親子で休憩できる場所。フリースクールWA・Lau(ワラウ)
「毎日学校に行くのは疲れちゃうな」「家以外でも安心して過ごせる地域の居場所がほしい」。私がドッグセラピー活動で出会った、こどもの国にあるフリースクールWA・Lau。そこは子どもにも親にとっても「安心してそのままでいられる」居場所でした。今回は代表の秋山紀子さんをはじめ、当事者でもある運営スタッフの方々にお話を伺ってきました。(写真左から勝呂知子さん、秋山さん、安田浩子さん、山本祥子さん)

NPO法人街の家族が運営するフリースクールWA・Lau(ワラウ)

横浜市青葉区奈良。こどもの国駅から徒歩2分。広々とした芝生が広がる奈良山公園のすぐそばに今回取材したWA・Lauはあります。ビルの3階に地域の子どもたちが通うこどもの国学童クラブがあり、WA・Lauはこのスペースを借りて毎週水曜日の午前中に、小学生を対象に活動を行っています。

 

取材日は雨が降ったりやんだりする蒸し暑い日でした。なんとなく気だるく感じる空気の中でも、3階の1室からは子どもたちの笑い声が階段にまで響いてきます。その声につられるように開いたドアをくぐると、そこには学校とも家庭とも違う安心感に満ち、笑顔にあふれていました。

広がる緑と大きな空のそばにあるWA・Lau。天気の良い日には目の前の公園で遊びピクニックをします

WA・Lauは、奈良町にある地域密着型の多世代コミュニティであるNPO法人街の家族が母体で、その事業の一つとして学校が苦手な子どもや、学校外で安心できる場所を探している子どもの居場所として活動をしているフリースクールです。街の家族は以前、森ノオトで取材をさせていただいたことがありますが、以前伺った場所から現在の場所に2024年7月に移転しました。その後何か変わったか、改めて秋山さんに伺ってみました。

 

「1番大きい変化は、街の家族の事業の一つである一時預かり保育施設のまんまるーむが2025年4月より横浜市の認可保育事業に採択されたことです。正式に市の委託事業として認定を受けることにより活動の信頼性が高まり、外部から様々なお声がけをいただく機会も増えました。

 

街の家族はこれまでの多世代交流の取り組みが評価され、2025年1月にはかながわ子ども・子育て支援特別賞を受賞しています。

 

 

親の会から生まれた子どもたちの居場所

秋山さんは現在、街の家族の運営にも深く携わっていますが、元はといえば街の家族の利用者です。また、WA・Lauに通う子どものお母さん(当事者)でもあります。

 

WA・Lauの構想は、実は街の家族が現在の拠点に移る前からすでに動き始めていたそうです。きっかけは街の家族の中で始まっていた親の会。子どもの不登校や登校渋りで悩む親御さんが情報を共有しあい、辛さを打ちあけ涙を流しながらも、お互いを励まし合う、とても前向きな会だったそう。「こうやって親同士の会があるように、子どもたちの会もあるといいよね」そんな親同士の話から、秋山さんが旗振り役となり、当事者であるお母さんらに声をかけてWA・Lauはスタートしました。

 

WA・Lauには、学校以外のお友達と遊びたい子や毎日学校に行くと頑張り過ぎてしまう子といったさまざまな子どもたちが訪れているそうです。

 

現在WA・Lauが活動拠点として利用している場所は、以前は一時預かり保育のまんまるーむがお借りしていました。このように、地域の中で、必要な場所に必要な人と必要な空間が循環されています。

広々とした空間に、ほっとする気配がただよいます

フリースペースではなくフリースクールというこだわり

ところでフリースクールとは何でしょうか?それは、何らかの理由で学校に通っていない子どもが、学校の代わりに足を運ぶことができる場所です。その多くはNPO法人やボランティアなど民間で運営されており、学習支援や教育相談、体験活動なども行われています。運営団体によってその特色や活動内容、費用もまちまちです。

 

代表の秋山さんは、WA・Lauの設立にあたりこだわりがあったといいます。それは、フリースペースではなく、フリースクールとして活動するということ。通う子どもたちが「ここで学んでいる」と胸を張れるように、とそんな願いが込められています。

 

WA・Lauは、何らかの理由で学校に行きにくい子どもたちの居場所としてだけではなく、さまざまな子どもたちが自分らしく過ごせる場所として地域に根付いていきたいという思いを持っています。

