12月に入り、朝晩めっきり冷え込むようになってきました。窓側に近寄ると冷気を感じ、足元からじーんと凍れる感じ……。そんな「冬の当たり前」が、未来の住宅ではくつがえるかもしれません。11月の上旬、森ノオトの事務局長・梅原昭子さんと一緒に横浜市鶴見区に本社のある住宅・木材・建材・不動産を展開する株式会社ナイスを訪れ、最先端のエコ住宅を体感してきました。
ナイス本社の向かいに2015年10月にオープンした「スマートウェルネス体感パビリオン」は、ナイスと横浜市、慶應義塾大学が共同で実施しているプロジェクトで、「健康と環境に優しい家づくりの学びと体感ができる施設」がコンセプトです。「温熱」「空気」「睡眠」「安全・安心」「省エネ」の最先端を体感・体験できます。
例えば、ちょうど今時分の寒さ(外気温5℃)の状態で、断熱性能の高い高断熱ルームと、無断熱ルームでの体感はどう変わるのか……。それが一目瞭然でわかる「くらべルーム」では、外気温を5℃に設定して、室温を20℃に保つための暖房費の比較や、室内に入った時の血圧の変化などを測定して数値として見える化するだけでなく、実際に室内に入って比較できることができるのがポイントです。
無断熱ルームでは、いくら室温が20℃でも窓のそばに立つと背筋に冷気が伝い、足の指先がじんわり冷えてくるのを感じるのですが、高断熱ルームは壁側も床も体感温度は変わりません。「無断熱ルームと高断熱ルームで気温を同じ20℃に保つためには、無断熱ルームでは高断熱ルームに比べて1.5倍の消費電力量が必要になります」とは、ナイスの広報室室長の宮川敦さんです。
断熱性の低い家だと、リビングルームや寝室を暖房で温めても、玄関、廊下、洗面所や脱衣所は無暖房で、同じ家の中を行き来するだけで激しい気温差にさらされることになります。特にご高齢の方がいる家では要注意。暖かい部屋から寒い脱衣所で血圧が上がり、入浴した時に急速に血管がゆるんで、血管や心臓に大きな負担がかかることがあります。それが原因で失神や心筋梗塞などが起こって死に至ることもある「ヒートショック」によって、2011年には年間1万7000人が死亡(2011年、東京都長寿健康医療センター)というデータもあるほど。その数、交通事故死の実に4倍というから驚きです。
センター棟では、ほかにも木の調湿効果を学ぶコーナーや、壁の断熱構造を一目見て比較できるコーナー、マンションでのリノベーションの参考事例や、住まいの採光と風の流れを模型で体感できるコーナーなど、ただ見て学ぶだけではなく、手でふれる、においをかぐ、熱を感じるなど、カラダで覚えることができる様々なコーナーがあります。
個人的には無垢材大好きなキタハラ。杉、檜、桜、タモ、クリなど、材木商でもあるナイスならではの「木を魅せる」展示がお気に入りです。
今度は、学んだものを実際の住まいで体感するモデル棟に行ってみました。
1号棟は構造材(柱・梁)に3.5寸の国産集成材を使い、ウッディなインテリアで落ち着く空間です。延床面積は30坪(約100平米)で、中2階建ての平屋。モデル住宅は大きくつくられていることが多く、若い世代には正直言って手が届かない印象なのですが、この住宅は実際に私自身が暮らすことをイメージできる規模感です。「このタイプは平屋建てに階段つき小屋裏収納を設けたメザニンという住宅です。メザニンで復興住宅を建てたら東北の方から“やっぱり平屋はいい”と人気が出ました」と開発秘話を語ってくれたのは、ナイスで企画や設計を担当している商品企画部部長の高梨敦夫さん。
窓枠は最高性能の複合樹脂サッシで窓面からの冷えや結露を防止し、壁や床、屋根面には断熱材をたっぷり充填して外気の寒さ暑さに対応しています。屋根面には15.2kWの太陽光パネルを搭載し、屋根一体型でデザインもすっきり。自然エネルギーの発電とHEMS(家庭内のエネルギーをパソコンやスマートフォンで遠隔操作でき、自動制御も可能なエネルギーの“見える化”装置)で、エネルギー消費量を少なく抑えることができます。こうした基本性能の高さから、スマートウェルネス住宅はLCCM(ライフサイクルカーボンマイナス)の基準で最高ランク、緑の五つ星を取得しています。ライフサイクルカーボンマイナスとは、住宅の建設、居住、解体に至るまでのすべての工程(ライフサイクル)を総合して、エネルギーを使う量よりも創る量の方が上回る住宅のことで、現在の日本のさまざまな住宅基準のなかでもトップランナーの一つと言えます。
何より、私自身がもっとも気持ち良いと感じたのは、無垢の木がふんだんに使われている室内空間です。地元・神奈川県産の檜を使った化粧パネルや、国産集成材を使った梁が現しになったリビングの大空間は、清々しい空気で満ちあふれていて、明るく、開放的です。家全体が厚い断熱材でくるまれているから、間仕切りで小分けにせず大空間であっても、室内の空気環境はほぼ一定。
小屋裏にのぼってみると、意外と広々としていて、夫婦寝室や子ども室、書斎、物置など自由に活用できます。目線は合わないからプライベートを確保しながらも、空間がつながっているからリビングにいる家族の気配を感じ、孤立しない空間は、とても居心地がいいなあと感じました。
2号棟は断熱性能をより高めたモデルで、ガスから水素を取り出して電気とお湯をつくる燃料電池・エネファームや、電気自動車のバッテリーから住まいに給電ができる装置を搭載した究極のモデルです。内装はシックなイメージでまとめられ、2階は個室を完備してある、より一般的な間取りです。
スマートウェルネス住宅を後にする時に感じたのは、「玄関が寒くない」ということ。リビングや寝室、ロフトなど居住空間の快適さはもちろんですが、玄関の暖かさは盲点でした。玄関は家と外をつなぐもっとも重要な場所ですが、普通の住宅では性能をもっとも後回しにされる空間といっても過言ではありません(現に、我が家は隙間風、光漏れは当たり前ですから)。
ところが、スマートウェルネス住宅では、玄関もリビングと同じくらい暖かくて、靴を脱いで家にあがった瞬間に感じる冷えがない。つまり、玄関も居住空間ととらえれば、家を大きく使うことができるのです。
窓際や玄関は寒いもの。廊下や脱衣所の寒さは当たり前。そんな常識が古くなる日は、そう遠くないのかもしれません。実は健康と密接なつながりがある住宅。毎日を過ごす大切な住まいだからこそ、自分の常識を疑い、よりよい暮らしを実現するための欲求を見つめ直しに、スマートウェルネス体感パビリオンに行ってみませんか。
生活マガジン
「森ノオト」
月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる
森のなかま募集中!