(photo,text:中西るりこ)
ある日、息子が小学校からもらってきたチラシの中に「100段階カラーリングワークショップ、ぺインター募集」と書かれたものがありました。
内容は「100段階段プロジェクト」の一環として、美しが丘小学校創立50周年記念に合わせ、学校近くの階段をみんなでペイントしようというもの。
この「100段階段」は、美しが丘小学校のすぐ近くにあり、國學院幼稚園にも隣接しているため、児童や園児、そして保護者の方々などもよく往来や立ち話をしていたりする、この界隈のシンボル的な存在です。
私が青葉区に引っ越ししてきたばかりの頃に、この階段から見下ろした景色や人々がなんとも朗らかだったので「いいまちだな」と、思った記憶があります。
そんな100段階段で、以前、地域をアートで盛り上げようという活動(AOBA-ART)の一環としてカラフルにカラーテープが貼られていたことがあったのですが、子どもたちが皆とても喜んでいて「またやってほしい!!」と言っていたのを思い出し「これは子どもにとっていい記念になるな」と思い、すぐにカラーリングワークショップの申し込みをしました。
この「100段階段プロジェクト」の発起人である藤井本子さんは、このプロジェクトの他にも、長年美しが丘を中心に、さまざまな形でまちづくりに取り組んできた、たまプラーザエリアのキーパーソンの1人。
本子さんが美しが丘に引っ越してきたのは約40年前。その頃、たまプラーザのまちは開発され始めてから10年が経過していたので、既に近隣同士のつながりや、まちの色々な仕組みなども整っていたといいます。
そして引っ越してまもなく、ご主人が自治会長をすることになり、そのサポートをするようになったことが、本子さんがまちづくりに参加するきっかけだったそうです。
まだお子さんが小さな頃から、美しが丘中部地区の、良好な街並みを維持するために組織された住民の自主的な環境活動であるアセス委員会や老人会のお手伝いなど、様々な地域活動を「見よう見まねで」していったと言います。
「周りの方々に本当によくかわいがってもらって、色々なことを教えてもらったのよ」と微笑みをたたえながら懐かしそうに話してくれた本子さん。
熊本県の中心地の出身で、官庁街のように夜間人口が少なく、人とのつながりが薄い地域で暮らしていた本子さんにとって、こうした活発な地域活動は初めてのこと。
「ずっとまちは行政がつくるものだと思ってたんだけど、美しが丘で暮らすようになって初めて、ああ、まちって住んでいる人がつくるものなんだと思ったの」と本子さんは言います。
本子さんが現在委員長を務めるアセス委員は、全国で初めて住民発意の「建築協定」を締結した歴史を持つ組織。発足から30年間、ゆとりある住環境を守ってきたといいますが、住民の世代交代を迎え、住みやすいまちづくりへのニーズが変わってきたことなどをふまえて「地区計画」へ移行したそう。
しかしその中で「地区計画」では規制、誘導できない内容などもあったため、独自の「街並みガイドライン」をまとめ、住民の方々の周知徹底に努める活動などを長きにわたり行ってきています。
「環境の維持であったり、まちづくりって本気にならないとできないものなのよ」と本子さん。
ガイドラインがしっかり守られているか確認するだけでなく、歩行者専用道路への認定替えを行政にお願いしたり、道に穴が開いていたら写真を撮って送ったり、ガタガタになった石畳を舗装して欲しいと訴えたりと様々な働きかけをし、信頼を得るために、何年も何年も行政に働きかけ続けているそうです。
本子さんの地域活動は、そうしたアセス委員長としての働きにとどまらず、花壇整備をするマダム会や地域のバザー、AOBA ARTの一環でアーティストの谷山恭子さんの「まちのはなし」の企画・編集サポート、美しが丘小学校の卒業式の日にペットボトルで作ったプランターに花を植え100段階段に並べる「花の100段階段プロジェクト」など、多岐にわたります。
その中でこの「100段階段プロジェクト」は横浜市が助成する「ヨコハマ市民まち普請制度」を活用して実施されたもの。
「ヨコハマ市民まち普請制度」とは、地域の課題解決や魅力向上のための施設整備に関する提案を公開コンテストで選考し、整備助成金を交付する、市民が主体となったまちづくりを支援する制度。たくさんの案件の中から選抜されたことで実現したプロジェクトです。
その活動の中で、今回行われた100段階段のカラーリングワークショップは2日間、計4回開催されましたが、各回それぞれ地域で暮らす様々な年齢層が集まり全回満員、のべ200人の方が参加しました。