 

「フリースクールに通っていることを学校側に連絡し、一定の要件を満たすことで、学校の出席扱いとされる場合があります。それにより、子どもたちは”ここで学んでいる”という実感を持てる。それってとても大きな自己肯定感の育みにつながると思うのです」と秋山さんは言います。

 

WA・Lauには現在、近隣3校の子どもたち5名程度が定期的に通っていて、地域の小学校や奈良地域の子育て支援者の連絡会とも連携をとりながら活動を進めています。

 

 

風鈴とピザと優しいまなざしと

WA・Lauでは子どもたちがそのままでいられる安心感を大切にしながら、工作・調理・食など体験型コンテンツを通して、子どもが自発的にかかわる場を提供しています

取材した日、子どもたちはペットボトルを使って手作りの風鈴を作っていました。短冊やシールの柄など、選ぶものにも人それぞれ個性が光り、子どもたち自身が自分で選び、自分の手で仕上げていきます。

「うーん、どれにしようかな?ねえ、スイカのシールある?」自分だけの風鈴づくり、選ぶ時間もその子らしさがにじみます

ただ、作るだけでは興味が続かない子もいます。秋山さんは言いました。「そういう子でも『ママに作って持って帰ろう』というように、自分のためではなく他の誰かのために、となると気持ちが前を向く子もいます」と。

「できたよ!」と風鈴を見せてくれたその笑顔は、WA・Lauでの時間の豊かさそのもの

風鈴づくりの後は、米粉の餃子の皮を使うミニピザ作り。鉄板の上で一枚ずつ焼きながら、子どもたちは自由にトッピングしていきます。出来上がったピザを頬張りながら、チーズがビヨーンと伸びるのをうれしそうに笑う子どもたち。その瞬間にもまた、新しい会話が生まれていきました。

「ねえ、見てみて~!すごい伸びる~!」「わあ、すごい!」食を通して新しい発見をしていきます

そんな中の一人がこう言いました。「このピザをお家にもって帰りたい」。理由を聞くと、本当は一緒にここに来たかった弟がいるのだそう。でもまだ小学生ではないために連れてこられなかった。だから、自分の作ったピザを弟に持って帰ってあげたい、と。

 

ただ楽しい時間を過ごすだけではなく、自分が体験したうれしさを、家で待っている誰かと分かち合おうとする。その優しさに私は思わず言葉を失いました。

 

また別の子は、取材中に「まだ喋ってるの?」と笑いながら顔をのぞかせてきました。しばらくすると、ほっぺにチョコをつけながら、作ったピザとチョコを包んだスイーツ餃子をそっと差し出してくれました。

小さな手のひらから渡されたそのおすそ分けには、説明のいらない優しさが詰まっていました

自分のためだけにではなく、誰かのために手を動かす、心を動かす。そんな子どもたちの様子が印象に残りました。

 

 

揺れながら、立ち続ける親たち

運営の代表として現場を支える立場でありながら、一方で当事者としての迷いや不安を抱える母でもある秋山さん。この二つの立場は時にぶつかり、時に支え合うことがあるようです。

運営者として、母として秋山さんの笑顔にはどちらの思いもありました

「WA・Lauにいる時は“ママ”じゃなくて、運営スタッフだからね。あなたたちにも“ママ”としてではなく、“スタッフ”として関わるからね」そう自分の子どもに伝えてあるのだと秋山さんは言います。そんな秋山さんの姿勢は、WA・Lauに通う子どもたちにも伝わっているようで、現場では彼らも“ママ”として甘えてくることもなく、他の子どもたちと同じように自分の居場所をわきまえている様子があります。

 

そんな秋山さんにも、一時期、「運営を継続するのが苦しい」と思った瞬間があったそうです。心身ともに限界を感じたとき、背中を押してくれたのは、他でもない自分の子どもたちでした。

 

「ママがやめちゃったら、私たちが行く場所がなくなっちゃう。やめないで」

その一言が、胸に刺さったのだと振り返ります。

 

このときの子どもたちの声が、今もなお原動力になっていると言います。

「子どもってすごいですよね」と、微笑んでくれました。

 

秋山さんがそう語るように、この場に立つスタッフたちは皆、かつてそれぞれに迷い、悩み、そして自分自身の居場所を模索してきた当事者です。

 

