住み慣れた団地で3軒目。お父さん設計のリノベーションマンション
以前住んでいた部屋とまったく同じ大きさ、間取りの家にお引越し。お父さんが設計した家は、5人家族で66m2という広さながら、無限の広がりを持つのびやかな空間。近所の子どもたちのたまり場になっています。

築43年の団地に住み続ける理由

青葉台駅すぐの小高い丘に立つ田園青葉台住宅。広々としたゆとりある敷地、全室南向きなど条件がよく、古いながらも人気のある物件だ

 

田園青葉台住宅の歴史は、青葉台の開発とそのままリンクします。駅ができたのは今から44年前。それと時を同じくして駅前の小高い丘の雑木林を造成し、約450世帯が住む田園青葉台住宅が誕生しました。

 

それから43年。狸が顔を出すこともあったという当時を知る年配者と、子育てまっただ中の30〜40代のファミリー層が混在する田園青葉台住宅は、今なお「憧れの青葉台」を象徴しています。駅から徒歩2〜5分の好立地、整備が行き届いた植栽や公園、共有スペース。私有地なので車がほとんど通らず、晴れた日は常に子どもの遊ぶ声で賑わっています。建物はさすがに古くはなっているものの、全戸が南向きで日当り良好、高層階からは富士山や丹沢山系が見える絶好の立地に、空き物件はほとんど出てこないほどの人気を保っています。

 

室内はウォールナットのフローリングと同系色のブラインドでシックにまとめ、壁は白い珪藻土で明るくシンプルに。梁に棚をつけて趣味のものを置くなどして、インテリアと収納を両立

 

中島優さん・絵麻さん夫妻が結婚を機に田園青葉台住宅に越してきたのは今から9年前。当時は賃貸で55m2。長女・仁菜(にいな)ちゃん、長男・虎徹(こてつ)君と、兄弟が増えていくに従って手狭感が出てきて、次男・快羽(かいは)君が生まれた時に同じ団地の賃貸で66m2の住まいに引っ越しました。

 

やがて子どもたちが小学生に上がると、さすがに女子と男子の個室は分ける必要が出てきて、中島夫妻は住み替えを検討するようになります。青葉台の立地は気に入っている。新築マンションも近場で出てきている……。しかし、中島家ではあくまでも田園青葉台住宅内で物件を探すことに。仁菜ちゃん、虎徹君、快羽君にはそれぞれ10人以上の同級生がいて、絵麻さんのママ友も多いこの環境は、何ものにも替えられないと絵麻さんは言います。

「このコミュニティはどんなにお金を出しても買えないもの。広い新築マンションよりも、狭くても古くてもこの団地の環境を選ぶ理由は、やっぱり、人と人とのつながりなのかもしれません」

 

クリナップのシステムキッチンは、背の高い絵麻さんが調理するのにちょうどいいように、少し底上げをして調節した

 

66m2の空間に5人で暮らすための解

 

 

優さん手描きのスケッチがほぼそのまま生かされた。玄関や小上がりスペースの下の収納など、小さな空間を徹底的につくり込む手法は、団地内でも評判に

 

たまたま、優さんが建築関係の仕事をしていることもあり、以前からメジャーで室内を測っては、間取りをこんな風に変えよう、水回りの動線はどうしようか、などと話すことが多かった中島夫妻。ようやく出てきた待望の空き物件。その時住んでいた賃貸の間取りと全く同じ間取りだったので、シミュレーション通りに図面を起こし、早速リノベーションに取りかかりました。

 

古い団地ならではの壁式構造で、太く低い梁や抜くことのできない壁、一カ所にまとまった水回りなど、リノベーションをするにも制約が多いのは事実。しかも、男子と女子の個室を分け、夫婦寝室を確保しながらも、家族が集まるリビングルームは広々ととりたい。収納スペースも必要だし……。

 