はじめは少し緊張しているように見えた参加者同士も、作業を通して自然とお互い声を掛け合うようになり、交流を深めていました。参加した息子も最後は同じチームの人たちと打ち解けていて、とても満足そうでした。
このイベント後もまち歩きを楽しめるように、100段階段下には照明とベンチと情報プレート、階段と美しが丘小学校の西側舗道には標高プレート、さらに遊歩道にはたまプラーザ遺産プレートが設置され、その他では寄付を募り、1万円以上協賛してくれた方へ申し込みをした住所の緯度と経度、そして標高が100段階段の何段目に相当するか示すプレートを作成したそうです。そして4月7日には完成した100段階段のお披露目会も行われるそう。
「小さい頃のことって案外覚えているじゃない?昔こんなことがあったよね、お父さんと一緒にやったよね。まちづくりに関わったよ。道にペンキ塗ったんだよ。あれはなんだったんだろう? ……そういう風に心のどこかにひっかかるものを作りたい。そうしてまちづくりに関わったってことを子どもたちに覚えていてほしい」
本子さんはこう続けます。
「そしてこのまちを離れたとしても、ふるさとを思う、まちについて思う、どこかにひっかかる何かが出来たら。次の世代の人につないでいくための活動をしていけたらっていう思いがある」
そう語る本子さんの言葉を聞いていたら突然、私が子どもだった頃、周りの大人たちが地域のために一生懸命働いていた姿を思い出し、目頭が熱くなってしまいました。
お祭りや運動会やバーベキューなど大人も子どもも一緒になって盛り上がったこと。そうした活動の中で地域のいろいろな大人と関わり、共に時間を過ごしたこと。そしていつも近所の大人たちが私たちを見守って、声をかけてくれていたこと。
ずっと忘れてしまっていたけれど、地域の人々と過ごした楽しい思い出が、「たくさんの人とつながりを持ち、時間を分かち合いながら生きていきたい」という自分の思いの根っことなっていたんだなとふと気づきました。
そしてこのたまプラーザのまちにも、本子さんをはじめ、いろんな形でまちがより良くなるように熱い思いを持ち、尽力している方たちがいて、地域のために活動し続けていることが、いつか子どもたちのふるさとの記憶につながっていくんだなと思うと、また胸が熱くなりました。
「地域でボランティア活動をする人って言うと、ものすごく真面目でしっかりした人がやっているっていうイメージじゃない? でも私は全然しっかりした人間でもないし、正しくもないし、いい加減な面もある。責任ある仕事もできなし、自分が面白いと思えることしか一生懸命できないのよ。だから私がやってることは奉仕でもなんでもなくて、自分が楽しいと思えること、できることをやっているだけ。もちろん苦労もあるけど、みんなで一緒にやったら絶対に面白いと思うの。みんなもやってみたらいいのに。一人ひとりがちょっとずつできることをすれば、まちってすごく良くなると思う」とカラカラと笑いながら本子さんが言っていたことがとても印象的でした。
本子さんが言うように、もしもっとたくさんの人々が少しずつできることを持ち寄り、地域の活動に参加するようになったら、まちはどんな風に変わっていくのか、子どもたちのどんなふるさとになっていくのか、私はとても興味があります。
そんな本子さんや地域の方々のたまプラーザへのまちづくりの思いが積み重なった100段階段ののぼり初め式が4月7日11時からあります。
今回行われるのぼり初め式では、オープニングセレモニーだけでなく、まち歩きツアーやお花見などを行う予定だそう。
あなたも生まれ変わった100階段を見に来てみませんか?
100段階段のぼり初め式
日時:2019年4月7日(日) 11:00〜
場所:100段階段(美しが丘小学校正門下)
※雨天の場合は中部自治会館にて
参加無料
●オープニングセレモニー 11:00〜
テープカット・感謝状贈呈
100段階段カラー「たまプラ遺産」「標高プレート」などの説明
アトラクション パフォーマンスなど(予定)
●まち歩きツアー 12:00~
「たまプラ遺産」「標高プレート」などの説明
●お花見@100段階段 13:00〜
地域の料理家 みつはしあやこさんのお花見おむすび弁当・飲み物など販売
●写真展「100段階段プロジェクトのあゆみ」
<問い合わせ>
美しが丘中部自治会アセス委員会遊歩道WG
100段階段プロジェクト
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