ある当事者のお母さんが話してくれました。

 

「うちには登校にハードルを感じている子どもが二人います。子どもの居場所について情報を集める中で、ママ友を通して知ったのが、年齢や背景を問わず温かな人たちの関わりがあるみんなの居場所、<街の家族>でした」

 

街の家族には、登校に迷いを持つ子どもを持つ親の会もあり、参加するように。同じ境遇の仲間と出会える場所は彼女にとって大きな支えとなり、居場所があるってこんなにも癒やされるんだと感じさせてくれたのだと言います。

 

「秋山さんからフリースクールの運営を一緒にやらないかと声をかけられたとき、自分の経験をどう活かせるだろうと考えました。私自身、親として色んな悩みを抱えてきたからこそ、今はこの場所で、子どもたちや他の親御さんの気持ちに少しでも寄り添えたらと思っています」

今日はどんな絵本だろう。スタッフそれぞれの思いで選ばれた一冊が、子どもたちの心に静かに届く時間

支援の手が届くように。WA・Lauのこれから

学生時代から障害児教育の勉強に携わり、特別支援学校での勤務経験もある秋山さん。そんな彼女が語ってくれたのは、現在の教育が抱える課題と、これからへの願いでした。「今の小学校では1クラス約35人。一人の先生が全員を同じペース、同じ方法で教えるのが一般的とされています。でも実際には、子どもたちの理解のスピードも得意不得意もまるで違い、それを先生一人で見ないといけないこと自体に限界があると思います」。

 

もう一つ話してくれたのは、制度や構造の壁でした。「たとえば特別支援学校に通うには、一定の基準値で判断されるケースがあります。でもその基準から少しでも外れてしまうと支援から漏れてしまい、適切なサポートが届かないまま日々を過ごしてしまうケースもあるのです」。

 

制度の隙間にこぼれ落ちてしまう子を、一人でも減らしたい。そのためにこそ、WA・Lauは受け皿となり、支え合える“居場所”であり続けたい。WA・Lauにかかわる皆さんはそう願っています。

一人でも多くの子どもが、こんなふうに笑える居場所と出会えますように

子どもも、親も、ホッとできる場所を

フリースクールというと子どもの居場所というイメージが強いかもしれません。でも、WA・Lauを訪れてみて感じたのは、ここが親御さんにとっても、深呼吸できる場所だということです。頑張りすぎている親御さんたちが、少し肩の力を抜いて「私もここにいていいんだと思える」と参加者の方は話します。

 

私自身、ドッグセラピーの活動を通じて、学校に通いづらい子や保護者の方々と出会ってきました。直接の当事者ではない私でも、寄り添い、見守る立場として関わることの大切さを感じています。知らないままでいるのではなく、まずは知ろうとすること。そこから始まる優しい関係性があるのだと思います。

 

WA・Lauという名前は、ハワイ語で“葉”や“自然のままに伸びる”という意味に由来しています。その名の通り、ここには自分のペースで、自然体のまま伸びていく子どもたちの姿がありました。学校ではない場所で学ぶことが、特別ではなく、普通の選択肢として認められていくように。WA・Lauがこれからも、子どもにも親にも、優しく降りそそぐ太陽のような、そんな存在であってほしいと願っています。

Information

NPO法人 街の家族

フリースクール WA・Lau(ワラウ)

 

住所:横浜市青葉区奈良1-3-2ビクトリア奈良301

こどもの国学童クラブ

活動日:毎週水曜日(公立学校の長期休みはお休み)9時30分から12時30分

参加費:参加費:2,000円(1回)※スポット利用も可※体験無料

URL: https://machinokazoku.info/wa%e3%83%bblau/

Instagram:https://www.instagram.com/freeschool_wa.lau/

 

第一金曜日に親の会「休んでいいよ おしゃべりしましょ」の会を開催

お問い合わせはWA・LauインスタDMまたは、
machi.wa.lau2024@gmail.com

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この記事を書いた人
葛西麻理ライター
新宿生まれ。横浜市青葉区在住。愛犬とアニマルセラピー活動を行いながら、犬を通した地域コミュニティの活性化や犬と人とのよりよい共生のために、自分のできることを模索中。趣味は車中泊。道の駅巡りやご当地グルメを楽しむのが好き。
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