プラごみが資源に変わるまで。ルール+αの「思いやり」と「マナー」が未来をよくする。
お惣菜や弁当の容器、お菓子のパッケージ、プレゼントのラッピングに文房具や雑貨。身の回りを見渡すと、私たちの暮らしはプラスチックなしには成り立たないことがわかります。この有限なプラスチックという資源を、横浜市ではどのように再資源化しているのでしょうか。横浜市鶴見区にある「J&T環境 横浜プラスチックリサイクル工場」を訪ねました。

※8/10(土)に実施する3R理科実験教室でも、取材の様子をお伝えします。

横浜市の一般家庭では、週に4日、「ごみ」と「資源」を分別して回収しています。私が暮らす地域では、毎週火曜日と土曜日が燃やすごみの日。同じ日に燃えないごみ、スプレー缶、乾電池も回収します。「資源」回収は、水曜日がプラスチック製容器包装で、「プラマーク」がついているものが対象。金曜日は缶・びん・ペットボトルと、小さな金属類の回収日。古紙・古布は月に2回の水曜日ですが、わが家では市の回収ではなく、自治会の集団回収に出すことの方が多いです。粗大ごみは都度、インターネットで申し込み、コンビニエンスストアで回収費を支払って、決められた日に決められた場所に出します。

 

横浜市が資源として回収しているプラスチックは、「プラマーク」がついている容器包装のみ。マークのない包装やプラスチック製品は、燃やすごみとして処理されます。容器包装プラスチックをリサイクルする目的で1995年6月に制定された「容器包装リサイクル法」に基づき、消費者は分別を行い、自治体が収集、事業者がリサイクルするという役割分担のもと、プラスチックのリサイクルが進んできました。

 

2022年4月には「プラスチック資源循環促進法」が制定されました。これまでリサイクルの対象だった容器包装プラスチックから、リサイクルの範囲を拡大し、プラスチック製品の製造から廃棄まで、すべてのプラスチックの資源循環を促進することを目的としています。

 

これに伴い、横浜市でも2024年10月から9区が先行して、プラスチック製品をプラスチック製容器包装と一緒に分別回収する取り組みが始まります。2025年4月からは全18区に対象が広がり、私たちはこれまで燃やすごみとして捨てていたプラスチック製品、例えばハンガーやクリアファイル、調理器具やおもちゃ、風呂桶など、プラスチック100%の製品であれば、リサイクルすることができるようになります。

8月に実施する「3R理科実験教室」の準備も兼ね、講師の西沢久美子先生と一緒に、横浜市鶴見区にあるJ&T環境を訪ねた

森ノオトが青葉区から委託を受けて実施している「3R理科実験教室」で、講師を務める西沢久美子さん(理科クラブ主宰)と一緒に、横浜市に3カ所ある容器包装プラスチックの中間処理施設のうちの1施設である「J&T環境 横浜プラスチックリサイクル工場」を訪ねたのは、6月上旬のこと。敷地内にはひっきりなしにごみ収集車がやってきて、家庭から集めてきたごみ袋を受入貯留ヤードに置いていきます。横浜市民210万人分、約56%のプラスチック資源がこの工場に集まるそうで、私の住む青葉区のプラスチックもここで選別されて資源になります。

工場見学前に、動画を見て国内のプラスチックリサイクルについて学習する。解説するのは今岡工場長

「集められたプラスチックは、機械選別の後に人の目と手でさらに細かく選別し、プラスチック容器包装のみを選り分け、圧縮梱包した状態にして出荷します。この工場は中間処理施設で、出荷後は、高炉の原料やコークス炉の原料にしたり、プラスチック製品の原料として利用する材料リサイクルなどの再商品化に回していきます」と、今岡工場長。工場長やスタッフの方のご案内で、いざ、工場の見学です。

ごみ収集車がひっきりなしにプラスチックの袋を運んでくる。袋が運び込まれるや、ショベルカーが受入ホッパーと呼ばれる大きな投入口に袋を投入、その後、収集用ごみ袋を破いて中のプラスチックを取り出す破袋機にかけられる。工場は毎日22時間稼働で、運び込まれたプラスチックはおおむね1〜2日で処理される

受入貯留ヤードに続々と集まるプラスチックの袋の山。1日に約90トンのプラスチックが集まるそうです。この工場の処理能力は1日158.4トンなので、2日もすると工場は満タンに。「工場がお休みするのは、年末年始の4日間と、日曜だけです。年明けに収集を再開すると、ものすごい量のプラスチックが集まります」と、スタッフさん。コロナ禍でお弁当のテイクアウトが進んだ際には、家庭でもたくさんのプラスチックごみが溜まりましたが、都筑区にある収集工場も1日あたりの受け入れ可能量を超える事態になっていたそうです。

