
「学校に行かない選択を認めてあげたいけど、平日の日中をどこで、どう過ごせばいい?」数年前の私の課題でした。同じ思いをされている方はいないでしょうか。
浦部さんの活動を知ったきっかけは、“ソダチの森のあそびの日”。浦部さんが代表を務め、寺家の里山をフィールドに創作や自然体験に取り組む「子どものワークショップ」の活動の一つです。娘たちは初めての場所なのに、時間も忘れてのびのびと遊んでいたことを覚えています。
そんな浦部さんが新たに始めたのは、部屋の中ではなく“野外”のフリースクール!実際に小学4年、1年生の娘たちとお友達が、のらくらで過ごした一日の様子をお伝えします。
森の中から浦部さん登場
am10:00。集合場所である「ソダチの森」の入り口に到着。寺家に広がる田んぼの横にある森の一角に、「のらくらの日」と書かれた看板が見えました。

「ソダチの森」とは子どものワークショップや、のらくらの主な活動場所であり、もともとは笹の林だったところを浦部さんやサポーターの方々で一からつくり上げました。外からは見えないのですが秘密基地のような場所で、子どもが釘付けになるアスレチックや、展望デッキなど盛りだくさん
笹の林の中の道を進んで行きます。目の前が開けると、豊かな森を背景に、浦部さんがにこやかに出迎えてくれました。子どもたちはさっそく見晴らし台に登り、スリル満点の空中ブランコを楽しみ、グラグラ一本道に挑戦していました。自己紹介を兼ねたアスレチック遊びです。

「クリアしたらサンドウィッチのパン、ボーナスだよ!」年齢や得意不得意に合わせて条件を出し、グラグラ一本道に取り組む子どもたちを盛り上げる浦部さん
浦部さんが大事にしていることは、“子どもが主役”であること。子どもたちのやりたいこと、まずそれに取り組みます。始めから活動内容を決めることはなく、興味に合わせて提案していくそうです。浦部さんの頭の中にある、アイデアの詰まった大きな箱から、その子その子に合わせて、取り出していくイメージだと話していました。「アイデアを出して、子どもたちにつまんない!と言われたら、即、却下です」と浦部さんは笑います。
遊びのウォーミングアップを終え、「森へ探検にでも行ってみる?」と浦部さんからの提案が。子どもたちの反応は?……ノリノリなので決行です!
ホワイトボードに、“たんけんマップ〈まいごバージョン〉”を書き、森のルートを大まかに説明してくれました。子どもたちの注意をひくために、ユーモアたっぷりに。おかげで子どもたちも、地理や注意点が印象に残った様子でした。

予想の斜め上をいく“まいごバージョン”の探検マップ。棒人間に子どもたちの名前をつけ、「ここで○○ちゃんが草薮に消えていなくなっちゃうかな?」こんな説明にみんなで笑いました
いよいよ森へ探検に出発!
ソダチの森を出て、たんけんマップの道順に進みます。ここでも浦部さんポイントが。道を普通には歩きません。舗装された道“じゃない所”をお勧めしています。田んぼの横のブロック塀の上を一本橋のように歩きました。

写真では見えないのですが、横に落ちると水に浸かってしまうので、みんな足元に全集中!
先に進むと、「たんぼぼう」がありました。ここも浦部さんと「子どものワークショップ」の子どもたちとご家族、ボランティアの皆さんで一からつくり上げた場所です。休耕地で葦が生い茂っていたのですが、草刈り、水路やビオトープづくり、生き物調査などをして環境を整えています。将来的には稲作も考えていたりと、子どものさまざまな体験の場になることを目的としています。「たんぼぼう」には準絶滅危惧種のアカガエルがいること、水の中がグッと掘ってあるところはタヌキが貝を取った跡、などの話を子どもたちにしてくれていました。そしてその田んぼの水が減っていることを浦部さんが発見。補修に取り掛かります。

「水がないとここの中に住む全ての生き物が死んでしまう。だからすぐに直してあげないと」。浦部さんの言葉に真剣に耳を傾け、水に手を入れて補修している姿を見つめる子どもたち
「私が川に手を入れて水漏れを直しているとき、何も言ってないのにみんな手伝おうとしてくれました。素敵な子どもたちですね」。
この時のことを後日、浦部さんが話してくださいました。そのような些細な部分も見逃さずに、キャッチしてくれてうれしいです。
いざ!森の中へ
子どもたちは山道に入ると、水を得た魚のように、どんどん森の中に入っていきます。方向が分からなくなると、「次はどっち〜?」とよく通る大きな声で、後ろの浦部さんに確認します。
「部屋の中だと小さな声で話さなければならなかったり、自分を制御するところから始まる。でも自然の中だと大きな声を出してもよいんです。だから心がふわっと開放的になって、人の声も周りのことも、いろいろとキャッチできるようになるのでしょう」と浦部さんは話します。森の探検が進むほどに、子どもたちと浦部さんの会話がスムーズになっていきました。
しばらく進むと、高さ20メートルの崖が目の前にドーーン。ロープをつかみ、木の根っこに足をかけ、全身を使ってみんな自力で登りました。探検っぽい!大人でも子ども心に火がつくようなロケーションです。

高さ20メートルの崖は写真以上に迫力満点!
道が倒木で塞がれている場面。それを見た浦部さんは、「またぐか、くぐるか、切るか、走ってジャンプするか、どうする?」と楽しそうに子どもたちに問いかけます。
分かれ道が出てきたら、「木の枝を倒して決めてみる?」と提案。ユーモラスな浦部さんの言葉が、次から次へと子どもたちに吸収されていきます。

