット】

短歌に関する本や雑誌・ZINE、雑貨などが並ぶフリーマーケットを開催します。

日時:6月16日(日))午前10時から午後3時
会場:町田市民文学館ことばらんど 2F大会議室

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この記事を書いた人
佐藤美加ライター
新宿生まれ新宿育ち。音楽業界出身、SNS運用を主な生業とするフリーランス。2児の子育て中、森ノオトの記事に救われたことがきっかけで書き手に。この街のたくさんの物語に光を当てて届けたいと思っています。編み物はライフワーク!短歌はじめました。
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