本来プラスチック収集に出してはいけない、食べ物の残骸が含まれた燃やすごみが混入していた

ふと、今岡工場長が、受入貯留ヤードへと歩き出し、収集物の中から怪しいごみ袋をピックアップしました。本来なら半透明のごみ袋に入れるべきプラ容器ですが、不透明のグレーの袋の中に入っていたのは、食べ残しを含めた燃やすごみ。「この工場で選別するプラスチックに混じる不適物の割合は約8%です。汚れたプラ容器、プラスチック製品、金属、電池など、さまざまですが、残念なことに、出した人のモラルを疑うようなものも時には含まれており、中には工場の稼働が止まるような危険なものもあります」と説明します。以前、6メートルもの長さのあるパラシュートが紛れたときには、破袋機にからまって工場の稼働が数時間止まってしまったこともあったそうです。

粗選別にかけられたペットボトル。結構な量の混入で、ここから缶・びん・PETのリサイクルに回される

袋を破袋機にかけ、機械による粗選別でリサイクルできるフイルム系のプラスチックとボトル系のプラスチックに分けられます。その後、人の目と手による分別の工程に移ります。最終的に可燃物や不燃物、缶・びん・PET、金属類に分けられたものがそれぞれのコンテナに集約されます。この工場でリサイクルできるのは、容器包装リサイクル法によって定められた、プラマークがついている容器包装プラスチックのみ。一見すると、容器包装プラと見分けのつきにくい製品プラスチックは、今は可燃物として選別されていますが、来年の4月からは、この工場でリサイクルされる側に回されることになります。

プラスチック収集のためのごみ袋は、破袋機で破かれて、中身を選別する。ごみ袋にはプラマークがついていないので、可燃物に選別される。容器包装リサイクル法を遵守した選別が行われていることがわかる

手選別作業をする方々は、素早く不適物を見つけて選り分けていきます。目視で見つけにくい金属片や乾電池などは強力なマグネットで吸着し、ここでほとんどの分別が完了します。

 

取材の日は蒸し暑さを感じる陽気でしたが、工場内はとても清潔で、覚悟していたごみの臭いはほとんど気になりませんでした。

奥にいる方々が目視で分別をしている。とても手際よく、スピーディーに不適物を取り除いていく。「最終的には、人の目と手で選別するのが最も確実で効率的」とのこと

ふと、日頃から気になっていた“食品の容器包装についた汚れをどこまで落としたらいいのか”という疑問についても、この工程を見れば、「きれいに洗い流す」ことが大切だということがわかりました。スタッフの方によると、「実情としては、マヨネーズなど油分の多いものが残っていると、機械に悪影響を与えてしまいます。一方、洗い流した後の水滴が残っていても影響はありません」とのこと。どこまで洗い流すか、きれいにして出すかは、個人の判断や感覚に委ねられる部分ですが、工場を見た私たちは「油が残っている状態のものを出すことはやめよう」と納得しました。ルールに基づいて分別をするのはもちろんですが、工場で作業する人たちの姿を見たことで、どんな状態ならば選別しやすいのかを考える「思いやり」が大切だと感じました。

不適物展示コーナーの一部。ビニールテープやおもちゃなどさまざまなものが混入していたが、最も危険なのはバッテリー類やガスボンベなどの発火性のあるもの

工場では見学者用に、選別後の不適物の展示も行っています。ガラス瓶、おもちゃの拳銃、プラスチック製のハンガー、コーヒーの空き缶、注射針や掃除機のバッテリー、そしてリチウムイオン電池を使用する小型家電類など、「ちょっとくらい大丈夫だろう」という気持ちで出してしまうと、場合によっては大規模な事故につながることもあります。

 

工場の方々が最も不安視しているのが、リチウムイオン電池が混入することです。

 

「リチウムイオン電池はちょっとした衝撃で大規模な火災につながるほど、実は危険性が高いのです。今はプラマークのついているものを出す前提なのでそれほど大きな事故は起こっていませんが、今後、製品プラのリサイクルが始まると、おもちゃ類やハンディファンなどに内蔵されている金属や電池の混入が増えることが予想されるため、今まで以上にモラルを持って分別に取り組んでいただくことが大切になります」と今岡工場長は話します。