家づくりには子どもたちも参加。仁菜ちゃんの部屋の照明はシャンデリア、イルカの柄が光る壁紙など、独特の感性でまとめられている。「子どもたちは絶対に譲らなかったんです。それでやってみたら、意外と馴染んでいたので驚いた」

 

そこは、お父さんの腕の見せ所。思い切った発想の転換で、部屋を分ける梁に棚やバーをつけてボリュームを抑え、メーターボックスが入っている段差部分はあえて小上がりにしてそこを夫婦寝室のスペースに。高い腰壁で仕切ってリビングとつなげているので閉塞感がなく、子どもたちにとっては壁から顔を出してかくれんぼをしたりと、思いがけず秘密基地の役割を果たしています。 子ども部屋は玄関からいちばん奥に集め、ドアを向かい合わせにして開け放して風通しをよくし、仁菜ちゃんの部屋にはピアノを置くスペースまで確保しました。

 

「子どもたちが学校から帰ってきた時に、真っすぐ個室に行くのではなく、リビングを通って会話ができるようにしたかったので」(優さん)

 

お風呂はタイル張り、洗面台もシンプルな白い陶器に。余計なものを置かないので、とてもすっきりとして清潔感にあふれる

 

ちゃぶ台が家の真ん中にある暮らし

 

中島優さん・絵麻さん夫妻。建築業に携わる優さんと、元々インテリアや住宅に興味があったという絵麻さん。二人のセンスが融合し、いい形で発揮されたのがこの住宅だ。ソファはロングライフデザインの「カリモク60」

 

リビングの中心には、大きなちゃぶ台があります。今時のライフスタイルではダイニングテーブルと椅子が鎮座するリビングが主流ですが、中島家では、あえて床座。椅子がなければ何人友達が来たって詰めれば座れるし、ものも少なくてとてもシンプル。目線が低い暮らしは、決して広いとは言えない空間をどこまでものびのびと、ゆとりのある空間に変えてくれます。

 

取材中、ピンポンと玄関のチャイムが鳴りました。扉を開けると仁菜ちゃんのお友達姉妹が立っています。絵麻さんは手慣れた様子でお友達を招き入れ、男の子も女の子も一緒になって、ちゃぶ台の上でお絵描きしたり、おやつを食べたり、リビングの奥にある小上がりスペースから顔を出してかくれんぼ。ひとしきり遊ぶと、みんな連れ立って外に遊びに出かけました。

 

「この団地はご近所関係がものすごくいい。私有地だから車が入ってこないので、放課後ともなると道路で子どもたちが遊んでいます。異年齢の子でも兄弟のように仲がいい。蝉の羽化も見放題だし、季節によって木々が色を変えていく。“まるで、でっかい公園に住んでいるみたいやね”と、子どもたちと話しているんです」

 

と、優さん。よその家の子も顔がわかるし、声をかけ合える。まるで下町の長屋のような団地暮らしは、フランクな中島ファミリーにぴったりです。

 

小さい住まいで外にストックヤードを持たず、5人分の収納をきっちり収めている。まさに団地暮らしの達人! しかも趣味も存分に生かす。毎月、優さんのコレクションしているPEZを模様替え。プレイモービルやレゴ、トイストーリーなどのフィギュアが暮らしに遊び心を加える

 

中島家のリノベーションは、団地内で評判を呼び、オープンルームの際は50組近い住人が家を訪れたといいます。

 

「リノベーションのいいところは、高いローンを払って一生ここに住まわなければいけない、というプレッシャーがないこと。ライフステージが変わった時にまた“いっちょやるか”と気軽に取り組めるのがいい」(優さん)

 

一戸建てと異なり、集合住宅の場合は「土地を買う」という感覚がありません。たいていは、新築や築浅のマンションで与えられた間取りにそのまま住まうことが多いのですが、中島家のように古い団地の環境を選び、そこを土地ととらえて一から住まいをつくりあげるリノベーションという手法に注目が集まってきています。古いものを生かし、「自分らしさ」という新しい価値を加える。そんなライフスタイルが次のスタンダードになりつつあるのではないでしょうか。

 

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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