手頃な枝を探し、地面の傾きを気にかけ、ワイワイ。自分たちで行き先を決められることが楽しそうです
浦部さんは常に子どもたちの後ろについて、子どもたちが決めた道をにこやかに見守っていました。芽を出したどんぐりや、季節を感じる植物に目を向けながら、その後も森の中を歩きました。
待ちに待った「森ごはん」のじかん
pm12:00。やっとスタート地点に帰ってきた時には、みんなお腹がペコペコ!待ちに待った「森ごはん」の時間です。この日のテーマはサンドウィッチ。自分が食べたい具材を2品ほど持ってきて、浦部さんが用意してくれた食パンに、自分で挟んでいきます。(帰り際に摘んだ、ワークショップの子どもたちが育てている菜の花もトッピング!)自分で包丁を使ってカットし、お皿に盛り付け。木の葉が風で揺れる音やキツツキが木を突く音を聞きながら、みんなで特別なサンドウィッチをいただきました。

木漏れ日が差し込むウッドデッキの上。「自然の光の下に見るサンドウィッチは、いつものと違って見えますよね。とてもおいしそうです」と浦部さん
「部屋の中は壁も天井も“静的”であるのに対して、自然の中は全てが“動的”。風が吹くたびに葉や影が揺れ、音もする。その度に自分も呼応する感じなのではないか。自分が自然と一緒になっている感覚というか。これが子どもや大人も含めた、心地よさの正体なのではないかな」。この居心地のよさの正体は何なのか、浦部さんの考えを教えてくれました。
食べた後は自由時間。「寝てもいいし、遊んでもいいし、作ってもいいし、自由だよ〜」とのことです。まだまだ遊びたかった娘たちは、不気味〜なお面を装着した浦部さんと、“モグラおにごっこ”をしました。名物であり、秘密……らしいので書くのはここまでですが、「こわくて、最高だった!」と、子どもたち大絶賛。
竹割用のナタを使って、竹割体験もさせてもらいました。pm2:30。子どもたちは名残惜しそうに、さようならの挨拶をして、のらくらの一日が終わりました。
「のらくら」の名に乗せた子どもたちへの思い
後日、浦部さんにのらくらについて改めてお話を伺いました。

浦部利志也さんが展開する「子どものワークショップ」は、2023年に30周年を迎えました。休眠地を利用した独自のプログラムを評価され、「かながわ子ども・子育て支援大賞 草の根賞」を受賞。浦部さんはプロダクトデザイナーや、大学で造形表現の分野での講師など多彩なご経験を経て、今はそのご経験のすべてを子どもたちの育成や、育成に携わる方のために活かせるようにご活動されています。近隣の保育園や小学生の子どもたちに向けたプログラムも
「最近の子は、何か一生懸命にやればいいと思って、やりたくないこと、自分じゃないことまで流されてやってしまうように見える。やりたくないことはやらなくてよい。自分で決めたやりたいことに立ち向かってほしい」と話していました。自然体でいてほしいとの思いで、“のらりくらり”から取って、「のらくら」と名付けたそうです。
数年前からは、「自分の時間をもっと子どもたちのために使いたい」と思っていたと浦部さんは話します。何をするか考えていた頃、浦部さんの周りでも不登校の子の話を耳にするようになりました。「ソダチの森の環境を使って、そういう子が来られる居場所をつくってあげること。自分にできることはこれだ!と気付いたんですよね」と浦部さん。
「空の下、こんな素敵な場所や楽しみもあるんだよと知らせたいと思いましたね」と語ってくださいました。
変化し続ける「のらくら」
のらくら発足から1年ちょっと。月会費を当日ごとの参加費に変えました。「来られない日があっても大丈夫、来られる子は毎週木曜日に待っているよ」というスタンスです。お母さんも毎週行かせなくては、というプレッシャーから解放され、気持ちが楽ですね。その日に来られない子には、メールで連絡をし、声掛け、サポートをしていたそうです。
費用面では課題が残ると話してくれました。のらくらの事務局のある川崎市と活動場所であるソダチの森が位置する横浜市は、フリースクールに対する補助金制度がありません。公的資金を得るのは難しく、寄付金という形をとっても一定の額を集めるためにはアクションが必要であり、簡単にはいかないこと。浦部さんは静かに語ってくださいました。
「それでも参加してくれる子どもが一人、また一人と増え、情報が広がっていけば、運営スタイルが変わっていくと思います」と話を続けます。「その都度変化して、必要としている方たちが、経済面でも参加しやすい環境を整えていきたいです」と力強く語ってくださいました。まだ「のらくら」は始まったばかりなのです。
なぜ「のらくら」を応援したいのか
私は最近になって、児童書の『モモ』を読みました。知らぬ間に貯蓄という名の下、時間を搾取されてしまう忙しい大人たちの一人として、自分にも実感がありました。その世の中の流れにストップをかけるのが主人公のモモです。「人生で大切な、あたりまえであるべきこと」を思い出させてくれる人物です。浦部さんは、モモと似ていると思いました。
人生なんて壮大な話になってしまいますが……子育てとは、その子の人生の基盤づくりのようなものだと思っています。「のらくら」で過ごす時間は、子どもにとって“あたりまえの楽しさ、あたりまえの自由さ”を受け止めてくれます。子どもに寄り添う浦部さんの活動を、私は多くの方に知ってほしいのです。そして必要な方の耳に届くことを願っています。

のらくら
横浜市青葉区寺家ふるさと村のソダチの森
お問い合わせ先:jike@childws.com
HP:http://www.childws.com/zidomonowakushoppu/bu_deng_xiaono_zidomotachinorakura.html
*体験を受け付けています。詳細はHPにて。

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