工場の隅に分別されていた不適物。電気工事の配線、パラシュートなど、からまると工場が止まるほどの影響があるものや、インスリン注射の針といった工場労働者に感染リスクを与えかねないものもある

先日、韓国の工場でリチウムイオン電池が発火して火災が起き、大勢の死傷者を出したことは記憶に新しいばかり。これは対岸の火事ではありません。国内でもリチウムイオン電池によるごみ収集車の火災事故が多発しており、もし、工場で火災が起こって処理が止まってしまったら、私たち市民の生活にも大きな影響を及ぼしてしまいます。製品プラのリサイクルが始まる際には、金属類、特にリチウムイオン電池が入っているハンディファンなどの小型電子機器は、プラスチックリサイクルにも可燃物にも入れず、小型家電のリサイクル回収に出すことを徹底する必要があります。

選別されたプラスチックのベール(圧縮して四角形にしたもの)はプラスチックリサイクル原料として出荷される

最後に、分別されたプラスチック類は1メートル四方、約300kgのベール状に圧縮梱包され、プラスチック資源として再商品化事業者に回してリサイクルされます。いったん容器包装リサイクル協会へ入札して、許可が出た会社に資源として出荷したベールは、各地の工場で再生利用されます。JFEグループでは、CO2フリーの高炉原料にしたり、選挙の看板やコンクリート型枠になるNFボードなどの製品プラスチックとして再生するそうです。

 

一連の工程を一緒に見学した西沢さんは、「プラスチックもポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)など、さまざまな種類があり、さらに細かく分類することで、より質の高いリサイクルができるのでは」と話していました。それに対して今岡工場長は、「リサイクル工場も技術革新が進んでおり、光学選別機を用いてプラの素材別に分別することも可能になってきています。プラ新法(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律)が始まった今、プラスチックリサイクルの未来が変わる過渡期にあると言えます」と話します。

 

民間レベルではペットボトルのキャップや使い捨てコンタクトレンズの容器、フリース製品などを独自に収集する動きもあり、こうした同質性の高いプラスチックを分けて回収することで、より質の高いリサイクルが可能になります。

 

今岡工場長は、「リサイクルについては、学校や家庭での教育が大切だと思います。なぜリサイクルをする必要があるのか、分別がなぜ大切なのか、未来を生きるお子さん経由でご家族に広がっていく動きに期待したい」と話します。

3月に実施した3R理科実験教室では、ウレタンをつくる、プラスチックからおもちゃをつくる、繊維をつくる3つの実験を行った

青葉区では2024年8月10日に、リサイクルの未来を担う小学生を対象に、3R理科実験教室を開催します。運営は森ノオトが行い、これまでに取材してきたさまざまなリサイクル・リユースに関する情報もお伝えします。「プラスチックはごみではなく資源!」を、実験を通じて体験し、理解できる楽しいプログラムです。夏休みの自由課題にも使えるワークシートをプレゼント。Information欄からぜひお申し込みください。

Information

夏休みに資源リサイクルを学ぼう!「3R理科実験教室」

日時:2024年8月10日(土)10:00〜12:00

場所:横浜市青葉区役所4F大会議室(横浜市青葉区市ケ尾町31-4)

https://www.city.yokohama.lg.jp/aoba/annai/kuyakusho.html

 

参加人数:青葉区内に在住・在学の小学校4〜6年生の児童と保護者30組(児童1人につき1人の保護者同伴必須)

※未就学児の同伴不可、1歳以上の未就学児については別室での保育利用ができます

 

お申し込み締め切り:7月22日(日)17:00応募締め切り、応募者多数の場合抽選、7月29日までに参加の可否をご連絡します。

お申し込み方法:

参加者(お子様)のお名前、ふりがな、学年、同伴する保護者のお名前、住所、電話番号、メールアドレス、普段のごみ分別で気をつけていることや分別法の質問、弟妹保育の希望(その場合、お名前、生年月日、アレルギーの有無等)を記載のうえ、以下のフォームよりお申し込みください。

 

お申し込みは以下のフォームから

https://shinsei.city.yokohama.lg.jp/cu/141003/ea/residents/procedures/apply/1c65fc84-97d8-4f2c-a6fd-28851099217f/start

 

主催、問い合わせ:

青葉区地域振興課(資源化推進担当)

TEL 045-978-2299

E-mail ao-shigen@city.yokohama.jp

 

企画・運営:認定NPO法人森ノオト

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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